ポインセチアⅡ

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読了時間目安:16分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「すまんなぁ……ほんまに不甲斐ない。ワシらがもっとちゃんとしてれば…こないなことにはならへんかったかもしれんのになぁ…」


警官の膝の上にちょこんと乗った加佐見が撫でられているが、唯無言で何も言葉を発さない。
沈む夕陽が川を照らし、オレンジ色に染めている。バラックの煙は収まり、消防車と救急車も撤退していた。バラックは完全に燃え尽き、老人との思い出の場所は灰塵に帰していた。


「……………………」


加佐見は涙を枯らしたのか、泣き声の一つもあげず、ただ呆然とした表情で俯いている。


「お巡りさん、結局原因は何なんですか?」


警官の傍にいた野次馬の一人が尋ねる。


「放火や、明らかに外から火を点けられた形跡があるで」


それを聞いた周囲は、怖いわぁ、あかんわぁ、とざわめきだす。


「まぁ、あの老人、電気とか水道とか自分で引っ張ってきて勝手に使ってたしな。他のホームレスより良い暮らししてるから、嫉妬されたんやろ」

「なんでも昔は、大手企業で現場担当しまくってた相当な技術屋だったそうや」

「それであないな設備を一人で……?」

「その後、会社で嵌められてクビ切られた挙げ句、離婚で奥さんが財産を全部持ち逃げして、あの状態らしい」

「成る程、そりゃあ寂しさ紛らわす為に、ポケモン拾って可愛がるわな」


人々が口々に噂する。どうやら、それなりに近所でも知られている人物だったようである。


「そうは言っても、このロコンにとってみれば、ほんまもんの家族のような感じやったもんな。可哀想になぁ……」


一番近くにいた野次馬が加佐見を憐れみながら撫でる。しかし、当の本人は、俯いたままで何も心に響くことはない。
加佐見を抱き抱えた警官は、さて、と短く前置きして、周囲の野次馬に大声で呼び掛ける。


「さぁさぁもう散った散った!あんまり騒ぐとこの子が可哀想や!
ええか!燃えやすいものを家の前に置くなよ!まだ近場に犯人がおるかもしれへんからな!」


注意喚起も兼ねて警官に促されると、野次馬達はゾロゾロとその場を後にする。やがて、集団が遠ざかると警官は加佐見に目線を落とす。


「ホンマはウチで面倒をみたいが、それも叶わんでなぁ…」


謝りながら、警官は加佐見をゆっくりと地面に下ろす。


「せやけど、その代わりお前さんの飼い主を殺した犯人は、必ず捕まえてやるさかい」

コン本当に……?」

「伊達に警察を何十年もしてない。……それまで待っててくれへんか」


警官は真っ直ぐな瞳で加佐見を見つめる。実際、加佐見の瞳に映った彼の心は、言葉通りの正義感を表す赤い色だった。
それから警官は加佐見を地面に下ろすと、近くに止まっていたパトカーに乗りこんで去っていった。その姿を後ろから見ながら、加佐見は思う。


「(おじいさんは………帰ってこないんだよ……)」


いくら犯人を捕まえたところで、おじいさんが帰って来ることはない。それくらいは加佐見でも分かっていた。もう自分を受け入れ、助けてくれる人も、色々なことを教えてくれる人も…
そして、あの安心安全な場所も、もう存在しない。










日が落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。人も車もとっくに通らなくなった夜更け前の時間である。加佐見は、まだバラックの跡地で黄昏れていた。彼の脳裏を数々な思い出が蘇っては消えていく。
貧しかったが、温かく安心できた場所……それが、放火という形であっさりと無くなるのは、幼い加佐見にとってあまりにもショックだった。


「(どうして殺されないといけなかったの……?
おじいさん……何も悪いこともしてないのに……)」


枯れたと思っていた涙が再び零れかけたその時…


「あれ~?緑目のロコンくんじゃないですか~?」

「っ!?」


聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、意地の悪い笑みを浮かべたポケモン達が数匹で加佐見を取り囲んでいる。いつも自分をいじめていたポケモン達だ。


「…ど、どうしてここが…?」


老人のバラックは、彼らの活動場所からだいぶ離れたところにある。また、加佐見自身も場所がバレて脅かされないように、朝と昼は必ず、わざと彼らの近くにいるようにしていた。
その疑問に、先頭にいたアーボが答える。


「そりゃあ、ずっとつけていたからな。毎週日曜になると、フッといなくなって、なんでやろなぁ~って思っとったでぇ。
ホンマに寂しかったんやで~?サンドバッグが急におらんようになるのは」


それに後ろのポケモン達がまた意地悪く嗤う。すぐ後ろにいたデルビルが続ける。


「そうしたら、このバラックに入っていくさかい、誰の家や思ぅてこっそり聞き耳立てとったわ。サンドバッグの分際で……エエ身分やのぅ!!」


『フェイント』で速攻の突撃を食らわせ、加佐見の顔面にまともにぶつける。


「うぐっ!!!」


対応する間もなく、後ろのバラックの残骸に叩きつけられる。さらにそこから起き上がる暇も与えず、デルビルは『スモッグ』を吐く。
紫の気体が加佐見を包むが、息を整える為に思わず吸い込んでしまう。


「!!?ガハッッ……!!……ァァっッガハッ!」


加佐見の鼻腔と口腔を、刺激を伴った空気が通過し、噎せて咳を連発する。


「っ……」


咳と一緒に鉄の味の液体が胃から逆流し、口腔から飛び出した血が、目の前の地面を赤に染める。


「うーわ、汚ぇええ!!触れんなよ!色違いの分際で!!」


デルビルの侮蔑を込めた怒鳴り声に他のポケモン達が一斉に嗤いだす。


「はぁ……はぁ……ぁ………(なんで……君たちが仕掛けてきたんじゃないか……っ!)」


口元から血の糸を垂らしながら喘ぎ、何とかその場で立ちあがる。しかし、視界は相手が二重に見える程ぶれ始め、心臓の音が危機を知らせるように響いてくる。


「それにしても、こんなに血を吐きよって、それを自分で綺麗にしようともせず、地域社会を汚すとはひでぇ奴やな!」

「ああ、ほんまや!そんな奴は消してしまわなあかんな!はははは!!!」


後ろの方にいたコノハナとデルビルが、加佐見にわざと聞こえるように大声で嘲笑う。加佐見自身も言い返そうとするが、体のダメージがそれを許さず、動かそうとしない。それを知ってか他のポケモンも追い討ちをかける。


「そんな奴を支援する奴も、問題やな!」

「せや、大きな悪事やらかす奴には、後ろで支援しとる奴が必ずおる」

「物質的・精神的に関わらず、支援する奴は……潰さにゃぁならんよな…?」


チラチラと加佐見を見下すように見る。


「……はぁ……っ…な、にが………言いたい……?」


ふらつき、喘ぎながら、苛立ちと疑問をぶつける。
デルビルが意地悪い笑みを浮かべて答えた。


「なんや、理解が遅いのぉ。










このホームレスのクソジジィは、俺達が殺したってことや!!」


どっくん…


加佐見の中で心臓が一拍……それが加佐見の世界から音と光を奪った…。




















……今、何て言った……?
おじいさんを…………殺した……?


「考えてみりぃや?あのホームレスは勝手にここに家建てとるんやで?」


「違法建築ってやつやろ?は許されへんよな~?だから俺達が正鄒ゥ縺ョ驩?ァを下してやったのよ!」


「いやぁ俺達繧ィ繧ィ縺薙→縺励◆繧!!」


うるさい……うるさいよ……
お前ラの言葉なんか聞きたくない……


「縺薙s縺ェ荳肴ー怜袖縺ェ繝ュコンを匿ぅて、まとも縺ェ逾樒オしとる訳がない。縺阪▲縺ィ遉セ莨壹↓仇なす気やったで!」


「縲後□縺九i菫コ驕斐?縲∫、セ莨壹r謨代▲縺溯恭髮?→縺?≧險ウ縺???シ√≠繝シ縺ッ縺」縺ッ縺」縺ッ??シ?シ
蜷崎ェ峨→蠢ォ讌ス繧貞酔譎ゅ↓蠕励k縺ェ繧薙※窶ヲ窶ヲ縺医∴豌玲戟縺。繧?シ?シ√?」


奴ラの言葉がノイズにしか聞こえない……。
何て耳障りだ……。


「縺ゅ▲縺ッ縺」縺ッ縺」縺ッ縺」縺ッ!!!」


もう何ヲ言っているのか分からナイ。ただ、一ツ言えるノは……

コイツラはボクを苛めル為だけに、心ノ支えだったおじいさンを殺した挙げ句、その死ヲ嗤ッテイル……。


「縺昴b縺昴bコイツを拾わなければ、あのジジィがおかしいことにも気付かなかった險ウ繧?@縺ェ!」


「つまり、あのジジィが死んだ直接的な原因は、










この緑目ロコンのせいや!
もっと言えば、コイツが一人の人間を殺したんや!!!あーはっはっは!!!!」


どっくん…



再ビ心臓が脈打つ……ボクが殺しタ……?

ふざけんな……

フザケンナヨ……


「うわぁ~人殺しや!」

「縺ィ縺」縺ィ縺ィジジィの後追って死ねばええんや!繧上▲縺ッ縺」縺ッ??シ!!」


侮蔑と嘲笑がノイズに混じっテ、ボクの聴覚ヲ刺激する。…嗚呼、やっぱり耳障リな音だ……消しテヤりたい…。


「………………………黙れよ……」


自分ノ物とは思エない低い聲ガ、周囲に静カに木霊スる。


「あぁ?」


何を言われたのか分からなかっタデルビルが聞き返す。


「……黙レって言ってんだよ………っ!」


『あぁ!?』


奴らは一斉に僕ヲ睨みツケルけど……今ノ僕は、ソンナものに屈する気ハ無い……


「サンドバッグのくせに口答えすんなやああ!!」


アーボが躍り出て、尻尾デ僕を跳ね飛バス。
僕の再び躰は土手の盛り土に打ち付けられる。倒れた僕の周リヲ、焦げ臭い匂いと煤が舞ウ……


───コンちゃんはええ子やなぁ~───


……………………


───こないに描けるんやったら、ポケモン初の画家になれるんとちゃうか?───


……………………



───老いぼれのワシには、コンちゃんが笑顔なだけで、幸せなんや───


あの頃の樂しかった思い出ガ少しずつ蘇ルと同時に、其ヲ破壞したアイツラへの憎惡ガ滿ち溢レル……


「辣、縺セ縺ソ繧後↓縺ェ縺」縺ヲ縲∫┌讒倥↑蟋ソ縺後♀莨シ蜷医>繧??縺!!」


何を言ッテルかは分からないケド、オマエラが樂しんでイることと、嗤ッテイルコトくらいは分かる。


「はぁ………はぁっ…………オ前……達は……」


全身が痛イ……
心臓ガ暴れル……
喉はカラカラ……
視界ハサダマラナイ…


だけド……それよりも…


アイツラヲ殺シテ肉塊ニシテヤリタイ……

アイツラの脳髄ヲブチマケテヤリタイ……

アイツラを………壊シタイ……っ!!


本能が…魂ガ…殺意を肯定スル……。モウ……この衝動に任セテイイヨネ………



「お前…達は、ぼクの体を痛めつけ……心を痛めつけ………!!
…ボクのたいせつな心の支えを壊シテ侮辱シタ挙ゲ句……!!

今、此ノ場デ…!!

オマエラヲ生カシテオク理由スラ!!
奪ウノカアアアアァァァァ!!!!」


殺セ!
殺セ!!!
殺セ!!!!!!


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アア゙!!!!!!!!」









その刹那だった……
僕の体全体が閃光に包まれ、視界が一面真っ白になる。

「!!!!」


光の向こうで、奴らが何か言っているが、一切聞き取れない

……嗚呼、これが進化か……そう本能が告げる。
僕はロコンの体を捨て、キュウコンに生まれ変わるんだ。
昂った心が急激に冷静になる代わりに、体中が熱い……けド、同時ニ今までに無い程の力が沸いて来る。

なんて心地いいんだろう……。










やがて、光は次第に収まり、視界もハッキリとしてくる。奴等を見ると、ビクッと体を震わせた。視界は奴等よりやや上にあり、見下ろす形になっている。


「ふふっ……怖イノカ……?」


思わず口角を上げながら一歩前に踏み出すと、奴等は黙っテ一歩下がる。
わざわざ感情を読み取る間でも無い、恐怖で全員一様に顔ハ真っ青だ。


どっくん…


殺セ、と本能が告げる。


ドウシテヤロウか……


僕は手前のデルビルに目を付ける。
奴の前足の奥……そこにコイツの全てヲ動かすものがある。


心臓………アイツの躰ヲ動かすソレは、今頃恐怖でバクバクと鼓動してイるだろう……永遠ニ休マセテヤロウ。
意識ヲソコに集中させる…


『サイコキネシス』


バン!という異音と共に、デルビルは目を見開いて倒れた。


「おい、どうした!!」


倒れた仲間に駆け寄ろうとするコノハナ………



心臓………今度は少シずつ……


『サイコキネシス』


「……あがっ!ガアアア!!!!」

「!!!」


突然、胸を押さえてのたうち回る様子に、他の仲間は困惑する。


どうだ、心臓を締め付けられる感触は?アイツの心臓は、見えない手によって、押し潰されかけてるも同然だ。


「ああああああ!!!……ごっはぁ!!」


深紅の血液を吐き出し、それが仲間の顔面を赤く染める。


「あ…………ああ………っ!!」


その顔ダ………吐き出された血を浴びて、恐怖にうちひしがれるその顔がミタカッタ……。オマエラモ分かっただろう……僕ノ気持ちが……


僕は『サイコキネシス』を一気に強める。コノハナの内側から破裂音ガ響き、それからすぐに動かなくなった。


「うっ…うわあああああ!!」


残っていた奴ラが一斉に逃げ出そうとする……が、


「逃ガサナイヨ……」


そのうちの一匹、アーボをサイコキネシスで動きを止める。他の仲間は、アーボには目もくれずに一目散に逃げて行った。


「………あああ………あっ………」


僕は、硬直しているアーボの顔の目の前で囁く。


「……怖イダロ?……僕モ、同じ気持ちダッタンダヨ?」


アーボハ目に涙ヲ浮かべル。


「や……やめて……お願いだからさぁ……俺らが悪かったから…」


何を言ってる……


「僕がソウ言ってお前達ガ止めたことは無かったよな?」


強い怒気ガ込もる。ダッテそうだろ?僕ヲいじめるダケイジメテ、自分は逃れようとするなんテ。
悪かった?
ソれでコイツは罪が帳消しニナるとでも?ここまで来テマダ僕ヲ苛立タせルノカ……


「お前モ苦しんでもらおうか」


コノハナのように、じわじわと心臓を締め付けル。


「い゙だい!!ああぁああ、止めてくれぇぇ!!」

「………………………」


耳障りな叫び声……五月蝿いよ、死際マデ不快にサセナイデヨ。


「あああああああ!!!」

「っ………五月蝿イ!!!」


モウ限界ダッタ。
バン、という音がアーボの体から響き、同時に奴の口から、バケツをひっくり返したかのような血飛沫が飛び出す。
それは僕の体と、周囲の地面を赤く染めた。


「…………」


生暖かイ深紅のそれは、僕の体ノ毛を伝わっテ下に落ち、小さな水溜まりヲ作る。


「………っ……………はぁっ……」


激情に震エた鼓動と呼吸は、その身に纏った深紅の液体が、まるで僕を癒すかのように静かに、落ち着いていった。










結局、怒りに任せて簡単に殺してしまった。
けど、逃げた奴もいるし、いじめていたのはコイツらだけじゃない。まだ復讐のしようはある。
この復讐で、おじいさんが帰ってくる訳じゃない……けど、やらなければ……
…いや、違う
僕は、頬に浴びた血を舐める。


「………昔から怪我する度に感じた、鉄の味……
不味くて、思わず吐きそうだ…………
けど…………仄かに甘いのは……ふっふっふ……
なんでだろうな…………?」


その疑問は、極めて無意味だった。なぜなら、僕の中で答えは出ている。

この力を振るいたい、それが全てだった。
その相手として、復讐すべき奴等がいる。なんて好都合なことだろう。


どっくん、どっくん、どっくん


…嗚呼、考えただけで僕の心臓が再び速くなっている。殺し足りない、殺し足りない、と叫んでいるようだ。


「あ~あ、殺し足りナイなぁ……」


ふっ……思わず口に出ちゃったよ。でも、この殺意の塊はもう抑えが効かない。少なくとも、僕に散々危害を加えていた面々は殺してやる。

その後は……今はまだ良いか。何せ敵は多い、暫くは殺し放題だ。
僕は、既に骸となったアーボに囁く。










「仲間も纏めて送ってやる……地獄で攻め苦に喘ぐがいい……
僕は…今日からお前たちを狩る"夜叉"だ……」

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