【第154話】一騎当千の乱闘、歩み寄る一撃(ハオリ&ジャックvsパーカー)

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

«タントジム戦・特殊ルール確認»

・ルールはダブルバトル。パーカー陣営と、ハオリ&ジャック陣営に分かれて戦う。
・前者は2匹。後者は3匹×2の6匹。
・ジャックのポケモンのみ、少しでもダメージを受けた場合は即退場。戦闘不能扱いとなる。
・トレーナー3名のうち『誰か』の手持ちが0になった時点で試合終了。


試合開始の合図と共に、ボールが4つ……フィールドに弧を描いて投げられる。
「行くぞッ、アーマーガアッ!!」
「グアアアアアッ!!」
「行ってきな、タチフサグマ!!」
「しゃらーーーうッ!」
チャレンジャー2名が選んだのはアーマーガアとタチフサグマ。
両方とも、耐久力で大きく優れるポケモン……初手に出すメンバーとしてはかなり無難な選択肢だ。

対してパーカーが出したポケモンは……
「……ではお願いします。タルップル、ドラパルト。」
「ばしゅっ!」
「みりゅりゅーー!」
タルップルとドラパルト。
片方は蜜の射撃による拘束が得意なポケモン……もう片方は、スピードと機動性で最強クラスのポケモンだ。
この異なる特性を有する2匹のポケモン……果たして紡がれる策は。

「では……タルップル、乗着。」
「みりゅーーー!」
合図とともに、小柄なタルップルがドラパルトの頭に飛び乗る。
どうやら連携体制のようだが……

しかしそう考える暇もなく、彼らは上空遥か高くに飛び上がってしまった。
そしてそのままドラパルトは、発射孔を真下の相手に向ける。
「発射。」
「しゅばーーーーーーっ!」
放たれたのは2匹のドラメシヤ……そう、高速の魚雷射撃『ドラゴンアロー』だ。

狙われるのは、当然アーマーガア。
勝負を容赦なく賭けにくるつもりだ。
「させないッ!!『ブロッキング』!!」
「しゃらーーーう!」
そこでガードに入ったのは、タチフサグマ。
腕を十字に交差させて、物理障壁を大きく展開する。

着弾したドラメシヤ2匹が、その場で弾き飛ばされる。
……が、その後。
ドラメシヤたちの飛んできた起動から、遅れるようにして蜜の弾丸が襲ってくる。
アップリューの『りんごさん』だ。

そう、『ドラゴンアロー』はあくまでも牽制のための攻撃……
タチフサグマが『ブロッキング』でアーマーガアを庇いに来ることを予見していたパーカーは、敢えてドラパルトの攻撃でその障壁を使い切らせ、その後に続く『りんごさん』で上空から仕留めようとしたのだ。

「た、タチフサグマッ、身体でガードしてッ!!」
「しゃらっ!!」
『ブロッキング』の効果時間が切れたタチフサグマは、その身を大きく広げて自ら壁になる。

「……無駄です。その攻撃は防げない。」
「!!?」
パーカーの言う通り。
『りんごさん』は液体の攻撃。
何かしらの障壁に衝突すると……「飛散する」性質がある。

飛び散った蜜が、背後のアーマーガアを襲おうとする。
「それくらい知ってるさッ!アーマーガア、『ボディプレス』ッ!」
「グアアアアアアッ!!」
ジャックの指示の直後、アーマーガアは翼を畳み、水平方向にスライド移動をする。
自身の防御力をそのまま任意方向への直推進に変換する技……『ボディプレス』を脱出手段として利用したのである。

アーマーガアは蜜の弾丸があった場所から遠く離れ、なんとか即死を免れる。
が……
「短慮ですね。タチフサグマの防御圏を外れれば、貴方は裸同然……。」
パーカーは指を差し、タルップルにターゲット変更の指示を送る。
「みりゅりゅーーーーーッ!!」
そしてスライド直後のアーマーガアに向かって、そのまま上空から『げきりん』を使って隕石のように飛び降りてきた。
あらゆる防壁を貫通する最強物理攻撃……いくら『てっぺき』があるとは言え、喰らえば当然タダでは済まない。

アーマーガアに与えられた選択肢は、事実上『回避』の一択しか無い。
「落ち着け……げきりんとは言え所詮は飛べないタルップル……!着陸すればそれっきり……!」
ジャックは冷静に分析する。
事実、彼の考える通り……アップリュー等と違ってタルップルは空を飛べない。
アーマーガアであれば、飛翔して空中に退避すれば避けるのは容易いだろう。

……が、その予想はすぐに裏切られる事になる。
「タルップル、『やどりぎのタネ』です。」
「みりゅりゅっ!!!」
タルップルは口からツルを吐き飛ばし、そしてそれを空中に待機していたドラメシヤに掴ませた。
「ッ……は!?ま、まさか………!」
「えぇ、そのまさか……です。」

そしてツルの起点を得たタルップルは……なんとツルをターザンロープのようにして、フィールドを縦横無尽に駆け巡り始めたのである。
地面に限らず、空中までもが彼女の可侵領域……ツルの伸縮と筋力のさじ加減で、もはや飛翔と同等の動きとなっていた。
「みりゅっ!!みりゅりゅりゅっ!!!」
彼女は『げきりん』を纏ったまま、飛び回るアーマーガアを執拗に追い回す。
「くそっ……軌道が読めねぇッ!!!」
「ガッ……グアッ!!」
アーマーガアは野生の勘と『ボディプレス』を駆使しつつ、タルップルの激突を必死に回避する。

その必死の攻防は、文字通りのサドンデス……このままではいずれアーマーガアが追いつかれてしまう。
「ありゃマズいな……タチフサグマッ、『バークアウト』で牽制しなッ!!」
「しゃらーーーうッ!!」
タチフサグマは遠距離からの音波攻撃を使って、タルップルの起点となっているドラメシヤを狙撃で撃ち落とそうとする。

……が、その瞬間。
タチフサグマは身体に違和感を覚える。
声を出そうとしても、うまく行かない……そんな違和感を。
それもそのはず。
何故なら彼の身体には……
「どっ、ドラメシヤが……!?」
ドラパルトから放たれたもう1体のドラメシヤが、『まとわりつく』でタチフサグマの喉を絞めるように巻き付いていたのである。

「しまった……!」
ハオリは失念していた。
ドラパルトの行使できるドラメシヤは、全部で2匹いることを。

「読めてますよ。空中に逃げたアーマーガアに、タチフサグマは『ブロッキング』は行使できない。でなければまずは、遠距離攻撃の発生源……喉を潰すのが定石でしょう。」
「ッ……!!」
パーカーはハオリとジャックを相手取りながら、2手3手先を既に読んでいた。

「舐めるなッ……この程度ッ!!」
ハオリは腕を前に突き出し、タチフサグマへ『突撃』の指示を出す。
確かに喉は使えない……が、ドラメシヤの拘束力そのものはそこまで強くない。
直接移動して、タルップルか空中のドラメシヤに攻撃を仕掛ける程度は容易である。
「喰らえッ、『じごくづき』!!」
「しゃらーーーーッ!」
拳を前方に掲げ、パンチを繰り出そうとする。

……が、当然、それはパーカーも予見済みだ。
「ドラパルト、やりなさい。」
「しゅばばーーーーーッ!」
彼女の指示が飛んだ瞬間……タチフサグマの首に纏わり付いていたドラメシヤが、急に締め上げを強化する。

「しゃらっ!!?」
飛び上がったタチフサグマは、僅かにバランスを崩す。
決して大きなダメージが入ったわけではない……が、絶妙に軌道がずれてしまったのである。
「た……タチフサグマッ!!」
大きく飛び上がったものの、届いた矛先は思ったものとは違う場所……

……そう、アーマーガアの真正面だ。
あろうことかタチフサグマの拳は、タルップルから逃げ惑うアーマーガアにヒットしてしまったのである。
「なっ………!!?」
「しまった……!!」
「ガッ!?」
『じごくづき』がヒットすると、そのままアーマーガアの脚に巻きつけられたセンサーがブザーを鳴らす。
……一撃、攻撃を受けたため、彼女は此処で離脱となる。

しかもそれだけではない。
アーマーガアが移動の際に使用していた『ボディプレス』は……運悪くタチフサグマにクリーンヒットしてしまったのだ。
ノーマル・あくタイプの彼に、かくとう技の『ボディプレス』は致命傷となる。
「……アーマーガア、タチフサグマ。共に戦闘不能です。」
「ッ………!」


一瞬の油断……一瞬の手違いであった。
あくまで合理的に、アーマーガアを守ろうとしたはずのハオリとタチフサグマは……逆にその手で仲間と自身を葬ってしまったのである。
「そ……そんな……!」
「……ッ!」
突然の出来事に、ジャックもハオリもその場で立ち尽くす。
呆然とする彼らに、パーカーは言葉をかけた。

「……あなた達は、個々の戦力としては申し分ないでしょう。ですが、互いに手を取る必要のある戦い……協力戦となるとその限りではないようですね。」
彼女の分析の通りだった。
恐らく……各個撃破を戦略として貫いていれば、今のような結末にはならなかったかもしれない。
が、彼らは歩み寄ろうと策を講じてしまった。
その結果がこの破滅である。

「……ごめん、お兄さん。」
「いや、気にするな。俺も勝手に離れたのが悪い。」
二人は言葉を交わしつつ、戦闘不能となったポケモンをボールへ戻す。
試合は早くも中盤……残りポケモンは4匹にまで減らされた。

「まだ巻き返せる……焦るなよ、ハオリ!」
「……うん、大丈夫。」
不安げな様子ながらも、ふたりは臨戦態勢に戻る。
不穏な開始を告げたこの勝負の行方は、果たして。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想