*14*ヒウンアイスの縁

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:47分
初のオリキャラありのオリジナル話であり、新しい仲間ゲット回。

*主人公の設定(生い立ちや容姿や立場)はゲームのものですが、それ以外の性格や個性などは完全にこちらで創作したオリジナルです。
*N主♀、チェレベル等のNLが含まれる傾向があります。
*手持ちのポケモンにはニックネームを付けていきます。
本来ニックネームは5文字までですが、5文字以上の名前をつける場合がありますので、ご了承ください。
*この長編で謳っている「ゲーム沿い」は、原作のストーリーの流れに沿って話を書くという意味ですので、その他の設定すべてがゲーム基準というわけではありません。
大体の世界観や細かい設定などは、ゲームとアニメを都合の良いように解釈して織り交ぜたオリジナルです。

※上記の事に同意できる方のみ閲覧お願いします。
 
ヒウンシティへ着いてからドタバタもあったけれど、ヒウンジムも無事攻略できて、この街での目的は無事に達成。
だから今日はのんびりとイッシュ一の大都会を観光――といきたいところだけれど、昨日ジム戦を終えた後、ベルとポケモンバトルの約束をしていたから。

しかも、4番道路へつながるゲートで待ち合わせということになっているので、どうせならもうそのまま先へ進んでしまおうかと思っている。
名残惜しさはあるけれど、仕方ないわね。
旅をしているんだから、またいつかこの街に訪れる機会はあるだろうし。

そんなことを考えていたら、軽快なメロディーがポケモンセンター内に響き渡った。
ロビーのベンチから立ち上がり、受付カウンターへと赴く。


「おまちどおさま!お預かりしていたポケモンは、みんな元気になりましたよ!
それから、タマゴの方も問題ありませんでした。」

「タブンネ~。」

「よかった、ありがとうございます。」


ジョーイさんから預けていた手持ちのモンスターボールを、助手のタブンネからは健康状態のチェックをお願いしていたタマゴを受け取り、お礼を言う。

トウヤくんからもらったポケモンのタマゴ、順調に育っているみたいでうれしいわ。
「ときどき動いているので、きっともうすぐうまれますよ!」と教えてもらい、胸が躍る。
いったいどんなコが生まれてくるのかしら。
トウヤくんに聞いても「ヒミツ」って教えてくれなかったため、皆目見当もつかなくて、それが何だか楽しくて。

艶々とした真っ黒なタマゴ。
赤い波線模様が浮かぶそれを数回撫でてから、大切に孵化装置の中にセットする。

その際。


「どんなコでもいいの。アナタに会える日を心待ちにしているわ。」


そう語り掛けると、タマゴはややあってからピクリと身動きした。
すぐに反応してくれなかったことと、動作が小さいことから……何となく、仕方なく返事をしてやったという感じに思えてしまう。
だとしたら、このコはひょっとしたら天邪鬼なコなのかもしれないわね。

バッグの大切なモノを入れるポケットに孵化装置を入れて、私はポケモンセンターを後にする。





ゲートに着く前に一度ベルに連絡を入れることを昨日のうちに言っておいたから、このセントラルエリアに着いたらでいいかしら。
タウンマップで4番道路に通じるゲートへの道を確認しながらモードストリートと呼ばれる大通りを歩いていく。

タウンマップ曰く、この通りは街で流行しているお店が多く並んでいるらしく、この街のジムリーダーのアーティさんが手掛けた作品が展示されているアトリエなんかもあるみたい。
アーティさんのジムの仕掛けはこりごりだけれど、絵や彫刻品などは興味がある。
ジムリーダーとしてのアーティさんは知っていても、副業であるアーティストとしてのアーティさんはよく知らないから、作品を通じて違うアーティさんを見てみたかった。

ベルと約束しているとはいえ、少しくらい寄り道をしてもいいんじゃないかって魔が差して、アトリエがどの辺りにあるのかを探し始める。
すると、少し向こうに行列を見つけた。

あそこがアトリエかしら?

気になって行ってみると、すぐに違うと判明できた。


可愛らしい外装のお店。
人の多さで看板が見えないけれど、相当人気のある路上販売店らしい。

この大通りを行く人たちが吸い寄せられるように行列に加わっていくのを見て、私もつい足を運んでしまう。
この人の多さじゃ店員には聞くに聞けれないから並んでいる人に聞いてみようかと思い、現在の最後尾の男性に声を掛けてみた。


「!うん?ここは、いまヒウンシティで話題のスィーツを買うことができるんだよ。きみも買うかい?」

「!!スィーツ……!素敵っ!はい、ぜひっ!」

「そうかー。結構並ぶぞー!でも絶対美味しいから並ぶ価値はある!」

「……!素敵っ!」


ああ、素敵!スィーツと聞いて、甘いモノが大好きな私の心は、その言葉に飛びつく勢いで意気揚々と列に並ぶことを決意する。
期待に胸を膨らませ、今か今かと順番が巡ってくることを心待ちにしている私の今の頭の中にはスィーツ一色で埋め尽くされていた。

ごめんね、ベル。でも私にとってはこちらもかけがえがなく大事なの。

申し訳なさとは裏腹に楽しみで仕方のない面持ちが剥がれない。
ふと、昔からチェレンに言われることがある「きみも大概マイペースだよね」という言葉を思い出した。




――――嬉々として並ぶこと30分。ようやく順番が回ってきた。
相当の数のお客さんを捌いているはずなのに売り子のおねえさんは色褪せない笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えられた。


「ヒウンシティ名物 ヒウンアイスになりまーす。」


きゅんっ。ヒウンアイスの涼しげでかわいらしい、なおかつ美味しそうな見た目に胸がさらに高鳴った。

麦色のコーンに零れんばかりにたっぷりと乗ったミルク色の丘。
青い氷飾りのアクセントは艶やかで、日差しを浴びてクリームと共に輝くと一層甘美に映る。
おねえさん曰く「このキュートな色とナイーブな味がいいんです!」と絶賛される名物は、1コ100円という安い値段で購入することができて、たまらなく美味しそう……!

受け取ってすぐに列から外れ、どこかでゆっくり味わって食べたいなと手ごろな場所を探そうとした、そのときだった。



「うあああ!なんということだ!」



後ろから男性の力強い悲鳴が聞こえて、思わず立ち止まって振り返る。
ヒウンアイスの売店の目の前で、修行僧のような格好をした黒髪の大柄な男性が地面に手をつき、頭をこすりつけそうなほど深くうなだれている、その光景。
申し訳なさそうな顔でそれを見下ろす、先程の売り子のおねえさん。


「申し訳ありませんが、本日は売り切れです。」


途端に上がる、男性より後ろに並んでいた人たちのがっかりした声。
……まだお昼前なのに、本当にあっという間に売切れてしまうほど人気があるのね。
しかも私が最後の一人だったなんて、後の人たちに何となく申し訳ないように思えてくる。

特にあんなにガックリと、まるでこの世のマイナスというマイナスを背負っているかのようにうなだれている人を見てしまっては、罪悪感を抱かざるを得ない……。

売り切れとわかってガッカリしながらも仕方なく散らばっていく人たちの中で、その男性だけはいまだに地面に頭をつけて動かない……。
ショックのあまり動けないみたい。


「…………。」


私はちらりと手に持つヒウンアイスを見て、もう一度男性を見た。

男性は動かない。
否、よく見れば小刻みに屈強な肩がプルプルと震えている。


……………………。



「……あの。」


男性へ近付いて、控えめに声をかけた。
ピクリ、と地面に張り付いていた頭が反応し、ゆっくりと持ち上がると私の顔を見る。

目が合った。

私は、それを機に持っていたヒウンアイスを男性に差し出す。


「これ……食べます?」










「いやー、なんとお礼を申したらいいか……本当にありがとうございます!」


大きな噴水のある広場――セントラルエリアに設置されているベンチに腰掛けた先程の男性が、隣に座る私に満面の笑みを向けてくる。
せっかくのアイスが溶けてしまわないように木陰のベンチを選んだのだけれど、木漏れ日を受けるヒウンアイスが余計にキラキラして見えた。


私が助けた――と言っていいのかしら……。
見兼ねて声を掛けた男性は、ブドーさんという名前の人で、有名な格闘家のお弟子さんなんだって。


毎日毎日、厳しい修行を重ねて、やっともらえたお休みが今日。
前から憧れていたヒウンアイスを食べようと朝から張り切って来たらしいのだけれど、その結果があれである。

……あの、なんだか本当に申し訳ない気がしてくるのだけれど。
申し訳ないというより、ブドーさんがかわいそうで、声を掛けてよかったんだと思った。

何度も私にお礼を言って、ようやくヒウンアイスを口にするブドーさん。

ブドーさんのヒウンアイスに対する評価は100点満点パーフェクト。
よっぽど美味しいのか、それとも味ではなくヒウンアイスを食べたこと自体に感激しているのか、目にうっすら涙まで浮かべて感動している。
先程の売店前での様子といい……この人、普通の人よりリアクションがオーバーで、とても感情豊か。
だからこそ、こんなに喜んでもらえたなら自分が食べるよりもこの人に食べてもらうことに「よかった」と感じられて、気持ちも晴れやかだ。

私は、せめてものお礼にと奢ってくれたミックスオレを一口、飲み下す。


「ひんやりと冷たく、ナイーブな甘みがクセになる……!ああ……これぞ至福っ!トウカさん、本当にありがとうっ!」

「いいえ。」

「トウカさんは旅をしておられるので?」

「ええ、カノコタウンからここまで……バッジ集めの旅に。」


私がそう説明をするとブドーさんは感心したような息を吐いて、にこっと爽やかな笑顔で相槌を打つ。
唇の上についたクリームが愛嬌チックだ。


「ならば、ここのジムにも挑戦を?」

「はい、つい昨日。アーティさんとバトルして、勝ちました。」

「おおお!それは真すばらしい!!」


アーティさんはこの街で一番強い人だと、バトル以外にもあの類まれなる芸術センスは突出して右に出るものはいないと、身振り手振りで語るブドーさん。
アーティさん、普段はゆるくてふわふわしている人だけれど、ジムリーダーとしてもアーティストとしてもこうやって街の人に尊敬されているのね。

それから主にブドーさんが積極的に話題を振ってくれる。
私が相槌を打ったリ、一言二言の感想を口にする程度の大人しい反応しか返せなくても、彼は屈託のない笑顔で楽しそうにお喋りを続けてくれた。
それがうれしくて、出会いは少し奇抜だったけれど、こういうのも旅の醍醐味なんだろうなって思うと、私も楽しかった。


そうしていると、ヒウンアイスを食べ終えたブドーさんが口元を腕でぐいっと無造作に拭いながら立ち上がったので、私もつられて腰を上げる。

これでブドーさんとはお別れね。
ちょうどセントラルエリアにも来たから、この後ベルに連絡を取ろうと考えていると、こちらへ振り返ったブドーさんが、意外な申し出をしてきてくれた。


「トウカさん!もしこのあと時間があるのならば、ヒウンアイスの礼も兼ねて自分の通う道場へ来てくれませんか?」

「……?」


思わぬお誘いにきょとんとしてしまったけれど、ブドーさんの屈強な外見とは裏腹にキラキラと瞬く瞳を一心に向けられたら、なんだか断れない。

少しくらいならいいかな、とも思ってる。
だって、せっかくこうして知り合えた人だもの。私も、もう少しだけお話したい。
ベルには後で連絡しておくことにしてブドーさんのお誘いに頷けば、彼の顔に満開の笑みが咲く。


大柄だけれど、人懐っこいところが愛嬌があって、ブドーさんってムーランドみたいな人。





スリムストリートの一角にブドーさんが通う道場はあった。

他のストリートに比べると狭い道――あくまでも大通りと比べたらなので、この道も普通の町に比べたら十分広い――は、『路地裏』とも呼ばれている。
ひしめくビルによってちょうど陰ができやすいため、薄暗さと人通りの少なさがちょっとした別世界みたいだった。

通りの奥の方で、スキンヘッドをした数人の男性たちが見えて、ここは少々治安が悪いのだとブドーさんから教えられた。

だからこそ、この通りに道場を構えたのは、人やポケモンに害をなす悪漢と対峙する目的も兼ねているんだって。


オシャレなヒウンの街並みには少々そぐわない古風な構えの門をくぐり抜け、ブドーさんに中へと案内される。

お弟子さんたちは、みんな久しく取れたお休みのために出払っているらしい。
思ったよりも静かな長い廊下の一番奥。
他の部屋への扉と違い、装飾が施されている両開きの扉をブドーさんが開け放つ。

見慣れない装いの室内。

木造だけれど、ウッドハウスともどこか違う。
柱が見えた壁というのも珍しいし、格子窓にはガラスじゃなくて白い紙を用いているようだった。
こんな感じの部屋をカントーやジョウトを映したテレビ番組で見かけたことがある。
この道場自体がそういった要素を取り入れて構えられているけれど、この大部屋は特にリスペクトしているのがわかる。


部屋の一番奥、段差の上にタタミが敷かれたスペースにブドーさんと同じ格好をしたブドーさんよりも大柄な壮年の男性が胡坐をかいて目を閉じていた。
その男性の横に同じように静かに目を閉じている、小さなポケモン。

顔と胴体、それから手はクリーム色をしているけれど、腕と手足はカーマイン色で、額につぶらなグレーの模様が二つ浮かんでいる。
真ん丸の小さな耳やひげがチャーミングで……私はハジメテ見るそのコにポケモン図鑑を向けると、女性の機械音声で語られる説明に耳を傾けた。


『コジョフー ぶじゅつポケモン
華麗な連続攻撃の使い手。精神統一すると技のキレとスピードが増すのだ。』


「コジョフー?」


実物のあのコは精神統一中で目を閉じているけれど、図鑑に表示されているコジョフーの顔はとてもあどけなくて、きりりと目元を引き締めているのに拭いきれない可愛らしさがある。
私が実物と図鑑のコジョフーの可愛らしさを交互に見やっていると、ブドーさんが男性の前まで大股で歩いていき、直角に腰を曲げて頭を下げる。


「師匠!ただいま戻りました!」


あの人がブドーさんのお師匠様……。
彼はブドーさんの声掛けにまったく気にする素振りを見せず、微動だにしなかった。
それは隣にいるコジョフーも同じであり、ふたりとも精神統一に集中しきっている。


「師匠、実は紹介したい方がいるのです。」


ブドーさんが私の方を向くから図鑑をしまい、ブドーさんの隣に並ぶ。


「彼女はトウカさんといって、ジムバッジを集める旅をしておられるポケモントレーナーです。
実は、先程自分は彼女にとても親切にされたのです。
その礼をと思い、ここでポケモン勝負をするためにつれてきました。」

「なに……?」


ピクリとほんの少しだけ眉を動かしたブドーさんのお師匠様は初めて声を発し、目を開いた。
私たちが入ってきても全くの無反応だったけれど、話はちゃんと聞いていたのね。

お師匠様の鋭い眼光が威圧するように私の目を射抜いてくる。
瞬間、今まで感じたことのない緊張感が背筋を支配し、呼吸が止まる。
厳しい眼光に身が震えそうになるけれど、そうしてしまうことが恥ずかしくて、ぐっと息を呑み込み、お師匠様の深い色をした瞳と向き合う。

ただでさえ、ブドーさんのポケモン勝負発言に頭がついていっていないのに。
そもそも、どうしてお礼がポケモン勝負にイコールされるのかしら。


やがてお師匠様が重く低い声で私に言った。


「我が弟子が世話をかけたようで……礼を言います。
わたしの名前はトウカク。格闘家として、ポケモン勝負で恩を返すのは最高の礼儀。ぜひとも手合わせしてやってください。」

「……ハイ。」


やけに重くてシリアスな雰囲気に室内が染まりつつある中、ゆっくりと確かめるように頷きを返す。

ポケモン勝負イコールお礼って、そういうことだったのね。
合点がいったところで、脳裏に幼なじみの顔を思い浮かべる。

ごめんね、ベル……こんなことになるなんて思わなかったから、もう少しだけ待っていて。



一定の距離を開けて対峙する、私とブドーさん。
気合十分という面持ちで拳を固く握りしめ、構えを取るブドーさんは、まるで彼自身がこれからバトルをするみたいに見えてしまう。


「ルールは一対一の一本勝負!手加減はいりません、お互い全力でいきましょう!!」


ブドーさんの背後から燃え盛るような炎が見えそうな様は、ポケモンの技でいうところの「きあいだめ」……。

トウカクさんの厳格な眼に見守られながら、勝負の幕が上がった。


「では――――いざっ!ナゲキ、いくぞ!」

「ナゲっ!」

「シャルロット、おねがい。」

「ヤーープ。」


ブドーさんの繰り出したポケモンは、やっぱりかくとうタイプ。
真っ赤で硬質な皮膚をブドーさんたちと同じ胴着で覆い、顔の中央――鼻筋から眉にかけてY字型の黒く太い突起がある。
丸々としたシルエットだけれど、その分 重心が据わっていて、きっと防御力や体力が高いポケモンね。

ヒヤップのシャルロットと比べると、お互いの体格の違いを浮き彫りにし合っているから、ちょっとした大人と子供みたい。


「こちらからいきます!ナゲキ、きあいだめ!」

「ナ~ゲ~~……!」


腰に巻く黒い帯をきつく締めて、猛々しい唸り声と共に構え直すナゲキ。
攻撃態勢を整えたナゲキに向けて、こちらは技の指示を放った。


「シャルロット、みずでっぽう。」


スゥッと大きく吸い込だ息を水と共に吐き出すシャルロット。
しかし、ブドーさんの「受け止めろ!」という指示により、腰をかがめたナゲキが太い両腕を顔の前でクロスする。
そうすることで、みずでっぽうを真正面から受け止めた。


直撃してもダメージを受けている素振りが見られず、だったら威力を強めるようシャルロットに指示を出し、みずでっぽうを放出する勢いをぐっと強める。


「プウ~~~!」

「ゲキ……!」


ナゲキの身体は揺るがない。
このまま持久戦が続くかと思われた攻防は、ブドーさんの指示によって流れを変えられることとなる。


「ナゲキ、あてみなげ!」

「ナゲェ!」


防御の腕はそのままに据わらせていた重心を浮かし、低姿勢でみずでっぽうを真正面から突っ切って向かって来るナゲキにシャルロットと共に驚きを示す。
一瞬緩んだ攻撃の手を好機と見破り、スピードを上げて一気に接近したナゲキがかたく握った拳でシャルロットの急所を突くと、そのまま思いきり投げ飛ばしてしまった。


「シャルロット!」

「ヤプ……っ。」


急所に攻撃を入れられたせいで受身がとれず、床に転がるシャルロットの元へナゲキが更に攻撃を仕掛けてくる。


「かわらわり!」

「いわくだきで受けとめて。」

「ヤーープ!」


振り下ろされた強烈な拳を相殺するべく、力を込めたパンチで対応する。

体格差と技の威力によるパワー負けで完全な相殺に至らなかったものの、ナゲキの攻撃の手を束の間でも食い止められたのなら小回りの利く身軽さで距離を取り、それ以上の追撃を逃れた。
相手と同じ土俵ではなく、シャルロットが得意とする戦い方で対等以上のバトルを繰り広げようとする私と、それに応えてくれるシャルロットにブドーさんが感嘆の声を上げた。


「おおっ……!さすがはトウカさん、よくぞ自慢のかわらわりを防ぎましたね!ナゲキには出来ない、ヒヤップの軽やかな動きも見事だ!
……ですが!――――ナゲキ、ローキックだぁっ!」

「ナゲェェっ!」

「!シャルロット、よけてっ!」


シュッと鋭い音を立てて放たれたのは、拳。
キックと聞いてとっさに足の動きに集中していたシャルロットは眼前に迫った拳に驚きの声を上げながらも、両手で押さえた頭を屈めて拳をかわす。

瞬間、ナゲキの頑丈な足蹴りがシャルロットの下半身に叩き込まれた。

通常は相手に足払いをかけて転倒を狙う攻撃も体格とパワー差によって、小柄なシャルロットはいとも簡単に宙へ投げられてしまう。
そのまま壁に激突してしまいそうになるのをそうはさせない、と私はみずでっぽうを壁に向けて放つことをシャルロットに言い渡す。


「なにっ!」

「ナゲっ!?」


クルリと空中で体勢を変えて、間近に迫った壁へと放ったみずでっぽうがクッションとなってシ吹っ飛ばされた衝撃を打ち消し、難なく着地までこぎつけた。
完全に決まったと確信していたブドーさんたちが驚いている視線の先で、事なきを得たシャルロットはバンザーイと呑気に両手を上げている。

私は、ブドーさんたちとは違う観点で目を丸くさせていた。
シャルロットの身軽さなら攻撃を受けた直後でもきっと体勢を立て直してくれると信じていたから、事実そうしてくれたことに関しては純粋に喜びしかない。
けれど、全く違う点……さっきのみずでっぽうから煙が出ていたことが、気になった。


「……シャルロット、今度はナゲキへ――――今の技を!」

「ヤ~~プ!」


"みずでっぽう"ではなく、"今の技"と言ったのはどこかで確信していたからだ。


「ナゲっ!?ゲキィっ……!」


シャルロットの放ったみずでっぽうは、防御の遅れたナゲキに命中する。

けれど――否、やはり放たれたその技は、みずでっぽうとは違う技だった。

ナゲキに当たった瞬間、ジュウウッ……と蒸気の発生する音を立てる水。
傍目から見ても熱いと感じるその水の温度は非常に高く、まさに熱湯。

あまりの高温の熱湯にナゲキはやけどを負ってしまった。
赤い皮膚を持つ彼のやけど状態は非常に分かり難いけれど、その後のバトルの中で時折肩を押さえて蹲る様子から状態異常に陥ったことは確定できる。


「……これが、シャルロットの新しい技?」


シャルロットがこちらへ振り返って、「ヤーーップ。」と間延びした鳴き声で両手を上げる。
バンザイともとれるその仕草と、どこか誇らしげな笑顔。


「すごいわシャルロット、素敵よ。」

「ヒヤ~~。」

「――――もう一度、さっきの技!これで決めます。」

「受けてたちましょう!ナゲキ、かわらわり!」


シャルロットの熱湯バージョンのみずでっぽうをナゲキが手刀で真っ二つに割ってみせる。
それを好機と捉えたブドーさんがもう一度かわらわりを命じた。
攻撃が終わった瞬間を狙ってナゲキが駆け出すのと同時に私はシャルロットにいわくだきを指示する。


振り下ろされるブドーさんとナゲキの"とっておき"の技。
迎え撃つ、いわくだき。
しかし、今度は相殺を目的とするいわくだきではなく、私たちが狙うのはやけどを負ったナゲキの右肩だった。


「――――!ゲキィッ!」

「ナゲキ!」


負傷した右肩を的確に攻撃され苦痛の声を上げるナゲキ。
とどめに先程の熱湯を至近距離で放てば、ナゲキはついに耐え切れず倒れてしまった。


「勝負あったな。」


これまで黙って勝負を見ていたトウカクさんが口を開く。

目を回すナゲキ、その前でぽやぽや微笑むシャルロット。
勝負を制したシャルロットの勇姿を私は「素敵!」と声を上げて賛美した。


「ナゲキ、よくやったぞ。やはり今のおれたちに必要な課題は、フットワークだな。もう一度、一から鍛え上げよう!」

「ナゲ……!」


ブドーさんが上半身を抱き起こしたナゲキに労りと次に向けての努力の言葉を掛ける。
ボールへ戻る際にナゲキもしっかりと頷き返していた。

その光景を横目に先程の勝負の決め手を思い返し、少しだけ思考する。
負傷した個所を狙ったの、少し卑怯だったかしら……。
そのとき、ぽむぽむと膝を叩かれて下を見ると、いつの間にか私の足元まで来ていたシャルロットが、だっこをせがんで手を伸ばしていた。

勝ったことと新しい技を覚えたことをもっと褒めてほしいみたいで、ほっぺたをピンク色に薄く染めているシャルロットを抱き上げ、後頭部を撫で上げる。
「えらい」や「素敵」を繰り返し、たくさん褒めてあげれば、ニッコリ笑顔がデフォルトのシャルロットの顔が一層綻んだ。


「トウカさん!」

「ブドーさん。」


ブドーさんは私に向かってすうっと息を吸い込むと勢いよく頭を下げた。


「ありがとうございました!さすがはアーティさんをも倒した実力者……!また、是非お相手してください!」

「ええ、また。」

「ヤプ~。」


握手を求めてきたブドーさんの手を取り、互いの健闘を認め合う。
シャルロットも新しい技を覚えたし、思わぬ収穫にこちらこそお礼を言いたいくらい。

そこへ、トウカクさんが厳格な瞳を湛えたままこちらへ近づいてきた。


「ブドー、礼を返すにはまだまだ甘い勝負だった。現を抜かしすぎだ、もっと精進するように。」

「は、はい!!」


ブドーさんはもう十分強いと思うけれど、どうやら師匠の目にはそうは映らなかったらしい。
厳しい言葉に目を丸くする。
こういうのを目の当たりにすると、私もまだまだ素人なのだと思い知る。
ブドーさんでさえ"まだまだ"なんだから、もっと精進しなきゃいけないのは私も同じね。


「……とはいえ、気合は十分だった。さて――――トウカさん。」

「はい。」


平坦とした声色の返事とは裏腹に内心では心臓が飛び跳ねた。
まさか私にくると思わなくて、トウカクさんの方へ身体を向ける。
私も何か厳しい言葉を掛けられるのだろうか。

ジムリーダーとはまた違う実力者からの意見を覚悟して聞く姿勢を取った私の前で、トウカクさんは腕組を解くと一つの提案を持ちかける。


「よければもう一戦、勝負をしてはくれないか。」

「……?」


突然の提案にシャルロットとこてんと首を横に傾けてトウカクさんを見上げる。
トウカクさんは、視線をわずかに後ろへ向けた。


「相手は、あそこにいるコジョフーと。」


トウカクさんの視線を追いかけた先、コジョフーはいまだに静かに瞑想をして心を鎮めている。


「今度はわたしがお相手しよう。この勝負、受けてはくれないか?」

「…………。」


なぜトウカクさんが私に急にバトルを持ちかけてきたのかわからない。
だけれど、トウカクさんの強くまっすぐな眼差しに――その瞳の奥の奥に湛えられた強い思いを感じ取り、何故だか胸がざわついた。

バトルの理由はわからないけれど、この人が強いことを直感する。
あのコジョフーも、きっとそう。

なんだろう、なにか……ぞくりと背筋に何かが駆け上がる。

ごめんね、ベル。もう少し待っていて。
私、この人と戦ってみたい。

シャルロットをボールへ戻し、新たにモンスターボールを構えた。


「――――よろしくお願いします。」


私の答えにトウカクさんは頷いた。

「コジョフー。」と呼びかけると、コジョフーはそっと目を開く。
まるで、この時を待っていたかのように静かに立ち上がり、私の目の前まで来ると両の手に拳をつくり強い眼差しを向けた。

また、背中が打ち震えて熱いモノが湧き上がる。


「では、いざ!」


一対一の一本勝負。

私は構えたモンスターボールを宙に放り投げた。


「おねがい、ミルフィーユっ!」

「ジャーノ!」


口を開いたボールから零れ落ちる白い光が新緑に色付き、スラリとしなやかな体躯が美しいジャノビーのミルフィーユが顕現する。
タタミのある段の上から静かに下り、しっかりとした足取りでトウカクさんの前まで歩いてきたコジョフーが、両腕を前後に水平に構えを取り、はじめて瞳を開く。

ミルフィーユの姿を捉えた、意思の強いカーバンクルの瞳が凛と瞬いた。


「ミルフィーユ、グラスミキサー!」

「ジャーーノっ!」


先手を取って、攻撃を仕掛けたのはこちら側。
くるくると身体を横に回転させて木の葉を纏うミルフィーユの動きにトウカクさんが鋭く目を光らせた。


「コジョフー、ねこだましだ!」

「コジョっ。」

「!ジャノっ!?」


床を蹴り、あっという間に間合いを詰めるコジョフーが腕を伸ばし、両手をミルフィーユの眼前で思いきり叩き合わせる。
インパクト音が空を切り、叩き合わされた両手の衝撃波が舞い踊る木の葉を打ち消した。
あと一息だったのに、攻撃を放つ寸前だったにも関わらず、もたらされたコジョフーのねこだましによるショックによって怯んだミルフィーユのグラスミキサーは不発に終わった。

それだけじゃない。


「ドレインパンチ!」

「ジョーーフゥッ!」


淡く光を帯びた拳がそのまま続け様にミルフィーユのお腹に打ち込まれる。
一瞬のスキも見逃さない、一切の無駄がない流れるような動き。
おまけにミルフィーユより小柄な身体で軽々とミルフィーユを突き飛ばしてしまうパワーがすごい。


「ジャァ……!ノォッ。」


床に落ちる前に尻尾を叩き付けて落下の衝撃を押し殺し、そのまま尻尾をバネのように利用してコジョフーから距離を取る。
ミルフィーユが体勢を立て直したところで、今度はせいちょうの指示を出す。
ぐっと息を呑んで身体を発光させるミルフィーユの身体能力がせいちょうによって著しく向上するのをコジョフーの赤い目が捉えていた。

首元からツルを伸ばし、攻撃準備の整ったミルフィーユがアイコンタクトで合図してくる。
頷いて、掌を前方に翳した。


「つるのムチ!」

「ジャノ!」

「みきり!」

「ジョオ!」


宙を舞う二本のツルが素早い動きで、それぞれ別々の軌道を描きながらコジョフーの元へと伸ばされる。
それぞれ一振りごとに攻撃のタイミングをずらすことで相手のスキを突き、一気に畳み掛けようとするこちらの狙いも攻撃自体も、相手は全てを読んでいた。

トウカクさんの指示の下、ミルフィーユのツルを待ち受けるコジョフーの目つきが変わる。

ふわり、と。
上半身を反らして最初のツルの一撃を限りなく最小限の間合いでかわすと、その動きに合わせて横に突き出したコジョフーの掌に二撃目のツルが吸い込まれ、掴み上げられる。
二撃目のツルは相手の死角を狙って放たれたのに、コジョフーは微塵もスキのない佇まいのままミルフィーユの攻撃を食い止めた。

ミルフィーユも私も驚いたけれど、すぐさまミルフィーユが捕らえられているツルを引き、最初に避けられたツルで再び攻撃を仕掛けにいった。
掴まれたツルを逆に利用して体勢を崩したコジョフーに確実に攻撃を当てる――!
それなのにコジョフーは、ツルではなくまっすぐにミルフィーユのことを見据えている。


「……ジョフ!」


ツルを掴んだ手を思いきり引かれたコジョフーは焦る素振りを欠片も見せず、重心を据わらせてその場に踏ん張ると、引かれた腕を自分の方へと引き戻す。
直後、勢い良くつんのめったのはミルフィーユの方だった。
否、ただ体勢を崩されただけでなく、凄まじい力に抗えず、あっという間に宙へと放り出されて悲鳴を上げる。

ここだ、とトウカクさんとコジョフーの目が見開いた。


「とびげりだっ!」

「ジョフっ!」


跳躍するコジョフー。
ほとんど音を立てずに跳び上がったコジョフーは、宙を舞うミルフィーユの上を取り、一瞬のうちに狙いを定める。
同時に弾丸の如く垂直に飛び下りたコジョフーの足先がミルフィーユの胴体を穿つ――その一撃の重たさは大きなダメージとなってミルフィーユの体力を半分以上削り取った。

甲高いミルフィーユの悲鳴が室内に響き渡り、木造の壁に吸い込まれて、儚く消える。


「コジョフー、ジャノビーを投げ飛ばせ!」

「ジョーフ!」


いまだに掴んだままであるミルフィーユのツルを再び強く引き寄せることで、とびげりによって落下しかけたミルフィーユの身体を乱暴に自分の元へと戻し、尻尾の付け根を引っ掴んだ。
ぶんっと重たく空を切る音を引き連れて、身体の回転に合わせて振り回したミルフィーユを壁に向かって投げつける。

そうして、コジョフーは床への着地を綺麗に決めた。


「ミルフィーユっ!!」


大ダメージを受けて早々、投げ飛ばされる力に抗える余裕のないミルフィーユは背中を壁に激しく打ち付け、床に落ちる。
もはや悲鳴もない。
崩れ伏すミルフィーユを背にコジョフーは終わりの時を悟って、静かに目を閉じた。


――――しかし。


「――――ミルフィーユ、グラスミキサーっ!」

「ジャ~~ノッ!!」


「!」


私たちは、まだ終わってはいなかった。

完全に背を向けていたコジョフーに木の葉の渦が襲い掛かる。
それは、先程のせいちょうと特性『しんりょく』によって威力が倍以上に跳ね上がったグラスミキサーだった。

油断をしていた背後からの攻撃に、ましてや今のミルフィーユにとって最大威力とも呼べる攻撃をコジョフーはついに受けてしまい、ミルフィーユとは反対側の壁へと吹っ飛ばされる。

トウカクさんの鋭い声が響き渡った。


「油断をするなコジョフーっ!体勢を立て直せーー!」

「コジョ……!!フーーっ!」


ミルフィーユのように壁に激突すれど、トウカクさんの声に我に返ったコジョフーはすぐさま床への着地と同時に体勢を整え、構えを取る。

決して先程バトルしたブドーさんのナゲキが持つ、木の幹のような体幹や足腰の太さが利点となる強さは携わっていないけれど、小柄な体格を生かした鮮やかなフォーム。
通常のスピードだけならミルフィーユには一歩劣るものの、接近戦における動体視力がもたらす攻撃速度は圧倒的にコジョフーの方が上回る。
鍛え抜かれた身体能力とバトルセンスは、ジムリーダーのポケモンにだって引けを取らない。

――――そんなコジョフーの強さに、負けたくなかった。

コジョフーの突き崩されない余裕は、私たちの今の実力を見抜いているからこそ。
だから、何としてもがんばりたくて、勝ちたくて……っ!
純粋なバトルの腕では劣るかもしれないけれど、ミルフィーユと"一緒"のバトルは、誰にも負けたくない!


「ミルフィーユ、接近して!」

「ジャーーノっ。」

「コジョフー、ドレインパンチで迎え撃つのだ!」


床の木目に添うように一直線に駆け抜けるミルフィーユの姿は、一陣の緑の風のようで。
だけれど、コジョフーのカーバンクルの目はどこまでもミルフィーユの動きを見切り、先を捉えている。

だからこそ、トウカクさんの的確な指示が光る。


「……今だ!」

「ジョフーー!!」


自分とミルフィーユとの正確な距離を測り、間合いを見抜いて、寸分の狂いもなく打ち出されるストレート。
淡く輝く拳がひどく鋭い音と共に空間を貫き、ミルフィーユの体力をその一撃ですべて奪い取るつもりだった。

でも、そうはさせない。


「……ジャノッ。」

「ええ……!つるのムチ!」

「ジャァーノっ!」

「!?」


ミルフィーユが寄越してくれた視線による合図を受けて、指示の声を上げる。

引き絞った矢を放つような勢いで首元から飛び出したツルがコジョフーの片足に絡みつき、拳が届く直前での進路変更によって相手の攻撃の回避と、体勢を崩す目的の両方を達成した。
けれど、すぐに腕を床に着いて転倒を免れたコジョフーが縛られた足を振り上げてロンダートで体勢を基に戻す。

力は相手の方が上だから再びミルフィーユは引き寄せられてしまうけれど、こっちだって二度も同じ手には掛からないわ……!


「グラスミキサー!」

「ジャァアッ!」

「ジョフ……!」


宙に浮いた身体を利用して回転を加え、作り出した木の葉の渦をコジョフーにぶつけにかかる。
腕をクロスさせて防御の体勢を取ったコジョフーの姿に私がミルフィーユを見れば、彼女も私を見て頷き、もう片方のツルを伸ばしてコジョフーの胴体に素早く巻き付けた。


「ほう……!」

「さっきのお返しです。ミルフィーユ、投げ飛ばして!」

「ジャーーノっ!」

「ジョァっ……!?」


グラスミキサーに気を取られ、伸ばされたツルに気付くのが一歩遅かったコジョフーが短い悲鳴を上げて壁に放られる。


しかし、コジョフーは迫る壁に向けて片足を突き出すと、けたたましい音を立てて衝撃をその一点に集中させ、事なきを得た。
そして、トウカクさんの指示の下、壁を蹴ってミルフィーユのいる場所目掛けて跳ぶと、キッと見据えた先にいるミルフィーユをとびげりで狙う。

あの技の威力は、さっき痛いくらい痛感した。だから。


「よけて、ミルフィーユ!――――グラスミキサー!」

「ジャノっ!」

「!?ジョォアっ……!!」


今度はこちらが相手の動きを見切り、床の上を滑るようにして駆け抜ければ、あの強力なとびげりを食らうことはなかった。
接近戦においての素早さは負けてしまっても、元々のスピードはこちらの方が上回っている。

攻撃を外してしまったコジョフーは、勢いあまって固い床に足をぶつけ、途端に襲い掛かる凄まじい痛みにもんどりうって呻き声を響かせた。
高威力の技だからこそ攻撃を外した際のリスクは大きく、立ち上がろうとするもコジョフーは痛みに耐え切れず膝を着く。

その瞬間を狙いすまして、ミルフィーユのグラスミキサーが放たれた。


「みきり!」

「ジョ……!」


トウカクさんの指示が響く。

コジョフーも反応こそすれ、先程の痛みを皮切りにこれまで平然として耐えていたダメージや疲労が一気に来たらしい、身体が思うように動かせず、みきりを発動させることは叶わなかった。

無防備なままにグラスミキサーを食らってしまい、渦に呑まれて宙を舞ったコジョフーは渦が消えると力なく落下し、床に転がる。


「……ジョフ……ッ!ジョォ……!」


「――――!……素敵…………。」


それでも何とか起き上がろうと必死になりながらミルフィーユと、そして私を見る。
その目は決してバトルに負けたくないと燃える血が激しく滾る、勇敢で豪傑な――まっすぐな目だった。

バトルの前に見た、あの意思の強さはどんなダメージを負い、状況が不利になっても少しも薄れず、気高いままカーバンクルの瞳に宿っている。


背筋を駆け巡る、あの感覚。


底の知れないコジョフーの強さを目の当たりにして、高揚に身が熱くなった。
熱を帯びた心臓が忙しなく跳ねて、知らず知らずのうちに綻びゆく口から吐息交じりの言葉が漏れる。

素敵、ともう一度呟くと同意のようにミルフィーユの尻尾が踊った。

心なしか先程までよりも明るく見える視界の中で、一際存在感のあるコジョフーの口元もほんの少しだけ笑っているような気がした。


ミルフィーユ、そしてコジョフーがいつでも攻撃に移れる体勢で身構えていると、ふいにトウカクさんの叫び声が室内にこだまする。


「そこまで!!」


突然のバトル終了の合図に思わず私たちは呆然としてしまった。

……終わり、なの?

それは相手――コジョフーにとっても予期せぬものだったようで、大層驚いてバッ!と音が立つほどの勢いでトウカクさんへ振り返った。

「ジョフ!コジョォ!」と必死で鳴く様はトウカクさんの決定に従えない、納得がいかないといっているようだった。
自分はまだ戦えることをトウカクさん身振り手振りで伝えるもトウカクさんは首を横へ振り、掌でコジョフーの訴えをひとまず制止させると、私の方へと向き直る。

そして、その厳しさが滲む眼をほんの少しだけ柔らくさせて、頷いた。


「うむ、よくぞここまで戦ってくれた。なかなかどうして、ポケモンとの意思疎通ができている。
それゆえにまだ不安定な面が目立つが、確かな地力あるようだ。」


アーティに勝利したというのも頷ける――そう言われ、謙遜をして首を横へ振る。
私じゃまだまだだわ。
今の勝負だって、トウカクさんが止めなければどうなっていたかわからないもの。

それでも、ミルフィーユと一緒に勝ちたい気持ちは強かったけれど。

完全なバトルの終了を感じ取って戻ってきたミルフィーユを迎え、ダメージを抱える身体を優しく撫でて「よく頑張ってくれたわね」と言葉を掛けた。
ジャーノ、と疲労で語尾が掠れ気味の鳴き声を上げるミルフィーユ。
掌で喉をさすっていると、バトルを観戦していたブドーさんが駆け足でやってきてくれて、


「トウカさん、お見事でした!あのコジョフーを相手に、すごかったですよ!
あいつはかなりバトルの腕が高いヤツなので、自分のナゲキもいつも苦戦させられるんです。」


興奮気味にバトルの感想を述べてくれた彼は、最後の言葉は自慢できるものではないので照れ笑いを浮かべて、お恥ずかしいのですが……と頭を掻いた。

ブドーさんの様子にクスっと笑みを零す傍ら、この道場内でもあのコジョフーは一目置かれているポケモンらしい。

振り返ってコジョフーを見ると、バトルの決着がつかないことがよっぽど悔しかったのか、不貞腐れた顔でうつむいている。
疲労により肩で息をしながらも、そうしてバトルに熱を入れている様子――ひいては、私たちとのバトルに熱中してくれていたんだと思える姿に、また胸が高鳴った。

素敵ね、あのコ……。

ミルフィーユだけに聞こえるように囁くと、ミルフィーユも同じことを考えていたのか、すぐさま同意の鳴き声を返してくれた。


そうこうしていると、コジョフーの隣に並んだトウカクさんが腕を組んで私たちを見下ろし、口を開く。


「さて、本題へ入ろう。」


先程のバトルではなく、これから話すことが"本題"と称したトウカクさんに、今までのバトルは彼にとってプロセスの一つだったのだと気付かされる。
だから、あえて最後まで決着を着けなかったのかしら。

だとしたら、その本題とはなんだろう。

チラリとブドーさんを見やると彼も何のことだかわからないみたいで きょとんとしており、トウカクさんの隣にいるコジョフーも目をしばたかせてトウカクさんを見上げていた。

トウカクさんに視線を戻すと、彼の厳格でいて豪胆な眼差しに射抜かれる。
最初は威圧されているようなプレッシャーが降りかかったけれど、バトルを経た今は冷めやらない高揚を秘めた身体や脳のおかげであまり気にならない。
臆せず見返せば、うむ、と重々しくも満たされたような頷きを目にする。


そして、トウカクさんはいよいよもって"本題"を口にした。



「このコジョフーを旅に連れて行ってはくれないか。」



「!ジョフ……!」


「え……っ?」

「ジャノ?」


コジョフーがハッとしたようにトウカクさんを見上げた。
私たちも同様にトウカクさんを見る。

彼は世間話でもするような口ぶりで、己の中にある意図を語った。


「このコジョフーは先月タマゴから孵ったばかりの、まだ子供。しかし、秘めたる素質は非常に優れたものである。
強くなりたいと望んでいるが、この狭い道場の中だけで自身を高めるよりも、今の此ヤツには旅に出て、共に強くなる仲間が必要なのだ。」


トウカクさんの視線が私からミルフィーユへと移行する。
ミルフィーユの真っ赤な目がトウカクさんを見返し、そして同じ赤い瞳を持つコジョフーへと向けられた。
コジョフーはいまだに呆然としていたけれど、ミルフィーユと目が合ったことでハッと我に返ると、意思の強い眼でミルフィーユを見つめ返す。

お互いの視線が絡み合い、ミルフィーユが「ジャァノ」と鳴き声を掛けると、コジョフーは「ジョフ……」と返事とも呟きともつかない吐息交じりの鳴き声を零す。

考えるような顔つきでミルフィーユから視線を外したコジョフーが、隣に立つトウカクさんを見上げる。
トウカクさんはコジョフーの視線に何も言わなかった。
ただ、固い思いを抱いた目を静謐にコジョフーに向けるだけ。

コジョフーはもう一度ミルフィーユをチラリと見やり、それからまたトウカクさんを見ようとして――ピタリ、止まる。


「ジョフ……。」

「……コジョフー。」


ゆっくりとこちらを見たコジョフーの目と私の目がお互いに向き合い、糸を紡ぐように視線が絡まり合う。

トウカクさんは、声には出さずに頷いた。
それでいい、とコジョフーが本当に見るべき場所に対して、確かな重みを乗せた目で。

意思の強いカーバンクルの瞳は、どうするべきかを熟考している。
鑑のように私をその中に映し込んで、自分自身の気持ちを探る。

まるで私を"ついていくべき人間(トレーナー)"かどうかを見定めるために。

コジョフーの意思は、とても大切。
あのコにとってのこれからが、この答えの中に詰まっているから。
でも、それだけじゃダメね。
だって、コジョフーひとりだけの問題じゃないから。


「……コジョフー。」


呼びかけて、私は自分の胸に手を当てた。
はじめまして――とトウカクさんやブドーさんには言ったアイサツを、コジョフーにも口にする。


「私の名前は、トウカ。カノコタウン出身で、ジムバッジの数は3つ――そう、まだ駆け出したばかりのトレーナーなの。」

「ジョフ……。」

「さっきのバトル、とても素敵だったわ。今までバトルしてきたジムリーダーのポケモンと同じくらい強くって、だから負けたくなくて……本当に、素敵だったの。強いバトルをするアナタ、強いアナタに心が惹かれたわ。」


アナタを見ていると、気付けば視界がいつもよりも明るくなって、バトルだけじゃなくて、いつの間にか私……アナタ自身に夢中になっていたのかもしれない。


「アナタがついてきてくれると心強いし、うれしいわ。
コジョフー、アナタさえよかったら……。」


「…………。」


胸に当てていた手をコジョフーの目の前へと差し出して、言葉の続きを瞳に込める。


…………沈黙の後、コジョフーが口を開いた。



「…………ジョフ。」



首を縦に、こくりと振る。

カーマインの色をした小さな手が持ち上がり、差し伸べていた私の手の中に収まった。
――――私と、一緒に行くことを決めたコジョフーの気高い眼差しが、どこまでも射抜くようにまっすぐに私の目の中に注ぎ込まれる。


「……うむ。コジョフー。」

「ジョフ。」


トウカクさんの呼び声にすぐさま返事をしたコジョフーが握られた手はそのままにトウカクさんの方を向き、ピッシリと姿勢を正す。


「旅に出て己を知り、世界を知り、そして――強くなれ。共に戦う仲間と。」


「――――ジョフ!」


私とコジョフーの旅は、こうして決定されたのだった。










「トウカさん、またいつでもここへ鍛えにきてくださいね!
次にあなたが来るまで、自分もナゲキももっと強くなってみせますからっ!」

「コジョフーを頼む。そして、再びここへ来るときは今一度、手合わせ願おう。
お前たちの旅の武運を祈る。」


両方ともここへもう一度来てほしいという理由が"手合わせ"や"鍛える"だなんて、どこまでも格闘家な人たち。
"遊びにきて"とはまた違う、けれど、再会を望む気持ちのこもった言葉に胸が高鳴るのは、彼らとのバトルが楽しかったから。


「ありがとうございました。ムースのこと、大切に育てます。」


ムース……とは、コジョフーの名前(ニックネーム)のこと。

このニックネームをつけたとき、まさか自分にお菓子の名前をつけられるとは思わなかったのか、ひたすら目をしばたかせるムースの顔があまりにもどこか抜けていて、可愛かった。
思わずブドーさんと笑ってしまったくらい。

立派な門を潜り抜け、振り向き様にもう一度頭を下げて二人に手を振ると、二人とも――特にブドーさんは満面の笑みで大袈裟に振り返してくれた。



道場のあるスリムストリートからセントラルエリアへ、そしてセントラルエリアを抜けた先――――4番道路へ続くゲートへと向かう。

すっかり待たせちゃったけれど、ベルとの約束のために急がないとね。

さっそく腕につけたライブキャスターを操作し、登録してある連絡先の一覧からベルの項目を見つけて表示し、通話のボタンを押す。
数回のコールの後、私は切り替わった画面に表示された顔に向けて「もしもし、」と呼び掛けた。
本来セッカシティ付近に生息するコジョフーをどうしても仲間にしたくて、無理矢理ヒウンシティでゲットさせました。
ゲームでももちろんありますが、友情ゲットや人から譲り受けて仲間になるパターンはアニポケっぽくて、ワクワクします。
特にトウカはゲット下手な設定なので、今後もこういった形でのポケモンの仲間入りが多いことを ご了承ください。

ちなみにオリジナルキャラの名前が思いつかなかったので、トウカクは「格闘」のアナグラム、ブドーは「武道」と、そのまんまつけました。
トウカクさんの容姿は、ドン・ジョージさんがイメージモデル。


次回は幼なじみたちとバトル回。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。