第8話 ~おわりのだいちシミュレーター・その2~

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:22分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

主な登場人物

(救助隊キセキ)
 [シズ:元人間・ミズゴロウ♂]
 [ユカ:イーブイ♀]

(その他)
 [チーク:チラーミィ♂]

前回のあらすじ
事件が、起こった。
その内容は"ポケモンによる大規模な天候操作"によって、環境やポケモンたちへの深刻な被害が懸念されるというもの。
救助隊キセキの2匹とチーク、そしてその他救助隊たちの活動によって事件の内容は解き明かされた。
3匹のポケモンたちはその元凶を潰すため、"輝き野山"に突入する……
「……きれい、ですね」

目的のダンジョン……"輝き野山"。そこに侵入したシズの第一声は、こうだった。
地面を見れば、カラフルな透き通った石ころが太陽光を乱反射している。前を向けば、空から降り注ぐ木漏れ日が心を落ち着かせる。そのあたりの木から樹脂を取って宙に掲げてみれば、奇跡的な光の屈折が虹を作り出す。

「本当にな。こんな"幻想的"な景色が手に届く場所にあるって言ったら、知らないヤツはみんな腰を抜かすんじゃねえか?」

チークはそう、この場所のことを表現した。
緑であふれる草木。美しい色彩を放つ花々。そして四方からやってくる七色の輝き。確かにその言葉がよく似合う。

「こんなきれいな場所にワナをしかけるポケモンの気持ちがわからないよ。ワタシには……」

しかし、救助隊の3匹は観光をしたくて……この光景を拝みたくてここへやってきたのではない。
あくまで異常気象の、事件の解決を図るためにこの場所に居るのだ。

「あー……暗いこと言うなよ、ユカ。その気持ちはオレも同じだけどさ」
「とにかく探しましょう。"催眠術の仕掛け"を調べれば、犯人がどんなポケモンなのか大体わかるそうですし」

3匹のポケモンは歩き出す。自分たちの仕事を果たすため。

「救助隊協会の資料によると、ここにはモンスターハウスも、強い敵も出ないはずだ。でも、油断はするなよ?」
「分かってますって。危険性は思い知ってますから」












「……モンスターハウスだっ!」

木の幹、岩の裏、水の中、草の中。あらゆる場所をしらみつぶしに探し回っていた3匹のうち、チークを除いた2匹。彼らは、突如として飛び出した叫び声に身体をびくりと跳ね上がらせ――それと同じ瞬間、6、7匹……いや8匹くらいは居るだろうか?大量のポケモンが光の粒子とともに現れたのだ。
……チークは、"このダンジョンにモンスターハウスは出ないはず"と言っていたはずなのに。

「シズは右の2匹、ユカは左の2匹を引き受けろ!正面はオレがなんとかする!」

チークから鋭い指示が飛んできた。
"2匹と同時に戦うのは初めてだ。いや、集団から逃げ切ったことはあるけれど……ボクにできるのだろうか?"
シズは考えるが、しかし戦闘の刹那にそんなことを深く思慮する余裕など無い。

「っ!?」

突然飛来してきた白色の粘液を、左後方に飛び退くことによってなんとか回避した。
敵の1匹はケムッソ。こちらの動きを封じる"いとをはく"と文字通りの危険な技"どくばり"を警戒すべきポケモン。
……だが、今飛んできた"いとをはく"はともかく、接近しないと使えない"どくばり"は飛び道具の前には無力。あまり足の速くないケムッソが使うならなおさらのこと。しかし、シズの使える飛び道具は……

――まあ、本当ならこの強烈な日差しでみずタイプのワザの威力は半減してしまうんだがな……"不思議のダンジョン"の中ではダンジョンの外側の天候は関係なくなるのさ。威力の減衰も起こらないから、安心してみずタイプのワザを使えるんだぜ。

シズの脳裏に、チークのセリフが浮かぶ。確か催眠術の仕掛けを探しているときに聞いた言葉だったような。天候の心配は無し……繰り出すワザは決まった。

「よし、反撃で……!」

"みずでっぽう"。みずタイプの遠距離攻撃。
シズが着地すると同時に繰り出されたその弾丸は、迷い無くケムッソへ直進してゆき、命中する。威力は十分にあったらしく、この一撃だけでケムッソは光の粒子とともに消えていった。

(……そんなに強くないぞ、こいつら)

心の中で、シズがぼそりと呟いた。昨日の依頼で対峙したあいつらよりも、強くない。ユカと出会った日の出来事と同程度の相手。分かっていれば簡単にいなせる、あいつらと同じ……シズは自分が相手をするべきもう1匹のポケモンへ向き直る。

「"みずでっぽう"!」

そして、目の前で浮遊していたポッポに有無を言わさず攻撃を加えた。ヤツはそれを回避できずに直撃をもらい、地に墜ちていく。

「……おわった。なんだか、"意外とあっさり"って感じがするなぁ」

シズはそんなことを言いながら、そして、光となって消えゆくポッポの姿を見つめながら……ちょっと休憩と言わんばかりに地面に座り込む。

「こっちは片付いたぜシズ……って、その様子じゃもう分かってるみたいだな」
「ワタシもおわったよ。最初は度肝を抜かされたけど、あっさり……」

それと同時に、シズと同じように無傷で戦いを終えたらしいユカとチークが、こちらに近づいてきた。

「――あっさりとおわったのはそうなんだけど……ちょっとつかれたかも。"みずでっぽう"が使えるシズはいいけど、ワタシは走り回らないと相手に攻撃できないからね……"たいあたり"と"でんこうせっか"しか使えないし」

そう言ってユカは、ゆっくりと地面に座り込む。耳を澄ましてみれば、彼女の呼吸が少し荒くなっているのがすぐに分かった。

「……この事件を解決したら、オレが"スピードスター"を教えてやろうか?ほら、星を飛ばして攻撃するヤツだ」

"スピードスター"。射程は少々短く、威力も抑えめなものの、その強烈な弾速から正攻法での回避はほぼ不可能な、とても厄介なワザ。

「いいね。お願いしようかな?」

そんな便利なワザが使えると聞いたなら……少なくともユカは、チークの提案に食いついたらしい。

「よーし、決まりだ!」

チークは笑顔で言葉を返す。右手に示されたグッドサインとともに。

「なんだか嬉しそうですね、チークさん」

こっちまで笑顔になってしまうような、喜びの雰囲気?オーラというか……上手く言い表せないが、とにかく、チークを見ていたシズはそんな気分になってくる。

「フフッ。まあ、な?」

……やっぱり、嬉しそうだ。

「それじゃあ、休憩もほどほどにして、行きましょうか」
「そうだな。早いこと解決しなくちゃな!」

言葉ととも座っていた2匹が立ち上がり、そして歩き出す。



「……にしてもだ」

休憩を終えてからしばらく経った頃。足を動かしながら、チークが一言、言葉を放った。

「"このダンジョンでモンスターハウスが出たことは無い"。そう、資料には書いてあったはずなんだがなぁ」
「……多分、資料が間違っていたんだと思います。それかボクたちが最初だったとか」
「ワタシは問題ないと思うよ。簡単に撃退できたし」
「だといいんだが……」












「……見つかりませんね。」
「あれから1時間は探してるよ……?」
「応援を呼んだ方がいいかもなぁ……」

現在、午後4時17分。未だ目的の物は見つからない。

「日を越す事態はなんとしてでも避けたいんだが……」

時間が経てば経つほど、被害は大きくなってゆく。解決策が分かっていても、どうしようもできない……そのいらだちが、チークのセリフからにじみ出ているようだった。

「催眠術に掛けられたポケモンを正気に戻すチームを信じるしかないですね。以外とすでに解決してたり……してたらいいなぁ」
「それで解決していたとしても、根本的には……解決してないんだよ?犯人を捕まえないと」
「だよね……犯人も、犯人の動機もまだ分かってないけど、何か目的があってやっているんだろうし……」

シズとユカは会話を終えると、すぐにため息をついた。
"救助隊になってすぐに、こんな重役を背負わされるなんて"……
ここにやってきた当初こそそんな感情は持ち合わせていなかったが、時間が経つにつれ、その自覚が芽生えてくる。責任というのは、追い詰められて初めて理解できることなのかも知れない。



「入るたびに地形が変わる……わざわざ見つかりにくい場所に……いや、まさか」

突然、チークが何の脈絡もないことをぼそりと呟いた。
何か、知りたくないことをを思いついてしまったような、元気のなさそうな声で。

「ん?どうしたの、チーク」

あまりにも小さな声だったので、呟いた内容を聞き取れはしなかったが……それでもユカは、不安そうなチークの様子を感じ取り、不審に思って声を掛けてみる。

「いいや……なーんか、致命的なミスをしているような気がしてならないんだ」

帰ってきたのはまた、元気のなさそうな声だった。

「ミス……と言うと?」

シズもまた、チークの様子を嗅ぎ取り、彼の話に耳を傾けようとする。

「……何だろうな。昨日みたいな感覚で……」
「昨日というと、ニャオニクスに心を操作されていたっていうあれですか?」
「そうそう。あのニャオニクス、ヤバかったからなぁ。あの超能力の使い方とそれを実現させる技術。どっちもまるで意味が分からなかったぜ……」

誰かの心を直接、それも相手にバレないようにねじ曲げ、利用するには、非常に繊細な技術が必要……
当然のようにも思えるが、そんな出来事に遭遇することなど早々ないが故に意識から外れてしまっていた。

「"新人救助隊をヒドい目にあわせたいポケモンの依頼"……"それを実現させるためにチークの心をいじくってワタシたちに難しい依頼を受けさせた"……今考えると、なんかすっごく回りくどいよね」

ユカもその会話に注目をよせる。
彼女の発言の内容は冷静になって考えると確かにそうだな、と思うような話だ。

「確かにそうだ。心を挫きたけりゃ、とっ捕まえて拷問にでも掛けりゃ済む話だしな」

"なるほどね……拷問されるのは絶対イヤだけど"。
心の中で、シズはそっと呟いた。この事件とは関係ないけれど、これはすごく……疑問に思ってしまう話だ。事件を解決したら、スズキさんに聞いてみるべきかもしれない。

「……ま、とにかく探し続けようぜ。オレたちの予想が大外れだったとしても、犯人かここに立ち寄ったであろう事だけは確実なんだ。何かあるはずさ」

……どうやら、チークは自信をなくしているようだ。致命的なミスをしているなどと口走ったのはきっとそのせいだ。
なにか、悪いことが起きなければいいけれど。












「おっと……"敵ポケモン"が出てきたぞ。構えておけ」

急に、声量を落としたチークの声が聞こえた。彼の見ている方向に視線をやると、白い体毛をしたニャオニクスがそこにいた。こちらには気がついていないようだ。

「うわっ……」
「"噂をすれば、なんとやら"ってこと……?チークさんの精神を操ったアイツとは無関係だと思うけど、なんだかなぁ」

声を小さくしたチークに合わせて、シズたちも音をあまり出さないようにして言葉を発した。

「……にしてもチークさん。警戒しすぎじゃないですか?アイツをみていていい気分にならないのはわかりますけど」

敵を見つけたとたんに姿勢を低くして、さらに今度は草むらの中に身体を潜めようとしているチークの姿に疑問を感じたシズは、質問を投げかける。

「不思議のダンジョンの敵はな、進化後のほうが戦闘慣れしているっぽい振る舞いをするんだぜ。つまり厄介ってことだ」

それに対してチークは端的に、そして簡潔に答えたが……

「それにしても、シズの言葉を繰り返すけど……警戒しすぎだとは思うよ。ここの敵はそんなに強くなかったでしょ」

それを聞いてもなお、ユカは警戒心の強さに納得がいかなかったようで、少し不機嫌そうな声で言葉を放つ。

「でもなぁ……分かった。やり過ごすのはやめだ、こっちから仕掛けよう」

その言葉に、チークが折れた。もちろん、何も考えずにそうしたわけではなく、"そこまで強くはないポケモンに時間を使いすぎるわけにはいかない"と言う観点で考えれば、ユカの言っていることもあながち"無警戒だ"と切り捨てる事もできないからだ。
……ついでに言えば、チークは自分の思考に対する自信を失っているというのも理由の1つだろう。

「3つ数えたら一気に飛びかかるぞ……」

チーク以外の2匹は静かに頷く。

「3、2――」

チークは声を殺しながら、しかしはっきりと時間を数えていく。

「――1、今……」

そして、草むらから飛び出そうとした、その瞬間のことだった。

「っ!?いや、おい!待て!」

チークだけが足を止めた。チークただ1匹が、何らかの違和感を察知し、行動をやめ、シズたちを制止した。

「へっ?」
「チーク?」

が、しかし、もう遅かった。もう、シズたちは草むらの中から飛び出し、敵の正面に足をつけてしまっていた。
……敵の、"正面"に。ヤツは最初からこちらの存在に気がついていたのだ。気がついていた上で、あえてこちらの存在を無視し、"この状況"になるのを待っていたのだ。

「"サイコキネシス"」

そしてヤツは、まんまと作戦に引っかかったこちらをあざ笑うかのように、見せつけるかのように、ワザの名前を呟いた。
強い念力を使って、相手を傷つけるワザの名前を。

「「……あっ」」

その声を聞いてやっと、シズたちは自分たちの置かれている状況を理解する。ヤツは"ダンジョンの敵"などではない。
つい昨日に出会った、"あの"ニャオニクスだ。ついさっきまで話題に出していたアイツだ……アイツにまんまと嵌められたのだ、と。

「ユカぁ!」

チークは叫ぶ。サイコキネシスの凶刃を向けられた1匹のポケモンに向かって。
チークは走る。距離的に決して間に合わないと理解してもなお、1匹のポケモンを突き飛ばすために。

「き……昨日のぶんだ!昨日の、恩返し……!」
「うわぁっ!?」

……チークの叶わぬ願いは、ユカをかばおうとする意思は、シズの手によって代行される。ユカがちょうど隣にいたおかげで、ほんの少しの勇気さえ振り絞れば、シズには仲間をかばうことが可能だった。

「わぁぁぁっ!!」

当然、その代償は大きい。シズの身体にサイコキネシスの苦痛が突き刺さる。何か、普通とは違う……言い表すならば、神経に直接送り込まれるような、神経に針を刺されたような、そんな痛みが。
そして、それだけではない。体の自由がきかない。神経をやられたのか、それとも超能力的に押さえ込まれているのか……シズの身体が中に浮いていることから、おそらくは後者が原因だろう。

「シ……シズ!」
「しくじったか……!くそっ!」

なんにせよ、シズが束縛されたと言う事実は、残された2匹に大きな衝撃を加えたのは間違いない。

「ダンジョンそのものの危険度が非常に低いからって、少人数で来たのは間違いだったわね?」

ニャオニクスは勝ち誇ったかのように話し出す。超能力によって宙に浮かぶシズを自身の元にたぐり寄せながら。

「……ボクで、何を……」

身体は動かないが、かろうじて会話はできる。おそらく、発声器官に対してわざと超能力的な束縛をしていないのだろう。
それに気がついたシズは、ニャオニクスに対し、質問を投げかける。

「決まってるじゃない。手元に置いておけば戦いが有利になる。……それと、あんまりしゃべらない方がいいんじゃない?苦しいでしょ?」
「そんな、人質みたいな……ううっ……」

ニャオニクスの言うとおり、相当に苦しい。もし、ここにポケモンバトルの審判がいたのなら、最初の一撃の時点で戦闘不能と判定されたとしてもおかしくはなかったほどだ。
なにせ、シズはダメージを受けることになれていないのだから。

「人質……?ちょっと、卑怯だよそれ!」

突然、ニャオニクスの行動に対して、ユカが食って掛かる。自分たちが不利になるからというよりも、倫理的に許せないから。

「卑怯もどうもないでしょう。正々堂々のバトルじゃないのよ、これは」
「それでも卑怯なものは卑怯だって!これじゃ、まるで……!」

口で文句を言ったって、この状況が解決し得ないことはユカにも分かっていた。
数十秒だけ時間があれば、それを理解するのには十分だった。
……それでも、そうすることくらいしか、"卑怯な行動"への抵抗の手段が残っていないのも分かっていた。
もし、物理的な手段を使ってしまったら、シズにどんなことをされるか分かった物じゃないからだ。

「おい、あんた……」

ユカとニャオニクスの問答を遮って、チークが言葉を放つ。
答えを求めるべき疑問が存在していたから、口を開いたのだ。

「なぜ俺たちを付け狙う?昨日と、今日と……偶然じゃないだろ?……そして、そもそもどうやってスズキたち救助隊や留置所から逃れたんだ?」
「"面白そうだから"……だそうよ」

ニャオニクスの返答は、全くもって答えになっていない。かろうじて、他人からの指示によって動いている事くらいは読み取れるが……それも"もうすでに知っている情報"にすぎない。

「さてと。こっちにも時間がないのよ。予定外の事態が起きて、スケジュールがものすごーく前倒しになってて……」

質問にはまともに答えないくせに、自分のしゃべりたいことだけはよくしゃべる。
苛立ちの感情をわざと煽られているかのような……思わずそう考えてしまうほどにストレスの掛かる台詞回しだ。

「何がしたいんだよ……なぁ、あんた!」

……もはや、どうしようもなかった。
チークには、シズを救う手段を見つけることができなかった。
こういう犯罪行為を取り締まる方法は心得ていたつもりだった彼も、超能力での束縛は経験したことがないのだ。

「"エスパー能力を使って対象を継続的に、長時間捕縛する行為"は、大多数のエスパーが嫌う手段よ。相応に体力を消耗するから。……けれど、私にはできる。このまま10時間はいけるわ。
……こんな経験、今まではなかったでしょ?」
「くそっ……心まで読めるのか、コイツ!」
「当たり前でしょう。誰かの心をいじくれるのに、誰かの心を読めない道理なんてないわ」

……さらに、どうしようもなくなった。
チークの心の中で、シズを救う手段どころか、単純に勝利する方法すらも導き出せなくなってしまった。

「……頭を回すのももうおわり?さっきも言ったけれど、時間がないのよね」

"終わったかも知れない、色々と……"
ここにいる3匹全員の救助隊が、そう頭に思い浮かべていた。












「おい、フラッペ。急に"私の予想が間違っていた!"とかなんとか騒ぎ出して……どうなってんだよ?」

2匹のポケモンが、輝き野山を走っている。
1匹は、救助隊のコリンク、スズキ。もう1匹が、同じく救助隊のデリバード、フラッペだ。

「私の予想は、"操られたポケモンが多すぎて、ついでに単独犯でないとあり得ない証拠まで上がった。これは催眠術だ!"……って話でしたよね!」

……そして、フラッペだけが、異様に焦った口調でしゃべっていた。

「単独犯であるというのは、エスパー曰く"影響を受けたポケモンの混乱パターンがすべて一致していた"から間違いないだろ?単独犯にしては操る数が多すぎて催眠術でないと腑に落ちないというのも別におかしくないだろ?何が間違っているんだ……?」
「後者です!!」

突然の大声に、スズキは少し面食らったような表情をした。
単純にこんな様相のフラッペは早々見ないというのもあるが、こうも……迫真な表情で言葉を投げかけてくるというのは、彼と出会って以来の初めての体験だからだ。

「いいですか?操る方法が催眠術でなかった場合、犯人がここに張り込んでいる可能性が跳ね上がります!」
「いや、それは分かるんだが……」
「いいや、わかってませんね!私たちは救助隊1つと1匹をとんでもない地獄に放り込んだ可能性があるんですよ!?」

やはり妙だ。"救助隊1つを地獄に放り込んだ"とは言うが、彼はその程度で冷静さを失うポケモンではない。
普段の彼ならば、もっと冷静に失敗を取り返すであろうことを、スズキはよく知っている。

「あのな、なぜ予想が外れたと思ったかが俺に伝わってない……」
「あっ!?」

……突然、フラッペが間の抜けた短い声を上げ、足を止めた。
そして視線をあらぬ方向へと向け、そちらを凝視している。

「えっ……はあ!?」

スズキもその視線をたどってみれば、なんと言うことだ。
見覚えがある3匹のポケモンが、地面の上に倒れ伏していたではないか。

「おい、チーク!どうなってんだ?こんなところでヘマする男じゃねえだろ!」

スズキはその中の1匹に駆け寄り、強く身体を揺さぶる。
倒れ伏したポケモンがそれに反応することはなかったが、どうやら呼吸はしているようだ。

「……」

一方でフラッペは、黙っていた。透き通った砂利の上で眠っているシズを見つめながら、黙り込んでいた。

「シズ……と、ユカでしたね。こちらも気を失っています。
目立った外傷はなし。念力かなにかで相当苦しめられた末の気絶とみるのが妥当でしょうか……」

そして、数秒間の沈黙を続けた後、静かに口を開き、先ほどの焦りようからは全く想像もつかない落ち着いた声で、冷静な分析を述べた。

「念力?まさか!?」

フラッペの言葉から、スズキは1つのキーワードを抜き出した。
頭で考えたというよりかは、直感で。

「その"まさか"でしょうね。"予想がはずれた"という予想は、間違いではなかった……」

スズキの抜き出した"念力"という単語は、チークたちを叩きのめしたのがエスパー……つまり大規模天候操作の容疑者である、ということを指し示しているのだ。
もちろん、すべてが偶然の産物であったという可能性も存在するが、状況からしてそうだとは考えづらい。

「とにかく、すぐに救助隊協会へ戻りましょう。あそこなら薬効のある木の実も備蓄されています」
「了解……何がどうなってんだよ、全く……!」

スズキたちは救助隊バッジを取り出し、天に掲げる。
……そして、意識のない3匹とともに青白い光に包まれ、消えた。
前回の投稿から3ヶ月半も経ってしまいました……ごめんなさい。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想