【第005話】初めての勝負、真作と贋作(vsハオリ)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

トレンチ嬢とハオリ、初心者トレーナー同士の一騎打ち。
今、公園の広場にて戦いの火蓋が切って落とされる。




「よし、行くわよマネネ!」
「まねね!」
「行ってきな、サルノリ!」
「きゃきゃっ!」




一方はマネネ、模倣を特技とするポケモン。
もう一方はサルノリ、バチを使いこなすポケモン。
どちらも実力はほぼ互角。
純粋にトレーナー同士の実力の拮抗となるだろう。




「……先行はトレちんに譲るよ。」
「ありがたくいただくわ!マネネ、『ブラストバーン』よ!!」
「……まね?」
トレンチ嬢はマネネに技の指示を出す。
が、マネネはあたりを見回して困惑するばかりである。
「あら?難しかったかしら。じゃあ中華鍋で『キングシールド』よ!」
「ま、まね……?」
マネネはさらに困惑する。
お嬢がギャグ漫画で仕入れた誤った知識がとんでもない方向へ炸裂しているのだ。




「………あの、お嬢様。ポケモンには覚えられるわざに限りがあります。ちゃんと図鑑で確認して下さい。」
ジャックはハオリの方を向き、『ちょっと待って下さい』の意のハンドサインを送る。
本来なら審判の肩入れなど言語道断だが、彼女は甘んじて待つことにした。
「……なるほど、あなた『ものまね』と『サイケこうせん』が使えるのね!」
マネネの技構成を確認したところで、お嬢は勝負の体勢へと戻る。




「行くわよマネネ!『サイケこうせん』!」
「まねね!」
マネネは虹色の光を発射し、サルノリ目掛けて一直線に発射する。
「避けて、サルノリ!」
「きゃきゃっ!」
サルノリはジャンプで『サイケこうせん』を回避し、ローリングによる受け身で着地をする。
ここまでの回避行動、戦闘においては基本的な動作ではある。
しかしこのサルノリは、その基本動作に一切のムダがない。
ジャックは審判をしつつも目を奪われる。




「今度はこっちの番だぜ……サルノリ、『えだづき』!」
「きゃきゃっ!」
サルノリは頭のバチを取り出すと、それをダッシュでマネネに叩きつけようとする。
「えーっと……受け止めてッ!」
「まねね!?」
マネネはサルノリの攻撃を白刃取りしようとする。
が、予想外の指示に戸惑ってしまったせいでマネネは焦ってしまった。
結果的に手を出すタイミングが遅れ、マネネは頭上に思いっきり攻撃を食らってしまう。
「まねっ……!」




「マネネ……!反撃よ、『ものまね』ッ!!」
「まっ……まねねっ!」
マネネは手元にバチのようなものを生成する。
そしてそれを手にすると、先程のサルノリと同じようにわざを繰り出す。
そう、『ものまね』で一時的に『えだづき』を取得したのである。




「まーーねねっ!」
マネネはダッシュでサルノリへ近づき、バチを縦方向に叩きつける。
狙うは脳天、急所一択だ。
「よし……サルノリ、バチで受け止めなッ!」
「きゃきゃーーっ!」
サルノリはバチを横方向に構えることで鍔迫り合いの状態に持ち込む。
マネネとサルノリは互いの力を正面からぶつけ合う。




しかし残念。
バチの扱いに関しても素のパワーに関しても、サルノリのほうが一枚上手だったのである。
マネネのバチはやがてひび割れ、粉々に砕け散ってしまう。
「まっ……!?」
「よし、サルノリそこだ!『えだづき』で追撃ッ!」
「きゃきゃーーーっ!」
サルノリは武器の破損でよろめくマネネの正面から容赦なく追撃を食らわせる。




当然、マネネにこれを避けることは出来ない。
為すすべもなく大ダメージを喰らってしまい、マネネはその場で倒れてしまったのであった。
「ま……まね………!」




敗因は明白であった。
力技で正面からサルノリに勝負を挑んでしまったからだ。
マネネは本来、相手のわざを奪い取りつつそれをどうトリッキーに活かすかが鍵となるポケモンだ。
決してパワーで正々堂々勝負をするタイプのポケモンではない。
真正面からぶつかってしまえば、当然贋作の技量は真作に劣る。
お嬢がそこを分かっていなかったがゆえの敗北であった。




「……勝負ありですね。この勝負、ハオリ様の勝利です。」
ジャックのジャッジを持ってこのバトルは幕を下ろす。
結果はサルノリの圧勝であった。
「ま……マネネ……!」
お嬢はマネネに駆け寄り、心配そうに抱きかかえる。
マネネは目を回してぐったりとしており、自力で立ち上がることすら難しい状態である。




「いやぁ、最初の勝負にしちゃ上出来っしょ!よくやった、サルノリ!」
「きゃきゃっ!」
そしてハオリはトレンチ嬢に近づき、手を差し出す。
「楽しかったよ。またやろうぜ!」
「え……えぇ、こ、こちらこそ……」
お嬢は歯切れの悪い口調でハオリの手を握る。
まぁ、トレーナーとしてのデビュー戦でこっぴどく負けたのだ。
こうなるのも当然といえば当然であろう。




その後、ハオリはその場で荷物をまとめると公園を後にした。
「んじゃ、アタシはジムにチャレンジしてくるよ。またな!」
大きく手を振りつつ、ハオリは繁華街の方へと消えてゆく。
お嬢とジャックは小さく手を振りつつ彼女を見送った。




さて、こうなるとジャックに残されたのは、お嬢の機嫌取りの仕事である。
ジャックは今まさに打ちひしがれているお嬢に何と言葉をかければよいか、模索しているところであった。
「……その、お嬢様。ハオリ様は大変優れたトレーナーでありました。」
「………」
「ですのであまり負けたことを責めないで下さい。マネネも全力を尽くしたのです。」
「……分かってるわよ。」
お嬢はマネネを抱きかかえ、公園の出口へ向かってゆっくりと歩き始める。
「……そう、マネネは悪くないわ。私がこの子のことを分かってなかったの。そうでしょ?」
「お、お嬢様……」
そしてお嬢はジャックの方へと振り返ると、先程までとは一変し大きく笑顔を浮かべる。




「次は絶ッッッ対、負けないんだから!」
そしてそのまま、ポケモンセンターの方を目指して小走りを始める。
「そうと決まったらジャック、マネネの戦い方を教えなさい!」
「ハハ……そうですね。基本的なことだけでよろしければ。」
ジャックもまた、笑いながら答える。




敗北を知って尚折れぬお嬢のその心に、頼もしさと感心を抱く。
それと同時にジャックは、心のどこかで別の感情を抱いていた。
それは羨望か、……あるいは嫉妬か。




初めてのバトルを終えた2人の影は、繁華街の人混みへと消えていった。







ーーーーーーーーそんな2人を遠くから見つめる人影が2つ。
「……どや?あのトレーナーを見た感じは。」
「大したこと無いね。あのマネネはさておき、トレンチとかいう奴は話にもならない。」
「いや、そっちやあれへん。あのスーツ男の方や。」
「……まぁ、所詮は欠陥品って感じかな。控えめに言って出来は良くない。」
「まぁせやろ。アンタに比べたら大概の適合者は足元にも及ばんわ。」
不穏な会話と共に、彼らは別方向の人混みへと消えていった。

サルノリが頭にぶっ刺してるやつってなんて呼べばいいんですかね。便宜上バチって書きましたけど。
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