第52話 勾玉がない!?

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「ここが、アルギロ神殿?」

 ヒトカゲ達はゼニガメの誘導により、アスル島に古くから存在する「アルギロ神殿」に辿り着いた。ヒトカゲは前にも見たことがあるが、今もその時と同じくらい胸が高鳴っている。

「この中に『水の勾玉』があるのね」
「そうみたいだな。俺も全然知らなかったぜ」

 チコリータが神殿の奥の方を見つめる。彼女の目にはいかにも何かがありそうな気がしてならないように見えたようだ。その独特の雰囲気は徐々にみんなを取り巻いていく。

「それじゃ、行こう。最後の勾玉を取りに」
『わかった!』

 ヒトカゲの掛け声とともに、みんなは神殿の中へ足を踏み入れた。


 神殿の中を静かに歩く。外観もかなり大きかったが、いざ中に入ると外観以上に大きく感じたようだ。壁に沿ってできている廊下をひたすら進んでいる。

「なんか、さっきからぐるぐる回ってるな、俺達」

 ゼニガメの言うとおり、みんなは五角形にできた建物の辺に沿って歩いているのだ。迷路とまで言わないが、かなり道のりは長そうだ。

「ゼニガメ、チコリータ、ドダイトス」

 何の前触れもなく、ヒトカゲが立ち止まってみんなの名前を呼んだ。それに気づいて3人は足を止めて彼を見る。

「みんな、ありがとう」
『えっ?』

 ヒトカゲの口から発せられた言葉「ありがとう」。何もしてないのに突然お礼の言葉を伝えられた3人はどうしたのかと驚いている。

「元々僕の思いつきで始めた旅についてきてくれて、感謝してるよ」

 きっと大事なことを伝えたいのかと感じたみんなは、黙ってヒトカゲの言うことに耳を傾けていた。

「今までの旅の中で、いっぱい楽しい事もあった。いっぱい辛い事もあった。だけど、もうすぐその旅も終わる。ここまで来れたのはみんなのおかげだと思ってる。だから改めてお礼を言うね。本当にありがとう!」

 そう言うと、ヒトカゲは深々と頭を下げた。3人は少々戸惑いながらも、素直な言葉が嬉しく照れていた。彼が頭を上げると、そこには優しい目つきのゼニガメ達がいた。

「何言ってんだよ? 俺は勝手についてきてるだけだぜ?」
「私だって、外の世界が見たいだけだもん」
「私もお嬢の警備を任されてますからね」

 素直になれない3人。確かに始めはそういう理由で旅についてきたのかもしれないが、今は違う。いつからかヒトカゲと一緒に旅するのが楽しくなっていたのだ。それ故この旅は何の苦にもなっていないと思うことができるのだ。

「そんなお礼なんて後でいくらでも聞いてやるから、早く行こうぜ」

 ゼニガメなりの優しさを受け取ったヒトカゲは大きく頷くと、4人は小走りで廊下を進み始めた。すると直に彼らの目の前に、大きくて重そうな扉が現れた。十中八九、入るべき部屋への扉であると確信した。

「たぶんこの中に……ドダイトス、お願い」
「わかりました!」

 チコリータに頼まれると、ドダイトスは数歩後ろに下がり、一気に扉へ向かって突進した。彼がぶつかるとともに扉が開き、部屋の全貌が明らかになった。
 その部屋は、以前スイクンが教えてくれた造りそのものだった。壁や床の所々に穴が開いていて、他には階段が1つあるくらいでほとんど何もない広い部屋。まさしく、ここは勾玉を納める部屋であった。

『ここが、スイクンが言ってた部屋……』

 4人は部屋全体を見渡す。何もないのだが、逆にそれが彼らを緊張させていく。

「よし、水の勾玉、探そう!」
『おっけー!』

 ヒトカゲ達は一気に散らばり、各々勾玉を探し始めた。ちなみに階段を下るといくつもの部屋があり、その階の下も同じような構造となっていて、地下5階まで存在する。勾玉を探すのは骨である。


 1時間後、4人は一旦元の部屋に集まった。地下3階まで調べたようだが、勾玉は見つからなかったようだ。

「これだけ探しても出てこないなんて、どこにあるんだろう」

 ヒトカゲはため息をつき、休憩するためにその場に座ろうとした時、どこからか足音のようなものが聞こえてきた。ヒトカゲ達は身構える。
 だが、どういうわけかドダイトスだけは攻撃態勢に入らない。それどころか緊張感すら感じられない。不思議に思っていたが、その答えは彼らが足音の主を見るとすぐにわかった。

『えっ、バンギラス、なんで!?』
「よっ!」

 そこにいたのは、アスル島にいるはずのないバンギラスであった。ドダイトス以外のみんなは驚きながらバンギラスの元へ駆け寄っていった。

「私が来いって言ったのだ」

 彼をアスル島へ呼んだのはドダイトスであった。いつ呼び出したんだろうと余計に驚く3人をよそに、ドダイトスとバンギラスはアイコンタクトをとる。

「詳しい事は後で話すからよ。それより、勾玉は見つかったのか?」

 いつもより少し硬い表情のバンギラスが尋ねるが、ヒトカゲ達は黙ったまま首を振った。それを聞くと彼は笑みを浮かべながら「大丈夫だ」と励ました。

「俺も手伝うからよ、一緒に探すぞ」
「いいの?」
「当たり前だ。俺はお前のためならいくらでも協力するって、前に言っただろ?」

 遠慮がちにしているヒトカゲにとって、今のバンギラス相当頼もしい存在に見えている。そんな彼の姿を、目を輝かせながら見ていた。

「それじゃ、お願い。僕は地下4階見てくるよ」

 口調は変わらずともどこかいつもと違う雰囲気を出しているヒトカゲは、バンギラスに頭を下げるとすぐに階段を下りていった。その様子に気づいた彼は、この旅の道中で何かあったのかと心配になる。

「なぁ、あいつどうかしたのか?」
「たぶん……思い込んでるんだと思う。『もう終わりが近づいてる』ってことを」
「終わり?」
「旅が終わりに近づいている今、おそらく自分の記憶が戻る。そしたら俺達と離れ離れになるとでも直感的に思っているんだろう」

 みんなは悲しそうな目でヒトカゲが歩いて行った方を見ていた。今まで考えてもみなかった事が現実味を帯びてきている。別れを覚悟しなければならないのかとふと思ってしまったようだ。

「……って、今はそんな事考えてる暇はねぇ。早いとこ勾玉を探そうぜ!」
『わかった!』

 バンギラスの一声でみんなは勾玉探しを再開した。今大事な事は水の勾玉を早く探すこと。みんなはそれだけに集中しようと気持ちを入れ替えた。


 それからさらに1時間後、すっかり夜になってしまった。ヒトカゲ達はアルギロ神殿を一旦離れて暗くなった外に出た。

『はぁ~、ない……』

 全員がため息をついている。バンギラスも加わった5人でしらみつぶしに探したのだが、結局水の勾玉が見つけることができなかったのだ。

「どうしてないのかな。ワニノコは嘘つくようなポケモンじゃないし……」

 ヒトカゲは芝生に寝転がり、空を見ながら考えた。確かにワニノコはここで勾玉を見かけたという。それが嘘でないなら、考えられる原因はただ1つ。誰かが勾玉を持ち出したとしか考えられない。

「ごめんな、俺の住んでる島なのに何もわからなくて」

 ゼニガメが少し責任を感じたのか謝ってきたが、彼のせいではないとみんなが慰めた。とはいえ、疲れも相まってみんなは再びため息をついた。

「あと1つなのになー」
「あと1つなの?」

 バンギラスが嘆いていたところに、ヒトカゲ達以外の誰かが入り込んできた。その声はバンギラス以外のみんなが1度は聞いたことのある声。声のした方を全員がばっと振り向くと、奴らがいた。

『……どうしてここに!?』

 目の前にいたのは、今1番会いたくない奴ら――カイリューとブラッキーだ。今絡まれてしまっては厄介だと思ったのか、ヒトカゲ達はカイリュー達と逆方向へ逃げようと走り出した。
 だが、逆側からも2匹のポケモンが行く手を阻んだ。1匹は既に顔を合わせているプテラ。もう1匹は、何故この場にいるのか全く理解できないポケモンだった。

「な、何で、兄さんが!」

 ゼニガメが声を上げる。彼の目の前にいるのが、自分の兄・カメックスだとわかると旋律が襲った。彼だけではない、ヒトカゲ達全員がこの場にカメックスがいることに驚いている。
 理由はどうであれ、プテラと一緒にいるということはそんなによい状況ではないと察し、警戒しながら後ずさりをしていった。これでカイリュー達に完全に挟みうちされてしまった。カメックス以外は不敵な笑みを浮かべてヒトカゲ達を見ている。

(やはりか……)

 その中でも、ドダイトスとバンギラスは至って冷静でいた。ここにカイリュー達が来ると予測していたのだろう。

「それで、何の用?」

 カイリューに向かってヒトカゲが睨みながら言った。しばらくして彼から答えが返ってきたが、「どうせ自分達を殺しに来た」と思っていたヒトカゲ達にとって、その答えは想像してないものであった。

「ヒトカゲ。君の持ってる勾玉、こっちによこしてもらおうかな♪」

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