輝きの探険隊童話「ユズずきんとキラリずきん」

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作者:草猫
読了時間目安:31分
※この作品は拙作「ポケモン輝きの探検隊 〜太陽の奇跡〜」準拠の短編となっています。 話を追っていればもちろん、話を追いきれてなくともキャラが分かれば読めるようなお話になっています(拙作の登場キャラ欄に飛べば全員分見られます)。
 キャラ数が多いので非推奨ではありますが、種族名も文中に記載しているので、なんなら完全初見でも理解はできるのではと思います。

 なお、登場ポケモンの立場や関係性など、輝きの探険隊本編と異なる部分が多くあります。 ご了承ください。
 また6時間で一気に書いた短編(見直しは一応したけど)ですので文章ところどころ頭溶けているかもしれません。 あとは見ての通り赤ずきんが元ネタですがオリジナル要素強めです。

 それでもよければお楽しみくだされば幸いです。

 
 これはむかーしむかしのお話。

 「ユズずきん〜」
 「はーい!」

 小さな森の一軒家。 そこに、「ユズずきん」と呼ばれる女の子のチコリータが住んでいました。 彼女はいつも可愛らしい空色の頭巾をつけていて、その頭巾のように優しく素直な心の持ち主でした。
 ......ちなみに本名はその呼び名とは違うのですが、正直誰も呼ばないので言う必要も無いでしょう。 その家には大きな柚子の木があって、彼女が日々せっせこ実を収穫したことでいつしかその香りがひっついたことがそのあだ名の由来だとか。
 彼女は頭巾からはみ出た葉っぱをゆらゆら揺らしながら、その呼ばれた声の主の元へ向かいます。
 
 「おお素早い、さすがユズずきん!」
 「何、アカガネママさんとレオンパパさん」
 「いや〜、すまん。 ちょっとお願いがあってな」

 そう言って頭を掻くのはレオンパパことゴルダックのレオン。 どう見ても実の親には見えませんが、色々な事情の末ユズずきんを養子にとって育てているのです。
 でも、それでも心は完全に父親そのもの。 彼はどこかユズずきんを心配しているような困り顔をしていました。 そしてそれはどうしてかというと。

 「実は少し離れたところの俺の遠縁の家に、キラリずきんっていうチラーミィがいるんだ。 桜色の頭巾を被った、お前と同い年の女の子」
 「えっ......そうなの?」
 「ああ。 いつもはこっちもあっちも仕事とか忙しいし、中々言う暇もなかったんだけどな。 会いに行った時はびっくりしたさ。 あっちも可愛い頭巾被ってて。 性格的にも、お前ら合いそうな気がするんだよな」
 「そうなんだ......」
 
 ユズずきんはまだ見たこともないキラリずきんのことを想像し、心をときめかせます。 それもそのはず、ここに越してからというもの、彼女の引っ込み思案な性格やこの家自体の立地が辺鄙過ぎるのも災いして、中々同年代の友達を作れなかったのです。
 もし、その子と友達になれたなら。 ユズずきんの中に、そんな小さな願いが芽生えます。

 「......で、いいかユズずきん。 こっからが本題なんだが」
 「うん?」
 「実は、そいつが流行り風邪にかかっちまったんだ。 それに加えてあいつの両親が今日どうしても外せない仕事があるらしくて。 だからこっちがどうにか見舞いに行って看病してあげたいと思ってるんだが、俺もアカガネもまだ仕事が立て込んでてな......てなわけで、1つお使いだ。 おーい、アカガネ!」
 「はーい!」

 レオンパパの掛け声と同時に、アカガネママことマフォクシーのアカガネが台所からバスケットを持って現れます。 そのバスケットからは、熱々な甘い香りが漂っていました。

 「アカガネママさん、これは?」
 「激甘モモンタルト。 キラリずきんがとーーーっても好きなスイーツなんだ。 これをあの子に届けてきて欲しいの。 ちょっと遠いけど、お願いできる?」
 「......!」

 その時、ユズずきんの葉っぱは素直にぴんと立ちあがりました。
 もしかしたら、お見舞いを機に友達になれるかもしれない。 遠いなんてネガティブな言葉は、耳を右から左へすり抜けていってしまいました。 こんな素敵なお使い、受けないわけがありません。

 「もちろん、任せてください!」
 「ありがとう! じゃあこのタルトを持っていってあげてね。 あとこれは地図のメモ。 それと......」

 するとレオンパパとアカガネママは、顔を見合わせた後、とても真剣な顔で言いました。

 『いい? ユズずきん。 <オオカミ>には、くれぐれも気をつけること!』
 「......うん!」

 ユズずきんは息を呑みます。
 <オオカミ>とは、最近話題になっている犯罪集団のこと。 ポケモンを襲い倒した上でその家の財産を奪うという、非常に悪質な手口を好みます。 できれば出会いたくない相手です。
 でも、それがいなくとも家の外の森は危険がいっぱいです。 例え注意されずとも気をつける気でいました。 ユズずきんは頭巾のリボンをぎゅっと引き締めて、準備に臨みます。

 さあ、注意喚起も済んだところで。
 身なりを整え、もしもの時の色々な道具も常備して。

 「いってらっしゃーい!」
 「気をつけろよ!」
 「はーい、行ってきます!」

 ......さあいざ、出発です!












 「えーと、この道だよね......」

 基本寄り道をしなければ大丈夫。 レオンパパ達のその言葉に従い、ユズずきんは道なりに進んでいきます。
 ですが、実は彼女にはこれがこの地に越してきてから初めての遠出なのです。 そんな彼女にとっては目に映るもの全てが新鮮で、木々から溢れる木漏れ日も相まってキラキラ輝いていました。
 葉っぱも、雑草も、快晴の空も、道端の水たまりも。

 ......そして。

 「......凄い、こんなところあったんだ......!」

 道を歩くユズずきんの足を引き止めたのは、道の脇に広がる一面桃と紫色の花畑でした。
 暫くその景色に見入った後、ユズずきんには1つの案が浮かびます。

 「......花束でも持っていけば、喜ぶかな」

 そう思った時点で、そして言葉として漏らした時点で、気持ちはもう決まっていました。 少しだけ道を逸れて、花を摘んでいこうとします。 すると。

 「君、この辺の子かい?」
 「ひゃっ!?」

 唐突に、横から声をかけられてしまいました。 がばっと少し遠のいてその声の主を見つめます。 そこにいたのは、白い色合いをしていてふわふわな毛並みがお似合いな、小さなロコンの少年でした。

 「あっ、えっと、そうです......」
 「奇遇だね、僕もなんだよ。 それとあともう1匹。 ......おーい、イリータ!」

 ロコンは後ろに振り向き、そのもう1匹の子を呼び寄せます。 しかし、ユズずきんにはその子がどこにいるか一瞬わかりませんでした。 でもそれもそのはず。 その子は、薄桃色と薄緑色のパステルカラーというまさにこの花畑にぴったりな色合いをしていたからです。
 イリータと呼ばれた、虹色の立髪を持つポニータ。 遠くから走って近づいてくるその姿は、どこか妖精のようにも思えました。

 「何よオロル、いきなり大声で呼んだりして。 私は花冠を作るからって言ったでしょ? それにこの子は誰なのよ、知らない子ね」
 「まあまあいいじゃん。 この子近くに住んでるんだって。 見たところ同い年っぽいし、友達増やすのもありかもよ?」
 「何故? 私は無闇やたらにそういう相手を増やす気は無いのよ。 それも、こんな芯の弱そうな......」
 「......花冠」
 「え?」

 どうやら、ユズずきんの心はその悪態には何のダメージも受けないようで。 その目線は、イリータの背中の上にある作りかけの花冠に注がれていました。

 「......何よ、じろじろと」
 「あっ、ごめんなさい! ......その、花冠も、いいかなって思って」
 「どういうこと?」
 「実はかくかくしかじかで」

 ユズずきんは事情を話します。ツンケンとした態度をとるイリータも、こればかりは真面目に聞いてくれました。
 すると、さっきオロルと呼ばれていたロコンが「君は幸運だね」と言います。

 「え?」
 「イリータ、花冠を作るの上手なんだよ。 お父さんが植物学者だからか、花にも色々詳しいし。 良かったら教わってみたら? ただの花束あげるよりもっと喜ぶと思うよ」
 「......そうか!」

 ユズずきんははっとしました。 キラリずきんは桜色の頭巾を被っていると聞きます。 今イリータが持っているような桃と紫の花冠は、きっと彼女にとてもよく似合うことでしょう。

 「......仕方ないわね」

 今しがた病気にかかっているポケモンへのお見舞い。 その言葉に何かを感じたのか、イリータも溜息をつきながら了承します。

 「いいわ、ついてきなさい。 こっちの方が花が大きいのよ。 言っておくけど、手取り足取り教えたりはしないわよ」
 「......うん!」

 そこから、暫しの間ユズずきんと花冠作りとの格闘が始まりました。












 「......いけない、ちょっと時間かかっちゃったな......」

 ユズずきんは出来上がった花冠をバスケットに一緒に入れて、メモに書かれた道を走っていきます。
 あの後慣れないことに苦戦しながらも、ユズずきんは見事花冠を完成させることが出来ました。 それはイリータのものと比べれば少々へこたれた出来ではありましたが、オロルは初めてにしては上々だと太鼓判を押してくれました。 そしてイリータも、悪くはないと言わんばかりに小さく微笑んでくれました。
 花畑で暇を潰すことが多いのだというあの2匹。 今度はキラリずきんも連れて行けたら......そう夢想しながら、ユズずきんは道を駆けます。
 そうして暫く走っていると、やっとこさ彼女はキラリずきんの住む森の入口までたどり着くことが出来ました。
 ここまで来れば後少し。 バスケットを揺らし過ぎない程度に、ユズずきんは走るスピードを上げようとしますが......

 「待て」

 次にユズずきんの足を引き止めたのは、悠然と広がる景色ではなく、どこか物騒な低い声でした。
 少し高いところから聞こえたような、そう感じた彼女は思わず枝の広がる林冠を見上げます。 すると案の定、少し太い1本の枝の上に1匹のジュナイパーが立っていました。 その翼には、1本の矢羽根が構えられていまs。

 「なんですか?」
 「貴様、この森の住民ではないな?」
 「そうですけど、何か」
 「......疾く去れ。 この森に入るんじゃない」
 「ええっ!?」

 ユズずきんは驚きます。 折角アカガネママ達がタルトを持たせてくれて、イリータ達の協力のもとで花冠も作って、そしてここまで歩いてきたというのに。 これでは全部無駄になってしまうではありませんか。
 当然、簡単には引き下がれません。 ユズずきんは理由を問います。

 「どうしてですか!? 私、ポケモンのお見舞いをしたいだけで」
 「......最近、この森に<オオカミ>が出るという情報がある。 1匹でいるポケモンを打ちのめし、財産を奪っていく悪質な連中......貴様がそのうちの1匹かもしれない以上、通すわけにはいかない」
 「!!」

 レオンパパ達の口から出てきた言葉が、今度は知らないポケモンの口から発せられます。 この森がそれの被害を受けているという事実はユズずきんの中に微かな引っかかりを呼びます。
 ......でも、今は。 今の彼女にとっては、ここを通してもらうことの方が何より大切でした。 そしてそのためには、示さなければなりません。 自分が無害な存在であると。 ただポケモンの見舞いに来ただけなのだと。

 「そりゃ、<オオカミ>のことは知ってます。 でも私は......!」
 「五月蠅い!」

 ──その時、ユズずきんの隣の地面に矢が突き刺さりました。 身体には刺さっていないものの、矢が刺さった地面から足に痺れるような感覚が伝います。
 それと同時に、ジュナイパーは木の上から降りたち、ユズずきんの前に立ちはだかりました。

 「......どうして、そんなに引き止めるんですか」
 「森の中のポケモンを傷つけるかもしれない危険因子を逃がせると思うか?」
 「......じゃあ、これならどうですか!?」

 ユズずきんはそのジュナイパーに近づき、バスケットの中身を見せます。 愛情のこもったタルトに、一生懸命作った花冠。 これらを見せれば、彼も少しは意見を変えてくれると期待したからです。
 ......それに、根底にある気持ちは、きっと似ている。 ユズずきんはそう思っていたのです。

 「......何の真似だ?」
 「そんなに言うってことは、あなたは、森の中のポケモンを守りたいんですよね?」
 「それが何だ」
 「私も、風邪を引いてしまったポケモンに元気をあげたいんです。 もしかしたら、1匹で心細い思いをしているかもしれない。 私は、そんなあの子の心を守ってあげたいんです」
 「......」
 「お願いです。 なんなら見張ってくれても構いません。 どうか、行かせてくれませんか?」

 ユズずきんの真っ直ぐな言葉に、ジュナイパーの目線が揺れます。 彼女は頼む、通ってくれ──と、強く強く願いました。

 「......しかし」

 ですが、まだ完全には折れないようです。 ユズずきんは尚諦めず、説得を続けようとしますが──

 「ジュリ、通してあげては?」
 「っ!」

 そこに訪れたのは、1匹のインテレオン。 どうやらこのジュナイパーの名前はジュリというようです。 ジュリはインテレオンの方を睨みつけ、悪態をつきました。

 「......貴様、何のつもりだ?」
 「こんなに頼み込んでいるではありませんか。 見張りなら私がやりますから、ほら」
 「......勝手にしろ」

 ふいとそっぽを向くジュリを差し置いて、インテレオンが自己紹介。 手を胸に当てて微笑む様子は、どこかの紳士のようでした。

 「初めまして、小さなポケモンさん。 私はケイジュと申します。 先ほどはすいませんでした。 私達、この森の番をしているんですよ。 だから別に特別貴方に悪意を抱いているわけではない。 奴の警戒心が強過ぎるだけで」
 「......やっぱり、そうだったんだ」
 「まあ帰る時にでも謝らせればいいでしょう。 それはさておき参りますか。 そういえば、そのお見舞い先の家は何処でしょうか?」
 「えっ、送ってくれるんですか?」
 「まあ、見張りもありますから......」

 そう言って自然に微笑んでくれるケイジュは、見張り役とはいえユズずきんにとってはとても心強い存在に思えました。
 さあ。 アカガネママから受け取ったメモを頼りにしながら、最後の一踏ん張りです。

 「えっと、まずこのまま進んで......」










 「......ふーん今日のターゲットはここか、しけた家だな」
 「フィニ、声がでかいぞ」
 「大人はいないみたいじゃからな、かわいいチラーミィ1匹だけじゃ。 それも風邪かのう、寝込んでおる」

 静かな森。 丁度ユズずきんの目的地であるキラリずきんの家の前の茂みに隠れる3つの影。
 それは、<オオカミ>──の着ぐるみを被った、ドリュウズとピカチュウとジジーロンでした。 フィニと呼ばれたドリュウズが「ならさっさと突撃しようぜ」と言うのですが。

 「それだと逃がすかもしれんぞ? 風邪で弱っているとはいえ、チラーミィって素早いっていうし」
 「ラケナ......じゃあどうすんだよ」
 「だからこそのヨヒラちゃんのこの衣装なんじゃよ!」

 するとラケナと呼ばれたジジーロンは、ヨヒラと呼ばれたピカチュウの前に躍り出て、しゅばしゅばばと服を着替えさせました。
 数秒後、2匹の前に現れたのは......なんと、紺色の頭巾を被ったなんとも可愛らしい出で立ちのピカチュウ。

 「......は?」

 獲物倒して物盗むっていう目的、どこいった──?
 混乱するフィニを横目にして、ラケナは嬉々とした表情で作戦名を発表しました。

 「題して、『油断させてなんかいい感じに襲ってがぶりんちょ計画』じゃ!」
 「......は??????」
 「......つくづく物分かりが悪いな。 ラケナ、つまりはこういうことだろう? 私がターゲットのチラーミィを見舞いに来たフリをして、油断させた隙を突いて襲う」
 「そゆことじゃ!」
 「お前はなんでわかるんだよ......」

 フィニはげっそり困り顔。 ですが、「まあやるしかねぇか」と観念し、獲物の住む家の方を見つめます。 そしてそれは、ラケナとヨヒラも。

 「......さあて。 今どきもう、1匹で家を襲うなんて考えは古い。 時代は複数。 獲物は、確実に仕留めるんじゃ」

 そう言って、ラケナは悪どい笑みを溢しました。












 「うーげっほげっほ、参ったなぁ、風邪引いちゃうなんて......こんないい天気なのに」

 外では物騒な会話が繰り広げられているのもつゆ知らず。 キラリずきんは藁布団と毛布にくるまりけほけほと咳を漏らしていました。 お守りと言わんばかりに桜色の頭巾をつけていますが、正直気休めにもなりません。 見上げればそこにあるのは天井の木目だけ。 退屈に退屈をかけたような時間ばかりがゆっくりと流れていました。
 寝ればすぐに時間は過ぎてしまうでしょうが、それでも、どうしても寝られない理由が彼女にはありました。

 「......今まで勇気出なかったけど、今回こそは『あの子』に会えたらって、思ったんだけどな......そしたら、色々......」

 うるりと、目に涙が滲みます。 そう、咳がある時は当然無理だし、それが少し治っても今度は涙が溢れてしまって、中々しっかり寝ることが出来なかったのです。
 天気予報や自分の運勢と睨めっこして、今日ならばと思っていたのに。 折角勇気を振り絞ろうとしたのに。 ......まさか、風邪をひいて外にすら出られないなんて。
 何が今日の運勢は大吉だと、キラリずきんは藁に頭を埋めます。

 「......ぐれた、もう寝てやる......」

 静かな室内には、それはぐれたとは言わないのではないかというツッコミすら聞こえません。 空虚な時の流れの中でキラリずきんが目を閉じようとした、そんな時でした。

 チリンチリン。

 「ん......」

 呼び鈴の音に、キラリずきんは重い身体を奮い立たせて起き上がります。 頑張って玄関まで出向いて、そしてドアを開けてみると。

 「......ふえ?」
 「こ、こんにちは」

 そこには、紺色の頭巾を被ったヨヒラの姿。 キラリずきんはぽかんとした表情で彼女を見つめます。 ちなみに他の2匹は茂みの中でスタンバイ。

 (ここでバレたら突っ込む......ここでバレたら突っ込む......!!)

 特にこの作戦をそんなに信用していなかったフィニは、いつでも動けるように足に力を入れ続けていました。

 「......も」
 (も???)

 この後の言葉によって、全てが決まる! そう思い、フィニはまさにクイズ王さながらの構えを、
 ......取ったのですが。

 「もしかして、あなたがユズずきん!? 確かにユズっぽい身体の色だし......そっか!ようこそ!!」
 「えっ、あっ、ああ......」
 (うおおおなんかよくわかんねぇけど通った!!!!)
 「フィニ、なんでずっこけてるんじゃ?」
 「うっせえ!!(小声)」

 どうやら、キラリずきんはユズずきんの情報をあまり知っていなかった様子。 相手が偽物とも分からないキラリずきんは、さっきまでの身体の重さが嘘のように跳ねながらヨヒラを家へと招きます。

 「えっと、初めまして! 私キラリずきん! おじさんから聞いたけど、同い年なんだよね! いやあ、同い年の友達いなかったからうれしげっほげほ」
 「......寝なくていいのか」
 「あっそうだね!風邪だもんね! あははは!あはははっははははっははははは!!」

 熱のせいでしょうか、ヨヒラの目がどことなく引いているのにはキラリずきんは気づいていませんでした。 そしてそのまま藁布団まで戻り、自身はそこに潜ります。
 作戦は順調。 フィニ達もそそくさと彼女の寝室の窓の前へと移動します。 ヨヒラが合図さえすれば、いつでも襲うことができるでしょう。
 ......ですが、ここであまりにも順調だからこその小さな苦難が。

 「ありがとうね、ユズずきん。 お見舞いに来てくれるなんて思わなかったよ」
 「......いや、通りかかったってだけで」
 「それでも凄い嬉しいよ......! 実はなんだけど、今日とかあなたに会いに行きたいなって思ってて。 でも風邪引いちゃったわけだし、ああ今回も無理かぁって、さっきちょっと泣いちゃってて......」
 「えっ」
 「でも、その涙とももうおさらば! ユズずきん、その1個お願いがあるんだけど......」

 ......これはまずい。 ヨヒラは直感的にそう思いました。
 彼女も一応ポケモンです。 このまま友達オーラを出し続けられると、罪悪感というか、なんとも言えない感情というか......。
 とにかく、強盗という意味では絶対に不要な感情が胸の中に古来してしまったからです。

 自然でなくとももう仕方ない。 ヨヒラは仕掛けます。

 「......待って、キラリずきん」
 「ん? どうしたの?」
 「私が来た理由は、実はお見舞いじゃないんだ」
 「え? どういう──」
 「そもそも、私はユズずきんなどではない」
 「ええっ!?」

 彼女はその場から立ち上がって、その頭から頭巾を取ります。
 呆気にとられて動けないキラリを、勝ち誇ったような目で見下ろしました。

 「そいつが誰だか知らないが、もし本物が来たらそいつは泣いてお前のことを責めるだろうな。 薄情者と。 ......なんて。 安心しろ。 そんなこと起こらないように、すぐ事を済ませてやる」
 「......事?」
 「ああ」

 そして、その右手を挙げれば。

 「──答えは1つ!!」

 ──バリンと、窓のガラスを割って。
 窓から現れたフィニとラケナ、そして至近距離にいたヨヒラが、


 「「「......お前を倒して、この家の全部を頂くためだよ!!!」」」
 「──っ!?」


 あまりにも無防備なキラリの元に、<オオカミ>が襲いかかってきました。













 その時、ユズずきんがぴたりと立ち止まります。 その顔は、どこか険しいものに変わりました。
 まるで、頭の葉っぱのアンテナが何か良くない気配を感じ取ったかのように。

 「......っ!?」

 ケイジュが「どうしましたか?」と心配しますが、その声は届いていません。 彼女の表情は酷く強張っていました。

 レオンパパ達にあれだけ注意された、<オオカミ>とやらのこと。
 そして、ジュリが言っていた、それによる被害がこの森の中で拡大しているという事実。
 そんな中、1匹きりでいるというキラリずきん。
 そして、今しがた感じた謎の違和感。

 何の根拠もありません。 ですが、ユズずきんの中で点と点が不自然にも繋がっていきます。
 ......こんなの、どうして、動かずにいられるでしょう。

 「......まさか!!」
 「あっ、ちょっと!?」

 悪い予感は、よく当たるといいます。 ユズずきんはそれを信じることにしました。
 レオンパパは言いました。 2匹は気が合うかもしれないと。 どちらも色は違えど同じような色の頭巾を被っていると。
 これぞまさに運命。 彼がそんなことを言うのなら、きっとあちらの危機をこちらが感じ取ったといってもなんらおかしくはないはずでした。

 「急がなきゃ......!!」










 「あわわわ!?!?」

 火事場の馬鹿力とでもいうのでしょうか。 キラリずきんの身体はやけによく動きます。 小さく身軽な身体を生かして、ひらりひらりと3匹の重い攻撃をかわし続けます。 家の中を荒らされてはたまらないと、自分から外に出て相手の狙いを家から逸らすことも出来ました。 でも、3対1では流石に限界はくるもの。 この攻撃を永遠に避けられ続けるわけがありません。
 そして、1つ絶対に忘れてはいけないことが。 キラリずきんは、元々体調を崩しているのです。

 「......うあっ」

 突然、くらっと揺れる彼女の視界。 そこに、フィニが「もらった!」とメタルクローで上から攻撃を加えようとします。

 「まずいっ......!?」

 もう、これはダメかもしれない──キラリは覚悟して目を閉じます。

 しかし、その時でした。

 「駄目ーーー!!! [はっぱカッター]!!」
 「うぐっ!?」
 「!?」

 フィニの爪に、鋭い葉っぱの刃がクリーンヒットします。 キラリずきんは呆然と痛みに悶えるフィニの方を見つめ、そして次に。

 「......えっ......」
 「......間に合った!」

 空色の頭巾を被った、勇敢なチコリータの少女の方に、彼女の視線は移りました。
 ......そう、無事間に合ったのです。 ユズずきんは安心で胸を撫で下ろします。

 「ひょっ......1匹だけじゃなかったのかい」
 「......1匹で寝ているところを襲うなんて、卑怯だよ!」

 怒りを露わにしてユズずきんは相手に向き合い、そして光を溜め込む体勢をとりました。 一撃で3匹全員を飛ばせる手段は、彼女には1つしかありません。 この1撃に、全てを賭けるつもりでいました。
 ─一丁度、夕暮れも近い時間になってきました。 光を集めるには、まだ間に合います。

 「もしかして......」

 そして、キラリずきんも彼女の目的を察し、表情を引き締めます。

 「これは......!」
 「妨害を──」
 「させないよ!!」

 妨害を挟もうとするヨヒラ達を、今度はキラリずきんが遠くからスピードスターで食い止めました。 「騙したの、許さないからね!」とも付け加えながら。
 不思議なことです。 本当に出会ったばかりのはずなのに、2匹の連携は初対面とは思えないほど完成されていました。
 ......そして。

 「──終わりだよ」

 ユズずきんのその言葉は、<オオカミ>達にとっては静かな終わりの宣告。 ヒヤリとする寒さを感じた時には、もう全てが遅すぎました。
 そして、光に吹っ飛ばされる直前。 彼らは思ったのです。

 「[てだすけ]!!」
 「[ソーラービーム]!!」

 狼は、常に群れを成し、協力して狩りをするといいます。
 そういう意味では、彼らの方が、よっぽど強く、気高い──












 

 ──光が止み、森に静寂が戻ります。 すると体調不良だったのを今の今まで忘れさせられていたかわいそうなキラリずきんは、その場にへなへなと座り込んでしまいました。

 「──キラリずきん!」

 ユズずきんは慌てて彼女の元に駆け寄ります。 その身体をよいしょと支えてやると、ぼうっとした顔からうわ言のような声が返ってきました。

 「......柚子の香り......そっか、そういうことか」
 「え?」
 「ねぇ、もしかして、あなたが本物のユズずきん?」
 「う、うん。 私、レオンパパさん達の代わりにあなたのお見舞いに......あの、これ」

 ユズずきんは近くに置いておいたバスケットを持ってきて、キラリずきんにその中身を見せてやります。 すると、その目がキラキラと輝き出しました。

 「......モモンのタルトだ!」
 「うん、アカガネママさんが作ってくれて......」
 「へえ......! そうだ、一緒に住んでるんだよね、そうだ、おじさんとか元気にやってる?」
 「うん、仕事忙しそうだけど......」
 「そっかぁ......」

 ......その後、2匹は暫し黙りこくってしまいました。 彼女らは元々どちらも引っ込み思案な性格なのです。 話題がなかなか持ち出せないとなると、話す勇気なんて湧いてきませんでした。
 果たしてここからどうすればいいのか。 ユズずきんが辺りを見回して、そのきっかけを探すと。
 それは、案外近くに転がっていました。

 (......あ)

 バスケットの中にある、もう1つの大切な物。 イリータ達に教わりながら、一生懸命作った花冠。 キラリずきんの心を開くための鍵として、これ以上に適切なものが何処にあるというのでしょう?
 取る選択肢はもうわかりきっています。 ユズずきんは花冠をキラリずきんにそっと手渡しました。

 「......あの、キラリずきん、これ」
 「えっ......これ、花冠!?」
 「その、行きがてらに花畑があって、そこで作って......あの、その」

 ユズずきんは、きゅっと口を噛み締めました。 花冠がくれた勇気を無駄にはしまいと、ありったけの心を、小さなしどろもどろの声に込めようとします。

 「お近づきの印に......じゃないな、その......友達に、なりたくて」
 「......!」

 そして、その勇気のかいもあり言葉は出てきました。 少し不格好な体ではありますが、だからこそのユズずきんらしさがそこにはありました。
 「自分のものじゃないみたいに言葉が自然に出てくる」という言葉がありますが、この言葉はそれとは正反対でした。

 「......私も!」

 そして、その勇気はまた他の者を勇気づけます。 今回の場合は、キラリずきんがそうでした。 彼女は「ちょっと来て!」と言ってユズずきんを家の中へ、そして自分の机の引き出しの前へと連れていきます。

 「えーっと、あった!」

 引き出しの中を物色して、何やら取りだします。 その後両手を後ろに隠して、はにかんだ表情で彼女は続けました。

 「......あの、ユズずきん。 1つ、お願いしたいことがあります」
 「え?」 
 「......私こそ、お友達になってください! あと、お友達の印にこのブローチつけてくれたら嬉しいです!」
 「!!」

 そう言って両手を差し出すキラリずきん。 その手には、2つのかわいらしい花のブローチが握られていました。 それも、桜色と空色──丁度、2匹の頭巾の色です。
 ユズずきんは少しぽかんとそれを見つめましたが、その表情はすぐに笑顔に変わりました。 その表情はキラリの申し出を受け入れるでも、ましてや断るでもなく。


 「──キラリずきん。 願い、2つになってない?」
 「......あっ」


 もう友達なのだと、肯定するかのように。










 「......ふふっ」

 2匹は同時に小さく笑います。 2つの頭巾が一緒に並ぶ様子は、既に仲良しな友達そのものでした。

 「......もちろん! よろしくね、キラリずきん!」
 「うん、ユズずきん!」

 2匹はにこりと微笑みあい、友達としての誓いの言葉を交わします。
 ですがこれで全てが終わりなわけでもなく。 さっき置いていってしまったケイジュが、ユズずきん達の元に駆け寄ってきました。

 「おーい、ユズずきんさん! 平気ですか!」
 「あっ、ケイジュさん。 大丈夫ですよー!」
 「......そうだ、あの3匹どうしよう」

 キラリずきん達はさっき吹っ飛んでいった3匹を探しますが、逃げられてしまったのかどこにも見当たりません。 どうやら、2匹の小さな戦いの終着点はあとちょっとだけ先の様子。
 気づけばそんな彼女らを今日1日見守ってきた太陽も、そろそろ眠りにつく時間になっていました。
 
 その夜、ユズずきんはキラリずきんの家にお泊まり。 互いに話に花を咲かせ、友達1日目の夜はそれはもう和やかに更けていきました。
 ......そうそう、キラリずきんが分けてくれたモモンのタルトを食べたユズずきんは、「あっっっまあああ!?」と口からビームを出すかのような大声を森中に響かせたのだとか。
 













 そして、2匹は森中でも1番ともいえるほどの親友になりました。 時にはイリータ達とも一緒に遊び、ケイジュ達とも時に話して。 <オオカミ>がリベンジに来ては撃退して。
 そんな彼女達の周りは、常に笑顔で溢れていました。

 その2匹の頭には、色違いの頭巾と花のブローチ。 いつしか彼女らは、笑顔と幸運を呼ぶ頭巾娘とも呼ばれるようになっていきましたとさ。


 めでたしめでたし......。

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