ぽけもんくらふとけいかく!

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作者:ぴかちう
読了時間目安:8分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


 ♪

 ぽけもん つくろ なにつくろ

 たのしい たのしい もりのなか

 むしさん ちょんぎって つくろかな








 鬱蒼とした森の中、愉しげな歌を歌っているのは子供3人。青い帽子を被った少年と、鼻に絆創膏をつけた少年、そして三つ編みをした少女。皆5歳くらいだ。
 帽子少年の右手にはキャタピーの触覚、左手にはビードルの角が握られている。それぞれ触覚と角をちぎり取られた虫ポケモンたちは、少年たちの近くの地面に無惨に転がっていた。それをものともせず、キャッキャキャッキャとはしゃいでいる子供たち。

 時は数週間前に遡る。いつもの公園に集まり、なにか話し合いをしている子供3人。帽子少年が公園の土管の上に仁王立ちし、残り2人を見下ろしている。そして、「ぽけもんくらふとけいかくをじっこうする!」と言い放った。
 キョトンとした顔をし「ぽけもんくらふとけいかく?」と繰り返し、首を傾げる2人。それに対し帽子少年は、「さいきょうのぽけもんをつくるんだ!」と意気込んだ。帽子少年が言うには、ポケモンとポケモンを継ぎ接ぎし、最強のポケモンを作る計画を実行するらしい。近頃、子供たちの間では人造ポケモン“ミュウツー”の噂でもちきりであり、彼がこの計画を実行しようとしているのも、この噂の影響だろう。ミュウツーは人の手により作られた“最強のポケモン”と言われており、そんな魅力的な話に子供たちの心が鷲掴みにされるのは無理ないだろう。帽子少年もその1人だったわけだ。もっとも、彼は他に比べて行動力がある方ではあると思われるが。
 そんな彼の提案に、残りの子供2人は。絆創膏少年は食い気味に「かっけぇ!」と叫び声を上げ、興味津々のようだ。一方、三つ編み少女は「えぇー、ほんとうにわたしたちでつくれるの?」と、子供ながらに冷静な分析をしていた。それに対し「やってみなきゃわからないだろ!」と言う帽子少年。「たしかに……」と三つ編み少女も飲んだようだ。こうして、彼らの計画は実行されることになったのである。



 ♪

 ぽけもん つくろ なにつくろ

 きょうは おそらの とりさんの

 ひらひら おはねで つくろかな



 今日はとある大きな木の前。いつものように歌を歌いながら、手に何かを持って、子供たちがやってきた。それぞれ、帽子少年は木の実、絆創膏少年が虫取り網、三つ編み少女が甘い匂いが漂うシロップのようなものを持っている。今日の彼らはなにやら計画を立ててポケモンを捕まえようとしているらしい。帽子少年が持っていた色とりどりの木の実を、絆創膏少年が石で細かくくだく。そしてそれに三つ編み少女が持っていたシロップを塗りたくる。完成した甘い匂いのする木の実ペーストを彼らは木の上に設置する。彼らは頷きあい、設置した場所から離れた。離れたといってもそのすぐ近くの茂みに隠れ、設置した場所をじーっと見つめている。
 数分後。ぱたたたという音と共に、1匹の鳥ポケモンが彼らが作った“罠”の方へと寄ってきた。あれはポッポだ。子供たちが作った木の実ペーストを、美味しそうについばんでいる。そうしてポッポが油断している隙に。「今だ!」と帽子少年が掛け声をあげる。すかさず絆創膏少年が持っていた長い虫取り網でポッポを捕らえた。よし、と少年たちはガッツポーズをする。まずは1匹捕獲完了だ。
 そのあとも、何匹かポケモンは寄ってきて、それを彼らは捕まえた。ポッポの他に、オニスズメやマメパト、ココガラなどを捕まえたようだ。そして、捕まえて終わりではない。本題は“ぽけもんくらふとけいかく”だ。彼らは捕らえた鳥ポケモンたちの羽根を次々に引っこ抜いていく。ギャーッ、と鳥ポケモンたちのつんざくような悲鳴が聞こえるが、彼らはそんなことは気にせずにどんどん羽根を抜いていった。彼らがたくさんの羽根を抜き終わった頃には、用済みになった鳥ポケモンたちがゴロゴロと地面にころがっていた。



 ♪

 ぽけもん つくろ なにつくろ

 みずべで たくさん およいでる

 おさかなさんで つくろかな



 今日彼らが向かったのは水辺。そこにはたくさんの魚ポケモンたちがすいすいと泳いでいた。彼らは何かを取り出す。釣竿の釣り針を水の中に投げ入れる、などではなく、彼らは家からそれぞれ持ってきた洗剤を水の中にぶち込む。よほどたくさんの洗剤を用意してきたのか、どばばばとかなりの勢いで水の中に洗剤が入っていく。そして、水は汚染されていった。それに伴い、水の中にいた魚ポケモンたちが水の上から顔を出す。それをまた虫取り網で少年たちは捕まえていった。コイキングやトサキント、ドジョッチなどのポケモンを捕まえたようだ。そして、彼らは無慈悲に髭や角、尾ひれなどをむしり取っていく。今日も彼らが帰る頃には魚ポケモンたちの残酷な姿が虚しく地面に横たわっていた。



 ♪

 ぽけもん つくろ なにつくろ
 
 かわいい おはなの あるところ

 はっぱを ちぎって つくろかな



 今日は前に行った森の奥に進んだところにある花畑。彼らはまた何か計画を練ってきたようだ。帽子少年が小さい箱から先が赤い小さい棒を取り出し、箱に擦り付け、めらめらと燃える赤い火を起こした。そしてそれを花畑の真ん中へと放り投げる。火は瞬く間に花畑全体へと広がっていき、そこに居た草ポケモンたちがわあっとその場から逃げ出す。それを利用し彼らは草ポケモンたちを捕まえていった。ナゾノクサ、マダツボミ、ハネッコ、クルミル、チュリネなど、たくさんのポケモンを捕まえた。そして、それらの葉の部分を彼らはむしり取っていく。それはまるで、公園の雑草を抜くかのように。彼らが去る頃には、草ポケモンの無惨な姿が転がっている。今回はそれだけでなく、燃えた花畑もそのままであった。炎は花畑だけでなく、近くの木へも乗り移り、そのまま森全体へと広がっていった。



 ♪

 ぽけもん つくろ なにつくろ

 きょうは ぜんぶ がったいだ

 さいきょう ぽけもん つくるんだ



 いつもよりも力がこもった歌を歌い、彼らはいつもの公園へやってきた。ここ数日で集めた、ポケモンの身体の一部をそれぞれ取り出す。「これでさいきょうのぽけもんつくるぞ!」帽子少年が叫ぶ。「おおー!」と続く絆創膏少年。にこにこ微笑む三つ編み少女。彼らには慈悲は無かった。でも、彼らが残酷なのは無垢だからである。何も知らずに、ただ心に動かされるままに行動しているだけである。
 彼らはパーツを組み合わせ、ポケモンを作ろうとしている。が、どれももう既に生命は無い。接着剤でくっつく訳もなく、ぼとりと落ちてしまった。「あれ、おかしいなあ」帽子少年が嘆く。「やっぱりむりだったのかな」三つ編み少女がため息をついた。その時、彼らの後ろになにやら黒い影が現れた。その黒い影は彼らが広げている亡きポケモンの身体の一部から伸びている。影は子供たちが気付かぬ間にみるみるうちに大きくなり、そして。










 ぱくり。










 むしゃむしゃむしゃ。

 ばりばりばりばり。

 ごきっ、ごりゅっ。










 彼らを、幼き子供3人をまるまる飲み込んだ。少年の帽子だけがぽつんと残されていた。










 その後。丸焦げになった山は立ち入り禁止とされた。それは、ただ危ないからという理由だけではなく。“あの山に入ると祟りを喰らう”という噂がされているからである。その真偽は定かではないが、3人の子供が犠牲になったのもあり、誰も山には立ち入らなくなっていた。



 無垢で残酷な子供たちは、彼らが殺したポケモンたちから恨みを買い、その怨念から生まれた“化け物”が山を支配しているらしい。ある意味、彼らは“最強のポケモン”を生み出すことが出来たのかもしれない。





 信じるか信じないかはあなた次第――。

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