ポケモンと私の気ままな一週間〜日曜日〜

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作者:ぽうん
「なー、起きろよー。もう八時だぞー」

やる気のなさそうな呆れ声のカラカラが枕元から私の頭をコンコン叩く。結構痛い。

「ポケ〇ち始まるぞー」

その一言で私は布団からガバッと起き上がった。ハシゴを慎重に伝ってロフトから降りる。築二十年、駅から徒歩三十分、家賃三万の1Kアパートなので、床が抜けないか毎度心配だ。

「ぽん太郎、降りれるー?」
「バカにすんな。毎朝やってんだろ」

そう言ってぽん太郎は手に持った骨をポイッと一階に放ると、器用にハシゴを降りてきた。そして忘れずに骨を持つ。

「ご主人おはよぉ〜。はい、これリモコン」

のんびりとした口調のモクローがパタパタと飛んできて、私の手にリモコンを落とした。そして毎度のように私の頭の上に乗る。

「今日もあったかくて素敵な日になりそおだよぉ〜。お日様も出てるしぃ〜」

頭の上で身体を揺らし、ぽやぽやと幸せそうなモク次郎。伸ばしの「う」は「お」に近い。

「あったかいならよかったぜ。最近暖かくなったとはいえ、このボロアパートじゃすきま風が辛いからな」
「大学生であんたら二匹食わせるにはここしかなかったのよ。冬来る前にはストーブ買うから今は我慢して」

私はそう言いながらビーズクッションに座ってリモコンの電源ボタンを押した。まだCMで、番組の始まる気配はない。

「まあ、実家じゃ俺たち居られないもんな」
「都会だからね。居たとしても窮屈でしょ。それに私も通学に時間かかって一緒に居られる時間も少ないし」

私はこの春から大学生だ。そして、進学と同時に一人暮らしを始めた。実家からでも通えないことはなかったが、通学時間は片道一時間半。毎日一限がある一年生にとっては辛い。
それに……

「……俺、お前に拾ってもらえてよかった。幸せ者だよ」

高校の卒業式の帰り道、私はこのカラカラを拾った。私の代はツイてない世代として有名で、幼稚園から小中高と式典関係は晴れたことがない。この時も例に漏れず土砂降りだった。しかもある感染症が流行っているせいで卒業生と保護者だけの短縮卒業式、終わったらすぐに帰るように言われてしまった。友人とマトモに話せず、部活の後輩もいない。
そんな寂しさが「孤独ポケモン」の彼を呼んだのだろうか。彼は泣きもせず、まるで銅像のように黙って雨に濡れていた。

『ねえ、あなた。私と一緒に来ない?』

気づいたらそう言っていた。彼は私の顔を一瞥すると、黙って私の後をついてきた。
その後は大変だった。健康診断に申請書、ポケモンに関する本を日々読み漁って知識を深めた。幸い彼は静かだったので、普通のカラカラのように躾に困ることはなかったがそれはそれで困りものだった。普通のカラカラは泣くことで母親を呼び、トレーナーが応えることで母親からの自立とトレーナーに対する信頼を深めて行くのだが、ぽん太郎には一切ない。それに、ここは都会のマンション。大声で鳴いたら近所迷惑になってしまう。

私は考えた末、一つの結論に達した。

『お父さん、お母さん。私、一人暮らししたい』

大いに揉めた。しかし、最後には納得してくれた。父母にぽん太郎のことでしきりに相談していたのが功を奏した。

そして、今に至る。

「おっ、ポ〇んち始まったぞ!」

ぽん太郎の嬉しそうな声で、私も我に返った。オープニングソングの軽快なリズムが耳に心地よい。
今日は日曜日。光に溢れて暖かい、太陽の曜日。

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