エピローグ Best ×××××××××

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あなたは真っ暗な空間にいた。何も見えない、何も聞こえない、風や温度すらも感じない。
しばらく歩くと、見知らぬ男が立っているのが分かった。
自分の姿と男の他には何も見えなかった。何かがいる気配はないし、物音も聞こえなかった。
男は空色の目で、あなたの目を見つめていた。
勇気を出して近付いていくと、男が喋りかけてきた。
 やあ、こんばんは。
 もしかすると、はじめまして、かな?
 私はこの物語の語り部だ。

 さて。
 これまでたくさんのひとの夢を垣間見てきたわけなのだが。
 さすがに全ての人の夢を見て歩くという訳にもいかなかったけれどね。
 どうもね、私が近付けば近づくほど、夢は悪い方向へと傾いていくらしい。
 私もはじめのうちは、遠くで傍観するに留めていた。
 だが、これは私の性とでも言うのだろうか。
 美しい夢に引き寄せられるんだ。
 皆それぞれに輝いていて、眩くて。
 近付けば、それを壊してしまうかもしれないと分かっていても。
 もし、そのせいで心に傷を負ったり、普段の生活になにかしらの支障をきたしたりしたなら、謝らせてほしい。済まなかった。





 そもそも、夢とは何故現れるのだろうか。
 考えたことはあるかい?
 生き物は眠っている間に記憶の整理をするんだ。
 必要な記憶は定着させ。
 不要な記憶は捨ててしまう。
 夢は、その捨てられた記憶が現れたものだという見解がある。
 だがね、不要で捨ててしまうからと言って、完全に忘れ去ってしまうかと言えばそういう訳ではない。
 もしも君が誰かと――人間でもいい、動物でもいい。ポケモンでもいい。何かと共に生きたことがあるというのなら。誰かに永遠の別れを告げたことがあるかもしれない。
 君は常に、その誰かのことを覚えているかい?
 そういう訳ではないだろう。
 そして、その誰かの記憶が、ほんのちょっとしたきっかけで蘇ったことはないかい?
 記憶というのはそういうものだ。
 忘れたように思えて、心の奥底に眠っている。
 忘れたと思うのは、ただ思い出せないだけなのさ。
 そして、そんな「思い出せない」記憶が、唐突に夢に現れることもある。
 不思議なものだよ。
 私もこうしてたくさんの夢を巡っているが。
 楽しいことも、辛いことも。
 意図しない時に不意に現れる。
 それこそ、現実と同じように。
 そう考えると、私が近付くと悪い夢を見てしまうのは、私が知らない間に悪い記憶を引き出す手助けをしてしまっているのかもしれないね。
 無論、そんな気はさらさらない訳だけれども。





 時に、君は夢を持っているかい?
 眠る時に見るのとは違う。
 これからどうしたい、何になりたい、そういった、将来の夢というやつだ。
 もしも君が夢を持っているのなら。
 その夢を掴むのだ。そのために、努力は惜しまないでほしい。
 もしも君が夢を持っていないのなら。
 何でもいい。誰かと被ったっていい。
 君だけの夢を、探してみて欲しい。
 夢が一つ定まるだけで、その先の指針も変わってくるはずだからね。
 ……ん?
 ……前にも同じ話を聞いたって?
 そりゃあ、たまたま私が誰かと似たような話をしてしまったんだろうさ。
 もしかしたら、私も君と同じ誰かから、この話を聞いたのかもしれないね。





 と、長話をしている間にもうこんな時間か。
 君をあまり長くここに引き留めておくわけにもいかないからね。
 私はここで消えるから、安心したまえ。
 もっとも、そうしたところで君がいい夢を見られる保証はない訳だがね。




















 ……ん?まだ何かあるのかい?
 ……私が誰かって?
 最初に言っただろう。
 私はこの物語の語り部。
 しいて付け加えるのなら、夢を渡り歩くたびびと、とでも言えばいいだろうか。
 この言い方だと少々語弊があるかもしれないがね。










 では、私は行くよ。
 願わくは、素敵な夢を。











 そして、もしそうでないなら。せめて――










































 Have your best NIGHTMARE.
あなたは目の前が真っ暗になった。
けれど、安心してほしい。
所持金は減っていないし、手持ちのポケモンも元気だ。アイテムも失われていない。
目を開ければ、また新しい一日が始まる。
あなたはSAVEされている。

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