episode5━2 狙いは必中

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

高らかに声をあげた後、またしても声が消えた。
ルカリオは舌打ちをした後、掠り傷を魔術で癒した。

「ありゃ特性だな。方法は解らねぇが、エルオルの放った矢は追尾性能がある。それも、弾いたとて追いかけてくるような鬱陶しいもんだ。さて…こりゃ一刻も早く本体を叩かねぇとな」
「…どう、しますか?」

ルトは自分でも考えながら、ルカリオに助言を乞う。

「とりあえず場所を割り出すぞ。…ニンフィア、特性頼むぜ」
「はいよ。任せてー」

ニンフィアは言われた通りに、特性を発動させた。目を瞑り、触手が淡い光を放ち始めた。

「…ニンフィアさんの特性はどういうもの何ですか?」
「ニンフィアの特性、【音の地図】は音で生物の位置を探る特性よ。範囲はかなり広くて、僅かな音すら拾う。森であろうと例外じゃない」
「なるほど…」

ルトの質問を、ルカリオの代わりにクチートが答えた。

「んー…分かってきた…けど、ちょっと驚いたな。反応が複数ある。ざっと百体?」
「百体…!?兵士か?」
「いや、兵士にしては動きが静かすぎる。…なんだろうこれ。あまりに動きが少なくて、まるで人形だ」
「人形…索敵を邪魔するデコイか?」
「かもね」

ルカリオとニンフィアは会話を交わした後、サーナイトが小さく手を上げた。

「…大まかな位置を教えて貰えますか?ちょっと撃ってみようかと」
「いいよ。…距離は500M、方向は北北西、高さは12Mってとこかな」
「承りました」

サーナイトは太ももに装着したガンホルダーから拳銃を2丁引き抜き、ニンフィアから教えられた方角へ銃口を向けた。その行動に、シャルは驚いた。

「お、おいおいサーナイトさんよ。こっから撃つのか?」
「ええ、シャルさん。とはいっても、当たるとは思いませんがね。…木を傷付けるのは忍びないので、上手く木々の隙間を狙います」

サーナイトは鋭い目付きで、銃を教えられた角度で固定させた。

「…『サイコバレット』」

カチリと引き金を引き、破裂音と共にエネルギーを帯びた銃弾が2発放たれた。上手く木々の隙間をすり抜け、飛んでいく。

しばらくした後、サーナイトはニンフィアの方向を振り向いた。

「反応はありましたか?」
「…いいや、微動だにしないや。危険を承知で見に行こうか」
「オシ、そうすっか。…高いところにいるだろうから、クチートとサーナイトが先行しろ」
「クチート了解!」
「了解です!」

指示を受け、二人が走り抜けていく。

「なるほど、脅したんですね。もし人形ではなくポケモンなら、今の銃弾に驚いて移動をするでしょうし」
「そうみたいだナ。中々大胆だぜ」

既に進んでいるルカリオ達に続き、ルト隊も後に続いた。

………

「…いた!引きずり落とすよ!」

先行していたクチートが木の上に佇むポケモンを見つけ、瞬時にナイフを投げた。
そして、ワイヤーをポケモンに巻き付けた。

「っらぁ!」

そのままワイヤーを引っ張り、木の上から引きずり落として地面へと叩き付けた。

「そのまま縛っとけ!聞きたいことは山ほど…!?」

ルカリオが叩き付けられたポケモンに近付くと、そのポケモンを見て驚いて目を見開いた。

「…人形…か…?ニンフィアの読み通りか」

ポケモンだった筈のものは、いつの間にか木製の人形へと変わっていた。クチートは素早くワイヤーを戻し、ため息をついた。

「これでハッキリしましたね、ニンフィアさんが察知したのはおそらくダミー。厄介ですね…」
「そうだな。中々、場慣れしてやがる」

ルカリオとルトは落胆する。その瞬間、またしても矢が遠くから放たれてきた。

「またか!せぁっ!」

シャルが前へと出て、慣れた槍さばきで矢を全て叩き落とす。
そのままくるりと槍を回し、落ちた矢を更に叩き割った。

「…追尾してくるなら、細かく砕けば問題ねーだろ…!」
「ナイス、シャル!」

シャルはそのまま後ろに下がった。…が、砕けた矢が震え始めた。

「なに…?」

そして、砕けた筈の矢が全て元に戻り、シャルの全身を掠めた。シャルは思わず苦痛に顔が歪む。

「っつ…!?これ…追尾じゃねーだろ!防げるのか…!?」

またしても矢は茂みへと消えていった。

「シャル!大丈夫か!?」
「問題ねー。だが…キリがねぇぞ。この矢、恐らく必中だ。絶対に当たる矢を打てる特性を持ってる…!細かく砕いたって意味がない!」

シャルは冷静に分析し、現状の深刻さに眉を潜めた。

「…追尾ではなく必中、か。だが…こちらの位置を把握せずにそんなもん射てるってのか?そんなもんあるなら、遠くからずっとミラウェルの支部とか狙えるんじゃねーか」
「…その、一つ思ったのですが。あの三体のアンノウン。あれが関係あるのでは?」

ルカリオの考えに、サーナイトが案を出した。

「どういうことだ?」
「あの三体、私達から逃げましたよね。あれは逃げたんじゃなく、誘ったのでは?思えば、あの瞬間からエルオルの声が聞こえました。それらから考えると…」
「…射程…!あの野郎、そういうことか。なるほどな…いつの間にか、奴の縄張りに入っちまったってか」
「そういうことです。…逆に、縄張りにさえ入らなければ危険は無いのかも…」

二人の会話に、ミリアンが口を挟んだ。

「なら、先程の瀕死の兵士を範囲外に運べば安全なのでは?」
「そうだな。俺らを狙うと考えてその場に置いてきちまったが、今から戻ればまだ無事な筈だしな」
「です。もし意識が戻れば自力でティソーヴォ支部へと帰れるでしょうし」

ミリアンの提案に乗り、急いで戻った。

………

「…う…ん…?貴方は…」
「気が付いたか!良かったぜ」

ルカリオは兵士を抱き上げ、その瞬間に意識が戻った。
自力でなんとか立ち上がり、ルカリオから今の状況を聞いた。

「…ええ、私も同じ手口で誘い込まれました。その時はアンノウンが六体いてそのうち三体を倒したら逃げ出し…この場で矢の雨を受けて…」
「そうか…頑張ったな」
「…ありがとうございます」

兵士はまだ辛そうだが、意識はハッキリとしていた。

「さ、テレポートで支部へ戻れ。この場は任せろ」
「その前に、一つだけ気になったことが」
「なんだ?」

兵士は咳払いをし、気になることを発言した。

「…矢が飛んでくる方向の事です。私の見間違えでなければ…一方行では無かったです。四方から矢の攻撃を受けましたから」
「なに…!?だが、反応は人形だったぞ…」
「何故なのかは分かりませんが…どうか、お気をつけを。助かりました」

びしりと敬礼をし、兵士は支部へと帰還した。

「ただの人形じゃない…のかもね。アタシの特性で察知したのは人形だった。けど、近付くまでは確かにポケモンに見えたんだ。…もしこれもエルオルの特性なら…」
「…複数の特性持ち…か。ナイトと同じように」
「単純に、複数人のポケモンがいるのでは無いのですか?」

ミリアンがそう訊ねたが、ニンフィアは首を横に振った。

「いや、アタシの特性で見た範囲内には人形と同じ反応しか感知出来なかった。相当な実力者なら人形と同じくらいの静かな音を出せるけど…」
「狙撃主であるエルオル以外にそんな真似が出来るポケモンが複数いるとは考えにくいかな。やってみると分かると思うけど、その場から動かないでなおかつ音を立てないって物凄くセンスが要るんだ。最低限の呼吸、最低限の動き…それを継続して行う訳だからね。ディザスタ内にそんなハイレベルな狙撃主が何人もいるのなら、ディープラルクに集中させるメリットがまるで無い。あくまでエルオルが単独で行ってる可能性が高いかな」
「勿論、可能性としてはあるさ。でも今まで息を潜めてきたディザスタが、そんな博打に出るとは思いにくいかな。もし負ければ、優秀な狙撃主を一気に失うからね」
「なるほど。理解しました」

ミリアンは納得したようで頷いた。

………

「━━そろそろ僕の特性の性質がわかった頃かな?」

場所は森の奥、大きな枝の上でエルオルは佇んでいた。

「未だに一匹も殺せてないか、うん。まぁ当然かな。あの神殺しを相手にしてるんだしね」

━ま、おまけも何人かいるみたいだけど。

エルオルはくすくすと嘲笑した後、再び羽を構えた。

「精々楽しませてよね。僕の唯一の娯楽なんだから…さっ!」

数十本の矢を、上空へと放つ。山なりに飛んだ矢が全て、勢いをまして鋭角に突き進んで行った。

━殺しを楽しむ。僕に残った唯一の楽しみ。そりゃもう全力で楽しむよ。…臓物を撒き散らせ!骨を粉々に砕け!…中身が無い筈の僕の中で、そんな声が何度も何度も、何度も何度も…何度も何度も何度も何度も。愉しそうに囁いていた━━

クチート
前作の仲間。ジャロス家で特に強い兵士に送られる称号、戦聖(バトラー)を持つポケモン。
当時からバトラーだが、バトラーの中では最弱だった。ワイヤーの付いた特殊なナイフを使い戦う。
強気で自信家だが、自分が弱かったことは自覚していた。かの戦いから数年経ち、心身ともに立派なバトラーへと成長した

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