この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
あけましておめでとうございます!
年内に間に合いませんでしたorz
「━ここが、ディープラルク大森林…広いですね」
場所はディープラルク。ティソーヴォ支部で手早く手続きをし、遂にたどり着いた。
手続きは任務を受けるためのモノに加え、この森の中へと入るための許可も受けた。ティソーヴォ大陸で最も大きく、資源が豊富な森。無許可では立ち入ることすら出来ない。
ルトはあまりの広さ、壮大さに息を呑んだ。じっとりとした湿度。心地よい気温。
そして…ただならぬ雰囲気。まだ入ったばかりだと言うのに、奥から嫌な気配が漂って来ている。
「ああ。ティソーヴォ大陸で最大規模の森だからな。街一つ難なく入るほど大きい。…そんで、あからさまに気配を残してやがるな。誘ってんのか」
ルカリオ達も気配に気付いており、ルカリオは特に敏感に反応していた。眉を寄せ、森の奥を睨んでいる。
「だねー。…アンノウンは恐らくいないって話だけど、今回もそうかな?」
「どうだろうな。この森に入るポケモンを殺し、異変の調査の為ミラウェルから出動した兵士まで反応が途絶えた。…この一連の動き、これこそが罠かもしれないぜ。俺たち…もしくは裏兵の誰かを誘い込むことが本当の目的かもしれない。ディザスタの連中の中に元神の支配者がいるんだ。アルセウスを倒した俺らを狙っててもおかしくねぇ。…だとしたら、今回もアンノウンがいないなんて言い切れないな。本気で殺しに来るならば、戦力が多いに越したことは無い」
「…確かに。その通りかも」
ルカリオ達は緊張を解かず、辺りを警戒しながら奥へ進んでいく。その冷静さと分析力にルト隊の三人は驚いていた。
「…修羅場は潜ってる…ってか?すげーナ」
「ええ…少ない情報で、予測をたてた。経験の違いですね」
「全くだ…俺らも置いてかれないように頑張らないと」
ルカリオ達の背を追い、ルト隊も進んだ。
………
「…ハッ、言ってる側からかよ」
ルカリオは嘲笑した。入り口からさほど遠くはない場所で、3体ものアンノウンが物陰から現れたのだ。
「アンノウン…!ここは私達が!」
「待て、ルト。…様子が変だ」
飛び出そうとするルトを止め、ルカリオはアンノウンを睨んだ。
アンノウンはその場を動かなかったが、急に後ろに振り返り、走り出した。
「なっ…!?」
「ポケモンを目の前にして敵前逃亡…おかしいね。明らかに」
クチートは自身の武器を投げようとするが、既にアンノウンはクチートの射程距離から離れていた。
「さ、て。罠だろうな。…ルト隊、お前らならどうする?意見を聞かせてくれ」
「私達ならどうするか…ですか…」
ルカリオからの突然の問いに、ルトは少し考えた後、シャル、ミリアンに話し掛けた。
「━━━か?」
「…いーんじゃねーの。文句無いぜ」
「ええ。妥当かと」
「よし。…私達なら…魔術が得意なポケモンに先行させ、後ろに残りのメンバーが続く形でアンノウンを追いかけます。もし罠があればそれを先行組が突破。安全面を確認した後、後続がケアします。…どう、でしょうか?」
ルトの出した答えに、ルカリオは笑って頷いた。
「やるな、十分な答えだ。という訳で、サーナイト!そしてミリアン!二人が先行してくれ。残りは後に続くぞ」
「サーナイト了解!…ミリアンさん、行きましょう?」
「はい!」
ルカリオは答えに満足した様で、直ぐ様行動に移した。ルトは思わず胸を撫で下ろす。
サーナイトとミリアンが全力でアンノウンを追いかけ、それを追う形で残りが続く。落ち葉を踏み締める音と風を切る鋭い音だけが響き、ぐんぐん奥へと進んでいく。
「…!皆さん!止まって下さい!」
サーナイトは突然止まり、全員を止めた。サーナイトが見つめる先には…先程のアンノウンと瀕死のミラウェル兵士が木に背を預けて項垂れていた。
「アイツは…ここを調査してた兵士だ!サーナイト、ミリアン!周囲に罠は?」
「…見た感じはありません!ミリアンさん、上から見てください」
「了解!…こちらも異常無しです!」
サーナイトは地面を、ミリアンは上を確認したが…罠は無さそうとの事だった。
「…良し、救助するぞ!クチート!アンノウンは頼んだ」
「りょーかい。さ、こっちに…来なさい!」
ルカリオの号令と共に、クチートはマテリアを取り出した。…銀色のワイヤーに繋がれた、小型のナイフ。
それを周囲に広げ、アンノウンへとナイフを投げた。
『…!』
アンノウンは避けたが、クチートは笑った。
「甘いのよッ!」
クチートはワイヤーを細かく操作し、アンノウン三体をまとめてワイヤーで縛り上げた。
それを確認した後、思い切り引き上げた。
「フッ!さ、今よ!」
「助かります!シャル!」
「おーよ!」
その瞬間にルトとシャルは走り、瀕死の兵士に近寄った。
「…酷い怪我だ…でも、生きてるな…良かった」
ルトは怪我の具合を確認し、シャルと二人がかりでゆっくりと担いでルカリオの元へと運んだ。
「ルト、アタシのとこに運んで。…」
ニンフィアに言われた通りにニンフィアの足元へと兵士をそっと置き、ニンフィアは自身のリボンのような触手を動かして兵士の傷口を見る。
「…うん、治癒魔術を使えば命の危機は無くなるよ。意識を失ってから一時間前後経ってるみたいで体力も僅かに回復してる。これなら治癒魔術を使っても体力は持つと思う。…このくらいならアタシが治療するわ。任せて」
「ああ。…残りはクチートの援護に…」
「必要無いわよ。終わったわ」
クチートはアンノウンに突き刺さったナイフを引き抜き、こちらに戻ってきた。背後のアンノウンは全員、コアを残し崩れていった。
「早いな。流石だぜ」
「どーってことないわよ。それで?これからどう━━」
瞬間、ルカリオは上を向いた。そして一瞬にしてクチートの近くに寄り、剣を抜いて何かを弾き飛ばした。
弾かれた破片がルトの近くに落ちてきて、それが何かを確認した。
「矢…!?まさか、これが凶器の…」
「ああ…今、背後からクチートを射ちやがった。かなりの精度だな」
ルカリオは剣を鞘に仕舞い、警戒をより一層強めた。
「…助かったわ、ルカリオ」
「気にすんな。…皆、一塊になって動くな。狙い打ちされるぞ」
ルカリオの言われた通りに、全員が負傷した兵士を囲むように固まった。
その体勢のまましばらくすると、森の奥から声か響いてきた。
「ようこそだね、うん。裏兵さんとミラウェル兵士の皆様、初めまして!僕は『エルオル・キルショット』。気軽にエルオルと呼んでほしいな」
「…てめぇが犯人か。ディザスタだな?」
「ご名答、うん。とはいっても、ただの傭兵さ。今はここでポケモンを殺す仕事をさせてもらってるよ。…で、今君たちは射程に入った獲物ということさ」
その声は、明るく気さくな声だったが…何人もポケモンを殺しているポケモンにしては、不気味な程楽しそうな声だった。
「射程…だと?」
「そう、射程。これから僕は安全な所から君たちを一方的に殺します。精々探してみてね、うん。それじゃ…始めるよ」
声はピタリと無くなり、次の瞬間…遠くから矢が十本程こちらへと降り注いだ。
各々が武器を構え、それを弾き飛ばす。
「は、なんだ。大口叩いた割には大したこと━━」
「っルカリオさん!まだです!後ろを見てください!」
「なっ…!?」
サーナイトからの声を聞き、ルカリオは後ろを振り向く。すると、弾いた筈の矢がルカリオの背中へと迫っていた。武器では弾ききれない距離まで接近していた。
「っ!」
ルカリオは体をなんとか捩り、十本の矢はルカリオの体を掠めて茂みの中へと消えていった。
「ルカリオさん!」
「大丈夫だルト。掠り傷だ。…にしても…ありゃなんだ?」
━━確かに弾いた矢が、戻ってきて俺を射そうとしやがった。特性か?
ルカリオが長考を始めると、またしても奥から声が聞こえてきた。
「━はは、楽しんでもらえたかい?これから…さっきみたいなのを射ち続けるよ。いつ死ぬのか分からないまま、必死に避けてね。…さぁ、楽しもう」
「━━━僕をうんと楽しませろ!!」