140話 勝負所の嗅覚

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『ねえ、ポケモンカードで一番大事なことってなんだと思う?』
 ホテルのロビーのソファで、ぼんやりと三人でテーブルを囲んでいると、美咲が静けさに耐えれなくなったのか、話題を切り出す。
『戦略だろう』
『そりゃそうでしょ! それがどんな戦略か、を聞きたいんだけど……。はぁ。一之瀬さんはどう思います?』
『僕? そうだなあ……。やっぱり早さだね。相手がベストのプレイングをするよりも先に、自分のベストでもって相手を打ち砕く。そういう美咲ちゃんは?』
『あたしは一之瀬さんと逆かな。相手のプレイングを邪魔する。あたしも一之瀬さんも、相手にベストのプレイをさせない点では一致してるけどその方法が違う、っていうか……。一之瀬さんは先に相手を倒すけど、あたしは遅くても確実に痛みつける』
『性格出てるな』
『むっ、うるさいな』
 一之瀬さんが笑い声をあげて、美咲はそっと視線を俺たちから離した。でも実際には相手を妨害するスタイルの美咲の方が、一之瀬さんよりも強い。どちらも間違っているわけではないけれど、どうも相性なのかそれとも実力なのか。一度ペースを崩されると立て直すのが大変らしい。
『そういう雄大くんは実際のとこどうなの。どんな戦略なの』
『俺は――』
 あの時、あの「大きな力」に頼りっきりだった俺はもういない。今の俺は……。



 サイド差は四枚。もし、次に一之瀬さんのレックウザ&デオキシスLEGEND100/140の攻撃を受ければその時点で負けが決まってしまう。
 俺の場にはエネルギーのついていないモノズ60/60とキバゴ60/60。一之瀬さんのベンチにはエンブオー50/150とドーブル20/70、それにもう一匹のエンブオー150/150。
 もうここまでこれば、プレイングだけで確実に勝利する術はない。もしも俺に一之瀬さんを倒す実力があるというならば、その実力に伴った運がついてくる!
「行くぞォ!」
「さあ、どう足掻くのかな」
「俺は手札から不思議なアメを使う。その効果でモノズをサザンドラ(150/150)に進化させる!」
「進化させたのはいいけれど、ワザを使うにはエネルギーがまだ四つも足りない。それに、仮に攻撃してもサザンドラでは攻撃力が足りないよ」
 一之瀬さんが場に出したスタジアム、「拡張空間 ―ワンダーワールド―」の効果は、自分の番に一度だけ、手札のトレーナーを山札に戻してエネルギーを一枚山札から手札に加える。
 ここでいう「自分」とはなにも一之瀬さんを指定している訳ではない。ならば、俺にもその恩恵を使えるわけだ。それに山札から手札に加えるエネルギーは「基本エネルギー」を限定にしている訳ではなく「エネルギー」と表記されている。ということは、特殊エネルギーも手札に加えられるはずだ。
「俺も『拡張空間 ―ワンダーワールド―』の効果を使わせてもらう! 手札のジャンクアームを山札に戻し、山札からダブル無色エネルギーを手札に加える。そして、そのダブル無色エネルギーをサザンドラにつける。……ここでサポート、Nを発動! 互いの手札を全て山札に戻してシャッフル!」
 Nの効果の最大のメリットは、シャッフルしたのち互いのプレイヤーは自分のサイドの枚数だけカードを引く。俺のサイドは六枚だから俺はカードを六枚引くが、一之瀬さんのサイドは二枚。よって二枚しかカードを引けない。
 押せ押せムードの一之瀬さんを止める最後のチャンスだ。
 ここで一之瀬さんがベル、もしくはアララギ博士を引いていれば、俺の番がまた回ってくるかは極めて怪しい。
「風見君の最後の秘策。果たして吉と出るかな」
「……それは運命の導き次第。運命がまだ俺に戦えと道を示す限り、俺にはまだチャンスが与えられるし、そうでなければそういう運命だったというだけだ」
「へえ。君って運命論者だったんだ」
「ロマンチックなもんでね。……とはいえ、俺は運命は待っていても手を差し伸べてくれるものでもないと思っている」
 初めて一之瀬さんの表情が動く。勝負ごとに関してはポーカーフェイスを保てられる一之瀬さんにしては珍しい。
「……と、言うと?」
「運命とはある程度は自分で引き寄せることが出来る。いや、むしろ自ら努力しないものに良い運命は与えられないってことだ。俺は手札から、ポケモンキャッチャーを発動。その効果でエンブオーをバトル場に引きずり出させる」
 エンブオーは逃げるためにエネルギーが四つ必要。いくらエンブオーの特性、烈火乱舞が自分の番に好きなだけ炎エネルギーをつけられるものだからといっても、ポケモン入れ替えを使わなければエネルギーを計六枚使わなければ攻撃が出来なくなる。
「なるほど。念には念を、ってことか。それでは今度は僕の――」
「まだだ! まだ俺の番は終わっていない」
「なっ。しかし風見君のサザンドラにはまだエネルギーが二つ足りていない。僕みたいにエネルギーをつけられる能力があるポケモンがいるわけでもない」
「そう。確かに、俺にはその便利なエンブオーのようなポケモンはいない。でもだからといって手がない訳ではない」
「一体どうするつもりだ……」
「不器用で不格好かもしれないが、たとえこの身が泥にまみれて汚れても、勝利への道に食らいつく! 手札から研究の記録を発動。その効果で山札の上から五枚を確認し、それぞれ好きな順に山札の上あるいは底に置くことが出来る。……俺は二枚を山札の上に。三枚を底に置く」
「……まさか」
「俺はグッズ、ピーピーエイドを発動! 自分の山札の上をめくり、それが基本エネルギーであれば自分のポケモンにつけることが出来る。デッキの一番上は水エネルギー。サザンドラに水エネルギーをつける。さらにもう一枚ピーピーエイドを発動!」
 研究の記録で山札のカードを操作することが出来れば、一見博打のように見えるピーピーエイドの効果を百パーセント恩恵を受けれるように出来る。俺が研究の記録で覗いた五枚のカードのうち二枚が水エネルギー。それが連続して並ぶように組み替えれば、こうしてエンブオーがいなくともエネルギーを自分の番に二枚以上つけることが出来る。
「一番上のカードは水エネルギー! もちろんこれもサザンドラにつける」
「なんて執念なんだ……!」
「これが狂気と見まごう執念だ! サザンドラで攻撃。狂気の刃!」
 三つの黒いエネルギーの刃が、一之瀬さんの場を抉り、バトル場のエンブオー90/150、ベンチのエンブオー10/150、レックウザ&デオキシスLEGEND60/140にダメージを与えていく。
 これでレックウザ&デオキシスLEGENDをバトル場に出し、狂気の刃でダメージを与えれば倒すことが出来る。
 倒してしまえばオゾンクライマックスを食らう心配はない。そうなれば、単純に戦力としては力不足なエンブオー相手では負けることはない!
「ぐっ……。しかしまだ君の運命がどうなるかはわからない! 僕のターン! ……くっ」
 眉をひそめて苦しそうな表情を見せる一之瀬さん。どうやらまだ俺もチャンスは残ったようだ。まずは最初の峠は越せた。
「それでもまだ僕も負ける気は無い! 手札から満タンの薬を発動。レックウザ&デオキシスLEGENDのエネルギーを全てトラッシュしてHPを全て回復させる!」
「くっ……」
「さらにポカブ(60/60)をベンチに出し、エネルギーリターナーを手札から発動。トラッシュにある炎エネルギー二枚と雷エネルギー二枚を山札に戻す」
「っ……。リターナーだと?」
 今のは悪手のはずだ。エネルギーリターナーを使えば、確かにエネルギーの枚数は増える。しかし一之瀬さんが今現物として欲しいのはエネルギーではなく、手札を増やすサポートだろう。
 山札のエネルギーの枚数が増えれば増えるほど、むしろ肝心のサポートを引きやすくするのが筋だ。単純にミスなのか、それとも……。
「俺の番だ。まずはこいつをベンチに出す。現れろ、キュレム!」
 レックウザ&デオキシスLEGEND140/140が回復した以上、さっきまで浮かんでいた戦略を修正する必要がある。
 今でもポイントとなっているのが、オゾンクライマックスをどう回避するか。ダメージを受ければ負ける。でも、ダメージを受けなければ負けない。「負けなければ勝てる」を地で行くスタンスだ。
 まず一つとしては単純にレックウザ&デオキシスLEGENDを倒す。サザンドラでそれを狙っていたが、ポケモン一匹に与えるダメージが大きくないサザンドラでこれ以上踏み込むのは不可能だ。これを貫くとしてもサザンドラではなく、別のポケモンで攻撃しなければならない。
 そしてもう一つは、エネルギー加速を担当とするエンブオーを全て倒すこと。そうすれば、レックウザ&デオキシスLEGENDが一気にエネルギーを集めて攻撃に転じることもない。
 問題はどちらが正解か……。ただ、どちらが正解にしてもこのキュレム140/140が大きな鍵になる。
 今の手札はアララギ博士が二枚と水エネルギーが一枚。この水エネルギー、キバゴにつけるかキュレムにつけるか。それで全てが変わってくる。
 全体攻撃が出来、エンブオーたちをまとめて倒せるが、準備をするのに三ターンかかるキュレム。オノノクスになれば一撃でレックウザ&デオキシスLEGENDを倒せ、最短で二ターンで戦えるものの進化できる保証のないキバゴ。
 片方の道が正しいとも限らない。両方正しいかもしれないし、両方とも間に合わないかもしれない。
 考えるんじゃない。感じ取るんだ。開けた未来へ通じる光を感じ取る、勝負所の嗅覚で!
「俺は水エネルギーをキバゴにつける! そしてサポート、アララギ博士を発動。手札を全て捨て、山札からカードを七枚ドローする」
 デッキポケットからせり出した七枚を、力強く引き抜く。視界を右に移して、扇のように開いたカードに目を移す。
 ポケモン通信、ポケモンキャッチャー、エネルギー付け替え、ジャンクアーム、オノンド、マスターのカギ、ジャンクアーム。
 頭の中でこれらのカード一つ一つ見えない力で繋がっていく。忘れかけていたこの感覚が、ぼんやりと甦ってくる。繋がっていくカードの道の先に。
 ……見えた、この戦いの光が!
「ベンチのキバゴをオノンド(90/90)に進化させ、サザンドラで攻撃。狂気の刃!」
 降り注ぐ黒いエネルギーが、バトル場のエンブオー30/150、ベンチのポカブ30/70、レックウザ&デオキシスLEGEND100/140に襲いかかる。
「ぐうっ……! 今度は僕のターン! ……これを待っていた。手札からサポート、ベルを発動!」
 ベルは自分の手札が六枚になるようにカードを引くサポート。今の一之瀬さんの手札はベルを使ったことで0枚。やはりこの場面で引き当ててくるとは流石……だが。
「ダメだ、足りない……!」
 一之瀬さんの表情が安堵から再び焦燥へと変わっていく。
 やはりあのエネルギーリターナーのせいだろう。
 ここで一之瀬さんが引かなければいけないカードは、ポケモン入れ替えとエネルギー四枚(ただし、雷エネルギーは一枚まで。三枚しか引けなくても、トレーナーカードがほかにもう一枚あればいい)と、六枚のうち五枚は定められている以上、極めて難しい組み合わせだ。
 そもそもポケモン入れ替えが何枚入っているかは分からないが、エネルギーが多すぎて引きづらいのには変わりはない。まさしく策士、策に溺れるといったところか。
 むしろ、これだけ短期決戦に特化したデッキで長期戦を強いられることを想定していなかったのかもしれない。
「かくなる上は! 僕はレックウザ&デオキシスLEGENDに雷エネルギーをつける。さらにエンブオーの烈火乱舞で炎エネルギー三枚もつける! 次の番、狂気の刃でバトル場のエンブオーが気絶させられても、その次にレックウザ&デオキシスLEGENDをバトル場に出せばいい! これで僕の番は終わりだ!」
「俺のターン。手札から、マスターのカギを発動。まずは山札からカードを一枚引く!」
 ここがこの勝負で最も重要なポイントだ。文字通り、「カギ」となるこのドロー。
 俺は翔のように自分のデッキやカードを信じるつもりはない。これからもきっとそうだろう。
 それでも、俺は俺を信じている。このデッキを組んだ自分を。この展開まで運ぶことができた自分を。そして、共に戦ってる友へ捧げる勝利を望む、自分の執念を!
「全ての準備は整った! このマスターのカギで、最後の扉を今開いた!」
「ならば見せてくれ!」
「マスターのカギのもう一つの効果を発動。……ウラなので、マスターのカギをトラッシュする。そして、これが勝利への最後の布石だ! オノンドをオノノクスに進化させる!」
 オノンドの姿が大きく変化し、顔の両端に大きな赤い牙を生やしたオノノクス140/140へと姿を変える。
「ここでオノノクス……」
「スタジアム、『拡張空間 ―ワンダーワールド―』の効果によって、手札のポケモン通信を山札のダブル無色エネルギーと入れ替える。そしてダブル無色エネルギーをオノノクスにつける!」
 これでオノノクスについているエネルギーは三つ。オノノクスで攻撃する準備は出来た。そうなれば後は役者を場に揃えるのみ。
「サザンドラの水、ダブル無色エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がし、新たにオノノクスをバトル場に出す。ここでグッズ、ポケモンキャッチャーを発動。レックウザ&デオキシスLEGENDをバトル場に引きずり出す!」
「自分からレックウザ&デオキシスLEGENDをバトル場に……」
「オノノクスでレックウザ&デオキシスLEGENDに攻撃! 勝利へ続く衝動を! ギガインパクト!」
 地面を強く蹴りだしたオノノクスが、白い流星となってレックウザ&デオキシスLEGEND0/140の体を一対の牙で突く。
 白い閃光と一つ遅れて衝撃波と爆音が夜空に響きわたる。
「うわああああああっ、ぐうう!」
「LEGENDポケモンを気絶させたプレイヤーはサイドを一枚多く引く。サイドを二枚引いて俺の番は終わりだ」
 ギガインパクトの威力は120。しかも弱点も相まって、その威力は120×2=240となる。 
「まだだ! ギガインパクトには次の番攻撃できないというデメリットがある。それにサイドの枚数では僕が二枚勝っている! 確かに攻撃力ではレックウザ&デオキシスLEGENDを下回っているけど、エンブオーにも攻撃手段は十分に残っている!」
「……」
 一之瀬さんが新たにバトル場に出したのは、エンブオー30/150。HPは少ないが、まだ何か仕掛けてくる気か。
「僕はベンチのポカブをチャオブー(60/100)に進化させ、アララギ博士を発動。手札を全て捨ててカードを七枚ドローする。……エンブオーの特性、烈火乱舞でバトル場のエンブオーに手札の炎エネルギーを四枚つけ、オノノクスに攻撃。ヒートスタンプ!」
 全身から炎を吹き出したエンブオーが、その巨体に似合わず大ジャンプを見せる。そのまま重力に従って、オノノクス60/140に強烈なのし掛かりを食らわせる。
「ぐうっ……!」
「ヒートスタンプの威力は80。これで次の番、オノノクスにもう一度食らわせればオノノクスは気絶する! いくらその後足掻こうが、サイド四枚を引いて逆転することは叶わないさ」
 ふっ、とついつい緩んだ口元から小さな笑みがこぼれる。
「いいや、次の番はない」
「何だって……」
「一之瀬さん。いや、違うな。一之瀬さんを模した何か、と言った方が正しいか」
「……気付いていたか」
「そもそも戦う前に分裂することから果てしなく怪しい。それに、ワンダーワールドなんて大層なカードを持っているくらいだ。おそらくは一之瀬さんよりも有瀬の方が絡んでいるように思える」
「素晴らしい慧眼だ。流石は本物の一之瀬が見込んだ男。そう。君の通りだよ。僕は一之瀬の思考を模したプログラムのようなもの」
 なるほど。だから、本物の一之瀬さんならば知っているはずのマスターの書やカギの記憶が無いのか。
 ……待て。プログラム? こんな高度なプログラムがこの世に存在するのか? いいや、まさか。
 ふとバトルベルトに目を落とす。俺と冴木、それ以外にもたくさんのエンジニアに尋ねても解読出来なかった、バトルベルトの謎のプログラム。それを作り出したのはまさか。
「お前たちなのか……。バトルベルトのプログラムを書き換えたのは」
「お前たち、ではなくて有瀬がやった、が答えだね」
「どうしてこんなことをした」
「そんな鬼の様な形相をしなくてもいいだろう。君たちも困らなかったし、我々も困らない。むしろ互いに特をするウィンウィンな関係だ。……どうしても臨場感が必要だったのさ」
「臨場感だと……?」
「そう。強い臨場感が生み出す多くの興奮。その興奮が正の精神エネルギーに繋がっていく。少しでも多くの正の精神エネルギーを生み出すために、バトルベルトのプログラムを書き換えて、よりポケモン達の動きを細やかに。そして様々なエフェクトも、安全な範囲でより表現していった。全ては君のそのベースが無ければ我々もチャンスを得ることはなかっただろう。感謝しているよ」
「……そういうことだったのか。なるほど、確かにウィンウィンな関係だ」
 理由はどうあれ、バトルベルトにプラスの意味で貢献したのに変わりはない。自分の手でバトルベルトをその段階へ持っていくことが出来なかったのは悔しいが、今となってはもはや時効。この件についてこれ以上とやかく言うつもりはない。
「しかし、どうやって僕のことに気付いた」
「一之瀬さんの本来のプレイスタイルは、相手がベストのプレイをする前に自分がベストのプレイをして叩き潰すスピード重視のプレイングだ。しかし、そう上手く行かなかったときのための二の矢、三の矢といった保険がしっかりと仕込まれている。しかしお前にはそれがない」
「……それは勝ってから言ってもらいたい。仮にも僕の場にはエンブオーが二匹(30/150、10/150)とドーブル(20/70)、チャオブー(60/100)がいる――」
「同じことを何度も言うのは好きではない。俺は『次の番はない』と言ったんだ」
「バカな。君にはサイドがまだ四枚も残っている」
「ならばそのサイドを四枚引くだけだ」
「何っ……!? ましてや宇宙ウイルスを持っていないのに!」
「俺はオノノクスのダブル無色エネルギーをトラッシュし、キュレムをバトル場に繰り出す」
 これが最後の手順だ。熱くなりすぎるな。冷静になれ。すべての場を見渡せ。勝利は遠く空に浮かんでいるものではない。むしろ地中に埋まっているもの。そして、それを掘り出すことが戦うものの役目……。
 昔の俺は自分の力に溺れていた。自分が制御出来る以上の力をもっていたあまり、それに頼りすぎ、何度も敗れた。戦うことから逃げた時期もあったが、それでも結局は戻ってきてしまう。
 どうしても人はこの快感からは逃れられない。
「俺はキュレムに水エネルギーを手札からつける。そしてエネルギー付け替えを発動。オノノクスの水エネルギーをキュレムにつける。さらにジャンクアームを発動!」
 ジャンクアームは手札を二枚トラッシュすることで、トラッシュにあるグッズを手札に戻すことが出来る。手札の水エネルギーと不思議なアメを捨て、もう一度エネルギー付け替えを手札に加える。
「もう一度エネルギー付け替えだ。サザンドラについている水エネルギーをキュレムに付ける!」
「こ、これでキュレムのエネルギーは三枚……」
「まだだ! もう一枚のジャンクアームを発動。キュレムとチェレンをトラッシュし、ポケモンキャッチャーを手札に加える。そしてポケモンキャッチャーを使い、チャオブーをバトル場に引きずり出す!」
 これで最後の準備が終わった。手札は丁度0枚。お釣りは無しだ。
「夢幻の世界を打ち破り、新たな世界の礎に! キュレムで攻撃、凍える世界!」
 キュレムが翼を広げて雄叫びをあげると、どこからともなく猛吹雪がフィールドめがけて吹き荒れる。
「凍える世界は相手のポケモン全員に30ダメージを与える。ただし、バトル場のチャオブーは弱点の影響を受けて受けるダメージは二倍の60!」
「い、一度に四体のポケモンが気絶……!」
 吹雪が収まり、氷漬けになった四匹のポケモンが、キュレムが一つ大きく地面を踏みならすと氷ごと砕け散っていく。
「サイドを四枚引いて、これでゲームセットだ」
 すべてのポケモンの映像が消えていく。映像だけじゃない。ワンダーワールドも消え、眩しい程白い最初のまっさらな空間へと戻っていく。
「どんなピンチもものともしない、臨機応変なプレイング。これが今の、俺の戦略だ。……むっ」
 突如前方の一之瀬さんの体から、黄緑色の閃光が方々に向けて放たれていく。
 抵抗する間もなく自分の体も光に包まれ、やがて――。



風見「今回のキーカードは拡張空間 ―ワンダーワールド―
   手札にエネルギーがなくても、効果でエネルギーを持ってこられる。
   スピーディに殴り合いをするにはうってつけの空間だ」

拡張空間 ―ワンダーワールド― スタジアム(PCSオリジナル)
 おたがいのプレイヤーは、それぞれ、自分の番に1回、自分の手札からトレーナーを1枚選び、相手に見せてから、山札にもどす。もどした場合、自分の山札からエネルギーを1枚選び、相手に見せてから、手札に加える。そして山札を切ることが出来る。

 スタジアムは、自分の番に1枚だけ、バトル場の横に出せる。別の名前のスタジアムが場に出たなら、このカードをトラッシュする。

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