8.共に歩む

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宇宙でポケモンと過ごす。地球とは違った接し方が求められますね。
さて、第六惑星のナインテールはこれにて終了。お付き合いありがとうございました。
「では、第一回スペースセツルメント環境会議を開催する」
 地球から来た管理局長を迎えて早々、うちら一行は会議室に向かいそのままの流れで会議が始まった。お題は第一声を上げた管理局長の言う通りなんだろうけど、立ち上がって周りを見る管理局長の視線はどこか厳しい。視線が合っても逸らしてはいけない。そんな感じがする。
「まず、先ほど月で起きた野生化ポケモンの対応については事前会談で説明した通りだ。異議は後ほど伺うとして。ポケモンを管理した状態で、二〇〇年過ごした貴方がたタイタン人の意見を伺おうか? スペースセツルメントには一基最大一〇〇〇万人の人間と、その住人が各々持ち込むポケモンが生活する事になる。
 勿論、タイタン人がポケモンを選別の上この地を踏んだ事例を踏襲すれば何の問題もない。しかし、この度の第二次移民団は人間もポケモンも選別された特技技能者の集団ではない。一般人、あえてきつい言い方をすれば、地球での食いっぱぐれの連中だ。不逞の輩も紛れ込むだろうが、五億ともなると見極めは厳しい。人間の管理監視は警察がすればいいとして。今後想定されるポケモンリーグ創設待望論とそれに付随する、過度な厳選による不法に遺棄されたポケモンの対応について忌憚のない意見を言ってくれ。月の事件の後でもあるという事と、地球から最も離れた場所に住む者として、各種支援が遅れる事を想定して述べてほしい」
 誰の口も挟む事を許さない調子で一気に要件を管理局長は述べると、ドスンと椅子に腰掛けて次の発言者を待った。

「よろしいでしょうか?」
 最初に起立したのは、警備局の局長。顔に見覚えがある。今は五〇を超える年齢だけど、若い頃はうちの勤める図書館に足繁く通っていた人だ。
「警備局長。どうぞ」
「環境会議という場ですが、環境は専門外なので最初に安全管理面だけでも意見させていただきます。
 まず、建設局での資料では外殻は五重の層になっているので、通常のポケモンの技では五層に渡る隔壁の貫通は不可能となっています。これは警備局でも確認済みですが、月での例を参考にすると、不法に遺棄されたポケモンが行き着く先は、こういった外殻の人の立ち入らない区域になります。
 その場合、五層にも及ぶ外殻を持つスペースセツルメント五〇基をもれなく警備巡回する事は、警備局と保健所の職員総出でも不可能と考えます」
 そう言って、警備局長は席に着く。彼の後ろにはルカリオとカイリューが控えているけど、それぞれがなんとも苦渋に満ちた顔をしている。その意見を無表情で聞いていた管理局長は次なる意見を促す為に、会議場を見渡す。
「環境局局長のイシハラです。
 先ほどの警備局長の意見に補足ですが。スペースセツルメントに大気循環等の設計耐久は人間一〇〇〇万人に、ポケモンが種によりますが二〇〇〇万から二五〇〇万匹を想定しています。ただ、過度な厳選が行われた場合試算では、年間最大二〇〇万匹のポケモンが卵から孵る事になり。大気循環は追いつかず各スペースセツルメントは二酸化炭素の蓄積により酸欠を起こしてしまいます。
 よって、事前に法整備を行い、育て屋産業の規制と免許制。抜き打ち検査等の実施を行うべきと考えます」
 環境局長もそれだけ言うと座る。
「持ち込む、種の淘汰という選択肢はあるのかね?」
 管理局長が、鋭い視線を環境局長に向ける。
「それに関してですが……」
 ここで、ママさんが立ち上がる。
「あなたは?」
 相変わらずの厳しい視線で管理局長がママさんを睨む。
「タイタン科学技術大学のクスノキ・サチヨと言います。限定空間での野生生物学を専攻してますので、今回環境局のアドバイザーとして参加させていただきました」
「ふん」
「持ち込む種の淘汰に関してですが、我々の先祖が行ったように限定させる事は可能と思いますが、現状一五〇万人の人類という小世帯なので、環境局の規定するポケモン以外が紛れ込んできても水際で対処できます。
 ただ、五億人もの人間に対して届く経済物資に紛れ込んだポケモンの水際での対処は不可能に近いです。現にポケモンでないからと、対処が追いつかずタイタン中に広まった哺乳類、爬虫類、節足動物などはかなりの数になります。
 アドバイザーとして言える意見は、育て屋の規制以外にポケモンによる自治という事をお勧めします」
 管理局長は身を乗り出して、ママさんを睨む。この人はこの場に対して何が不満なんだろうか?
「つまり君は、人間は人間。ポケモンはポケモンで管理しろと言いたいのかね? 君らタイタン人は選ばれた優秀なポケモンにだけ囲まれているからそんな発想をするのだろうが、現実は甘くはない。人間に一切触れた事がないポケモンが、人間に対して見せる敵意は真空で浮かぶ構造物では危険極まりないと思わないかね?」
「その点は、私は地球に留学した事があるので理解していますが、今の技術で人とコミュニケーションが取れないようなポケモンでも、ポケモン間ではコミュニケーションが成り立ちます。
 そういう事例は、すでに過去から多数の論文で検証・確認されています。広く教育されたポケモンを野生化したポケモンと交流させる事で、人間ができないポケモンへの教育という課題をクリアしてくれると思いますが如何でしょうか?」
 ママさんは、あえて感情のこもらない表情で管理局長を見ている。

「では、君の後ろにいるポケモンに聞いてみよう。彼女は第一次移民団で渡ってきた古老のようだからね」
 えっ? うちの意見? 聞いてないよ……。
 会場の視線がうちに集まる。
「好きな事言いなさい」
 ママさんが唇を動かさずに、うちに小声でそう告げる。
「では、クリスティ君。君は相当な勉強家のようだ。資料を見ると、様々な技能を持っている。
 そんな君に聞きたい。例えば、幼くて知能も低いナックラー。それに対して、君は教育というものの効果を発揮できると思うかね?
 特に厳選の際に捨てられたナックラーであれば、地割れなどの危険極まりない技を習得して生まれてくる。どうかね?」
『うちは、粘り強く語りかければ克服できると思います。既に、この星で生まれた第一世代の子供達から数えて八世代に渡って、同じ一家にお世話になっています。生まれたて人間の子供は技こそ使えなくても、知能的には極めてレベルの低い状態。感情に支配された時期がありますが、それでも粘り強い親の声かけで緩和されます。
 ポケモンも同じだと思います。ただ、育て屋の規制や知能の低いポケモンを低いまま放置するだけでなく、レベルを上げ鍛える事で社会に組み込んで、人間との共生を図る事は可能だと思います』
 うちは、それだけ言うと管理局長が頷いたのでへたれこむ様に座った。

 そのあとの会議は、放心状態でよく覚えてない。後でママさんから聞いた話だと、育て屋の免許制と、トレーナーの基礎教育。ポケモン同士によるコミュケーション実験などの研究課題が次回の会議までの課題として決議されたという。


 うちは部屋に戻ると、緊張といつもより強い重力から来る疲れに負けて、床にへばりこんでしまった。
「いや〜。クリスティを連れてきて良かった。期待通りに、話を持って行ってくれたしね。後は、あなた自身の課題のテーマもできたんじゃないの?」
『テーマ……。自分であんな事言ってしまったし。小論文でやらないとダメだよね?』
「締め切りまでにうまく纏められれば、合格間違いないと思うけど?」
 あ〜。『ポケモン間による教育効果と限定空間でのポケモン自治』という、大学レベルの小論文を書く羽目になってしまった。うちはどうしたらいいのやら……。

 衛星タイタン。土星の周りを回る衛星。土星圏は変革期を迎えている。うちらポケモンも、自分達の権利を主張しないといけない。人間にくっついているだけの存在では、この宇宙では生きていけない。人間と肩を並べて、種族を超えた絆をさらに深めて、新しい時代を切り開かないといけない。うちが先陣を切る事になるとは二〇〇年前に地球を出る時には想像もしていなかった事だけど、これも運命なのかもしれない。

 宇宙に進出してポケモンと人間の関係は変わってきている。技術の進歩もあるけど、環境の変化もある。ここを乗り越えないと、うちらポケモンと人間は袂を分かってしまうかもしれない。
 これから先は読めない事が多いけど、未来なんて読めないもんだし。ここはひとつ一肌脱いでやってみよう。
外惑星航路への船団にご搭乗の皆様、間もなく船団は月を出港します。搭乗手続きをお急ぎください

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