7.土星の新たな住人へ

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スペースセツルメントって、簡単に言うと某機動戦士のコロニーですね。ただ、文中にもあるように、ジャイロ効果を打ち消さないといけないので2基でワンセットで描写されてないといけないのでしょうけど。まあ、それはそれとして到着です。
『間もなく本機は“スペースセツルメント一号基”発着場に到着します。減速の加重に備えてください』
 音量大きめの機内アナウンスで目が覚めて、座席のモニターにシートベルト着用のサインが出ているのに気がつく。うちは慌ててシートベルトを締めるけど、人間用のシートベルトがどこまで役に立つのかは正直分からない。
 ママさんはすでにシートベルトを締めて、座席のモニター越しにだんだん大きくなってくるスペースセツルメントを見ている。

 直径六キロメートル、全長三〇キロメートル。それが二基直列に繋がっていて、ジャイロ効果を打ち消すために一方は時計回りに、もう一方は反時計回りに回っている。
『大きい……』
 あまりの規模に、思わず単純な感想しか出てこなかった。
「そうね。この一つに人口八〇〇万から、一〇〇〇万人の住人が住むんだから。二つ合わせて二〇〇〇万人弱……。見て、今は真空だけど。空気タンカーが集まってきてる。近々、気密試験と空気注入が始まるのね。その後は、植物相と生態系の調整をして建物を建てて、地球に溢れかえる人々を受け入れる。火星でも、木星でも同じプロジェクトが進められてるけど、はるばる土星まで人間は何しに来るのかしらね……?」
 ママさんが言うように、空気タンカーが大小数十隻スペースセツルメント一号基と二号基の周りで漂泊している。そして、見える範囲では、何基ものスペースセツルメントの骨組みが形作られている。第二次移民団は5億人。タイタンは第二次移民団が来ると、その役割の大半をスペースセツルメントに譲って、小さな衛星都市圏として余生を過ごす事になる。
 それが二〇年先まで迫っているなんて想像がつかないし、今タイタンに住んでいる人口の三〇〇倍以上の人間が押し寄せてくる事も想像がつかない。土星圏はどうなってしまうのだろうか? それよりも、愛着のあるタイタンは寂れてしまうのだろうか?
「さてと、仕事終わらせて、さっさと帰りたいわね」
『管理局長との会談?』
「そう。まあ、クリスティを誘ったのも、小論文の題材にいいかなっていうのと、私のサポートして欲しかったていうのもあるしね」
『サポート? 何すればいいの?』
 シャトルが逆噴射を始めて、減速に伴う反動が全身を前へ押し出そうとする。
「大した事じゃないから、いつも通りにね!!」
『はあ?』
 あんまり多くを教えてくれないママさんに苛立ちを覚えつつも、初めて訪れるスペースセツルメントにうちは釘付けだった。モニターいっぱいに広がる建造物に、ぽっかりと空いた穴が入港口だった。減速しながら徐々に入港口に近づく、画面いっぱいの建造物はもう全容を捉えられない。

 ガイドビーコンにの流れに乗って、シャトルは土星圏最大の建造物の中に入った。入ってすぐに、ロボットアームに掴まれてドッキングハッチまで引っ張られていく。そして、ドッキングハッチに接続されると、扉のロックが解除されて乗客達はシャトルの外へ出て行く。うちとママさんもシャトルを出て、仮の到着ロビーに案内される。港の周りはすでに空気が入れられていて、空調も整っているみたい。
「さてと、一流ホテルはないけど。泊まる部屋は用意してくれているから、荷物を置きに行きましょう」
 ママさんが手にしたスマートフォンの案内を見ながら、作業員区画の貴賓室まで歩いていく。建設中とは言え既に回転する事で人工重力が生み出されている。もちろん地球の重力に合わせて一Gで。久々の重力感覚に体が悲鳴を上げているけど、タイタンの住民は、人もポケモンも一定以上の筋力を維持する事が健康診断で決められているので、そこまで苦にはならない。けど、荷物が重く感じてしまう。
 普段はここで建設作業なんかをしている人達が寝泊りする場所だけあって、設備はちゃんと整っている感じがするけど今は閑散としている。みんな、タイタンに帰ってしまっているからかな。
 貴賓室といっても、多少他の部屋より広くて調度品が整ってるだけで、確かにホテルと比べるものではないなあ。窓もないし、ちょっと大きめのテレビが一台と保安センターにつながる電話が一台。
 うちとママさんは荷物を置くと、ひとまず朝食を食堂で済ませて、到着した時の仮の到着ロビーに向かった。


 到着ロビーには役所のお偉いさんとか、建設現場の監督とかが揃っていた。
「これから、管理局長が来るから。まあ、普段通りに礼儀よくしててね」
『分かった。でも、うちが邪魔なら部屋に戻ってようか?』
 ママさんは静かに首を振る。周りの役所のお偉いさんや、現場監督達もポケモンを傍らに待機させている。人間達はどこか緊張した面持ちだ。ナナコが言っていた様に、今度来る管理局長というのは、ポケモンに対して厳しい人なんだろうか? でも、ここ土星圏では人間もポケモンも同等に近い権利を有している。そうしないと社会が回らないから。その事を、この人達は管理局長に訴えるつもりなんだろうか?
 ママさんはお偉いさん達の輪から離れた場所に立っているから、自然とうちも他のポケモンの輪から離れている。輪の中でどんな話が交わされているのか気になるけど、もう直ぐ管理局長が来るらしいので、おとなしくママさんの後ろで座っている。

 遠心力が生み出す人工重力のせいだけじゃない、なんとも言えない重たい空気が場を支配している。なんというか、しっぽ一本動かすのも憚れるそんな感じ。時々、視線を動かすと他のポケモンと視線が合うけど、互いに無言で頷く事しかできない。
続く

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