113話 闇討ち

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「ひぃっ! や、やめてくれ!」
「おいおい、冗談はよせよ。最初に俺様に対戦を持ちかけてきたのはどっちだったっけ?」
「おおお、俺です!」
「だよなぁ。だったらこうなるのは仕方ねーんじゃねえか? 単なる自業自得だろうが。さあ、幕引きだ。ゲンガーグレートでメガニウムグレートに攻撃。呪いの雫!」
 ゲンガーが黒い液体をメガニウム40/150に振り掛けると、メガニウムは苦しそうな悲鳴を上げて精一杯もがく。このワザは相手のポケモンにダメカン四個を好きなように乗せるワザ。すぐにHPを0/150としたメガニウムがその巨体を横に倒す。
「さらにここでゲンガーのポケボディーが発動する。カタストロフィー! このポケモンがバトル場にいる限り、相手のポケモンが気絶した場合そのポケモンをロストゾーンに送る。もっとも、これで俺のサイドは0枚になり、俺の勝ちなんだけどな」
 サイドを引くことによって勝負が決まりポケモンの映像が消えていく。すると間もなく対戦相手の男の体から、奇怪なことに橙色の光の粒が天に向かって飛んでいく。体から光の粒が出るたび、漸次男の体が薄れていく。
 ふと直感的に天に向かう光の粒を目で追いかけると、心なしか山の方へ向かっているような。あそこには有瀬達がいると言っていた。やはり何かがありそうだ。
「たっ、助けてくれ藤原!」
「助けろぉ? どうしろって言うんだよ」
「頼む! なんでもする! なんでもするか──」
 断末魔の途中で全てが絶え、対戦相手の男がいたところには何もなくなってしまう。
 有瀬とかいう野郎は負ければ消える、と言っていた。もしかして俺の能力(ちから)と同じような事をするのかなんて思っていたが、様子を見る限り違うな。俺のかつての能力は特定の対象を異次元に飛ばす。しかし今のはまるで人間のエネルギーを吸い取っているかのような……。
 そもそもこのイベントは参加者のメンツからして怪しさはあった。相棒は特に何とも思っていなかったようだが、会場にいる人間のほとんどが現能力者、或いは旧能力者だ。いつだったか松野に能力者のリストを見せてもらったときにしっかり記憶してきた。
 確かに俺も旧能力者だ。だとしたら翔達はどうしてここにいる? 思い返せば俺たちがここに来る原因になったのは翔の引越しを手伝った後、食事をしながら一之瀬に誘われたことが発端だ。
 俺だけを誘いたいのなら個別に言えばいい。きっと俺以外の他のメンバーも必要だったということか。
 当時そこにいたのは俺、翔、恭介、蜂谷、向井、石川、それと翔の姉。……もしも俺以外の他のメンバーが必要と考えれば、翔が目当てか。それに風見もついてきている。確かに翔も風見も能力者との対戦経験はあるが……。
 ダメだ、わからねえ。それでも一之瀬が関わっているのは絶対に間違いない。会場でも有瀬とやらの手伝いをしている姿を確認している。サクっと三勝をして本拠地に殴りこんで確かめるしか他はない。目隠しをされているようで、何から何まで気に食わない。
 何よりも気になるのは相棒がいないことだ。俺と相棒は一つの体で繋がっているのに、どうして俺が俺単体でいるんだ? 相棒は無事なのか? 一体何がどうなってるんだ。それにしても……。
「いるのは分かってるんだ。いい加減出てきたらどうだ」
 怒り交じりで乱暴に言い放つも、どこからも反応は返ってこない。今俺がいるのは薄暗い廃墟染みた場所で、確かに建物が遮蔽物になって隠れるには非常に好都合。だからってこの俺様の「感」を舐めるんじゃねえ!
「そこにいるのは分かってんだよ!」
 踵を素早く返し、足元にある石ころを背後の背の低いビルに向かって蹴り付ける。狙いは抜群、ビルのガラスが割れて驚いたような女の声がする。
 元々俺は精神だけの存在。特に自身に向けられた負の感情には気付きやすい性質だ。あのビルからのみ何かしらの嫌な気配があった。つまり誰かがいて、その狙いはおそらくデッキの盗み見か? 確かに対戦相手を自由に選べるんだから、倒しやすい相手を倒すのは理に適ってるがな。
 足音を聞きながら少し待つと、ビル陰から暗色系の服に身を包んだ一人の女が現れた。
「お前は……」
 見覚えがあるとかそんな次元じゃねえ。あいつは俺らのクラスメイト、黒川 唯だ。俺らとはつるんではいないが過去にも風見杯などで見かけた覚えはある。
 まだ恭介や石川がいるのは一之瀬から直接話を聞いたメンツだからという説明がつく。なのにどうしてこいつがここにいるんだ? 翔たちがアルセウスジムの話を黒川にしていた覚えはないが……。
「どうしてお前がここにいるんだ」
「どうしてとは愚問ね。それはこのイベントに参加してるからじゃない」
「……もしかしてお前も能力者か」
「あなたには関係ないわ」
 口では黒川はそう言ったが、表情には僅かに動揺が見られた。「そう」である可能性は十分にある。「そう」でなくても「それ」に関わってることは間違いなさそうだ。
「しかし人の戦いを覗き見するとは悪趣味なことをしてくれるじゃねぇか」
「何といわれようと構わないわ。主催者が何を考えてるか分からないけど、私には消えてなんかいられない理由があるの。私と戦いなさい」
 真っ直ぐに俺の目に飛び込んでくる闘志から、黒川の強い意志を感じる。
「その理由ってのを聞きたいところだな」
「あなたには関係ないわ」
「まーたその台詞か。……いいぜ、そこまで頑なになるんだったら力ずくで聞き出してやるしかねぇな。俺も自分のデッキを見られるだけじゃあいい気はしない。やるとなった以上はクラスメイトだなんて関係ない。手加減はしねぇぞ」
「それはこっちもよ」
 黒川の様子などから想定する限り、能力と負けられない理由ってのは繋がっている可能性も見える。こっちからすれば本当に黒川が能力者かどうかを聞き出して有瀬らの思惑を暴く手がかりが欲しい。翔がいればクラスメイト同士だからとかなんとか言って止めるかもしれないが、そんな甘いことを言うつもりは無い。
 有瀬らは本当に能力者だけを選んでいるのか? もしそうだとしたら能力の秘密か何かを知っている可能性がある。俺はどうしてもそれが知りたい。それを知ることで相棒の手がかりが分かるかもしれない。
『対戦可能なバトルテーブルをサーチ。パーミッション。スタンダードデッキ、フリーマッチ』
 俺の最初のバトルポケモンはマネネ30/30。ベンチにはゴース50/50。対する黒川のバトル場にはヨーギラス50/50。……そういえば恭介が黒川は悪タイプのデッキを使うと言ってたな。
 悪タイプは俺が使う超タイプのポケモンの弱点でもある。だから俺が脅したとき逃げずに俺の前に現れたのか。それでも俺のやることは変わらねえ。
「先攻はもらうぜ! まずはベンチのゴースに手札から超エネルギーをつけ、マネネのワザを使う。寝ぼけロスト。このワザの効果で相手の山札の一番上のカードをロストゾーンに送る」
 黒川がロストゾーンに送ったカードはエアームド。よし、悪くない。ロストゾーンに送られたカードはトラッシュとは違い、基本的に一切の再利用が出来なくなる。だが、エアームドがデッキに入ってるとはどういうことだ。エアームドは鋼タイプ。単に悪タイプのデッキではないということか。
「さらに寝ぼけロストを使ったマネネはワザを使った後眠り状態になる。そしてマネネはポケボディー、天使の寝顔の効果で眠っている限りダメージを受けることは無い! 俺の番が終わったことでポケモンチェックだ。コイントスをしてオモテならマネネが眠りから覚め、ウラなら眠りのままになる」
 コイントスの結果はウラ。これで次の番マネネがダメージを受けることは無くなった。
「では、私の番ね。ヨーギラスにダブル無色エネルギーをつける。続けてサポートカード、ぼうずの修行。このカードの効果で自分の山札を上から五枚見て、その中の二枚を手札に加える。そして残りの三枚をトラッシュする」
 何を加えたかまでは知ることが出来ないが、トラッシュされたカードは当然確認することが出来る。トラッシュされたのは不思議なアメ、エネルギー交換装置、鋼エネルギー。やはりエアームドがあるということは悪鋼の混合デッキと見て良さそうだ。
「あなたのポケモンに攻撃してもダメージを与えられない……。私の番はこれで終わりよ」
「マネネの眠り判定だ。……ウラか。けっ、まあいい。俺はまずサポート、ポケモンコレクターを使う。山札からたねポケモンを三匹加える。俺はゴース、バリヤード、ミカルゲを手札に加え、ゴース(50/50)をベンチに出す。さらに前の番にベンチに出していたゴースをゴースト(70/70)に進化させ、ゴースに超エネルギーをつける。……マネネが眠っている限りワザを使えない。俺の番はこれで終わりだ」
 続くポケモンチェックではまたしてもウラ。幸いダメージを受けないのはいいが、いつまでも眠られてばかりだと速攻に回れない俺が困ってしまう。
「私は手札から不思議なアメを使うわ。ベンチのヨーギラスを進化させる。出でよ、バンギラスグレート!」
 手元に現れた飴を舐めたヨーギラスの体から強い光が発せられ、そのフォルムを大きく変えていく。目前のマネネの何倍もの大きさへと変貌したバンギラスグレート160/160が右足で強く地面を踏みつける。
「エアームド(80/80)をベンチに出し、手札の悪エネルギーをバンギラスにつける。バンギラスでマネネに攻撃。必殺、パワークロー!」
「攻撃だと!? だがマネネはポケボディー、天使の寝顔で眠りの場合はダメージを受けねえ」
「パワークローの効果は、相手にかかっているあらゆる効果を無視してダメージを与える。つまりポケボディーが働こうとも攻撃は成立するわ」
 両手を枕にして眠り続けるマネネ30/30に構うことなく、バンギラスは大きな爪で切り裂く。パワークローの威力は60、マネネのHPはあっという間に尽きてしまう。
「サイドを一枚引いて私の番は終わりよ」
 まさかこんなに早くにバンギラスが出てくるとは思わなかった。バトル場に出せるようなポケモンがほとんどいねえ。仕方ない、ゴースト70/70をバトル場に出すしか無い。
「くっ、今度は俺の番だ」
 引いたカードはポケモンキャッチャー。良いね、良い風が吹いてきた。幸いにも黒川のベンチにはエアームドのみ。ここは一気に潰しに行く!」
「手札からグッズカード、ポケモンキャッチャーだ。お前のエアームドをバトル場のバンギラスと入れ替えさせる。さらにゴーストに超エネルギーをつけ、……こっちからも行かせてもらうぜ。闇より出でよ、ゲンガーグレート!」
 ゴーストを渦巻く黒い光が包み、黒い光のカーテンが間もなく解け、姿を変えたゲンガーグレート130/130が現れる。
「それがあなたのエースカードね。さっきの対戦で使っていた呪いの雫はダメカンを四つ乗せるだけの効果。いくらベンチポケモンに攻撃出来てもそれでバンギラスを倒すには四ターンかかるわ」
「ケッ、見られているというのが分かってて本気を出すヤツがいるか! 俺様はベンチにバリヤードを出し、ここでサポート、探求者を発動。その効果で互いのプレイヤーはベンチポケモンを一匹自分で選び、手札に戻す! 俺はバリヤードを手札に戻す。さあ、お前もベンチポケモンを選んで戻しな。まあ一匹しかいないけどな」
「……私はバンギラスを手札に戻す」
「不思議なアメで進化させたんだからもう一度育てるのは手間だよな。だが育てさせることもさせねえよ! ゲンガーのワザを使う。闇にぶち込む! 相手の手札を確認し、ポケモンがあるならゲンガーについている超エネの数までロスト出来る。今戻したばかりのヨーギラスとバンギラスグレートをロストしてもらう!」
 ゲンガーの影から伸びた長い腕が黒川の手札から二枚のカードを強制的にロストゾーンへ運んでいく。これで黒川のロストゾーンにあるポケモンは計三匹。
「エアームドには攻撃してこないの……? まあいいわ。私はまずイワーク(90/90)をベンチに出し、手札からグッズカードのクラッシュハンマーを使うわ。コイントスをしてオモテなら相手のエネルギーを一枚トラッシュする。……オモテなのでゲンガーの超エネルギーをトラッシュ!」
 赤い大きなハンマーが突然現れ、ゲンガーを押しつぶしてしまう。ゲンガーの体からこぼれた超のシンボルマークが一つ割れる。
「そしてサポート、オーキド博士の新理論を使用する。手札を全て山札に戻してシャッフル。そしてその後新たに六枚カードを引く。手札の鋼エネルギーをエアームドにつけて、エアームドでスチールコート。自分の山札から鋼エネルギーを一枚選び、自分のポケモンにつける。私はデッキの特殊鋼エネルギーをイワークにつけるわ」
 特殊鋼エネルギーは鋼タイプについていると受けるワザの威力を10減らすエネルギー。スチールコートは基本鋼エネルギーだけじゃなく特殊鋼も持ってこれるのか。もっともイワークは闘タイプだが、進化は時間の問題だな。
「俺様はバリヤード(70/70)をベンチに出し、サポートのチェレンを使う。その効果で山札からカードを三枚引く。グッズ、ポケモン通信を発動だ。手札のマネネを山札に戻し、山札からゴーストを手札に加えて山札をシャッフル。そして今加えたゴースをゴースト(70/70)に進化させる」
 今の手札はミカルゲとロストワールドの二枚。仕掛けるなら今行くか。
「バリヤードのポケパワーを発動。タネ明かし! その効果で手札を互いに見せ合う」
「手札を……見せ合う?」
 俺の意図が読めないのか困惑する黒川の手札はエネルギー交換装置、ダブル無色エネルギー、ぼうずの修行、ポケモンコレクター、特殊悪エネルギー。ポケモンが手札に無ければゲンガーの闇にぶち込むも効果を発揮できない。黒川の手札にポケモンのカードが無いと言うなら。
「ならばこいつでどうだ。俺はミカルゲをベンチに出し、この瞬間にミカルゲのポケパワーを発動。どろどろ渦巻き!」
 ベンチに現れたミカルゲ60/60が、要石から怪しい靄のようなものを噴出して黒川の手札を覆いこむ。このポケパワーの効果は相手の手札を全て山札に戻してシャッフル。その後手札を六枚引かせる効果を持つ。
「さっきから攻撃をしてこないなんてどういうつもり」
「へっ。本当は後のお楽しみのつもりだったが特別に見せてやる。俺は手札からこのスタジアムを場に出す。ロストワールド!」
 カードをセットすると同時に、激しい地鳴りが起こる。空が薄暗くなり、周囲の廃墟が一瞬にして消えて、俺達のいる場所も含め辺りにはいくつもの浮遊島が現れる。見上げた薄暗い空に奇妙な紫色のうねりが発生し、そこから稲妻が立て続けに降り注ぎ続ける。
「このスタジアムの効果を教えてやる。互いのプレイヤーは、それぞれ自分の番に相手側のロストゾーンにポケモンが六枚以上あるならば対戦を終了し、自分の勝ちを宣言出来る」
「……っ!」
「今お前のロストゾーンにポケモンは三枚。分かってるよな? さあ、ゲンガーのワザだ。闇にぶち込む!」



 どこを見ても果てしなく黒い空間で、有瀬と一之瀬はモニター越しにアルセウスジムの各プレイヤーの動きを見つめていた。
 二人の背後で怪しく輝くオレンジ色の球体は、うねりを起こしながらもゆったりと輝きを増し続けていく。
「そろそろ頃合いか。一之瀬、準備をするぞ」
 有瀬は指をパチンと鳴らすと何も無い場所に裂け目が生じ、そこからマッサージチェアーのようなゆったりとした大きな一人掛けの椅子が現れる。そして椅子を重心に、椅子の周囲に正三角形の白いラインが浮かび上がった。
 一之瀬は三角形の頂点にそれぞれ三つのデッキを置いて椅子に座り、それを見てから有瀬は再び指を鳴らす。今度は半球型の機械が現れて一之瀬の頭全体をすっぽりと覆った。次いで有瀬はそれぞれのデッキの上にスイクン、エンテイ、ライコウのフィギュアを乗せる。
「キャラクターの設定、ポイントチェック、移動は全て私が執り行う。君は来るべきプレイングの時まで待機をしてくれ」
「分かった」
「それでは始めよう。狩りの時間だ」
 有瀬が右の手のひらを強く握り締めると、三角形の頂点がそれぞれ青、赤、黄の三色に輝く。やがて光の束となり、有瀬が開けた空間の穴を通り抜けて──。



拓哉(裏)「今回のキーカードはゲンガーグレートだ。
      専用デッキの構築が必要になるが、
      ロストワールドとの相性は完璧だ!」

ゲンガー HP130 グレート 超 (LL)
ポケボディー カタストロフィー
 このポケモンがバトル場にいるかぎり、相手のポケモンがきぜつしたなら、そのポケモンをロストゾーンにおく。[ポケモン以外のカードはすべてトラッシュ。]
超 やみにぶちこむ
 エネルギーの数ぶんまで選び、ロストゾーンにおく。
超無 のろいのしずく
 ダメカン4個を、相手のポケモンに好きなようにのせる。
弱点 悪×2 抵抗力 無-20 にげる 0

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