111話 空間を越えた戦い

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「向井! 起きろ、向井っ!」
「……うーん」
 ようやく向井の声が聞こえたので、体を揺さぶらせた手を収める。向井は程なく上半身を起こして目をこすり、呑気に一つ大きなノビをする。
「ふぅ。全然目を覚まさないから怖かったぜ。脈はあるから安心はしてたんだけど……」
「あれっ、……恭介先輩。……ん? ここ、どこですか?」
「そんなの、俺が聞きてぇよ」
 辺り一帯広がる風景は、赤い砂で覆われた荒野。……だろうか。遠くの方には山が映っている。
 向井は立ち上がり、衣服に着いた砂を手で払うとキョロキョロと辺りを見渡す。
「確か先輩達とポケモンカードの非公認大会に出て、会場に行って──」
「そうそう。そこでいきなり変な光に包まれて、目を覚ましたらここに居た」
 しかもいつの間にか鞄が無くなってやがる。今手元にあるのはバトルベルトと、デッキを入れるケース。そしてポケットに入れていた家の鍵と財布。あとは会場で配られたオレンジ色のブレスレットだけだ。
 そうだ、確かこのイベントの主催者である有瀬とやらはいろいろ抜かしてやがった。
 誰でもいいから三勝して山に向かえ、と。山というのは遠方に映っているあの山だろう。それがこのイベントの勝利条件だったはずだ。……でも。
「負ければ消える……、だったか」
「でもそんなこと本当に出来るんでしょうか」
 向井が心配そうな顔をしてこちらを覗いてくる。そう言いたいのはもっともだし、俺だってそう思う。
「けど、俺たちが知らず知らずのうちにこんなところにいるんだ。どういう理屈かは分からないけど、そういうことが出来るなら本気で消すとか出来るかもしれない」
 言いだして、体が小鹿のようにガクガクと震え出す。頭の中ではもう少し前から分かっていたが、いざ口にすると改めて脳に叩きこまれてしまう。
 今ここにいるのは俺たち二人だけ。他の、翔や風見達はどうなっているんだろうか。……もしかしない事を祈るしか、俺たちには出来ない。



 俺、奥村翔と姉さんの二人は斎藤勝(さいとう まさる)という赤い髪を逆立てた青年と出会った。事を構えるかと思って緊張したが、そんな俺たちとは打って対極。彼は逆に協力をしようと手を差し伸べてきた。
 その申し出を了承し、当ても無く歩きながらも互い互いに自己紹介をする。どうやら斎藤さんは俺より三つ年上らしく、埼玉県からわざわざ来たらしい。そして今回の事に巻き込まれたらしいけど──。
「今回のこれも能力(ちから)が関係してるかも知れないなぁ」
 斎藤さんがどこに向けてでも無くポツンと零した言葉を、俺は聞き逃さなかった。
「……斎藤さんも能力のこと知ってるんですか?」
「まさか翔くんも。って聞くのは野暮だよな。オレは今のところ二人に会ったかな」
「俺は……実際に戦ったのは二人だけど、友人たちが戦ったのを含めたら四人ですね」
「四人もか!」
「ちょ、ちょっと待って。割り込むようで何だけど、能力って何?」
 姉さんが俺と斎藤さんの間に割って入るように口を挟む。そう言えば、姉さんには能力のことを一切話してなかったな。
 とりあえず二人で互い互いに知り得ている範囲での能力に関する知識を姉さんに伝える。ポケモンカードを介して発生する謎の能力であって、どういうことかは分からないがポケモンカードで負ければ能力は失われ、そもそも能力自体が本人の精神状態などによって大きく左右される。
「で、二人はその能力が今回の件に絡んでるって考えてるんだ」
「だってそれ以外に考えつかないだろ」
「うん。もっとも、この能力自体がオレ達の理解の範疇を越えているんだけど、実際にこうしたことが起きてる以上認めるしかない。……なぁ、翔クンが今まで会った能力者ってのはどういうヤツらなんだ?」
「そうですね──」
 まず一人目は山本信幸。PCCで俺と対戦した相手だ。四か月前の話だが、まだ記憶に新しい。ヤツの能力は倒した相手を植物状態、いわゆる脳死に追い込む危険極まりないものだった。
 続いては高津洋二。こちらは拓哉がPCCで対戦。ポケモンのワザの衝撃を相手にそっくり与えることが出来るらしい。しかもその衝撃を相手のどの位置に加えるかまで操作できる。お陰で拓哉は骨を折った(二重の意味で)。
 三人目は久遠寺麗華。風見がPCC以前に戦ったらしい。どうやら特定の相手の位置を知ることが出来るらしい。通信衛星みたいだ。他と比べると少々地味なのは否めない。
 最後に藤原拓哉。言うまでも無いが、俺の友人だ。拓哉、と言っても拓哉のもう一つの人格である通称拓哉(裏)は相手を異次元か何かに送り飛ばすことが出来るとのこと。俺たちからすれば相手を消しているようにしか見えないが──。
「あっ!」
 俺と斎藤さんは同時に声を出し、互いに指を指して見合う。
「これってその藤原ってヤツの大規模になった版じゃないのか?」
「ですよね。それっぽいんで……すけどそれだけじゃあ、全てが説明出来る訳じゃないですね。負けたら消えるっていうのは異次元に送るだけでは説明が難しい。それと、会場を閉め切られたときとか」
「能力がいくつもあるってことか?」
「うーん……。そう決めるつけるのはまだ。やっぱり本人に会って尋ねるしかないんじゃないですかね」
 歩き続けているうちに、違う地形に入りつつあるようだ。どこまでも平坦な草原から、無作為的に陰に入れば隠れそうなほど大きな岩が盛り上がっており、全体的にボコボコした地形に変わってきている。足元の小さな草むらはところどころハゲていて、空から見れば全体的に緑と茶交じりに見えるだろう。
「それより斎藤さんが会った能力者ってのはどんなのなんですか?」
「どんなのって。えっと、一人目はどんな相手だったかな。そうだ、一番近くに居る人の考えが分かる能力」
 いわゆる読心術。そんなのを相手にすれば倒すのは並大抵ではないだろう。それを倒した斎藤さんはタダ者では無さそうだ。
「で、もう一人が10分以内の未来を見ることが出来るやつだったかな」
 これも読心術並に厳しい相手だろう。というよりも、どちらも相手の手を読めるという点で非常に似通ってはいるが。
 と考えている時、突然岩陰から人が飛び出してきた。
「そいつは俺のことか」
「っ、でけえ……」
 首を上に傾けなければ顔を見れない程の大男が進路を阻む。あまりの大きさに、陽の光を一部遮ってさえもいる。百九十センチは軽そうだ。そういえばこの人はホールで閉じられた扉を真っ先に開けようとした男……。
 青いバンダナを頭に巻いたその大男は逆にこちらに数歩にじり寄ると、互いに足を止め閉口し合うが、やがて大男が切り出した。
「しばらくぶりだな」
「……お前も参加してるのか」
 さっきの言葉から察するに、この大男も元能力者ってか。しかし雰囲気からして穏やかには行かなそうだな。
「この前の借りを返させてもらう」
 取りつく島も無く、大男はバトルベルトに手をかける。が、一方の斎藤さんはバトルベルトに触れる様子は見せない。
「一度倒した相手なんぞ戦う価値も無いというものさ」
「あの時と同じ俺だと思うなよ」
「その言葉、そっくり返させてもらうね。さ、翔くん、雫さん。放っておいて行こうじゃないか」
 しっくり来ないモノはあったが、姉さんと顔を見合わせてから先に歩き出した斎藤さんの後を行こうとするも、素早く回り込まれてしまう。
「逃げるつもりか! ……俺と戦え!」
「逃げるつもり? ジョークとしても面白くないね。前と同じでないというならオレの前でそれを証明してみろよ。そしたら戦ってやる」
「証明だと……?」
「そうだ。そこの彼と戦ってね」
 そこの彼? この二人の男といったら俺だけじゃないか。
「ちょ、ちょっと待──」
「いいだろう。ならばこいつに勝てば俺の力を認めて再戦しろ、斎藤」
「ああ」
 人の意思を無視にも程がある。でも、もしここで俺が断ってみればこの変な話の矛先は姉さんに向くかもしれない。既に前々から能力の渦中にいた俺ならまだしも、姉さんに無理にリスクをなすりつけるわけにも行くまい……。
「はぁ……、しゃーない。その勝負、受けよう」
「ちょっと、翔。戦う、って負けたら消えるとか言ってるのよ?」
「でも戦わなくても制限時間まで決められてるんだ。いつかは戦わなくちゃならない。それが今なだけだ。……それに時間だって限りがあるんだ。無駄に費やす訳にもいかないし」
 姉さんはまだ色々と言いたげだったが、それよりもバトルベルトを先に起動させる。バトルテーブルとして変形したそれを一度ベルトから切り離し、デッキポケットにデッキを突っ込む。
「悪いね、面倒なことにさせて。……お手並み拝見と行かせてもらおうか」
「ん、斎藤さん。今何か──」
「えっ? いいや、何も。気は抜くなよ。オレの見る目が違ってなければ君なら大丈夫だと思うよ」
 人事みたいに言うなぁ。とにかく、今は目の前の相手に集中だ。有瀬の言う事が本当ならば負ければ消えてしまう。負けていい勝負なんてそうそう無いが、いつもよりなおさら負けられない。いずれにせよ当面の目標である有瀬の元にたどり着くためには三勝しないと行けないんだ。それが後になるか先になるかのだけ!
『対戦可能なバトルテーブルをサーチ。パーミッション。スタンダードデッキ、フリーマッチ』
「戦う前にお前の名を聞いておこう」
「奥村翔。そういうアンタは?」
「俺の名前は宮内誠司(みやうち せいじ)。お前には恨みは無いが、俺の邪魔をする以上全力で叩きのめしに行くぞ」
「出来るものならな!」
「ほう。良い度胸だ」
 俺のバトル場にはヒノアラシ60/60、ベンチには同じくヒノアラシ60/60とロコン50/50。対する宮内のバトル場にはスコルピ60/60とカゲボウズ60/60。どちらも超タイプだが、スコルピは進化すると悪タイプになるか。
「先攻は俺がもらうぜ。まずはバトル場のヒノアラシに炎エネルギーをつけ、サポートのエンジニアの調整を使う。手札の炎エネルギーをトラッシュして山札からカードを四枚引く」
 手札の状況は決して悪くない。が、良いとも言い難い。宮内がどういう戦法を取ってくるかが分からない以上は平常通りやるしかないか。
「ヒノアラシで叩く攻撃」
 ちょこちょこと駆け足でスコルピの元まで行ったヒノアラシが、右手を振り上げスコルピ50/60に叩きつける。威力は10だがたねポケモンだということを考慮すれば仕方あるまい。
「ふっ、大したことは無いな。今度はこちらからだ。まずはサポート、ポケモンコレクター。自分の山札のたねポケモンを三枚手札に加える。俺はデルビル、ベトベター、アンノーンの三枚を加え、うちデルビルとベトベターをベンチに出す」
 ベンチのカゲボウズを挟むようにデルビル50/50とベトベター60/60が現れる。やはり悪、超の混合デッキと見て間違いは無いようだ。
「ダブル無色エネルギーをスコルピにつける。このエネルギーは一つで無色エネルギー二つ分として働く。さあ、スコルビで攻撃だ。万力痺れ!」
 スコルピはヒノアラシに近づくと、両腕を大きく広げ、
「万力痺れはコイントスを行い、ウラの場合は失敗する。……オモテだ」
 勢いをつけて両腕でヒノアラシを挟む。食い込んだ爪から何か液のようなものが滴っている。解放されたヒノアラシ30/60は、体を埋(うず)めて縮こまってしまった。
「このワザを受けたポケモンはマヒ状態になる。そしてマヒ状態のポケモンはワザを使う事も逃げることも出来ず、次の貴様の番の後のポケモンチェックが終わるまでその状態のままだ」
 マヒはあらゆる状態異常の中でも凶悪な部類だ。だが、それ以上にまだ二ターン目だというのにいきなり30ダメージも受けるのはあまりに想定外だ。
「まだまだ! 勝負は始まったばかり。俺はまずヒメグマ(60/60)をベンチに出し、ヒノアラシをマグマラシに進化させる」
 こうしてマグマラシ50/80に進化してしまえば状態異常から回復出来る。回復出来るのだが、懸念事項が一つある。
 ここで今マグマラシに炎エネルギーをつけたところで手札にバクフーン、或いはそれを呼び寄せるカードが手元に無い。もし次の番再び万力痺れを受けてマヒになってしまえば抵抗出来ずに気絶してしまう。ならば……。
「ベンチのヒノアラシに炎エネルギーをつけ、俺の番は終わりだ」
「消極的だな。だが、良い判断だ」
「どういうことだ」
「ふっ。俺はまずスコルピに悪エネルギーをつけ、スコルピをドラピオン(90/100)に、カゲボウズをジュペッタ(80/80)に進化させる。続けてドラピオンでマグマラシに毒々のキバァ!」
 ドラピオンは口から生えた鋭い牙でマグマラシの腹部にガブリと一撃。このワザの威力は40か。マグマラシ10/80は首の皮一枚で助かった、か。
「さらにコイントスをしてオモテなら相手を毒状態にする。この毒はポケモンチェックの度に乗せるダメカンの数が二つになる。……オモテ」
「なっ! ま、また状態異常!?」
 ドラピオンの牙から紫色の不気味なエキスがマグマラシ10/80の体に流れ込む。
「俺の番が終わったことでポケモンチェックだ。毒のポケモンはダメージを受ける」
 マグマラシ0/80は身を悶えさせ、やがて力無くその場に倒れ伏す。
「そいつは今みたいに特殊状態を多用するぞ! 気を付けろ」
 斉藤さんが後ろから声をかけてくれる。特殊状態か。マヒ、毒……。成程、その大きな体に似合わず中々トリッキーなことをしてくれる。
「マグマラシが気絶したことで俺はサイドを一枚引く」
 しかし問題は次に出すべきポケモンがいない。ロコンは非戦闘要員だ。ヒメグマはエネルギーがついていない。……となると消去法でヒノアラシになるか。
「俺はヒノアラシをバトル場に出す。今度は俺の番だ!」
 引いたカードはキュウコン。よし、上手くチャンスにつなげよう。
「ベンチのロコンをキュウコン(90/90)に進化させ、キュウコンのポケパワーを発動。炙り出し!」
 炙り出しは手札の炎エネルギーをトラッシュすることで山札からカードを三枚引く事が出来るポケパワー。今引いたのは不思議なアメ、チェレン、フラワーショップのお姉さん。……これだけではまだチャンスに繋げられない。
「サポート、チェレンを発動! その効果でさらに三枚カードを引く。……来たっ! 続けて不思議なアメを発動。たねポケモンを手札の二進化ポケモンに進化させる。俺はヒノアラシをバクフーングレートに進化!」
 ヒノアラシが突如現れたアメを飲み込むと、体から眩い光を放ちバクフーン140/140へ進化を遂げ、ドラピオンへ威嚇するように背中から炎を噴き出して咆哮する。
「ここでバクフーンに炎エネルギーをつけ、ポケパワー、アフターバーナーを発動。トラッシュの炎エネルギーを自分のポケモンにつけ、その後そのポケモンにダメカンを一つ乗せる。俺はバクフーンに炎エネルギーをつける」
 バクフーンの足元から火柱が巻き起こり、その姿を飲みこんでHPバーを130/140へと僅かに減らす。その代わりこれで先の番のを含めてエネルギーが三つ。これでワザを使えるってもんよ。
「一発ぶちかませ! フレアデストロイ!」
 バクフーンの右腕に炎が集まり、大きく踏み込んでドラピオンに飛びかかる。叩きつけるように燃える右腕で灼熱の一撃を与えると、二匹を起点に爆発が発生する。
「フレアデストロイの効果で、互いのポケモンについているエネルギーを一つずつトラッシュする。バクフーンの炎エネルギーと、ドラピオンのダブル無色エネルギーをトラッシュ!」
「なっ、何!?」
 このワザの威力は70。これでドラピオンのHPは20/100まで大きく殺いでやった。
 ドラピオンの毒々のキバのワザエネルギーは悪無無。もう一度ワザを使うにはダブル無色エネルギーを引き当てていなければ攻撃は出来まい。ワザを喰らわねば状態異常にはなるまい。
「多少はやるようだな。だが、その程度で状態異常をかわしきったと思うなよ。俺はアンノーン(50/50)をベンチに出し、この瞬間にポケパワーを発動。DARK!」
 ベンチに現れた四匹のアンノーンが順番に並び、黒い光を放つ。不気味なそれについつい反射的に左手で顔を覆い、光から目を守る。
「このポケパワーの効果で山札から悪エネルギーを手札に加えることが出来る。俺は特殊悪エネルギーを加え、ベンチのデルビルにつける」
 特殊悪エネルギーは悪ポケモンについていると、そのポケモンが使うワザの威力を+10にするエネルギー。それをデルビルにつけたということは今バトル場にいるドラピオンを壁にするつもりか。
「ここでデルビルをヘルガーグレートに進化!」
 デルビルの体が大きく変わる。凶悪な角を生やしてより強靭な両足で地を踏みならし、ヘルガー110/110は低い唸りを響かせる。
「ヘルガーのポケパワー、バーニングブレスだ! コイントスをしてオモテなら相手を火傷にする。……オモテだ」
「まっ、また状態異常か」
 息を深く吸い込んだヘルガーが真っ赤な息をバクフーンに吹き付ける。息を吸い込んだバクフーンは苦しそうに体勢を大きく崩した。
「さらにサポート、チェレンを使い、山札からカードを三枚引いて俺の番は終わりだ。だが、続いてポケモンチェックだ。火傷状態のポケモンはポケモンチェックの度にコイントスをし、ウラなら20ダメージを受ける!」
 宮内のバトル場にいるドラピオンは、俺が前の番にフレアデストロイでエネルギーを削ったためワザを使えない。が、ワザを使えなくとも状態異常によってダメージを与える……。
 状態異常を治すためには進化等をさせるか、ポケモンを入れ替えるか。俺のポケモンは逃げるエネルギーが全体的にやや多めの傾向があるため、最悪の相手とも言える。そして宮内はそこを逃さないと言わんばかりにとことん嫌なプレイングをしてくる。
 火傷の判定は……ウラか。バクフーンの体が一瞬炎に包まれ、HPバーが110/140まで減少する。
「これくらい! 俺の番だ。……っ」
 今引いたのはリングマグレート! 俺のデッキは基本的にはバクフーンのポケパワー、アフターバーナーでトラッシュの炎エネルギーを自分のポケモンにつけてエネルギー加速を図るデッキだ。しかしアフターバーナーによって炎エネルギーをつけたポケモンはダメカンを一つ乗せなければならない。相手が状態異常を使ってくるデッキである以上、無理してダメージを受ける訳には行かないか。
「まずはベンチのヒメグマにダブル無色エネルギーを付け、リングマグレート(120/120)に進化! さらにポケパワー、アフターバーナーの効果でリングマにトラッシュの炎エネルギーをつけ、ダメカンを一つ乗せる。そして、バクフーンの炎エネルギーを二つトラッシュしてバクフーンをベンチに逃がす!」
 出費は痛いがここは我慢だ。ベンチに戻ることでバクフーンの状態異常は回復。そしてバトル場へ行くリングマ110/120が、ドラピオン20/100と対峙する。
「リングマでドラピオンに攻撃。アームハンマー!」
 両手を組み合わせたリングマは、それを真上に振り上げてから勢いを付けてドラピオンに叩きつける。リングマのポケボディーの暴走は、リングマにダメカンが一つでも乗っていればワザの威力が+60される。アームハンマーの元の威力は30なので、ドラピオンが受けるダメージは30+60=90。これでドラピオンを仕留めたが、まだだ!
「アームハンマーの効果を発動」
「効果だと?」
「相手の山札の一番上のカードをトラッシュする!」
 宮内がトラッシュしたカードをモニターで確認する。カゲボウズか。たねポケモンをトラッシュできればその進化系のカードは役に立ちにくくなる。良い感じだ。
「サイドを一枚引いて俺の番は終わりだ」
 次に宮内がバトル場に送り出したのはベトベター60/60。HPは高くないから、上手く行けば一撃で沈められるかもしれない。
「今度は俺の番だ。行くぞ!」



 今回このイベントのために持ってきたオレのデッキでは宮内の状態異常デッキとは非常に相性が悪い。翔君には悪いが身代わりに戦ってもらうように仕向けた。それに……、いや、今はいいか。
 しかし最初は劣勢だったが少しずつ盛り返しているな。とはいえ今のままではまだまだ宮内の術中と言って良いだろう。言っていただけのことはある。前よりも質は向上しているようだな。
 とは言ったものの今回の宮内はオレが戦った時とは違って能力が失われているというハンデまでついている。そんな条件があるのだから勝ってもらわないと困る。オレがやり合ったときは10分以内の未来を自由に見られていた。いくら手を変えても先を予見されそれに対応してくる。まあその程度の能力は通用しなかったが……。
 事故でスポーツ選手生命を断たれる怪我をして、もしも事故を回避出来たらという負の感情から産まれた能力だったか……。まあ知ったこっちゃない。
 いずれにせよここで消えてくれる運命だ。そんなヤツのことよりも先の事を考えないとな。
 さあどうする奥村翔。能力者を倒したことがあるというその実力見せてもらおうか。



「俺はグッズカード、ポケモン通信を発動。手札のジュペッタを山札に戻すことでベトベトンを手札に加える。そしてベトベターに超エネルギーをつけてベトベトンに進化する!」
 バトル場に出たばかりのベトベターが、息つく間もなく巨大なヘドロの塊、ベトベトン100/100へと進化した。今までの宮内の動向から察するに毒……か?
「ヘルガーのポケパワー、バーニングブレスを発動。……ウラが出たので失敗か。ならばベンチにベトベター(60/60)を出し、グッズカードのディフェンダーを発動。そしてベトベトンで攻撃だ。引きずりヘドロ!」
 ベトベトンの体からヘドロが川の水のように流れて、俺の場の方まで静かに忍び寄る。バクフーンの足元までたどり着くとヘドロが大きくうねりだして腕の様になり、バクフーンをがっちりと拘束する。
「なっ、どうしてベンチのバクフーンが!」
「このワザは相手のベンチ一匹を選択し、バトル場のポケモンと強制的に入れ替えた上でそのポケモンを毒と混乱にする」
「くっ……!」
 折角さっきの番に逃がしたばかりなのに引きずり出されてしかも状態異常だと? また状態異常を回復させるにはベンチに戻さなくちゃならない。
「俺の番が終わったことでポケモンチェックだ。毒のポケモンはポケモンチェックの度にダメカンを一つ乗せる」
 バクフーン100/140が微かに呻き声を出して苦しむ。一度に受ける毒のダメージは小さいが、混乱が厄介だ。
 混乱のポケモンはワザを使う時にコイントスをしてオモテなら特に何もないが、ウラの場合はワザが失敗した上に30ダメージも受けてしまう。下手に攻撃しようとすればただでは済まない。下手に攻撃出来ない以上、取る手段はやはり限られる。
「次は俺の番だ。俺はまずバクフーンに炎エネルギーをつけ、さらにポケパワー、アフターバーナーをバクフーン自身を対象に発動。トラッシュの炎エネルギーをバクフーンにつけ、ダメカンを一つ乗せる。そしてバクフーンの炎エネルギーを二つトラッシュしたことでベンチに逃がし、リングマをバトル場に戻す!」
 残念だがいずれにせよバクフーン90/140のエネルギーではワザを使う事すら出来ない。だからと言って放置するわけにもいかない。
 そして新たにバトル場に出たリングマについているエネルギーで使えるワザはアームハンマーのみだが、ポケボディーの効果で与える威力は90。そしてベトベトンのHPは100……。もらった!
「プラスパワーを発動。相手のポケモンに与えるワザの威力を10プラスする。一撃で決めろ、アームハンマァー!」
 振り上げた拳がベトベトンを打ち砕く。……はずだが様子がおかしい。
「ベトベトンが気絶していない……? どっ、どういうことだ」
 宮内のバトル場ではベトベトン20/100が腕で殴られた頭部をさすっている。本来なら気絶させていて、そんな呑気な素振りも出来ないはずなのに。
「俺は前の番に、グッズのディフェンダーを発動していた。この効果により、ベトベトンが受けるダメージを20軽減していたのだ。お前のアームハンマーの効果で俺は自分の山札の一番上のカードを……、ポケモンキャッチャーをトラッシュする」
 つまり、結局ベトベトンに与えられたのは30+60+10-20=80ダメージってことか。こうなればまた宮内はベトベトンの引きずりヘドロを使ってくるのは分かっている。
 だがアフターバーナーと俺の手札に炎エネルギーがある限り、俺は現在主戦力となっているリングマにエネルギーを付けられないだけで逆に宮内自身が蓄積するダメージの方が大きくなる。得をすることはないはずだが……。
「さあ、俺はヘルガーのバーニングブレスを発動。……オモテが出たので成功だ、リングマを火傷状態にする」
 しかし成功したとはいえ、どうせリングマ110/120を火傷状態にしたところで引きずりヘドロをすれば、ポケモンが入れ替わるので火傷が回復してしまう。
 もしかして何かあるのか? それともたまたま使っただけなのか?
「俺が同じ手ばかり使うと思うなよ。ダブル無色エネルギーをベトベトンにつけ、再びディフェンダーを発動する」
「エネルギーを付けた? ってことはまさか他にもワザが──」
「その通りだ。やれぇ! 追撃攻撃!」
 ヘドロの塊を右腕に集め、腕を太くしたベトベトンが、それを自在に操り強烈なパンチをお見舞いさせる。リングマ30/120の体は簡単に宙を浮き、ベンチのキュウコンの手前まで吹き飛んだ。
「追撃の威力は50だが、相手が特殊状態であれば威力を30追加する」
「さっきのバーニングブレスはこのために」
「その通りだ。そしてポケモンチェック、火傷の判定をしてもらおう!」
 判定は……ウラ。さらにリングマ10/120はダメージを受けて窮地に追いやられる。
「どうした、お前の番だ。次のポケモンチェックで火傷のダメージを受けるのが怖いならベンチに逃がせばいい。今までと同じようにな」
 確かに俺の番の後のポケモンチェックで火傷のダメージを負えばリングマは気絶してしまう。とはいえ宮内の言うようにリングマをベンチに逃がしたところでベトベトンを気絶に追い込むようなワザを使えるポケモンはいなくなる。
 逃げればエネルギーが削られ、攻めれば状態異常に苦しむ。どちらにせよ思うように自分のペースを作ることが出来ない。
 これが、宮内の本当の状態異常コンボ……!



翔「今回のキーカードはベトベトンだ。
  引きずりヘドロで引きずるポケモンは自分で選べるのもポイント。
  追撃して大ダメージを与えるのも良し!」

ベトベトン HP100 超 (L2)
超 ひきずりヘドロ
 相手のベンチポケモンを1匹選び、バトルポケモンと入れ替える。その後、新しく出てきたポケモンをどくとこんらんにする。
超無無 ついげき  50+
 相手のバトルポケモンが特殊状態なら、30ダメージを追加。
弱点 超×2 抵抗力 - にげる 3

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