109話 削られた希望R

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 一之瀬和也。前々から嫌な感じがすると思っていたけど強(あなが)ちそれは間違いでもないかもしれない。
 親友の森啓史の名前を一之瀬が口に出すのを街中で聞きつけ、また何か企んでるのではないか。そう思った俺、杉浦孝仁は一之瀬を追いかけ、一之瀬と情報を懸けて対戦することになった。
 しかし一之瀬の手札破壊、ハンデスコンボに手札もリズムもボロボロにされてしまった。経験の差が歴然とし過ぎている。
 互いにサイドは三枚で、今の俺のバトル場にはダブル無色エネルギー、レインボーエネルギーがついたポリゴンZ100/110。ベンチにはバルジーナ30/90と、コバルオン110/110、バルチャイ60/60。
 一之瀬のバトル場には悪エネルギーがついたサメハダー10/90、ベンチにニューラ60/60、デルビル50/50。
 さらにハンデス対策としてあらかじめ手札を0にしたのだが一之瀬は、まるでそれを嘲笑うように話す。
「手札を使いきれば僕のハンドデストラクション、ハンデスコンボを防げると思ったのは大きな勘違いだ」
 完璧だと思ったはずの俺のアイデアが、一之瀬にちょんと正面から突き崩される。そんなバカな。どうやって。
「そんな様子でどこまで僕に刃向かえるのかな。さあ、行くよ。僕のターン。……サメハダーについている悪エネルギーをトラッシュし、ベンチに逃がす。そして控えていたデルビルをバトル場に出す。君の策を上回るためのカードはこれだ。サポートカードの探究者を発動!」
「し、しもたっ!」
「その効果で互いのベンチポケモンを一枚手札に戻す。僕は今ベンチに戻したばかりのサメハダーを手札に戻す」
 またか。前にも同じ手でダメージを与えてあと一歩まで追い詰めたマニューラを戻されてしまった。そして確かにこうすれば強制的に手札が増える……。
 バルジーナ30/90を戻せばバルジーナのHPは回復する。でも一之瀬はハンデスを前提に探究者を発動しているはず。
 既にバルジーナの一枚は一之瀬にトラッシュされているので、実質これが最後のバルジーナだ。もしバルジーナをトラッシュされれば大幅に戦力がダウンしてしまう。
 だったらバルチャイか? バルチャイなら戻してトラッシュされたところで大きな痛手は無い。でも、バルジーナがトラッシュされると決まったワケでもないし。
 ダメだ、どうすればいいかが全然わからへん。ゲームのポケモンバトルとは違うこの読みあいが、慣れない。
「お、俺はバルチャイを戻す」
「良いね。その読み、それが正解だよ。僕はニューラをマニューラ(80/80)に進化させ、ポケパワーのスナッチクロー。相手の手札を一枚トラッシュさせる。今戻したバルチャイをトラッシュしてもらおう」
 スナッチクローは相手の手札を確認した上でカードをトラッシュさせることが出来る。もしもバルジーナを戻していれば、確実にバルジーナをトラッシュさせられていた。
 一之瀬がかつてマニューラを探究者で手札に戻していたんだから、マニューラが手札にあったことは自明。なるほど、これは予見出来た場面だったんだ。
 偶然でなんとか被害は最小限に抑えられたは良いものの、状況は勿論のことに好転しない。一之瀬は今戻したばかりのキバニア50/50をベンチに出すと、続けてグッズカードを発動する。
「グッズカード、ポケモンキャッチャーだ。その効果で君のベンチのポケモン一匹を強制的にバトル場に出す。そのコバルオンを出してもらうよ」
 一之瀬の場から突如飛び出した捕縛網がコバルオン110/110をひっ捕らえ、ポリゴンZに変わって無理やり引きずり出されてしまう。
「さらにクラッシュハンマーを続けて発動。コイントスをしてオモテなら、相手のエネルギーカード一枚をトラッシュする。……オモテ、君のポリゴンZのレインボーエネルギーをトラッシュ」
 ポリゴンZの頭上に大きな赤いハンマーが現れ、ズシンと重い一撃と共にポリゴンZを叩きつける。
「うわっ!」
 それと同時に発生した突然の風のエフェクトに、両手で顔の周りをバリケードして耐える。まずい、レインボーエネルギーはこれで二枚ともトラッシュに送られた。
 ポリゴンZの得意の一撃である怪しい光線βはレインボーエネルギーがないとあらゆるデメリットを受けてしまう。それを見越してのトラッシュ、ダメだ。狙われることは分かっていたとはいえ強すぎる。
「更に悪エネルギーをデルビルにつけ、飛び付く攻撃。元の威力は10だけど、コイントスをしてオモテの場合は威力を10加算する。……オモテ、20ダメージだ」
 ガウ、と一鳴きし、明らかに背丈の違いすぎるコバルオンにも臆せずデルビルは飛びかかって右足に噛みつく。
 痛そうにデルビルを振り払うコバルオン90/110。いくら一之瀬が強いとはいえ、一之瀬のポケモンのワザの威力が低いのがかろうじての救いか。
「俺のターン。ドローや! まずはポリゴンZのポケパワー、次元転送を発動。自分の番に一度だけ使え、コイントスをしてオモテならトラッシュに存在するグッズカードを一枚山札の上に置く。……ウラ、不発やな」
 にしても。
 あまりにも痛すぎる展開だ。手札には鋼エネルギーが一枚だけ。このエネルギーをどちらにつけるべきなのか。
 ポリゴンZにつければ怪しい光線βは使えるものの、コバルオンがバトル場から逃げられない。
 かといってコバルオンにエネルギーをつけてもコバルオンはエネルギー一枚ではワザは使えず、逃がしても逆にポリゴンZがエネルギーが一枚足りなくて攻撃出来ない。
 どちらにせよあんなにHPが低いポケモンがバトル場にいる絶好のチャンスなのに、攻撃が出来ない!
 上手い具合に雁字搦めにされてしまった。どうしていいのかまるで見当がつかない……。
「お、俺はコバルオンに鋼エネルギーをつけて、ターンエンド」
「僕の番だね。さて、まずはキバニアをサメハダー(90/90)に進化させ、サメハダーに悪エネルギーをつける。再びデルビルで飛びつく攻撃だ」
 これで一之瀬も全ての手札を使いきった。またもコイントスはオモテで、コバルオン70/110にダメージが蓄積していくもののまだ倒される心配はない。攻めるなら今しかない。
「俺のターン! よし、悪エネルギーをコバルオンにつけて、ポリゴンZのポケパワーをもう一度発動。次元転送。……またウラかい。でもこれでエネルギーが溜まって攻撃出来んで! メタルホーン!」
 駆け出したコバルオンは硬化した二つの角で弾き飛ばすようにデルビル20/50の体を一之瀬の手前まで押し出す。バトル場に戻ろうと、倒れた姿勢から立ち上がろうとしたデルビルだが、そうする寸前、膝がカクンと揺れて再び横になってしまう。
「メタルホーンを受けたとき、相手はバトルポケモンを入れ替えへんとアカン。さあ、替えてもらうで」
「……なら僕はサメハダー(90/90)をバトル場に出す」
 メタルホーンの威力は30しかないし、よりHPの高いサメハダーを場に舞い戻らせてしまったものの少なくとも多少は流れを変えれたかもしれない……。
「僕の番だ。……どうしようかな。いいや、気にせず行こう。僕はサポート、ジャッジマンを発動。互いの手札を全て山札に戻し、その後手札が四枚になるまでカードを引く。もっとも、互いに手札は0だけど」
 シャッフルをするだけしてカードを四枚引く。今まで手札を減らす戦術をし続けていた一之瀬が突然手札を引かせた。もちろん何かあるかもしれない。
「僕は新たにデルビル(50/50)を出し、今出したデルビルに特殊悪エネルギーをつける。このエネルギーが悪ポケモンについている限り、このポケモンのワザの威力は10足される。そしてサメハダーでコバルオンに攻撃。身ぐるみ剥がしだ」
 身ぐるみ剥がし、威力自体は20だけどコイントスを二度してオモテが二回出れば手札を全てトラッシュされてしまう。
 もしかしてジャッジマンでわざわざ引かせたのはここで手札を全てトラッシュさせるつもりだからか。
「……ウラ、オモテ。失敗か、それでもコバルオンにダメージは受けてもらう」
 なんとか手札を守りきった。コバルオン50/110の残りHPがついに半分を切ったけど、待ち望んでいた好機がようやく来た。まだまだ出来る、行ける!
「俺のターンや! 手札の鋼エネルギーをコバルオンにつけて、ポリゴンZの次元転送をもう一度発動! ……オモテ、よし。これでトラッシュにあるポケモン入れ替えを山札の一番上に置くで。そんでコバルオンで攻撃。聖なる剣!」
 このワザは威力100の大技だけど、その代わり次の番に聖なる剣を使うことが出来ない。それでもここで使わなきゃいつ使うんだ。これ以上一之瀬の好きにはさせない!
 コバルオンの鋭い一閃がサメハダー0/90にクリーンヒット。サメハダーは力無く崩れ、倒れていく。
「よし、やっと倒せた! サイドを一枚引いてターンエンドや!」
「いいね。完全試合を狙ってたけど、君がそこまで喰らいついてくるとは正直思って無かったよ。僕は前の番に出したばかりのデルビルをバトル場に出す。君のその本気に敬意を称して、僕も僕なりに全力で行かせてもらうよ」
 デルビル50/50がバトル場に出たと同時に、何と言えばいいのか、そんな簡単なモノではないが、強いて言うなら一之瀬の雰囲気がガラリと変わったような。今まで以上に嫌な予感がする。
 逃げろ、という警告が心のどこかから聞こえてくる。脚が竦む。いいや、落ち着け。俺にはコバルオンがいるし、ポリゴンZだっている。まだそんなに焦るところじゃないはずだ。それに比べて相手は小粒。慌てるところじゃない。そうだ、慌てるところじゃないんだ。だから落ちつけ俺!
「今度は僕のターンだ。ますはサポート、ロケット団の手口。僕はカードを二枚引き、君はカードを一枚捨てる」
「だ、だったらチェレンをトラッシュや」
 既にデッキの残りは僅か。チェレンなんて使えば山札切れになって即死してしまう。これを捨てるのは当たり前だ。ちゃんとプレイ出来てるぞ俺。
 いや、……もしかしてさっきジャッジマンで引かせたのも山札切れをも視野に入れてのプレイなのか?
「僕は二枚目の特殊悪エネルギーをバトル場のデルビルにつけ、ベンチのニューラをマニューラ(80/80)に進化させる。そして進化したタイミングでマニューラのポケパワー、スナッチクローを発動。相手の手札を確認して一枚トラッシュする。……そうだね。僕はポケモンキャッチャーをトラッシュさせる」
「ぐっ!」
 次の番ポケモンキャッチャーを使って一之瀬のベンチにいるデルビル20/50を引きずり出し、メタルホーンでトドメを刺すつもりだったのに! 他の手札は全てトラッシュもされても良かっただけに、また苦しい展開を強いられる。
「さて」
 そう一言置いた一之瀬は急に手首や足首、首を回しだす。跳躍も少し挟んでいきなり準備運動のような動きをする一之瀬に、戸惑いが隠せない。何をするつもりなんだ。
 右手を左胸に当てた一之瀬は、一つ、二つと深呼吸をした後再び構えなおす。
「君には悪いが、『僕なりの本気』、オーバーゲートで君を迎え撃つ」
「お、おーばーげーと? ってうわっ!」
 突然のことに思わず反応が遅れた。バトル場のデルビルの体がレーザーのような鮮やかな黄緑の眩い閃光をあらゆる方向に向けて繰り出す。眩しさに目を閉じそうになるが、右手で目をカバーしながら僅かに異変を起こしたデルビルを伺う。
 デルビルの体が全て黄緑色に包まれると、閃光の放出が収まり鮮やかな黄緑の球体に収まる。その球体にはまるでプログラムのような、幾何学的なものがいくつも浮かんでいる。不気味、一言で言えばそんな感じだった。
 異変に追い討ちをかけるように、球体に向けて右手を伸ばした一之瀬が声高に叫び出す。
「アクセス開始! D1からD2へ、 WW(ダブルダブリュー)経由! パターン『E』、リミットナインティ。対象の確認、移転前と移転後の各座標のチェック。……OK! パワーコントロール。進行状況チェック、73、86、100%! 闇色の衣その身に纏い、次元を超えて力を放て! オーバーゲート! エボルブ、ヘルガー!」
「うわっ!」
 黄緑の球体が爆発したかのように光が放出され、思わず声を漏らしてしまう。球体の亀裂からヘルガー90/90が飛び出し、ようやく光が収束して消えていく。ヘルガーはグオオオオと大きな咆哮を上げて威嚇し、コバルオンと対峙する。
「な、何が起きてん!?」
「ヘルガーでコバルオンに攻撃だ。さあ、その力を見せ付けてやれ。ダークロアー!」
 深く息を吸い込んだヘルガーは、登場したとき以上の力強い咆哮で衝撃波を生み出していく。なんてすごいエフェクトなんだ。思わず俺まで吹き飛ばされそうな──。
 バキッ、と嫌な音が左前方で聞こえた。遅れてやってきた腐臭に思わず目が行くと、そこにあったはずの青いゴミ箱が大破し、中のゴミが転がっている。まさか今のヘルガーの攻撃のエフェクトのせいで?
 そちらに目を奪われていると、HPが尽きたコバルオンがズシンと音を立てて倒れる。
「ダークロアーの威力は50だけど、特殊悪の効果で20追加され計70ダメージ。さらにその後相手は手札を一枚トラッシュしなければならない」
「ま、またか! せやったらスーパーボールをトラッシュして、ポリゴンZ(100/110)をバトル場に出すで」
「サイドを一枚引いて僕の番は終わりだ」
 よく見ればゴミ箱だけじゃない。周囲のビルにも僅かに傷が入ってる。明らかに不自然だ。
 バトルベルトのポケモンはあくまで『そういう風に見える演出』であって実際に何かが起きる訳じゃないはずなのに、何故こんな事が。いや、こういうのは今に始まったことじゃない。
 能力(ちから)だっけか、そんなのが既にあったんだ。一之瀬もその類なのかもしれない。ダメージを現実化させるとか、か?
「くっ、俺のターン! ダブル無色エネルギーをポリゴンZにつけ、ヘルガーに攻撃や。怪しい光線β!」
 威力80のワザが、負けじとヘルガー10/90のHPを削っていく。だが攻撃を受けて少し吹き飛ばされたヘルガーが、転がっているペットボトルの上にのしかかったときにバキリと音を建てた。
 立ち上がって体を振るわすヘルガーのいた場所には、凹んだペットボトルが。これもおかしい。バトルベルトだったらそもそもポケモンが実体じゃないからペットボトルをすり抜けるはず。いったい全体どうなってるんだ?
「怪しい光線βを使ったポケモンがレインボーエネルギーをつけていないとき、20ダメージを受けて混乱状態になる」
「そ、それよりもなんやねんそのヘルガー! ま、まさか能力とかっていうやつで実体化してんのか」
「能力? 残念だけど、違うね。これは、そうだな。人よりも体が柔らかいとか、ちょっと走るのが速いとか、そういったただの特徴でしかない。能力なんかと同じ扱いにされるのは嬉しく無いね」
「せやけどこんなん! 何が特徴や、ふざけんのも大概にせえや!」
「言ったよね。『僕なりの本気』で君を迎え撃つって。行くよ、僕のターン。まずはプラスパワーを発動。この番僕のポケモンが君に与えるダメージはプラス10される。さあ、ヘルガーでもう一度攻撃だ。ダークロアー!」
 怪しい光線βのデメリットでHPが80/110まで落ち込んだポリゴンZ。ダークロアーの威力は50+10×2=70だからと安心していたが、プラスパワーで威力の底上げをされるとは。
 一層力を増したダークロアーが俺の場を襲う。……だけに収まらない! あまりのヘルガーの強い衝撃波に、気付けば体が浮いていた。
「どあっ!」
 なんとか尻餅だけで受身を取り、後頭部をぶつける事は免れた。それでも十分痛い。右手を支えに立ち上がり、尻を掃きつつバトルテーブルに戻る。尻だけでなくアスファルトの上で受身を取ったから、手もややヒリヒリするような痛みが残る。
 一方の一之瀬は甘えて来るヘルガーの頭をそっと撫でている。余裕たっぷりとでも言いたいのか。俺が起き上がったことに気付いた一之瀬はヘルガーを指でバトル場に向かわせた後、サイドを引く。
「ダークロアーの効果で、手札を一枚捨ててもらおう」
「俺は……ポリゴン2をトラッシュする」
「さあ、君の番だ」
「お、俺のターン!」
 一之瀬のサイドは残り一枚。しかも俺の場にはバルジーナ30/90のみ。それでもまだ諦める訳にはいかない! 啓史は嘔吐してでも視界を封じられても、それでも戦っていたんだ。ここでなんとか逆転のカードを引かないと。
 また啓史をあんな危険な目に合わせる訳にはいかない。そのためにはなんとしてでもここで勝たないと!
「うおおおおお、ドロー!」
 引いたカードは……チェレン。だっ、ダメだ。手札にエネルギーがないからバルジーナが攻撃出来ない。しかも山札ももう無くなってしまった。
 手札も、山札も、エネルギーも──。
「希望も、ない。か?」
「た、ターンエンド……」
 畜生。どうやっても勝てない。俺なりに精一杯頑張ってきたのに、全て一之瀬に先を行かれる。
 折角サイドを一枚引くとこまでは調子よく進んでたのに。悔しい。悔しい。
 胸の中から悶々と霧が立ち込めてくる、苦しさに似たような。息が詰まるような。
「僕のターン。これで最後だ」
「ダメだ。強すぎる……」
「強い? 君は何か勘違いをしている」
「な、なんやって!?」
「勝つから強い、そういう訳ではないんだよ。たくさん勝ってるから強い? 違う。それは単に勝率がいいだけ。強いデッキ? 強いプレイング? 強運? 勝負の世界にはそんなものはない。全て勝率がいいデッキ、プレイング、運だ。強さとはもっと高尚なもの、哲学染みていて、決して可視化出来たり形骸化されるようなものではない。強さとは、何が強さかを考えることそのもの。勝負、対戦はその哲学同士をぶつけ合う純粋で崇高なものだ。君がそこの認識を誤っている限り、勝つことはおろか強さなんて決して身に付かない」
「どういうことや!」
「それを考えるのが……、強さだ! これでトドメだ。ダークロアー!」
「うおおっ、ぐうああああ!」
 霞んでいく視界の中で一之瀬の姿が遠ざかっていく。何が上で何がしたかも分からなくなって、やがてぷつりと真っ暗になる。ごめん……。啓史。勝てへんかった……。



「気絶、か。お疲れ様ヘルガー」
 ガウ、と小さく吼えるヘルガーの足元から黄緑色の穴が開き、落ちるように吸い込まれていく。それを確認してから、自分のデッキ及びバトルベルトを直す。
 前方で崩れたように倒れた杉浦君の下に近づこうとしたとき、途端に背後に気配を感じて振り返る。
「わ。驚いた、有瀬か」
「彼の処理は私がやろう」
「処理、まあ違いは無いけどもう少し言葉は無かったの?」
「そういう一之瀬もオーバーゲートを二回も使って、大人気が無いだろう。そもそも関係ない人は巻き込まないんじゃなかったか?」
「まあでも両方のケースもどちらも対応出来るのが確認したし。もっとも、彼はオーバーゲートをポケモンの実体化と勘違いしていたようだけどね。ま、とにかくアルセウスジムへの僕の準備は完了だ」
「そうかい。それならば、最後にこれを読んでくれ」
 いつものようにどこからか何かを取り出す有瀬。今度は……大量の紙。一番上にはアルセウスジムに関して、とだけ書いてある。資料のつもりだろうか。
「人間は資料とやらが好きなんだろう。そこにまだ言えてなかったところまで全て表記してある。それじゃあ」
 間髪無く有瀬は杉浦君とそのバトルベルトごと、足元に急に開いた穴に飲み込まれるよう消えていく。深く息を吐いて、路地裏から出ようと歩きながら渡された資料をめくる。
 それにしても、杉浦君の心配は無用のモノだった。確かに森君の名前を出した事は出したが、特別何かに巻き込むことではない。巻き込むつもりであったことは否定しないが、結果的には何もしないさ。
 ようやく陽の当たるとこまで出て、資料の四ページ目に目を通しているとき、書かれていた印字を見てついつい自分の目を疑ってしまった。
「こ、これは!」



「あ、あれ……」
 眠っていたのか、目が覚めると駅から少し離れた公園のベンチに寝転がっていた。どうしてか駅についてからの記憶がほとんどまったく無い。繁華街に向かってた記憶はあるはずなんだけど、そこから先がどうしても。
 やっぱり長い間電車で揺られた疲れが祟ったのか。上半身を起こし、大きく伸びをしてから立ち上がる。
「お、孝仁いいとこにいた。調度今から駅向かうとこだったんだけど」
 背後から聞き慣れた声がして、振り返れば俺を迎えに来てくれるはずの友人が。右手で行くぞのジェスチャーを見て、持ってきてる荷物を慌てて確認してから後に続く。
 バトルベルト、今日持って来たけど使うことあるのかなぁ……。



一之瀬「今回のキーカードはヘルガー。
    闘タイプにも抗える火事場の一撃、
    そして手札を削るダークロアーが魅力的なワザのポケモンだ」

ヘルガー HP90 悪 (L2)
悪 かじばのいちげき  20+
 相手の場に闘ポケモンがいるなら、60ダメージを追加。
悪悪 ダークロアー  50
 相手は手札を1枚トラッシュ。
弱点 闘×2 抵抗力 超-20 にげる 1

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