98話 新たなる決意D

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「カイリューで攻撃。ドラゴンスタンプ!」
 カイリューはその大きな体でメタグロスを踏みつける。派手な大きな音と土煙のエフェクトがこの小さな公園を覆った。
 これで相手のメタグロス50/130のHPを大きく削げた上、カイリューのHPは70/130もある。もう一度メタグロスの波動砲を受けたところで10だけHPが残り、返しのターンでドラゴンスタンプを決めればメタグロスを倒すことが出来る。
 そうしたならば俺のサイドは残り一枚。ハーフデッキでここまで痛手を負うと相手はそこから立て直すことが出来なくなって当然だ。
 今の俺のバトル場にはダブル無色一枚、闘エネルギーが二枚ついたカイリュー70/140。そしてベンチにはチルット40/40とチルタリス90/90、ドリュウズ110/110。
 相手のバトル場は超エネルギーが二つついているメタグロス50/130にベンチにムウマージ90/90、ダンバル60/60、超エネルギーが一枚ついたジラーチ60/60。サイドは現在俺が残り二枚で相手が残り三枚。
 通常バトルベルトの持ち主の名前が表示されるはずであるバトルテーブルのモニターには、対戦相手の名前はEnemyとしか表示されず、大きなマスクに赤のエースキャップで正体を隠すこの男はどうやら俺を狙っているようだ。
 俺の義母から送られたこの刺客、Enemyを振りきるにはこの対戦で勝つしかない。確かに相手はやり手だが、今の場は俺の方が極めて優勢だ。
「ふん。私のターン。まずはベンチにいるダンバルをメタング(80/80)に超エネルギーをつける。さらにムウマージのポケパワー、マジカルスイッチを発動」
 ジラーチの体から超のシンボルマークが飛び出て、それがベンチにいるメタングの体に吸収される。
「このポケパワーで自分の番に一度、自分のポケモンについている超エネルギーを一つ別のポケモンにつけかえることが出来る。そして続けてサポートカード、チアガールの声援を使わせてもらう。その効果で私はカードを三枚引く。そして相手は任意でカードを一枚引くことが出来る」
 俺もカードを引くことが出来る、だと。舐めているのか?
「いいだろう、俺もカードを一枚引く」
 しかしあいつのカードを引くペースが早いように思う。六ターン目にして残りの山札のカードはたったの四枚。これだと相手はもうドロー出来るサポートカードは使うに使えないだろう。
「山札が気になるのか?」
「ふん……」
「安心しろ。私の山札が切れる前にお前の負けは決まる。グッズカード、プラスパワーを発動。このターン、相手のバトルポケモンに与えるワザのダメージを10プラスする」
「な、何っ!?」
「メタグロスで攻撃だ。喰らえ、波動砲!」
 相手のメタグロスが放った強烈な波動攻撃をカイリューは腹で受ける。と同時、再びその衝撃が風のエフェクトとなって襲いかかる。あまりのそれに右腕で顔を守る。少しして風が止んだと思うと、HPが尽きたカイリューが倒れ伏し同時にまた僅かに風が舞う。
 油断していないと言えば嘘になる。余裕があったといってもプラスパワー一枚でエースカードがやすやすと撃墜されるとは。60+10=70できっちりと気絶させに来たか。
 問題はまだカイリューがもう一ターン以上持つとばかり思っていたがために、俺のベンチのポケモンはどいつもエネルギーがついていない。見事にしてやられた。
「サイドを一枚引く。どうしたどうした、余裕がなさそうに見えるが」
「ふっ、思ったよりも饒舌なんだな。俺はチルタリスをバトル場に出す。そして俺の番だ、まずは手札の闘エネルギーをチルタリスにつけ、ベンチにモグリュー(70/70)を繰り出す」
 今の俺の手札にはダブル無色エネルギーとスタジアムカードの焼けた塔がある。無無無でチルタリスが使えるスタジアムパワーは元の威力が40ダメージだが、スタジアムが場にあれば威力をさらに30増やすことの出来る大技に化ける。これでメタグロスを退けることが出来る。今はそのための時間稼ぎをしよう。
「チルタリスで攻撃。黒い瞳!」
 俺のチルタリスが不思議な念動力で、メタグロスを眠りに入らせる。このワザは相手をただ眠らせるだけでなく、20ダメージも与える効果がある。これでメタグロスの残りHPは30/130、あと一撃で倒せるところまで追いつめた。
「さてここでポケモンチェック。眠りのポケモンはコイントスをしてオモテなら眠りが回復する。……オモテ、これでメタグロスは眠りから回復」
 それでもチルタリス90/90は必ず波動砲は間違いなく耐えることが出来るはずだ。返しのターンでスタジアムパワーを喰らわせ、メタグロスを気絶させればまだ勝負を持ち返すことは出来る。
「私の番。ベンチのメタングに超エネルギーをつけ、ムウマ(50/50)をベンチに出す。そしてメタグロスのポケボディー、サイコフロート。超エネルギーがついているポケモンは逃げるエネルギーがなくなる」
「なっ、……メタグロスを逃がすだと?」
「メタグロスを逃がしてベンチのメタングをバトル場に出し、そして私はメタングをメタグロス(130/130)に進化させる」
「二体目のメタグロスか!」
 完全に予想外な展開にややたじろぐ。これだと返しのターンにスタジアムパワーで倒すことが出来ない。
「さらにグッズカード。ポケモンサーキュレーター!」
 バトル場のメタグロスの隣に現れた巨大扇風機が強い風を巻き起こし、チルタリスをベンチまで吹き飛ばす。
「このカードの効果で相手のバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替える。入れ替えるポケモンは相手が選ぶ。さあ何を繰り出す」
 今のベンチはモグリュー70/70、チルット40/40、ドリュウズ110/110。波動砲のことを考慮すれば、選択肢などあってないようなものじゃないか。
「ドリュウズをバトル場に出す」
「だろうな。それではメタグロスで攻撃、ダブルレッグハンマー!」
 相手のメタグロスはバトル場のドリュウズ……を通り過ぎ、ベンチまで進むと隣り合うチルットとモグリューに対して前の腕を二本持ち上げ、叩きつけるように振り下ろす。ずしんと土煙を伴った重い音が響く。
「ベンチに攻撃だと!?」
「このワザは相手のベンチポケモン二匹にそれぞれ40ダメージを与える」
 重い一撃を受けたチルット0/40とモグリュー30/70はどちらもうつ伏せに倒れている。モグリューはゆっくりと立ちあがったが、もちろんチルットは立ちあがることはなかった。
「サイドを一枚引く。私の番はここまでだ」
 いつの間にやらサイドの枚数が追い抜かれてしまっている。しかもドリュウズはエネルギーがついていない上に逃がすにはエネルギーが一つ必要だ。
 慌てるな、冷静に対処しろ。場をよく見渡せ、手札を確認しろ、必ず活路はあるはずだ。場……? そうか。チルタリスだ。
「俺のターン。手札の闘エネルギーをドリュウズにつけ、グッズカード、エネルギー付け替えを発動。チルタリスの闘エネルギーをドリュウズにつけ替える」
 無理にチルタリスで戦わす必要はない。スタジアムパワーを諦めてドリュウズにしっかりシフトをすれば、十分戦うことが出来る。
 ダブル無色エネルギーがドリュウズに適用されればよかったのだが、ドリュウズの一番威力の高いワザは闘エネルギーを三つ要求する。ダブル無色エネルギーは仕方ないが使えない。
「続いてベンチのモグリューをドリュウズに進化させる」
 ドリュウズ70/110に進化すれば次の番にダブルレッグハンマーを受けても耐えることが出来る。
「さらにグッズカード、ポケモンキャッチャー。相手のベンチポケモン一匹を強制的にバトル場に出す。ベンチにいるメタグロスをバトル場に出してもらおうか」
「なんだと?」
 突如放たれた捕縛網がベンチのメタグロス30/130を捕え、そのままバトル場に引っ張られる。今はとにかくこいつを仕留めることが先決だ。
「ドリュウズで攻撃。メタルクロー!」
 鋭い爪の一撃がメタグロスを襲う。独楽(こま)のように弾かれたメタグロス0/130はそのまま倒れて動かなくなる。メタルクローの威力は30、相手のメタグロスを十分倒せる威力だ。
「サイドを一枚引いて俺の番は終わりだ」
「メタグロスをバトル場に出す。私の番だ、ベンチのムウマをムウマージ(90/90)に進化させて、メタグロスで攻撃。ベンチのチルタリスとドリュウズにダブルレッグハンマー」
 再びベンチに激しい二撃が襲いかかる。メタグロスの怒涛の攻撃に、俺のチルタリス50/90もドリュウズ30/110も、残りHPはギリギリだ。
 しかしどんなに苦戦を強いられていようと、まだ逆転の可能性はある。俺の山札は残り四枚。サイドを含め残った五枚のうち、あの一枚を確実に引けるかがカギだ。
「俺のターンッ!」
 引いたカードはまんたんのくすり。良いタイミングで来たもんだ。
「手札からグッズカードを発動。まんたんのくすり。自分のポケモン一匹のエネルギーを全てトラッシュして、そのポケモンのダメージを全て回復させる。俺はベンチのドリュウズを回復」
「なっ、何だと!?」
 ドリュウズが淡い緑の光に包まれれば、HPバーがみるみる110/110に戻っていく。まんたんのくすりには前述したデメリットがあるが、ベンチのドリュウズにはエネルギーがついていないので、トラッシュする必要がない。
「そしてドリュウズに闘エネルギーをつけてメタグロスに攻撃! ドリルライナーッ!」
 ドリュウズは両腕を上げて頭のそれと合わさって一つの大きなドリルとなり、その姿のまま回転してインパクトある一撃でメタグロスを襲う。
「このワザの威力は80。そしてこのワザでダメージを受けた相手のエネルギーを一つ、トラッシュする! メタグロスの超エネルギーを一つトラッシュしてもらおう!」
 次の番に相手の手札に超エネルギーがあって、メタグロス50/130のダブルレッグハンマーを受けたとしてもベンチのドリュウズは気絶しない。また、プラスパワーを使われたとしてもプラスパワーの効果はバトルポケモンに与えるダメージのみ。残りHPが50/90のチルタリスはそれによっては倒されることはない。
 それに相手の手札は二枚、山札のカードも二枚だけだ。
「くっ、私のターン! ……メタグロスで波動砲攻撃だ」
 もう恐れることはない。メタグロスの一撃を受けたところでドリュウズ50/110はしっかり俺の場に残っている。
「決まったな。ここまでだ」
「くっ……!」
「俺の番だ。さて、これで終わりだ。ドリルライナー!」
 トドメの一撃がメタグロスに決まり、爆発のようなエフェクトから熱と風と煙が暗がりの公園に舞う。
「最後のサイドを引いて俺の勝ちだ」
 モニターにWINと三文字表示され、全てのポケモンの映像が消えていく。バトルテーブルを元のバトルベルトに戻して尻もちをついた刺客に近づくと、相変わらず顔は見えないがぐう、と唸っている声は聞こえた。
「何故だ……何故、負ける」
 俺が見下ろした先にいる刺客は左拳を地に叩きつける。熱くなり過ぎた。それがこいつの敗因だ。目の前の状況に囚われ、場を見渡すほどの広い視野が足りなかった。
「さて、そこまで言うならば俺に勝つ自信はあったのか」
 首を横に回したそいつは少し黙っていたが、やがて容器から溢れた水のように言葉を零す。
「過去のデータを参照にして、お前と戦っても勝てるように対策を練ってデッキを組んできた。だと言うのに──」
「悪いな。俺はお前たちと戦うと、新たに決意を固めた。過去と決別するために、俺は常に自らを進歩させていかねばならない。いつまでもあの時と同じ俺だと思うな。そう伝えておけ」
 言い終えたが同時、刺客が急いで立ちあがり走り去って行き、闇に紛れて見えなくなってから俺は深く安堵のような息をつく。先ほどまで全身に張りつめていた緊張が抜けて、思うように体に力が入らなくなりそうだった。
 しかしまさかこんなことまでしてくるだなんて。これからの雲行きが限りなく不安になる。だが、それでも俺は負けない。どんなに辛い戦いが待ち受けていようと、新たな決意を胸に立ち塞がるってくるならばどんな敵であろうともこの手で捻り潰すまでだ。



風見「今回のキーカードはドリュウズ。
   ドリルライナーは相手のエネルギーをトラッシュ出来る。
   トラッシュするエネルギーを選べる、というのは大きなポイントだな」

ドリュウズ HP110 闘 (BW1)
無 メタルクロー  30
闘闘闘 ドリルライナー  80
 相手のバトルポケモンについているエネルギーを1個選び、トラッシュする。
弱点 水×2 抵抗力 雷-20 にげる 2

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