97話 不穏な影E

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 冴木才知に連絡先を教えてもらった翌日に早速メールを出してみた。
 その内容はバトルベルトに関すること。前々から調査している、いつどこから現れたか分からない謎のプログラムについての解析を依頼したものだ。
 しかし三日経ってもまだ良い結果は受け取れない。やはりそれほど困難なモノなのだろう。とりあえず明日の事もあるので時計が九時半を指したのを確認してからTECKを出た。
 僅かに感じる空腹感と、疲れた体がとにもかくにも早めの休息を欲しがっている。心もそうだ。早く休んでしまいたい。しかしこの疲労感、やりきったという達成感がクセにもなる。
 そんなときだった。
 誰かに後をつけられている。そう感じたのは五分歩いたところにあるTECKの最寄り駅についてからだ。おそらくTECKを出たときから既に着いてきたのであろうか。エースキャップを深く被っていて顔が見えない。口元もマスクで見えない。不自然過ぎてかえって目立つ。
 時間をかけてややいつもと違う電車の乗り換えをして振り切ろうとするが、それでもしっかり着いてくる。
 結構しつこいな。このまま逃げ続けてもキリがない。むしろこちらから向こうをなんとかして捕まえる方が早いか。
 自宅のあるマンションの最寄り駅から二つ前の駅で降りる。五番出口から出て、街灯が少ない暗く狭い道をいくらか通る。闇の中に立つカーブミラーで正体を確認しようとしたが、いくらなんでも暗すぎるし、やはり相手ががっちり見た目を隠そうとしていることもあってか分からない。
 それでもこの状況を打開しうる最低限の情報はしっかり得た。
 角を曲がるときに走り出す。向こうが慌てて走り出す足音が聞こえる。身体的能力に自信がない俺だが、夜の公園に誘うことくらいは出来た。
 走りながらバトルベルトにプログラムチップを挿入して立ち止まり起動させ、そして振り返る。
『周囲の使用可能なバトルベルトをサーチ。コンパルソリー。ハーフデッキ、フリーマッチ』
 突然相手のバトルベルトが勝手に起動してバトルテーブルを形成する。この公園にも灯りが少ないために向こうの顔が見えないが、おそらく驚いていることだろう。
 これは他のバトルベルトを探し出し、もっとも至近距離にあるそれを強制的に起動させるシステムプログラム。開発したは良いが使うことはないと思っていたのに、まさか使うチャンスがあるとはな。さっきのカーブミラーで相手がバトルベルトを身につけているのを確認したため思いつきでやったまでだが、成功と言ったところか。
「さあ、お前が何を思っているかは知らないが、悪いが無理にでも相手をしてもらうぞ」
 このコンパルソリー状態で起動したバトルテーブルは、普段は切り離されるはずのバトルベルトと連結したままでバトルテーブルから離れることが出来ない。バトルテーブルのような大きいものを体の前に携えながら動くことなど無謀もいいところ、笑止千万だ。
 さらにバトルテーブルには使用者の登録情報がデータ上に示され、対戦相手にも名前が分かるようになっている。これで正体を掴めるはずだが。
「……どういうことだ?」
 モニターにはEnemyとしか表示されない。なぜ相手の情報が出ない。自分の情報にはきちんとYudai Kazamiと表示されている、故障ではないはずだが一体どうして。
「まあいい。ともかく戦うまでだ」
 俺の最初のポケモンはミニリュウ50/50。相手のポケモンはバトル場にノコッチ60/60、ベンチにムウマ50/50。
 コンパルソリー状態で勝負を仕掛けた場合、仕掛けた側から先攻をとることになっている。相手が一向に動じる様子を見せないのが気になるが、迷ってる余裕はない。なんとしても正体を明かしてやる。
「行くぞ、俺の番からだ。まず俺は手札からダブル無色エネルギーをミニリュウにつけ、サポートカードのポケモンコレクターを発動。自分の山札からたねポケモンを三枚まで手札に加える。俺はチルット二匹とモグリュー一匹を手札に加え、その三匹を全てベンチに出す」
 すかすかだったベンチがチルット40/40二匹、モグリュー70/70と一気に満たされていく。ポケモンがベンチに登場するときのエフェクトの光で相手の顔を伺ったが、やはり白い大きなマスクに目深に被った赤いエースキャップのせいで顔が見えず、特徴という特徴がまるで掴めない。その屈強な骨格からかろうじて男であることを類推するのが限界だ。
「ミニリュウでノコッチにぶつかる攻撃」
 体をくねらせてノコッチに体当たりを仕掛ける。攻撃を受けたノコッチ40/60は軽くふらついてバランスを崩しそうになる。
「私のターン。私は、ノコッチに超エネルギーをつけてデュアルボールを発動」
 案外従順に勝負を受けるじゃないか。余程腕に自信があるのか。デュアルボールはコイントスを二回行い、オモテの数だけたねポケモンを手札に加えることができるグッズカード。俺と同じくたねポケモンを増やすつもりだな。コイントスの結果はウラ、オモテ。
「私はダンバルを手札に加えてベンチに出す」
 超タイプのダンバル60/60か。珍しいカードを使ってくる。警戒するに越したことはないな。
「サポートカード、エンジニアの調整を発動する。手札の超エネルギーカードをトラッシュし、カードを四枚ドロー。更にもう一枚デュアルボールを発動する」
「二枚目か」
 だがその結果は芳しくなく二回ともウラ、不発に終わる。ハーフデッキは同名カードは二枚までしかデッキに入れられない。これ以上デュアルボールを使われることはないな。しかしあいつはさらにもう一枚グッズカードを使ってくる。
「手札からポケモン通信を発動。私はジラーチを戻し、デッキからムウマージを手札に加える」
 ムウマージを加えたか。おそらく次の自分の番にベンチのムウマを進化させる手はずといったところだろう。しかしどうせムウマージを加えるならば次のターンでも良いはずだ。
「ノコッチでバトルだ。恩返し! 与えるダメージは10ダメージだが、攻撃した後自分の手札が六枚になるようにカードを引く」
「手札増強だと!?」
 今の敵の手札は四枚。さっき無理やりポケモン通信を使って手札を減らしたのはこの効果で引けるカードを一枚でも増やすためか。
 やはり佇まいからして中々のやり手が相手のようだ。それだけに何故こんな俺をつけるようなことをしてくるかが気になる。
「一体俺に何の用だ」
「そっちこそ対戦を仕掛けてきて何になる」
「……」
「そうだな。良いことを思いついた」
 暗がりの中、敵は両手を横に広げる。雰囲気から感じてきっと顔は笑っているのかもしれない。
「折角こうなったんだ、取引でもしようか」
「取引だと?」
 相手のペースに惑わされないように気をつけなければならない。向こうが有利な方にことを運ばせることだけはさせてはならない。
「そうだ。取引だ。私が負ければ素直に引き下がろう。だが私が勝てば、君は我々のところに来てもらう」
「我々だと?」
「そうだ。美紀様がお前が戻ってくるのを望んでおられる」
 風見美紀。俺の母親、いや、義母か。俺を中学時代まで育ててきた親。しかしあいつの元、北海道からわざわざ離れてここ東京に来ている。そんな簡単にのこのこと帰ってたまるか。
「そうか、お前が父さんが言っていた刺客か? 悪いが俺はそれを望んでなくてな」
 先月の頭、父さんと食事を取った時に言っていた言葉を思い出す。
『EMDCの狙いは恐らく……。お前だ、雄大』
 その読みは正解のようだよ父さん。ここまでして俺に用があるだなんて、向こうもそれなりに本気のようだ。
「……望もうと望まなかろうとお前はいずれ有無も言えなくなる」
「出来るものなら是非ともそうさせてほしいものだ。今度は俺の番だな」
 引いたカードは研究の記録。手札のチェレンと合わせれば上手く活用することが出来る。
「まずはバトル場のミニリュウをハクリューに、そしてベンチのチルットをチルタリスに進化させる」
 ハクリュー70/80とチルタリス90/90がそれぞれ雄々しく力強い鳴き声を上げる。布石は順調だ。
「ここでグッズカード、研究の記録を使わせてもらう。自分の山札の上からカードを四枚確認し、その中のカードを好きなだけ選んで任意の枚数を好きな順にデッキの底に戻し、残りのカードを好きな順にデッキの上に戻す」
 確認した四枚はポケモン通信、焼けた塔、オーキド博士の新理論、闘エネルギー。手札と合わせて必要なカードを考慮した結果、焼けた塔を一番下、闘エネルギーをその上に置き、オーキド博士の新理論をデッキの一番上、ポケモン通信をその下に戻す。そして今確認したカードを引く手立てもきっちり用意してある。
「サポートカード、チェレンを発動。自分の山札の上からカードを三枚引く」
 今確認して置きなおしたカード二枚ともう一枚がすぐ手札に来るようにしたコンビネーションだ。しかしポケモン通信はまだ温存。使うのは次のターンだ。
「そしてハクリューに闘エネルギーをつけてノコッチに攻撃。叩きつける! このワザはコイントスを二回行い、オモテの数かける40ダメージを相手に与える。……ウラ、オモテ。40ダメージだ」
 ハクリューの長い尾が鞭のようにしなり、ノコッチの背中を強く叩きつけた。弾んだボールのように跳ね返ったノコッチ0/60はこれで気絶だ。
「サイドを一枚引かせてもらう」
「ほう。……私はダンバルをバトル場に出す」
 三ターン目にしていきなりポケモンを倒された割にはやけに反応があっさりしている。それにダンバルのHPは60、運によっては叩きつけるで80ダメージを受けて返しのターンで倒される。何かあるか。
「私のターン、手札から不思議なアメを発動。自分のたねポケモンを二進化ポケモンに進化させる。現れろ、メタグロス!」
 ダンバルの目の前に青色の飴が現れる。ダンバルがそれに触れるとダンバルが光だし、あっという間に姿を変えて大型ポケモンメタグロス130/130現れる。メタグロスは登場と共に腹の底まで響くような咆哮を上げる。なるほど、こいつがエースカードだな。
「勇ましくメタグロスを出したところはいいが、そのメタグロスがワザを使うには最低でもエネルギー二個が必要だぞ。一つもついていないメタグロスでは何もできない」
「果たしてそうかな」
「何だと?」
 どういうつもりだ。普通自分の番にはエネルギーは一枚しかつけることができないが、そこまで言うなら何か策があるというのか。
「私はベンチにジラーチを出し、ポケパワーを発動。星屑の歌!」
 ジラーチ60/60がベンチに現れると同時に奇妙な旋律の歌を奏ではじめる。
「このポケパワーはジラーチを手札からベンチに出した時のみ使うことが出来る。コイントスを三回し、オモテの数だけトラッシュの超エネルギーをジラーチにつけることが出来る。……オモテ、ウラ、オモテ。よってトラッシュにある超エネルギーを二つジラーチにつける」
 エンジニアの調整で捨てたものと、ノコッチについていたものの二枚か。
「なるほど。だがジラーチについたところで肝心のメタグロスの懐がお留守だぞ」
「ムウマをムウマージに進化させ、ムウマージのポケパワーを発動。マジカルスイッチだ」
 ジラーチの体から超のシンボルマークが飛び出し、それがメタグロスの体に吸収されていく。
「自分の番に一度、自分のポケモンについている超エネルギー一つを別のポケモンにつけ替えることが出来る。そしてメタグロスに超エネルギーをつける」
「なっ!」
 たった一ターンでエネルギーを二個つけたというのか。やはりこいつは一筋縄ではどうもならないか!
「さらにサポートカード、チェレンを使いカードを三枚ドロー。そしてベンチにダンバル(60/60)を出してメタグロスでそのハクリューに攻撃だ。波動砲!」
 メタグロスは前の二つの腕を近づけると、腕と腕の間に藍色のエネルギーの弾を作りだす。
「波動砲の威力は60。受けるがいい!」
 放たれたエネルギー弾は直進してハクリューの体に直撃し、強い爆風のエフェクトが発生する。
「ぐう、これしき!」
 ハクリューのHPは残り10/80だが、慌てることはない。きちんとそれに対抗する手段を俺は持ち合わせている。
「俺のターンだ! 手札からグッズカード、ポケモン通信を発動する。手札のモグリューを山札に戻し、カイリューを加える。そいつがお前のエースカードというならこちらも全力で行こう。ハクリューをカイリューに進化させる!」
 ハクリューの体が白く輝き、そのフォルムを大きく変えていき、このデッキのエースカード、カイリュー70/140が雄叫びと共に登場する。
「そして俺はカイリューに闘エネルギーをつけ、サポートカードのオーキド博士の新理論を発動。手札を全てデッキに戻してシャッフルしたのちカードを六枚ドロー。そしてモグリューをドリュウズ(110/110)に進化させてカイリューで攻撃。ドラゴンスタンプ!」
 ワザの宣言と同時にコイントスボタンを押す。このワザの威力は80だが、コイントスをして二回ウラならワザは失敗してしまう。その一方で二回オモテならば、相手をマヒにさせる強力な追加効果がある。しかしそこまでは恵まれず、コイントスの結果はオモテ、ウラ。失敗でないだけ合格点だ。
 カイリューはその大きな体でメタグロスを踏みつける。大きな音と土煙のエフェクトがこの小さな公園を覆った。
 相手のメタグロス50/130のHPを大きく削げた上、カイリューのHPは70/130。もう一度波動砲を受けたところで10だけHPが残り、返しのターンでドラゴンスタンプを決めればメタグロスを倒すことが出来る。
 そうしたならば俺のサイドは残り一枚、ハーフデッキでここまで痛手を負うと相手はそこから立て直すことが出来なくなって当然だ。
 俺は風見美紀や、EMDCと戦う決意をした。そういう訳もあって、いくら手強いとはいえ刺客程度にそう簡単に負けるわけにはいかない。
 必ず勝つ!



風見「今回のキーカードはメタグロス。
   重いように見える逃げるエネルギーもポケボディーで軽減。
   二つのワザで相手の内も外も崩していけ」

メタグロス HP130 超 (E)
ポケボディー サイコフロート
 自分のバトルポケモンに超エネルギーがついているなら、そのポケモンのにげるエネルギーは、すべてなくなる。
無無 はどうほう  60
超超超 ダブルレッグハンマー
 相手のベンチポケモン2匹に、それぞれ40ダメージ。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
弱点 超×2 抵抗力 - にげる 4

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