第15話 家族の事情

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~サキのトーク~
(サキ)わ、前回の投稿から1か月くらい経ってる。(作者)マジか。(カエデ)新学期だったもんね。




コウタ君によるキンセツシティ案内が終わりを迎えようとしていた時、カエデはある気配を感じていた。

「んー?」

「どうしたの?」

「いや、何となく人の気配を感じてね・・・。」

「怖いね・・・。もしかしてサタン団かな?」

「それだとまずいね・・・。」

「どーしたの?あ、もうすぐキンセツシティ案内終わるよ!!」

「あ、ありがとうございます。コウタさんはキンセツシティにとても詳しいのですね。」

「うん!だって生まれたときからここに住んでるからね!」

「いいですね。大都会に住んでいて・・・。」

「だよねー!私なんか海の上だからなぁ・・・。」

などとぼやいているとコウタ君の携帯が『ピピピピ』と鳴る。

「はーい。あ、お兄ちゃん?・・・。えー。・・・。分かった。じゃあ戻るね。」

「どうした?」

「あー、なんか戻ってこいだって。ごめんね。まだ途中なのに。」

「いやいや、全然!おかげでキンセツシティがすっごくよく分かったよ。ありがとうね!」

「うん。じゃーねー!」

コウタ君はもと来た道の方向にととと・・・と走っていった。

「こんな広いところでよく道に迷わないわね。」

「凄いですねぇ。最近のお子さんは。」

「セイラちゃんも最近の子供でしょ?まあ私もだけど。」

「ふふ。そうですね。・・・。カエデさん?大丈夫ですか?」

未だに険しい顔で立っているカエデが心配になってくる。

「うん。サタン団じゃないといいけど・・・。」

そうね。そうですね。と頷きあっていると遠くから私たちに呼びかける女性の声が聞こえた。

「おーい!!!」

「?私たちかな?」

女性はこちらに走って来て私たちの前で止まる。

「あ!」

「やっと見つけたよ、カエデ。さ、お母さんが待ってるわ。帰りましょう。」

女性はカエデの腕をつかみ、スタスタと歩き出す。

それを見ていた私たちは無意識のうちに女性を止めていた。

「ちょ、ちょっと!あなた誰ですか?!」

「あら、カエデ、お友達さん?」

「なんでカエデさんの名前をご存じなのですか?」

「カエデ、家族の事なんも言ってないの?」

「う、うん。」

女性はカエデより少し小さく、私たちくらいの背で、胸元に『トレーナーズスクール』と英語で書かれたバッジを付けていて、チェックのスカートにワイシャツを着ていた。髪の毛を伸ばしっぱなしの髪をそのままにしている。

「申し遅れました。私は椿ケ丘桜と申します。カエデの姉です。よろしくお願いします。」

はきはきと喋っていたが内容は驚くべき内容だった。

「か、カエデ?お姉さんいたの?」

「・・・。」

「カエデさん・・・?」

「あの、失礼ですけどおいくつですか・・・?」

「私ですか?私は今年で15歳になります。」

「「15歳?!」」

私とセイラちゃんの声がハモる。

「ええ。」

「じゃ、じゃあカエデさんとサクラさんは・・・」

「双子?」

「・・・・。まぁ、そうなるのかな・・・。」

「はい。じゃあ帰るよ。」

「ちょっと待ってくれよ。」

「なによ。お母さんたちが待っているのよ。それにお母さんも怒っているわ。」

「カエデ?何があったの?」

「・・・。サキとセイラにはまだ話してなかったっけ。」

「うん。」

「・・・。僕の父さんの話を知ってる?」

「ええ。少しだけ聞いたことがあります。」

「僕の父さんが死んで、小学校を卒業した後、僕らはトレーナーズスクールに入学したんだ。最初は楽しかったんだけど、だんだん勉強も難しくなっていって・・・。それである時考えたんだ。僕はこのままトレーナーズスクールに通っていていいのか。紺のまま決められたレールの上を歩いていくだけでいいのかってね。それで思いついたんだ。15歳になって少ししたら旅に出よう。家出をしよう。夢だったチャンピオンを目指そう。って。だから、自分のポケモンと、少しの食事と、お金と、衣服を一番大きなリュックに詰めて、僕はこっそり家から出て行ったんだ。」

「・・・・。」

「はい。話も済んだでしょ?帰るわよ。」

「待って!僕は、家に帰らないと決めたんだ。」

「カエデ、今の話を聞いてて思ったけど、やっぱり家に帰って家族と向き合うことが一番だと思うよ。」

「私もそう思います。」

「ね。みんな言ってるんだから。」

「・・・。」

カエデはしばらくうなだれた後。サクラさんの後をついていき、私たちもその後に続いた。



20分ほど西に歩き、私たちはシダケタウンに着いていた。

「ここがカエデの家?」

「うん。」

「サクラさん、私たちも入っていいんですか?」

「あ、どうぞどうぞ。お構いなく。ただ、その・・。修羅場になるかもしれませんが。・・・お母さん、ただいま。」

「・・・。母さん、ただいま。」

「「お、お邪魔しまーす。」」

家の中の雰囲気はピリピリとしていて、入りづらかった。

「・・・。やっと帰って来たわね。」

「母さん、勝手に家を出てすみませんでした。」

「あなたがいなくなったせいでどれだけの迷惑がかかると思っているの?!」

「すみません。」

「なんであなたは勝手に家を出たの!?なんでお母さんの言うとおりにしないの!?」

「・・・」

「・・・。あら、その女性は?」

「・・・。一緒に旅をしているサキとセイラです。」

「「こんにちは。」」

「カエデ。その二人にもご迷惑をおかけしていたの?どうしてあなたは私の言う事が聞けないのよ!お父さんがいなくなって私大変だったのよ!?」

カエデの握っていた拳がブルブルと震えている。

「いい加減にしろよ!」

とうとうカエデの怒りが爆発してしまった。

「なんでだよ!なんで僕は母さんなんかの言うとおりにしないといけないんだ!僕は母さんのために生まれてきたんじゃない!僕は自分の人生を歩むために生まれてきたんだ!僕だって父さんがいなくなって辛かったよ!それなのに母さんだけが辛いみたいな言い方。やめろよ!もう母さんなんか大っ嫌いだ!!!!」

カエデは家を飛び出す。

その光景を私たちはしばらくポカンとしていた。

「カエデ・・・。」

「・・・。サクラ。」

「あ、はい。お母さん?」

「私を、1人にしてくれないかしら。」

「分かりました。じゃあ、サキさん、セイラさん、私の部屋へどうぞ。」

「あ、はい。」

2階に上がり、部屋に入る。

「あ、お茶持ってきますね。」

「あ、いいですよ。」

「いいんですか?」

「はい。私たちも勝手にお邪魔したので・・。」

「すみません。所でお二人はおいくつ何ですか?」

「私は15歳だからカエデと同い年かな?」

「私も15歳です。」

「あ、じゃあ同い年なんですね。」

「そうだ。自己紹介しておくよ。私はサキ。夢はホウエン地方のチャンピオンかな。気軽にサキって言っていいからね。」

「私はセイラと申します。ムロタウンのジムリーダーを務めさせていただいています。」

「はい。よろしくお願いします。私の事もサクラでいいからね。そうだ。弟たちも紹介するね。ちょっと待ってて。」

サクラはそう言って部屋を出ていき、しばらくして2人連れてきた。

「紹介するね。この子達、左の金髪がソウで、右の眼鏡がショウ。」

「ちーっす。よろしくお願いしまーす。」

「姉さん、その紹介の仕方やめてよ・・。初めまして。僕はショウです。」

「よろしくお願いします。私、サキです。」

「セイラと申します。」

「姉さん、僕、勉強中なので戻っていいですか?」

「あ、ごめんなさいね。」

ショウ君はそう言ってまた隣の部屋に戻ってしまった。

「聞いてるぜ。サキさんとセイラさん。いつも兄ちゃんがお世話になってるな。」

「いえいえ。お世話になってるのはこっちの方だよ。」

「兄ちゃん、自分が決めたことはやり通すタイプなんだよなぁ。だから多少振り回すこともあるかもしれないけど。よろしくお願いします。」

「いやいや。私たちもかなりカエデさんの事を振り回してしまうこともあるので・・・。」

「そういや兄ちゃんどこ行ったんだ?」

「どっかに行ったけど・・・。」

窓の外は夕焼けになっている。

「そろそろ探しに行かないと!」

「日が暮れてしまいます!」

「まずいっ!」

私たちは家を飛び出しカエデを探し始めた。

「カエデさーん!」

「カエデ―!」

「サーナイト、一緒に探すのを手伝って!」

「サナッ!」

「ここからは手分けして探しましょう。私はカナシダトンネル、セイラちゃんは117番道路。サキはこの周り。ソウは町の人にカエデの事を聞いて来て!」

「分かった!」

それぞれ自分の場所に散っていく。

夕焼けが私たちを不安にさせていた。


「サーナイト?気配は感じてる?」

サーナイトは目を閉じ、集中した。

「サナッ!」

サーナイトは何かを感じたようで走り出す。

「サーナイト!?」

私はサーナイトを追いかけ、小さな木陰に着いた。

すると泣いている声が聞こえてきた。

「カエデ?」

木の裏に回り込むとカエデが座り込んでいた。

「あ、サキ?」

カエデが顔をあげる。カエデの目は腫れていた。

私はカエデの隣に座り優しく話しかける。

「カエデ?」

「あ、あぁ。迷惑をかけてすまないね。」

「いいのよ。・・・。カエデはお母さんの事、好きだなって思ったことある?」

「・・・。ある。」

「だよね。あのね、さっき探しに行く前、お母さん泣いてたよ?」

私はカエデの家を出る前に見てしまった。腕に顔をうずめて泣いているカエデのお母さんを。

「だから、カエデを見つけたら言おうと思ってたんだ。カエデ、お母さん、ひどいこと言ったかもしれないけど、お母さんはカエデの事が大好きなんだよ。」

カエデは黙ったまま静かに頷いてくれた。

「だから、戻ろう?」

「分かった。」

カエデは立ち上がり、ゆっくりだが歩き出す。

私はその後ろを静かについていった。


「ただいま。」

「お帰りなさい。」

「おかえり。」

「おかえりー!!!」

家に帰るとセイラちゃんたちは帰って来ていたようで靴が置いてあった。そしてリビングで何か話しているようだった。

「・・・。カエデ。おかえり。」

カエデのお母さんもいた。

カエデのお母さんは泣いていて、そして息子の帰りを笑顔で待っていたそうだ。

私たちは目配せをして静かにサクラちゃんの部屋に移動する。

「お母さんとカエデ。2人で話させてあげよっか。」

「そうだね。」

「そうだ。今日、泊っていく?」

「いいの?」

「うん。今日はもう暗いし、今からポケモンセンターの部屋取るの大変でしょ?」

「あ、うん。」

「いいよ。この狭い部屋だったら。」

「いいんですか?」

「うん。いいよー。」

「じゃ、俺はここら辺で。」

ソウ君は手を振りながら自分の部屋に戻っていく。


夜、私はお母さんの事を思い出す。優しくて、暖かくて大好きだった。なかなか眠れないのでリビングに行くとカエデが机の上突っ伏して眠っていた。

「・・・。」

今日は少し冷える夜だった。だから自分のかけていたブランケットをそっとかけてまた部屋に戻って来た。

カエデの顔はとても安らかだった。




~次の朝~

「おはよ~」

私はリビングに降りてくるとカエデがいつものように新聞を読んでいた。

「おはよう。サキ。昨日はブランケットありがとう。」

「ああ。どういたしまして。」

「サキ。昨日ちゃんと母さんと話せた。ちゃんと母さんと向き合うことができたよ。ありがとう。」

カエデは昨日とは嘘のように笑っていて、とても安心した。

「そう。母さんが、また旅を続けてもいいって。だから・・・。これからも一緒に旅を続けてもらってもいいかな?」

「・・・・・。もちろん!」

私たちは小指を出して、歌い始める。

「「ゆびきーりげんまん うそついたら はりせんぼんのーます ゆびきった!」」

私たちは笑いあった。









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