第6話 ポケモンセンターヨシノ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ヨシノシティのポケモンセンターに入るとまず受付窓口のようなスペースに白衣の天使、もといジョーイさんがいた。
 目が合う前に「こんにちは! ようこそポケモンセンターヨシノへ!」と元気に挨拶をされた。マイはビクリと肩をあげたがゴールドは慣れているのか、というか何回も利用したことがあるらしく「ちわーっス」と挨拶を返した。

「ポケモンの回復ですか? ご宿泊ですか?」

見事な定型文だが、嫌味をまったく感じることがない。
 マイは何度か来たことはあるものの、いつもゴールドの後ろに隠れていたのでまさに自分に向かって言われているこの状況に目を輝かせていた。

(す、すごい! わたしポケモントレーナーさんみたいだぁ~!)
「宿泊っす」
「えっ!? と、泊まるってこと?」

 まだヨシノシティに着いたばかりとはいえマイにしたらかなり歩いた距離になる。
 マイはまだ旅に浮かれているから体力の消耗に気づいていないが三年一緒にいたゴールドならわかる。今、かなりキていると。

「なーにポケモンセンターはタダで宿泊できる。泊まるだけお得ってこった」
「そうなんだー。ゴールド……さんは物知りだね、です」

 微妙におかしな日本語になっているがマイなりに頑張って敬語をやめようとしている姿勢だけはわかるので頭を撫でてやった。

「マイ、そういやお前、ミニリュウにニックネームつけてないのか?」
「ニックネーム? ううんと考えてはいたんだけど……」
「ほお~? どんなんだ?」

 バカにしないでよ? と前置きをしてから大きく息を吸って

「リューくん」

 と一言。まさかのリューくん。リューくん。なんのひねりもないリューくん。

「ま、まあ。マイらしくていいな。うん」
「ゴールド、笑いたいなら笑ってもいいよ」
「おっ! 俺のこと、ゴールドってハッキリ言えたな!」

 はっ、はめられた……。と二段ベッドの下に腰かけていたマイがベッドに寝転ぶ。

(ベッド……ふかふか~)
「オイコラ、なにニヤけてんだよ」

 ベッドがふかふかなのに幸せを感じ、目がとろんとなっている。非常にやばい。
このまま、寝る! と言い出しそうだ。

「ゴールド、寝てもい「駄目だ。風呂にはいれ」は、はい」

 間髪入れずに拒否をされるマイ。ひどいよ~っと、アニメのように大量の涙が頬に伝うマイに何か考えたゴールドは言う。

「ん~まあ。そうだな。これはご褒美、だな」
「え? なになに? ご褒美?」

 ベッドから起き上がり、ベッド付近に立っていたゴールドまで寄る。

「マイ、前からと後ろから、どっちが好きだ?」
「え? 何が?」

 いや本当に何が、だ。マイは首をこてんと傾げゴールドに問う。

「ハグだよハグ。俺の家だと何かご褒美っていうとハグしてやるんだよ」
「へえ。ゴールド……さんもお母さんに甘えたりするんだ」

 馬鹿ちげえよ! と頭にチョップをもらい、頭皮を抑え込むマイにゴールドは気にせず言い続けた。

「ポケモンたちだよ、ポケモンたちにハグしてやんの」
「んーと、んーと……」

 ポケモンとマイが同じ扱い、ということは気づいていない様子のマイ。

(そういえば前にハグしてもらった時――)

 ゴールドと出会って二年目くらいだっただろうか。
 冬に家族でシンオウ地方という寒い地方に旅行に行くことになったという出来事があった。その時、だいぶマイもゴールドに慣れていて心も許していた頃、突然一週間近くいなくなるという話になり不安だったのだが、その不安や不満を口に出さずにゴールドたちが帰って来た時に笑顔で迎えてくれたことにゴールドがハグをしてくれたのだ。

(そういえばその時は前からも後ろの時も)
「で、どっちにする?」
「どっちもはダメ?」

 まあいいけどよ、と自分から言っておいて両方ねだられるとは思っていなかったのか頬を少しかじり目線を上に向けた。

「はいはい、お疲れさんでした」
「わーい」

 前と後ろ、両方からハグをされたのだが。

(やっぱり、ゴールド気づいてないのかな? どっちからハグしてくれても頭なでなでしてくれるんだよなあ)
(うん、やっぱりポケモンの毛並みに似てる)

 マイは嬉しい気持ちでいっぱいだったが、ゴールドは家に置いてきた家族を思い出していた。

「あ、そうだ。ゴールド、もらったポケモンさん! モンスターボール越しじゃなくて、ここで見せてほしいな!」
「ああ。いいぜ。ほら、出てこい! バクたろう!」
「わあっ! かっかわいい~!」

 バクたろう! というセリフと共に現れたのは、ユメクイのような姿をしたポケモン。背中を丸めていて弱弱しい印象がある。

「でもどうしてバクたろう?」
「ああ、なんでもコイツ怒ったりとかすると、この背中の斑点から爆発的な炎を出すらしいんだ」
「ほえ~、爆発。ゴールドの頭も爆発してるから……あっ違うよ!? わたしが思ってるんじゃなくてクリスさんとかシルバーさんがっ」

 マイが謝りながらもちゃっかりポケモン図鑑でバクたろうの写真を撮る。すると本来の名前が分かった。

「ヒノアラシ。ひねずみポケモン。へえ~ねずみさんか~」
「マイも他にポケモン捕まえておけよ? 後々後悔すっぜ?」
「うん~。リューくん、出ておいでっ」

 他のポケモン、と言われてもまだミニリュウと出会ったことですら夢のような感覚でいるのだからイメージが沸かない。
 とりあえずミニリュウを出して、じっと目を見つめてみる。

「…………」
「おいマイ。ニヤけてんぞ」
「えっあっ」

 ごめんごめん、とミニリュウの頭を撫でる。気持ちよさそうに瞳をつぶるミニリュウが愛おしいのか、マイがお風呂一緒にはいろっ? と誘ったりしている。

「りゅ~♪」
「わーい! 一緒にはいろ~」
「ハァ~? そいつ、マジでいいって言ってンのか?」

 なんとなくわかるよっ! と両手をグーにして胸のあたりで大きく主張されては否定するのもなんだか申訳なくなってくる。
 ああ、そうかよ。とバクたろうをボールに戻してゴールドが二段ベッドの二段目の階段に足をかけながら返事を返す。

「えへへ~♪ リューくんお風呂だよ~」

 そそくさとリュックから替えの下着等を出して風呂場に向かう。ポケモンセンターヨシノでは部屋に風呂付きで、かなり優遇されているとみられる。
 ワカバタウンのポケモンセンターは設備はあまり整ってはいないからマイにとってはすべてが新鮮なのだと思われる。

「風呂から出たら言えよー俺寝てっかもしれねーから」
「うん~わかった~! ゴールドも一緒に入ればいいのにね、リューくん」

 ハア!? と大声を出し階段からズリ落ちるゴールド。ちょうどお風呂に入ったのか落ちた音には気づかなったマイ。

(なんだよ冗談かよ。まあいいけど……)

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