第5話 段差と花と怪しい影

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 のんびりとしたペースで29番道路に来ていた二人。ここを抜ければヨシノシティに到着だ。
 ただ29番道路には段差が多い。ゴールドがまず転ぶことはないが、問題はマイだ。前しか見て歩かないせいか何度も何度も転びそうになっている。

「マイ……ちったぁ下見て歩けよ。俺だってそう何回も支えれるか分かんねえぞ?」
「う~ごめんなさい。気を付けてるんだけ……わっ」

 言ってるそばから転びそうになっている。
本当にコイツから目を離せないな、とゴールドは内心肩を落とす。仕方ないと手を繋ごうと差し伸べようとするが、白い手が上を指さした。

「あっ! あれってぼんぐりの木?」
「おー。よく見つけたな。そーだよ、ぼんぐりって何かちゃんと知ってっか?」
「えっと……確か、食べるとまずいですか?」

 がくっ、と段差につまずいたわけではない。マイがあまりにも当然のことを言うから力が抜けてしまったゴールド。

「あのなあ、ぼんぐりっつーのは、まだモンスターボールが普及する前にポケモンを捕獲するために必要とされたものだよ。今は科学が進んでっから職人も激減したらしいけどな」
「ほえー」
「前に言ったろ? ったくお前は忘れっぽいんだからよぉ」

 えへへごめんなさ~い、と眉を下げて困った笑いを見せられるとどうも何も言えなくなるゴールド。
 昔からこの笑顔には弱いし、何度も助けられていたりもする。

「これ、貰ってってもいいかなあ」
 
 マイがうずうずした様子でぼんぐりの実を指さし、触っている。
 そのぼんぐりの色は緑色で「みどぼんぐり」と呼ばれている。ちなみにとても苦い。ゴールドが前にこっそり庭のぼんぐりを食べた時に苦かった、と言っていたのを覚えていたので、その「食べるとまずい」という発言は、そこから来ているのだ。

「いいんじゃねーか? 誰の私有地でもなさそうだしな」

 辺りを見渡すと何人か、ぼんぐりの木に向かって黙々とぼんぐりを採取しているようだし、ゴールドたちがここにいても文句を言ってくる人もいない。
 マイがひとつだけ「みどぼんぐり」をもらってリュックに仕舞う。実が潰れてしまわないかとても心配である。

「そういやマイ。お前珍しく洒落たモンつけてんな」
「あっこれですか? これは……その、小さいころ貰った大切なブレスレットです」
「ふうん、ゴールドとシルバーの色ねぇ。悪くないんじゃねえか」

 ニカッと笑ってマイの持ち物をほめる。それがたまらなく嬉しかったのか下を向いて、右腕につけたゴールド色とシルバー色のブレスレットを大事そうに触り、中々顔をあげない。

「なんだかんだヨシノシティまで来れたなあ」
「ん~っお花のいい香りがしますっ」
「おっ、と。トレーナーカードを落としちまうとこだったぜ」

 花の香りが街全体に香っていて女性なら大喜びしそうなヨシノシティ。
 花壇がいくつも街に配置させられていて見ていて飽きないようすのマイだったが、ゴールドの「トレーナーカード」に首を傾げ、ハテナマークを大量に頭の上に浮かべる。

「トレーナー……カードですか?」
「えっお前知らねえのか!? これだよ、これ! お前も持ってんだろ!?」
「えー。持ってないですよ?」

 これじゃポケモンを所持できないじゃないか! と焦るゴールドだが当の本人は全く気付いていなく、のほほんと街の雰囲気を楽しんでいるようだった。
 マイのリュックから荷物を確認すると、ポケモン図鑑が目に入る。まさか、とゴールドはポケモン図鑑に挟まれていたトレーナーカードを取り出した。

「あったあった。これだよ、マイ。って聞いてんのかぁ?」
「ごめんごめ……すいません! 浮かれすぎですね」
「いや、構わねえんだが」

 また、つい敬語が抜けてしまって気分が沈んでしまうマイに、トレーナーカードの説明はまた今度にするとして、一言。

「これから俺には一切敬語を使わなくていい! むしろ使うんじゃねえ! いいな? これは俺からの頼みだ。わかるな?」
「で、でもゴールドさんは年上だし、その……頼りになりますし」

 両手の人差し指同士を離したり、くっつけたりを繰り返しモゴモゴと口ごもってしまうマイ。
 しかしこのまま敬語だったり時々敬語を忘れては落ち込まれる、なんてことを繰り返すなんて馬鹿らしいにもほどがある。

「これは年上命令だ! いいな! あと俺のことはゴールドと呼べ! じゃなきゃ無視すっぞ!」
「えっ!? そ、それは困ります! ゴールドさん!」
「……」
「うっ。ゴー、ルド……さ、ん」

 まあこればっかりは慣れだからなあ、と頭を帽子越しでかくゴールドに一安心のマイは彼の腕に抱きつくと無理に笑顔を作る。

「いつか慣れますから、あ。じゃない! 慣れるから! ゴールド! さん」
「ううん、まあ……いいか」

 せっかく街についたのだ、探検がてらフレンドリィショップで道具でも揃えておこうと提案をしタウンマップをポケギアのアプリで見ると案外近くにあることがわかった。
 そのすぐ近くにもポケモンセンターがあり、29番道路で野生のポケモンとの遭遇し疲れたお互いのポケモンを休ませることもできると一石二鳥な街でテンションもあがる二人はお喋りを楽しみつつ歩いている。

「……あいつ、もうこんなとろこまで。ゆっくりしすぎたか」

 そんな二人の真後ろで様子を見る影が一つ。ともう一つ……?
 マイが持っている図鑑と同じ図鑑を大事そうに手に握っている。

「こら! ヨーギラス! お花で遊ぶんじゃない! お花がかわいそうだろ!」

 花壇の花を自身の角で、ツンツンと触って遊んでいたヨーギラスに注意する。
 そう、このヨーギラス。あの研究所で恐ろしい程の威力を発揮したヨーギラスである。したがって、そのご主人は……。

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