64話 ギガントパワー

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 奥村翔くんが不戦勝で勝ち上がり、他の二試合が試合を始めた最中こちらも戦いが始まろうとしていた。
 これは勝たなければいけない試合。既に光が閉ざされつつあるポケモンカードの命運を分かつ事件。能力者……。忌々しいことこの上ない。
 当然、理論も分からない。能力とは一体なんなのか? なぜポケモンカードに破れると能力が失われるのか?
 初めて能力が見つかった日からほぼ半年。この疑問だけは常に胸の中にあった。
 とにかくここで勝てば、二回戦に能力者の一人である山本信幸と対戦することになる。今現在分かっている能力者で一番危険な力を持つ男だ。他の人をこれ以上犠牲にさせないため、この一回戦はしっかり勝たないと。
 一回戦の相手は桃川 めぐみ(ももかわ めぐみ)。過去の大会やイベントでも何度か見たことがある。いつも着ている服がメイド服という変わった人なので目立ちやすい。
 直接対戦したことはないが、いつもそれなりの成績を残しているため実力はあるのだろう。そして現に決勝トーナメントまで勝ち抜いている。油断はもちろん、勝ち急ぎもしないようにしなくては。
「お願いします」
 先攻は桃川めぐみ。最初のバトルポケモンはイーブイ60/60のみ。私のバトルポケモンはレジギガス100/100、ベンチにはレジスチル90/90。
 相手のポケモンが小型でこちらが大型なだけに、威圧感が凄いことになっている。
「私の番です。イーブイに悪エネルギーをつけてワザを使います。仲間を呼ぶ」
 イーブイが可愛らしく鳴き声をあげると、どこからかベンチに他のイーブイ60/60が三匹現れる。
 仲間を呼ぶは、自分のデッキのイーブイを好きなだけベンチに出せるワザ。あっという間に展開してきたのは流石だと言うべきだろう。
「私のターン。手札の水エネルギーをレジギガスにつけてサポーター、ハマナのリサーチを発動。その効果でデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで加えるわ。私はレジアイス、レジロックを手札に加えてそれぞれベンチに出すわよ」
 ベンチにレジアイス90/90とレジロック90/90が現れると、レジギガスの体にある橙、青、鈍色の点が光を放つ。
「レジギガスは、ポケボディーのレジフォームの効果で場にレジロック、レジアイス、レジスチルの三匹がいるときワザエネルギーが無色一個ぶんだけ減少するわ。さあ、レジギガスの攻撃よ。メガトンパンチ!」
 大きな拳がゆっくりとした動作で、だがしかし威力は十分なそれが小さなイーブイを殴りつける。まるで投げられたかのように放物線を描いてイーブイが飛んでいく。メガトンパンチは追加効果なしの30ダメージのワザ。後攻一ターン目で30はなかなか価値を持つ。
「さあ、貴女のターンよ」
「行きます! 私はバトル場のイーブイをブラッキーに。そしてベンチのイーブイをグレイシア、エーフィに進化させます! そしてベンチにヤジロンを」
 彼女の場があっという間にがらりと変わる。バトル場はブラッキー50/80、ベンチはエーフィ80/80にグレイシア80/80とイーブイ60/60、ヤジロン50/50。しかも、それだけではない。
「サンライドヴェールね……」
「そうです。エーフィのポケボディー、サンライドヴェールはイーブイから進化するポケモンのHPを20ずつアップさせるもの。そしてブラッキーのムーンライトヴェールはイーブイから進化するポケモンの弱点と逃げるエネルギーを0にさせます」
 正確にはブラッキーのHPは70/100、そしてエーフィとグレイシアは100/100だ。どれも一撃で倒すのは難しいHP。
「ブラッキーを逃がし、グレイシアをバトル場に出してグレイシアに水エネルギーをつけます。そして攻撃、雪隠れ!」
 グレイシアを中心に強い雪風が舞い起こり、雪に襲われたレジギガスのHPが70/100まで下がる。このワザで厄介なのは水エネルギー一個だけで30ダメージを与えれる威力ではなく、その効果。
「雪隠れの効果でコイントスをします。……オモテ! よって次のターンにこのグレイシアは相手のワザのダメージや効果を受けません。ターンエンド」
「そうねえ。私のターン。雪隠れによってワザを受け付けないのはそのグレイシアだけならば除けてしまえばいいだけよ。行くわよ、手札のポケブロアー+を二枚発動。このカードは二枚同時に使用したとき相手のバトルポケモンとベンチポケモン一匹と強制的に入れ替える! イーブイを場に出してもらうわ。更にスージーの抽選を使うわよ」
 スージーの抽選は手札を一枚または二枚捨ててデッキからカードをドローするサポーターだ。手札のバトルサーチャーと闘エネルギーの二枚をトラッシュして四枚ドローする。
「レジギガスに闘エネルギーをつけ、ベンチにユクシーを出すわ。そしてユクシー(70/70)をベンチに出した時にポケパワーのセットアップを発動。デッキからカードを四枚引くわよ」
 セットアップはベンチに出した時のみに使えるポケパワーであり、手札が七枚になるようドロー出来るモノだ。今の手札は三枚なので四枚引けるという訳。
「さて、行くわよ。メガトンパンチ!」
 再びレジギガスの激しいパンチがイーブイを襲う。これでHPは30/60。イーブイは当然イーブイから進化したポケモンではないのでブラッキーやエーフィのポケボディーの恩恵を受けることができない。次のターン、イーブイはエネルギーを一つつけないと逃げることはもちろんできない。
「私の番ですね。ミズキの検索を発動して手札を一枚戻し、デッキからネンドール(80/80)を加えてヤジロンを進化させます。そしてネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動!」
 コスモパワーはポケモンカードの中でユクシーのセットアップに並ぶトップクラスのドローエンジン。手札を一枚か二枚デッキの底に戻してデッキから六枚になるようにドローするそれは、手札の不要なカードを処理しつつドローできるという超強力なものだ。実際に桃川は二枚戻して手札は0枚、そして六枚ドローした。
「私はバトル場のイーブイをグレイシアに進化させます」
 グレイシアのHPはエーフィのサンライドヴェールの効果を含めて70/100。これで彼女の場は全て進化ポケモンで埋まった。たねポケモンは一匹もいない。
「そしてバトル場とベンチのグレイシアを入れ替え、新たにバトル場に出たグレイシアに水エネルギーをつけて攻撃します。雪隠れ!」
 コイントスは再びオモテ。また攻撃が通用しなくなる。レジギガスのHPは40/100とやや余裕がなくなりつつある上、攻撃への道筋が塞がってしまいる。
「私のターン。ここは凌ぐしかないわね、手札からスタジアムカード、キッサキ神殿を発動!」
 周囲が一気に雪景色に変わり、私の背後にゲームと同じように大きなキッサキ神殿が構える。
「キッサキ神殿がある限り、互いの進化していないポケモンの最大HPは20ずつ上がる。よって、レジギガスは60/120、ベンチのレジスチル、レジアイス、レジロックは110/110、ユクシーは90/90になるわ」
 進化ポケモンしかいない彼女の場を逆手に取ったカードだ。
「手札のカードを二枚トラッシュしてレジロックのレジサイクルを発動。このポケパワーは自分のトラッシュに闘エネルギーがあるときに使え、手札を二枚トラッシュすることでその闘エネルギーをこのポケモンにつけることができるようになるわ」
「闘エネルギーなんていつ……?」
「前のターン、スージーの抽選を発動したときのコストであらかじめ送っていたのよ」
 手札の鋼エネルギーと水エネルギーをトラッシュすると、ベンチにいるレジロックの点字が全て橙色に光りだして足元から闘のシンボルマークが出現。それはレジロックの体に直接吸収される。
「そしてバトル場のレジギガスをレベルアップさせるわ」
 レジギガスLV.Xが大きく雄たけびを上げる。元からの巨大さもあってかなりの迫力だ。HPもレベルアップ前から50も上がり、110/170との大台に到達。進化しないポケモンでもLV.Xとはいえこんな高いHPになるのは滅多である。
「ここからよ。レジギガスLV.Xのポケパワーを発動。サクリファイス!」
 相手のグレイシアを睨んでいたレジギガスが振り返り、私のベンチポケモン達を睨む。そして大きな足音を立てながらベンチポケモン、レジスチルの元に近づいて行く。すると自分の背の半分ほどあるレジスチルを大きな右手で掴むとそのまま持ち上げ、握り潰してしまう。
「サクリファイスは自分の番に一回使え、自分のポケモンを一匹気絶させる! もちろん貴女はサイドを一枚引いていいわよ」
「自ら気絶させるなんて……」
 この勝負で先にサイドを引いたのは桃川。しかしサクリファイスはただ気絶させて相手にサイドを引かすだけではない。
「そしてレジギガスLV.Xにトラッシュの基本エネルギーを二枚つけてダメージカウンターを八個取り除く! トラッシュにはさっきのレジサイクルでトラッシュしておいた鋼と水エネルギーが。それをつけるわ。そしてレジスチルが場を離れたことでポケボディーのレジフォームは効果を失う」
 一気にレジギガスLV.XのHPがMAXの170/170。このタフさを削り取れるカードはそうそうない。
「ただ、雪隠れの効果でレジギガスLV.Xは攻撃しても意味がないわね。ターンエンド」
「私の番です。バトル場のグレイシアをレベルアップさせて水エネルギーをつけます!」
 グレイシアもレベルアップしてHPを120/120にのばしてきた。
「これであなたのポケパワーを封じれますね」
 そう。グレイシアのポケボディー、凍てつく吹雪はグレイシアLV.Xがバトル場にいる限り相手のポケモン全員のポケパワーを封じるものだ。ポケパワーを主体としているこちらを妨げる絶好のポケボディー。
「そしてグレイシアで攻撃、雪雪崩! ワザの効果でコイントスをします。……オモテ!」
 雪雪崩は70ダメージに加えてコイントスをしてオモテならベンチポケモン全員に20ダメージを与えるワザだ。
 グレイシアの背後からポケモンバトルレボリューションの波乗りのような感じで多量の雪がこちらの陣営めがけて襲ってくる。しかし目の前で大きな雪の波が襲ってくるのを見ると結構迫力がある。思わず右腕で顔をカバーする。
「きゃっ」
 雪崩の波がこちらのポケモンを飲み込もうと、ずしんと重い音が響くと凄い風が吹きすさぶ。バトルベルトは実際の衝撃はないが、それっぽさを出すためワザのエフェクトに被せて風を噴き出す仕組みがある。
 これでレジギガスLV.X100/170、レジアイス、レジロックは90/110、ユクシーは70/90。合計130ダメージだ。
「それじゃあ今度は私のターンね。手札の鋼エネルギーをレジロックにつけてさらにレジギガスLV.Xに達人の帯をつけるわ」
 他の選手も使ってるから効果はお馴染みだがもう一度説明しておく。達人の帯はつけたポケモンのHPを20上げ、ワザの威力も20上げるポケモンの道具。しかしデメリットとして達人の帯をつけたポケモンが気絶した場合は相手はサイドを一枚多く引くのだ。ただでさえとてもつもなく高いHPを誇るレジギガスLV.Xが、120/190へ。これでちょっとやそっとじゃびくともしない。
「雪隠れの効果が切れた今、精一杯攻撃出来るわ。ギガブラスター!」
 レジギガスLV.Xが右手を後ろに下げると、右手の手のひらいっぱいにオレンジ色のエネルギー球体が現れる。レジギガスLV.Xは思いっきり右手を前に突きだすと、グレイシアLV.Xを包み込むほどのとても太いレーザー光線が発射された。地面を跳ね返ったレーザーの一部が相手の手札とデッキポケットをも射る。
「ギガブラスターの効果で、あなたのデッキの一番上と手札を一枚トラッシュしてもらうわ」
 手札からは夜のメンテナンス、デッキからはクロツグの貢献がトラッシュに送られた。
 そしてギガブラスターは元の威力が100、達人の帯で20足されて与えるダメージは120。レーザーによる猛攻を受けて吹っ飛ばされたグレイシアLV.XのHPはあっという間に0。
 このワザはかなりの大技であるため次のターンにギガブラスターを撃つことができない。レーザーを打ち切ったレジギガスLV.Xは右膝を地につけて片膝座りになっている。
「これでポケパワー封じもおしまいね。サイドを一枚引いてターンエンドよ」
 新たにバトル場に出てきたグレイシア70/100程度じゃこのレジギガスLV.Xの勢いは止められない。さあ、一気に行くわよ!



松野「今日のキーカードはグレイシアLV.X
   そのポケボディー、凍てつく吹雪は
   ポケパワー中心に組み立てているデッキを凍らすモノね」

グレイシアLV.X HP100 水 (DP4)
ポケボディー  いてつくふぶき
 このポケモンがバトル場にいるかぎり、相手のポケモン全員は、ポケパワーを使えない。
水水無  ゆきなだれ 70
 コインを1回投げオモテなら、相手のベンチポケモン全員にも、それぞれ20ダメージ。
─このカードは、バトル場のグレイシアに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 鋼+30 抵抗力 ─ にげる 1

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