63話 ハイレート

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「ドサイドンLV.Xで一気にヤバくなったけどなんとか捲き返したぜ!」
「よくやった」
「よくやったってお前一回戦で負けただろ!」
「それとこれとは別の話だろ!」
「恭介も蜂谷も折角のおめでたムードが台無しだろ」
 俺が間に割って二人のじゃれ合いを止める。割と似た者同士な二人なのでこんなのは喧嘩になんか入らない。
「今から俺の出番だから二人仲良く応援してるんだな」
「絶対応援しない」
「翔応援するなら薫ちゃん応援する」
「それがいい」
「なんでそんなときに限って息合うんだ」
 一回戦の最終試合は、俺と石川と松野さんの三人が出場する。この三人はそれぞれ別の人と当たるので、順当に行けば二回戦で俺と石川が当たる。
 そしてその二回戦のもう一試合には松野さんと能力者の一人である山本信幸が。拓哉(裏)をあっさりと倒してしまう実力の持ち主なので負けるなんてことはないだろうが。
「翔、ボサッとしてないで早く行ってこい」
 風見が俺の背中を突きだす。なんだなんだ、今日はやけに皆冷たいな。三人を少し睨んで所定位置へと足を運ぶ。
「よろしくお願いします」
 俺の左のフィールドでは石川が。そして俺の向かいでは松野さんが、それぞれ勝負を始めた。……が、俺の対戦相手が一向に出て来ない。
 すると困惑した表情のスタッフがこちらへ駆けて来て、対戦相手が見つからないと伝えてくる。
「それってもしかして」
「不戦勝になります」
「……、はあ」
 折角の気持ちや意気込みも、塩をかけられてどんどんすぼまっていく。仕方ないので他の二人の応援をすることにしておこう。



「お昼に翔様とご飯食べてるヤツと戦えるなんて運がいいわ、ケチョンケチョンにしてやる!」
「は……?」
 いきなり突っ込みどころが満載だ。翔様? なんだこいつ。
 自分よりも二十センチは低い身長で当然小柄な少女だ。顔立ちも押さなく、黒く長い髪をピンクのリボンでツインテールにしている。年齢は一つ下のようだ。
「いいこと、この勝負でわたしが勝ったらわたしの翔様に近づかないで」
「い、いきなりなんだよ」
「だーかーらー! わたしが勝ったら石川薫、あんたは翔様に近づかないで! って言ってるのよ」
「なんでそうしなきゃいけないんだ」
「あんたみたいな男みたいなやつを、翔様が好きになるわけないでしょ! だからお邪魔虫はこうやって力づくで排除するの」
「……」
「言ってること分かる?」
「それじゃあもしこっちが勝てばお前は翔に近づかないってことだな」
「っ……、言うわね。ということは条件を飲んだってことでいいかしら」
「ああ」
 なんでこんなわけのわからない勝負を引き受けたのだろう。自分でもよくわからないが、少なくともいろいろ馬鹿にされたのが悔しかった。
「そんなことを言ってるんだからもちろん実力はあるんだろうな」
「もちろんよ、さあ勝負! わたしのターンから」
 おれのバトル場はラプラス80/80、相手の如月 麻友(きさらぎ まゆ)のバトル場にはグライガー60/60。互いにベンチはガラ空きだ。
「わたしは闘エネルギーをグライガーにつけ、ガーディをベンチに出すわ」
 如月の場に新たな小柄ポケモンが現れる。しかし、そのガーディはHP70/70。進化するたねポケモンにしては割と高めのHP。
「グライガーでラプラスに攻撃。え~い、ライトポイズン!」
 一つ一つが可愛らしい挙動で、カードの配置の仕方も、ワザの指示も、そしてライトポイズンのエフェクトで行うコイントスを行っていく。なんだか浮ついた気持ちになっていて真剣になれないような気がする。
「表ね。ライトポイズンはコイントスが表じゃないとワザが発動しないからよかったわ。それじゃあ今度こそ攻撃よ!」
 グライガーは尻尾をバネにしてラプラスへと飛びかかり、そのまま尻尾をチクリとラプラスに突き刺す。HPバーが僅かに10だけ減り、数値の隣に毒のマークがついたところでラプラスから飛び離れる。
「10ダメージと毒ダメージよ。逃げるエネルギーが多くて進化しないラプラスにとっては痛手よね? わたしのターンエンドと同時にポケモンチェック。毒のラプラスは10ダメージ受けてもらうわ」
 これであっという間に60/80。グライガーと並んでしまった。
「行くぞ、おれのターン。手札からグッズカード、ひみつのコハク、こうらの化石を使ってそれぞれをベンチに置く。この二枚は手札やデッキにあるときはトレーナーだが、無色タイプのたねポケモンとして場に出すことができる」
 ラプラスの後ろに石ころとほぼ同然な化石が二つ現れる。各々HPは50/50。
「化石ね」
「水エネルギーをラプラスにつけ、ラプラスの運びこむ。デッキからポケモンのどうぐ、サポーター、基本エネルギーを手札に加える。おれは達人の帯、化石発掘員、闘エネルギーを加えてターンエンド」
 そしてポケモンチェック。毒のダメージを受けたラプラスのHPは50/80と落ち込む。相手のグライガーに劣ってしまう結果になったが、まだまだ。そんなすぐにやられはしないはず。
「わたしのターン。手札から闘エネルギーをグライガーにつけて、グライオンに進化させる!」
 グライガーの体が一回りも大きくなり、グライオンが姿を見せる。しかしHPは80/80。決して高いとは言えない数値だ。
「そしてぇ、ベンチに新しいグライガーを出すわ。そしてサポーター、ハマナのリサーチを発動。デッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで手札に加えれる効果によって、リオルとユクシーを手札に加える。わたしはリオルをベンチに出してユクシーもベンチに出すわ。このときユクシーのポケパワーのセットアップを発動。手札が七枚になるようにデッキからカードを引くわ」
 このターンであれよあれよと如月のベンチが埋まる。先のターンに出たガーディに加え、グライガー60/60、リオル60/60、ユクシー70/70で空きスペースはもう一枠しかない。しかも減った手札をユクシーのセットアップで補充。今の如月の手札は一枚なので六枚も引くことになる。
「グライオン、ラプラスをやっちゃいなさい! 追撃!」
 びしっ、と如月がラプラスに向けて指をさすと、それに合わせるかのようにグライオンがラプラスにキバを使って噛みついてくる。そして、重たいハサミの一撃もラプラスに加わる。
「追撃は相手が状態異常だと、威力が40も上がるの。元の威力は40だから、80ダメージ。イチコロよ」
 舌をちょろっと出して笑う如月。しかしこっちは一切笑えない。思っていたよりも強い。
「くっ……。おれはこうらの化石をバトル場に出す」
「そんな石ころで何が出来るのかしら。サイドを一枚引いてターンエンドよ」
「おれのターン! 手札の闘エネルギーをこうらの化石につける。この瞬間でこうらの化石のポケボディー、ロックリアクションが誘発!」
「化石なのにポケボディー……」
「ロックリアクションはこのカードに闘エネルギーをつけたときに発動され、デッキからカブトを一枚選んでこうらの化石の上に重ね、進化させる!」
 化石の内側から光が発せられ、表面の砂や石がはがれて中からカブト80/80が現れる。余談だが、カブトは化石から進化しているので扱いはたねポケモンではなく一進化ポケモンである。
「ヤジロン(50/50)をベンチに出し、サポーターの化石発掘員を発動。デッキから化石またはそれから進化するカードを一枚手札に加える。おれはプテラを手札に! そしてひみつのコハクの上に重ねて進化させる」
 コハクも先ほどと同じエフェクトがかかって中からプテラが現れる。ようやく自陣に現れた大きめのポケモンは、登場するや否やけたたましい雄たけびを上げる。
「プテラのポケパワーを発動。発掘! デッキからかいの化石、こうらの化石、ひみつのコハクのうち一枚を手札に加える。おれはかいの化石を選択」
 プテラが空中から地面に向かって急降下し、立派な足でガッチリとかいの化石をつかみ取る。
「そして加えたばかりのかいの化石をベンチに出し、カブトに達人の帯をつける」
 また新たな化石50/50がベンチに現れる。如月のように四匹までとはいかないが、こちらもベンチに三匹揃える。そしてカブトに達人の帯をつけたことで、HPとワザの威力が20ずつ上昇して100/100。しかしこのカブトが気絶したとき、相手は二枚サイドを引ける。
「カブトのワザ、進化促成を発動。デッキから進化ポケモン二匹を手札に加える。おれはカブトプスとオムスターを加えてターンエンド」
「わたしのターン、リオルに闘エネルギーをつけてグッズカードのプレミアムボールを発動よ! デッキからグライオンLV.Xを手札に加えるわ」
 プレミアムボールはデッキまたはトラッシュからLV.Xをサーチするカード。サーチ手段が限られているLV.Xの数少ないそれである。
「そしてグライオンをレベルアップさせ、その時にグライオンLV.Xのポケパワーを発動させるわよ。スピットポイズンッ!」
 グライオンLV.X110/110がレベルアップするや否やカブトに噛みついてくる。ダメージはないものの、カブトは毒とマヒの二つの状態異常を負ってしまう。
「スピットポイズンはレベルアップしたときのみ使えるポケパワーで、相手のバトルポケモンを毒とマヒにさせるのよ。これであんたは思うどおりに動けない!」
 マヒになっているポケモンは、ワザを使う事も逃げることも出来ない。その上毒でHPを奪われていく。本当に思い通りにはできない。
「そしてグライオンLV.Xで攻撃よ。追撃!」
 あっという間にHPが20/100へ。しかも、ポケモンチェックで毒のダメージを受けて更に10ダメージ。これで残り10!
「さああんたのターンよ。もっとも逃げることもワザも出来ないから何もできずにターンを終えて、毒のダメージでカブトは気絶ね」
「おれのターン。おれがカブトプスを手札にしていたことを忘れていたか? カブトをカブトプスに進化させることによって、状態異常は全て回復する!」
 カブトプス60/150に進化することによって状態異常はこれで回復、毒はもちろん麻痺に悩むこともない。
「そしてプテラのポケパワー、発掘によってデッキからひみつのコハクを手札に加え、ベンチにこうらの化石50/50を出してかいの化石に水エネルギーをつけることによってポケボディーのアクアリアクションが発動する」
 これもこうらの化石と同様に、水エネルギーをつけることでデッキからオムナイト80/80を一枚選び出してかいの化石に重ね進化させる。
「カブトプスで攻撃、原始のカマ! 手札のひみつのコハクをトラッシュして攻撃」
 原始のカマの威力は20だが、手札のかいまたはこうらの化石、ひみつのコハクを手札からトラッシュすると50足される闘エネルギー一つで使える大技であり、達人の帯の効果で更に20追加。合計90ダメージとなる。
 カブトプスが乱暴に切りつけたカマの一撃によってグライオンLV.XのHPは20/110。次のターンは手札の化石類をトラッシュしなくても倒せる!
「今の攻撃で倒せなかったのが運のツキねぇ。わたしのターン。リオルに闘エネルギーをつけてルカリオ(90/90)に進化させるわよ!」
 運のツキ……? その意味がイマイチ分からない。
「スタジアム、ハードマウンテンを使用するわ。このカードの効果は自分のターンに一度、自分のポケモンの炎または闘エネルギーを一個選んで自分の炎または闘ポケモンにつけかえる効果。グライオンLV.Xの闘エネルギーをベンチのグライガーに移すわ」
 っ!? グライオンLV.Xは闘エネルギー二つで相手に60ダメージを与えるワザ、辻斬りを持っているのだがそれで攻撃すればカブトプス60/150を気絶させることが出来る。
 しかもカブトプスは達人の帯をつけているのだから如月はサイドを二枚引け、これでサイドの差が三枚とかなりのアドバンテージを稼げるはず。行動の意図が分からない。
「グライオンLV.X、やっちゃって! バーニングポイズン!」
 グライオンLV.Xはカブトプスに噛みつく。ダメージはないが、カブトプスは毒になっていた。
「バーニングポイズンは相手を毒か火傷のどちらかにするワザ。わたしは毒を選択したわ。そしてこのワザの発動後、任意でグライオンLV.X自身とそれについているすべてのカードを手札に戻す。それで新たにユクシーを出すわよ」
 ポケモンチェックで毒のダメージを受け、カブトプスのHPは50/150。一撃食らうと倒れかけないギリギリのボーダーへ。
 しかし一見残りHPが減っているグライオンLV.Xを手札に戻すのは良い手に見える。何せレベルアップしたときに使えるポケパワーもあるのだ。だがそれが悪手だということを教えてやる……!



石川「今回のキーカードはグライオンLV.X。
   相手を毒とマヒにするポケパワーは強烈!
   ワザも使い勝手がいいぞ」

グライオンLV.X HP110 闘 (DP5)
ポケパワー  スピットポイズン
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。相手のバトルポケモン1匹をどくとマヒにする。
闘無  つじぎり 60
 のぞむなら、自分を自分のベンチポケモンと入れ替えてよい。
─このカードは、バトル場のグライオンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 闘-20 にげる 0

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