45話 姉弟

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 PCCが着実に近づいてきた二月のとある寒い日曜日の昼ごろ。姉さんがキッチンでチャーハンを作ろうとしていた時だった。
 ピンポン、と軽快な音を鳴らして玄関のチャイムが鳴る。家はボロアパートだがチャイムだけついているのだ。
「翔、悪いけど見てくれない?」
「はいはい」
 丁度床で寝転がって英単語集を見ていた俺は、今開けてるページをスプーンの尻で栞代わりに挟み込んで玄関へ向かった。
「宅配便です」
 扉を開けると少し年を取った男の人が細長い段ボールを抱えていた。
「ここにハンコを……」
 男の人は段ボールを左足と左脇で器用に挟むと、開いた両手で伝票を渡してくる。
 ハンコをきっちり押して伝票を渡すと、先ほどと同じ器用な動作で伝票を直すと段ボールを手渡してきた。それを抱えていると邪魔なので、先に家の中に入れて玄関の床に置く。
「ご苦労様です」
 男の人は律儀に社名とロゴの書かれた帽子を脱いでこちらに深くおじぎをする。誘われてこちらも少し体を全体的に傾けた。
 宅配便が去り改めて段ボールを見ると、風見のとこの会社、TECKのロゴマークが。もしやと思って差出人を確認すれば、そこにはきっちりと風見雄大と書かれていた。
 確かにこのデカさ、学校で渡されると軽いが非常に迷惑である。そんなに重くはないけれど。
 一体何を送って来たのか、と段ボールに貼られた伝票の品名を覗くと「バトルベルト」と書かれていた。
 なんだ。バトルベルトか。……ん、バトルベルトだって?
「うおおお! バトルベルトじゃん!」
 駆け足でリビングへ戻り、サンタさんがプレゼントをくれたかのように無邪気に段ボールを開けていった。



 姉さんのチャーハンはとてもおいしかったです。さて、昼ごはんも食べて段ボールの中身をようやく確認する。開けた段ボールの中にはバトルベルトが二つと、風見の手紙が入っていた。
 手紙といっても、「普段の礼だ」みたいな大したことは書かれていなかったので早々にトラッシュした。そういえばくれるとか言ってた記憶があったような無かったような。ともかく恩に切るぜ。
 バトルベルトは赤と青の二つで、俺は赤のベルト、姉さんは青のベルトをもうらことに。
「折角だし、早速やってみよう」
 もらったバトルベルトをPCCが開かれるまで埃かぶせる気はさらさらない。それにこの前の拓哉と松野さんの対戦を見てから結構ワクワクしてるんだ。
 ちっさい部屋の中でバトルベルトを装着し、起動させようとする。使い方はこないだの勝負で見て覚えてる。
「ちょっと待って! ここじゃ狭すぎて出来ないらしいわよ」
 姉さんが取扱説明書の一部分を見せるが、確かに互いに距離を取り合って広い空間で遊ぶようにと書いてあった。場所取るのはめんどくさいな。
「えー。じゃあこんな二月のクソ寒いのに外でなくちゃいかんのか」
「仕方ないじゃない。まあ風邪ひかないようにちゃんと何か着といてね」



 幸いにも今日はまだ暖かい方で、ダウンを着てさえいればなんてことない寒さだった。といえど、外でカードをしてたら手はほぼ間違いなくかじかむだろう。
 だがそれでも早速。ドキドキワクワクした気持ちでバトルベルトを起動する。
「おおおおっ、おおおお!」
 いざやってみるとめちゃくちゃ楽しい! 勝手にベストがテーブルに変形するなんて、子供時代に見た戦隊アニメの合体ロボットを思い出す。
「このボタンでテーブルとベルトを切り離すんだな」
 よし、離れた。デッキをデッキポケットに入れてオートシャッフルのボタンを入れる。
 本当に勝手にシャッフルしてくれて、さらに最初の手札となる七枚をデッキから突き出して用意してくれる。手札のポケモンをセットすると、いつの間にかサイド置き場にサイドが三枚置かれていた。
「よし、先攻は俺からだ!」
 俺の最初のバトルポケモンはヒノアラシ60/60でベンチにポケモンはなし。姉さんの最初のバトルポケモンはデリバード70/70でベンチはタマザラシ50/50だ。
 風見杯編の時のように、目の前にポケモンの映像が出ている。不思議なようで、胸の鼓動が高まるぞ。
 さて、姉さんのデッキは氷タイプねぇ。氷タイプといってもポケモンカードでは氷タイプは水タイプにカテゴライズされていているのだが、弱点が違う。
 ポケカの水タイプは基本的に雷タイプに弱いのだが、ゲームで氷タイプとなっているポケモンはカードでは鋼タイプが弱点になっている。現に今目の前にいるデリバードとタマザラシは弱点が鋼タイプだ。
 もっとも、俺のデッキではどちらの弱点も付けないのだけれど。
「まずはヒノアラシに炎エネルギーをつけて攻撃。体当たり!」
 ヒノアラシがデリバードに頭から突っ込んで体当たりを仕掛ける。デリバードは少し後方に飛ばされると、体当たりを食らった場所をさすりながら元のポジションに戻る。デリバードの緑色のバーが少し削られ、HP表示は60/70となる。
「あたしの番ね。手札のスーパーボールを発動。デッキのたねポケモンを一枚選んでベンチに出すわ」
 タマザラシの右側にどこからかスーパーボールが現れた。スーパーボールは閃光を放つと、そこからユキワラシ50/50が放たれる。
「ユキワラシに水エネルギーをつけてデリバードのプレゼント!」
 デリバードが尻尾の袋をごそごそ漁り始める。一体何をするつもりなんだろう。
「コイントスをしてオモテなら、デッキから好きなカードを一枚手札に加えれるわ。さて、トスよ」
 姉さんがコイントスのボタンを押す。運は俺の方に傾いていないらしく、オモテと表示された。好きなカード、となるとめちゃくちゃ範囲が広いじゃないか。
 ポケモンカードはカードをサーチするモノが多いが、大抵はたねポケモン限定だったりエネルギー限定だったりと縛りが存在する。このワザはそれを打ち破るモノだ。
「この効果で山札のカードをサーチしたとき、相手に見せる必要はないのよ。さあ、何を引いたでしょう?」
「そりゃ知らん」
 どうせ進化系のカードだろう。トドクラーかトドゼルガかオニゴーリかユキメノコか。いや、それとも……。考えても仕方がない!
「行くぞ、俺の番だ!」
 よし。引いたカードはハマナのリサーチ。まずはこちらもポケモン達を立てていかないとな。
「手札のハマナのリサーチを発動。山札から基本エネルギーまたはたねポケモンを合計二枚まで選び、相手に見せてから手札に加える。俺が選ぶカードは……」
 デッキのカードをサーチする前に気づく。近所の小学生が俺たちの周りに集まっていた。
 そうか、バトルベルトが物珍しくて見学か。子供が見てる前で負けるなんてちょっと恥ずかしいな。
 安いプライドだが、炎対水デッキと相性は悪いものの安易に負けるわけにはいかないな。



雫「今日のキーカードはデリバードよ
  コイントス次第だけど、プレゼントはなかなかいい効果。
  好きなカードを一枚、ってのは大きなアドバンテージになるわよ!」

デリバードLv.26 HP70 水 (DP4)
─ プレゼント
 コインを1回投げオモテなら、自分の山札の好きなカードを1枚、手札に加える。その後、山札を切る。
水 アイスボール  20
弱点 鋼+20 抵抗力 ─ にげる 1

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