30話 オーバースペック

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:15分
「さあ、シェイミLV.Xのポケボディー発動よ! 感謝の気持ち!」
 シェイミLV.Xの厄介さはなんといってもポケボディーである感謝の気持ち。シェイミLV.X以外の草ポケモンの最大HPを40も増やしてしまう。
 40。バカみたいな上昇幅だ。お陰様で相手のベンチのベイリーフの最大HPは80だったのが120まで上昇してしまう。
 風見杯準々決勝、準決勝へ進む四人を絞る熾烈な戦い。互いにサイドは残り三枚。俺のバトル場には炎、水、コールエネルギーがついたガブリアス130/130、ベンチにはコモルー40/80とコモルー80/80。
 そして相手の田嶋のバトル場には水エネルギー二枚ついているエンペルトLV.X60/140、ベンチにはベイリーフ120/120、ラプラス40/80、草エネルギー一枚ついたシェイミLV.X100/100。
 互いに上手いこと攻撃を定められず、睨みあいが続く中。レベルMAXを絡めて田嶋が一気に攻勢に動き出す。
「エンペルトLV.Xのポケパワー、至上命令を使うわ」
 宣言と同時に、エンペルトLV.Xの指先から発された青いレーザーが発せられ、俺のカードを二枚、次の俺の番が終わるまで使用不可能にする。
 その中にはまたもボーマンダのカードが含まれていた。まだボーマンダに進化させてくれないか!
「わたしはエンペルトLV.Xにポケモンのどうぐ、しあわせタマゴをつけて君のコモルーに攻撃よ。氷の刃!」
 エンペルトLV.Xがコモルーに恐るべきスピードで肉薄し、鋭く凍らせた右翼の刃でコモルーにトドメの一閃。ラケットに弾かれたボールのように吹き飛ばされたコモルー0/80は立ち上がること無く、消えていく。
「コモルーが気絶したことにより、私はサイドを一枚引くわ」
 先にサイドを取られたか。やはり至上命令で前の番、コモルーをボーマンダに進化出来なかったことが響いてる。
 だが次の番でエンペルトLV.Xを仕留め、至上命令も封じる。
「今度は俺の番だ。ベンチのコモルーに炎エネルギーをつける。そしてガブリアスで攻撃、スピードインパクト!」
 一気に加速し衝撃波と化したガブリアスが、エンペルトLV.Xに大きな体当たりを食らわす。このワザの威力は120に、ダメージを与える相手についているエネルギーの枚数×20ダメージを引いたもの。よって120-20×2=80。
 正面から攻撃を受けて、弾き飛ばされたエンペルトLV.X0/140は仰向けに倒れる。
「サイドを引かせてもらうぞ」
 そうして引いたサイドはボーマンダ。それに加え、自分の番が終わったため至上命令の効果が切れて弾かれていた手札二枚が戻ってくる。お陰で手札に二枚のボーマンダ、コモルー一匹が欠けた今となってはいい迷惑だ。
「ここでエンペルトLV.Xについていたしあわせタマゴの効果発動よ。このカードをつけているポケモンが相手のワザによって気絶させられたとき、私は手札が七枚になるようドローするわ」
「七枚か……」
 田嶋の手札は四枚なので、三枚引く計算になる。やられることを想定しての防衛策か。対処のしようがないので計算通り事が進むハメになるが、これくらいは厭わない。
 そして田嶋の次のポケモンがシェイミLV.X100/100ということに、少々意表を突かれた。シェイミLV.Xが倒れればポケボディー、感謝の気持ちの効果は切れる。それならば最初からレベルMAXを使う必要があったのかも問いたくなる。一体何のつもりだ?
「私の番よ。まずはベイリーフをメガニウム170/170(感謝の気持ちの効果込みのHP)に進化させるわ。続いて手札の草エネルギーをシェイミにつけて、トレーナーカードを発動。エネルギーパッチ! コイントスをしてオモテならトラッシュのエネルギー一枚を自分のポケモンにつける」
 シェイミLV.Xのワザ、シードフレアは草無無の三つのエネルギーを要求するが、今の段階では草エネルギー二枚しかない。エネルギーパッチで補おうという算段か。
 目論見通り、コイン判定はオモテ。芳しくないな、上手いこと事が運ばれている。
「私はトラッシュの水エネルギーをシェイミLV.Xにつける。さあ、シェイミLV.Xで攻撃。シードフレア! 私はその効果で手札の草エネルギーを三枚メガニウムにつけるわ。更に三枚つけることによってシードフレアのダメージが上昇、つけた草エネルギーかける20ダメージが追加され、元の威力40にそれを加算して計100ダメージ!」
「何!?」
 シェイミの背中から幾重もの緑の波紋が発せられ、ガブリアスを強襲する。吹き飛ばされ、とはいかず地面でふんばるガブリアス30/130だが、バトル場からだいぶ圧されてベンチにいるコモルーの目先まで追いやられている。
 ダメージもさながらシードフレアの効果もかなり苦しい。草エネルギー限定だがつけ放題はいくらなんでもやりすぎだ。メガニウムまで臨戦態勢になるとは。
「だがこの瞬間、ガブリアスのポケボディー発動。竜の威圧! ガブリアスに攻撃をしたポケモンのエネルギー一枚を手札に戻す。俺は水エネルギーを手札に戻させる」
 再びシードフレアで悪用されるのを防ぐため、水エネルギーを戻させる。しかしあまりに小さすぎる反逆だ。どうすれば状況を打破出来るか。考えるんだ。
「俺のターンだ」
 ここで引いたカードはガブリアスLV.X。悪くは無い。だが、良いと言うほどでも無い。一気に状況を好転させる力が無い、ならばここは堪え時だ。
「俺はコモルーをボーマンダ(140/140)に進化させ、ベンチにフカマル(60/60)を出す」
 今引いたカードが水エネルギーだったとする。それをボーマンダにつける。ガブリアスは逃げるエネルギーが不要なのですぐさまボーマンダに交代出来る。
 相手のベンチには感謝の気持ちの効果でHPが170/170となったメガニウムがいるので、ボーマンダのポケボディーであるバトルドーパミンが発動可能となる。
 バトルドーパミンによって威力120の蒸気の渦が炎と水エネルギーだけで使用出来るので、シェイミLV.X100/100を一撃で倒せる。
 だが残念ながら水エネルギーはない。そしてこのままだと次のターンにシェイミはベンチに逃げるだろう。だが、打つ手がない以上違う策を講じるしかない。
「ボーマンダに炎エネルギーをつけ、俺はガブリアスをレベルアップさせる。そしてレベルアップした瞬間にガブリアスLV.X(140/140)のポケパワー、竜の波動を発動させる。このカードがレベルアップしたとき、コインを三回投げてオモテの数ぶんのダメージカウンターを相手のベンチポケモン全員に乗せる」
「ぜ、全員ですって!?」
 ……オモテ、ウラ、オモテ。コイントスによる判定が終わると、ガブリアスLV.Xが深く息を吸い込み、口を開けば白い波紋が周囲に広がる。波紋はシェイミLV.Xを通過して田嶋のベンチのポケモン達にダメージを与える。
 オモテが二回でベンチのラプラスとメガニウムに20ダメージずつ。田嶋のベンチポケモンの残りHPはようやっとラプラス20/80、メガニウム150/170。まだまだ崩せそうにない。
「なら、ガブリアスLV.Xで攻撃。スピードインパクト!」
 何もしないより苦肉の策! シェイミLV.Xにはエネルギーが二枚なので80ダメージ。しかしシェイミLV.X20/100はなんとか持ちこたえる。やはりガブリアスLV.Xでは届かないか!
 さらにこのデッキの弱点はベンチには手が出せないことにもある。このガブリアスLV.Xのポケパワーでしかダメージを与えられないので、ベンチに逃げられてしまうと一切の対処が出来ない。
 つまりHPをどれだけ下げようと、逃げられてしまえばトドメが刺せない。シェイミLV.Xを仕留め損ねたツケは回ってくる、か。
「私のターン。シェイミLV.Xについている草エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がし、メガニウムを場に出すわ。そしてメガニウムでガブリアスLV.Xに攻撃よ。火事場の一撃!」
 メガニウムがガブリアスLV.Xに向かって走り、頭から突っ込んでくる。車に撥ねられたかのようにガブリアスLV.X0/140の体は吹っ飛び、そのまま地面に大きな音を立てて倒れこむ。
「サイドを引いて、ターンエンドよ」
 火事場の一撃は威力60。残りHP僅か30のガブリアスLV.Xでは耐えきれるワザではない。これで田嶋のサイドは後一枚か。ついに余裕が無くなった。
 やむなく俺はボーマンダをバトル場に繰り出す。
「俺の番だ。さあ行くぞ! 手札の水エネルギーをボーマンダにつける。ポケボディーのバトルドーパミンによって、相手の場にHPが120以上のポケモンがいるとき、ワザエネルギーの無色エネルギーが不要になるので蒸気の渦がエネルギー二つで使用できる。そして攻撃だ。蒸気の渦!」
 ボーマンダが放つ白い強烈な渦状のブレス攻撃がメガニウムに向けて吹き荒れる。重たい巨体を持ち上げるほどの一撃で、ついに異常な程と思われたメガニウムのHPを30/170まで削れた。あと一歩、あと一歩だけで倒せるとこまでやってきた。メガニウムさえ突破出来れば残りの田嶋のポケモンは満身創痍、全てはここにかかっている。
 蒸気の渦でボーマンダについている炎と水エネルギーをトラッシュしたが、まだ炎エネルギーが一枚残っている。そうなれば次の俺の攻撃で、もう一つのワザ火炎が使える。効果はないワザだが、威力50のこのワザは、残りHPが虫の息になっている田嶋のポケモン全てを一撃で倒せる。
 とはいえ油断は禁物。メガニウムのもう一つのワザ、ウルトラパウダーが曲者だ。こちらはワザの威力は僅か20と微々たるものだが、コインを三回投げて一回目がオモテなら毒、二回目なら火傷、三回目ならマヒにさせることが出来る厄介な効果。
 毒や火傷だけではダメージを受けるだけだが、マヒにされてしまうとあらゆる行動が防がれてしまう。そうなってしまえば本当に勝負がどうなるか分かったものじゃない。
「私の番よ。……っ、メガニウムで攻撃するわ。ウルトラパウダー!」
 もしもここで三回目のコイントスがウラだと勝負は分からなくなる。もしそうでなければ返しの番に俺がメガニウムを倒し、そして次の番の田嶋は打点の低いラプラスか、エネルギーが足りなくてワザが使えないシェイミLV.Xをバトル場に晒すことになる。
 全てはこのウルトラパウダー次第だ。賽は投げられた。
「……オモテ、ウラ、ウラ」
 メガニウムが首の花から花粉のようなものを撒き散らす。グウウウウと苦しそうに悲鳴を上げるボーマンダ120/140がなった状態異常は、毒だけだ。
 よし、行ける。
「ポケモンチェックだ。毒のポケモンは各々の番が終わった後にあるポケモンチェックの時、ダメージカウンターを一つ乗せる。そして俺の番だ。ボーマンダに水エネルギーをつける」
 このメガニウムが倒れると田嶋の場からHPが120以上のポケモンがいなくなるのでバトルドーパミンの効果がな無くなる。しかし火炎に必要なワザエネルギーは炎無のみ。
 今水エネルギーをつけたことによって、いつでも火炎を継続して使えるようになる。ぬかりはない!
「ボーマンダでそのメガニウムにトドメだ。火炎!」
 先ほどの蒸気の渦とは違い、口から目が覚めるような真っ赤な炎の大きな弾がボーマンダから発せられる。メガニウムに被弾するや否や、激しい爆発がフィールドを包み込む。
「メガニウムはこれで気絶。サイドを引いて俺の番は終わりだ。そして、ポケモンチェックに入ったことでボーマンダに毒のダメージを乗せる」
 相手の最後のポケモンはシェイミLV.X20/100と虫の息。その一方で俺のボーマンダは毒などを受けたとはいえ、まだHPは100/140もある。さらに相手の残りの山札は二枚で、チャンスを産み出す可能性も低いだろう。
 田嶋が逆転するにはこの番に俺のボーマンダを倒すしかない。しかしその手段は無いはず。無いはず、だが何が起こるかなんて分からない。
 こういった相手の勝利の可能性が完全にまだ潰えていない時が非常に怖い。相手の一挙動が非常にスローに感じられ、自分の思考スピードが加速する。
 負けてしまうのではないかという不安、いや、大丈夫だという根拠のない自信、そして……。
「私のターン!」
 なんにせよこれが相手にとって最後のカードドローとなる。
 歯と歯を強く噛み合わせる。目にも力が入る。目だけではない、体のあらゆるところに力が入ってしまう。
 相手はなかなか動かない。どうした、どうした。必死に考えを巡らしているのか。周りが凍りついたかのような一時。膠着状態。そして彼女の出した結論は……。
「……降参します」
 深く安堵の息をつく。万が一、という状況にはならず無事次へ駒を進めれたか。頭での理解から遅れて、ふつふつと勝利の喜びが湧いてくる。
 降参の宣言と同時に、対戦終了のやかましいブザーが鳴り響く。カードを片付けてステージを降りると、待ちうけていたと思われる長岡は俺を見るや否や失礼にも俺を指差しこういう。
「俺も準々決勝勝ったぜ。だから次の準決勝、お前に絶対勝ってやる! 決勝に進むのはこの俺だからな」
「ふん、言ってくれるじゃないか。だがお前に実力差というものを骨身に教え込んでやろう」
 勝利の余韻に浸る間もなく、準決勝への緊張が始まる。ヤツの言葉から滲み出る確かな自信が、意気込みが。決して嘘ではないと胸を張る。
 良いだろう、俺とて出し惜しみは無しだ。



翔「今日のキーカードはシェイミLV.X。
  かんしゃのきもちで草タイプを支援!
  シードフレアでエネルギーをつけまくれ」

シェイミLV.X HP100 草 (破空)
ポケボディー かんしゃのきもち
 自分の場の草ポケモン全員(「シェイミ」はのぞく)の最大HPは、それぞれ「40」ずつ大きくなる。自分の場で、すでに別の「かんしゃのきもち」がはたらいているなら、このボディーははたらかない。
草無無 シードフレア 40+
 のぞむなら、自分の手札の草エネルギーを好きなだけ選び、自分のポケモンに好きなようにつけてよい。その場合、つけたエネルギーの枚数×20ダメージを追加。
─このカードは、バトル場のシェイミに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 炎×2 抵抗力 水-20 にげる 1

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想