第三話「青年〜少し前 その2〜」

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ふゆなみさんの『隊長』、アクアレイさんの『ガイアルク』、もちごめさんの『ウォルカ』をお借りしております(最初なので少ししか登場シーンありませんが)。問題がある場合は、お手数ですがご連絡下さい。早急に削除、改訂等の措置を取らせていただきます。
「クソっ、羽虫如きが手間かけさせやがって・・・・・」

捕まえれば一番乗りだったのによ、と男はフードの上からオレンジ色の短髪を掻きむしる。

そして、男は苛立ちをぶつけるかの様に草木を乱暴になぎ倒し、咲いている花を構うものかと言うように踏み潰していく。彼の通った道は獣道のように荒れていて、折れた草木が無惨に捨てられていた。

「やめろ、ガイアルク。私たちの居場所がバレるだろう」

ガイアルク、と呼ばれた男は、キッ、と睨んだままその声の元へと振り返る。しかし、睨まれた男もそれに屈することなく強い眼差しで見つめ返した。それに怯んだのか、チッ、と舌打ちをしてガイアルクは男から目をそらす。

「隊長、報告します。例のポケモンは森の最深部にあるほこらへ向かいました」

「報告ご苦労だった、ウォルカ」

ウォルカ、と呼ばれた女性は軽くお辞儀をして後ろへ下がる。そうして、アイスブルーの瞳でガイアルクの方を見つめ、野蛮だね、と静かに呟いた。

「よし、今から我々は森のほこらへ向かう」

「了解しました」

「チッ、俺はこんなことしてるたまじゃねぇってのによ、上の奴は何考えてやがるってんだ」

「何か言ったか、ガイアルク」

「了解しましたよ、隊長」

少し寒くなったか、と隊長と呼ばれる男はエンジ色のジャンパーを羽織る。その背中には大きく「C」と書かれたエンブレムがつけられており、それは隊長だけに限らずほかの二人にも共通される事だった。

「下手な邪魔立てが入らんといいがな」

三人は深くフードを被って、森の奥へと足を進めた。







「これは・・・・・アレだな、植物の楽園だなッ!」

つい興奮して自分らしくもなく声を荒らげてしまったが、それは仕方ないことだろう。

何せ、この多様な植物である。本当ならスケッチブックで絵を残したいところだが、残されたゴールドスプレーの本数と時間が比例しないため、ここは写真で我慢しておく。手前のカメラで根から頂芽まで撮り、気づいた箇所はノートに書き留めておく。

ふと、先端に鈴をたくさんつけたような植物がポツリと咲いている。ノートなどを見て特徴を調べてみるが、どうやら初めて見る植物らしい。

「スズラン科の植物?いや、でも茎に棘が付いているところはバラ科っぽいしな・・・・・新種か?」

しかし、根を掘り起こしたり枝を切り落としたりはしない。あくまで今日は観光であり、調査ではない。ドクサ島からの許可も得ていない。いや、まぁ、葉っぱ一枚くらいは頂戴しちゃいますけども。

と、まぁこんなことをしているものだから既に正規ルートからは外れている。道無き道を歩いていくうちに自分の居場所も見失ったが、それはどうでもいいことであって一度や二度の話ではない。珍しい植物に会えればそれでいいのだ。

「お、っと」

ふと、何やら近づく足音に気がついて木の影に隠れる。ゴールドスプレーをしているからそこまで隠れる必要も無いのだが、無理にポケモンの前に出て警戒させるのも悪い気がするのだ。

目の前を集団のポケモンがすごい勢いで過ぎる。さり気なくポケモン図鑑をかざすと、ピコン、と音が鳴った。どうやらポケモンを認識出来たらしい。

『メェークル ライドポケモン』

「メェークル?初めて見るポケモンだな・・・・・」

どうやら、サート地方ではホウエンでは生息していないポケモンがたくさんいるらしい。確かに、イッシュ地方で植物の調査をした時も見かけないポケモンがたくさんいた。植物に夢中でそれどころではなかったが。

そんな時、メェークルの集団が通った道の向こうに、何やら大きな空間があるのを見つける。



そして、何故だろうか。行ってみたいと思ったのは。



俺はメェークルの来た方向をじっと見て、何かに誘われたかのように歩く方向を変える。この時既にゴールドスプレーの効果は切れていたのだが、そんな事はお構い無しに頭上にかかった木を避けて歩いた。

途中、先ほど見つけたスズランなのかバラなのかよく分からない植物が生えていて足場をとられる。棘が自分を拒んでいるかのように思えたが、なるべく植物に傷がつかないように避けながら歩く。

そして、空間に抜けた。瞬間、何やら黒い影が視界の隅を横切って、





視界が眩しい閃光に覆われた。




「ッ!!!」

思わず両手で目を覆う。そして、しばらくして自分が地面に突っ伏していることに気がついた。

高熱にかかった時のような、体が不自然に浮いた感覚、波に揺られたかのようなフワフワした感覚に陥る。上手く立てないことにパニックを起こしそうになるが、何とか平常心を保つ。

ヤバイ、自分は何かヤバイ現象に巻き込まれている。

と、思った時だった。

「・・・・・ん、アレ?」

気がついた時には、と言うよりはこれはヤバイと思っていたら、突然普段の体調に戻った。さっきの閃光で目がチカチカするということも無い。体が動かないということもない。突然、全ての異常が無くなったのである。あえて異常を探して言うのであれば、目の前に子供が倒れていることぐらいである。




そう。子供が倒れ

「てッじゃねーよ!!!」

自分が何を言っているのか分からないだろうが、この時の自分がとてつもなくパニックに陥っていることは察して欲しい。誰だって目の前に子供が倒れていれば一つや二つパニックになるものである。待て、これどうしよう。ポケモンレスキュー?ポケモンレンジャー?いやでもこれ子供だよ?そもそもこんな森の奥どうやって呼べばいいんだよ!

なんて、パニックも限界に近づいてきた頃だった。

スーッ。

突然、何事も無かったかのように子供が立ち上がったのである。よく見たら少女であるようだが、少し辺りをキョロキョロと見渡して、自然と目が合った。翡翠色の瞳は、しっかりと俺を捉えている。

「え、あ、いや・・・・・君、大丈夫?」

コクリ、と頷く。

「体に変なところはない?」

コクリ、と頷く。とりあえず、体に異常が無くて良かった。これでもし異常があったら大変である。安心した俺は、とりあえず一呼吸入れて力を抜いた。

「良かった。ところで君はどうしたの?親は?」

コクリ、と頷く。

「・・・・・えーっと、もしかして迷子かな?」

コクリ、と頷く。

「・・・・・・・・・・・・・・・お名前は?」

コクリ、と頷く。

そこで、俺の中に一つの疑問が浮かんだ。これは、コミュニケーションがとれていないのではないかと。

「好きな食べ物は?」

コクリ、と頷く。

「好きなポケモンは?」

コクリ、と頷く。

「スイカとカイスの実、スイカは基本的に地面の上に果実をつけるため”やさい”と呼ばれますが、カイスの実は木の上に果実をつけるため”くだもの”と分類されます。これは正しいでしょうか?」

コクリ、と頷く。

「正解!」

コクリ、と頷く。

・・・・・いや待てどんな問題を出してるんだ俺は。と言うか、完全にコミュニケーションがとれていない。これではこっちが困ったものである。

いや、待てよ。

「もしかして喋れない?」

コクリ、と頷く。

・・・・・うん、わからん。しかし、どちらにしても家族が心配しているであろう今は、この子の家族を探すのが優先である。残念ながら、今日の探索はこれで終わりだろう。・・・・・残念ながら。よく見れば、日が落ちて辺りも暗くなりかけていた。

とにかく、まずは町の方へ戻ろう。

「君の名前は・・・・・そっか、分からないんだった」

しかし、君、君、と呼ぶのも何か変だ。ここは何か呼び名を・・・・・

先端に鈴をたくさんつけたような。
棘が生えてるからバラ科かもしれない。
バラと鈴、確か他の地方では別の言い方をするんだった。

ローズとベル。

「ローズとベル・・・・・」



ロズベル。



「いやいやそれは無理があるよな・・・・・」

しかし、一つ名前を思いついたらそれ以外思いつかなくなるのも事実である。そして、悩みに悩んだ末、決まった。

「全く・・・・・あだ名をつけるくらいで何を真面目になってるんだ俺は」

そう言って、少女の手をつかむ。翡翠色の瞳はしっかりと俺を見据えていて、何を考えているのかなんて全く想像出来ない。しかし、なぜかこの名前ならしっくり来るような気がした。

「行こう、ロズベル」

少女は、コクリ、と頷く。

「よし」

そうして、俺とロズベルは森を抜けるために歩を進めた。




近づく影にも気付かずに。
初めて他者様のキャラクターをお借りさせていただきました。時系列などを考えて作品に組み込むのは大変ですね・・・・・企画に参加している皆様の底が知れません。次の作品でもしっかり活躍させられるよう頑張りたいと思います。

あ、遅れましたが今回ネタ多めです。

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