第一話「青年〜少し後〜」

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つい書いてしまった・・・・・

3/25、指摘された誤字を修正致しました。ご指摘ありがとうございます。
「いやー参ったな、ほんとなー、結局花は見つからないし、いやーほんと参ったわ」

人とポケモンと活気で溢れている港に一つ、ため息混じりに吐き出された声、と言うよりかは開き直ったかのような、その棒読みの声は少しばかり楽しそうにも聞こえる。

”ねーねーママ、あの男のヒトなんか笑ってるよ?変なのー”
”ああいう人とは目を合わせちゃいけません!さっさと船に乗るわよ!”
”あの人、大丈夫かしら・・・・・”
”船酔いでおかしくなったんじゃねぇのか?”

他にもその男を指すような会話が色々と聞こえるが、もはやその男に反応する気力はなかった。むしろ、非があるのはその男の方だろう。

その顔には、追い詰められすぎて笑いすらこみ上げてきました、というような引きつった笑みが浮かんでいる。

普通にしていれば、ある程度の黒髪に180cm程度の長身、茶色のポンチョにジーンズという姿はこの地域では見かけないが、少したくましい体はいかにも好青年と言ったところだろう。むしろ、普通に会うぶんには好印象すら受けられるかもしれない。

しかし、今現在の彼の様子はどうであろうか。

新鮮な魚の入った貨物に背を預けて、どこか顔は35度上に、虚空を見つめるようにして引きつった笑みをこぼしている男を不審者だと言って、誰がそれを否定できるだろうか。完全にその姿は、コテンパンに罵倒された挙句女性に振られたか、どこかに財布を落として無一文になったかどちらかの不幸な男にしか見えないだろう。

サート地方最南端、キナリ島。

人々が新たな冒険を求めて最初に上陸するこの島は、七つある島の中でも最も小さく半日かければ島のほとんどを見ることができるという島だ。

では、なぜこの小さな島にここまでの人が溢れかえっているのだろうか。その理由に、冒険初心者に優しい低レベルのポケモン達、トレーナーを支える数々のお店など、冒険を始める人たちにとっては他にない場所なのである。また、大抵の人はポケモンを連れているが、エゾキク博士の研究所で『ポケモン御三家』と呼ばれるポケモンとポケモン図鑑を貰いに行く人たちも少なくはない。

そんな理由もあって、冒険に心踊らせているトレーナー達にとっては、そんな危ない男に声をかけるような度量は持ち合わせていなかったのだった。

「おい」

ふと、青年が声のかけられた方に顔を向ける。そこには日に当てられて肌が黒く焼けており、自分よりも大きな巨体に青と白のシマシマのシャツ、いかにも海の男と言った様子である。隣には貨物を四本の手で軽々と持ち上げているカイリキーが自慢げに立っていた。

そして、海の男から突然伸びてきた右手に青年は少し警戒するが、その見た目に反して優しく自分の左肩に置かれる。

トン、トン。

「フッ、女に逃げられたからってそんなに落ち込むな。俺だって一度は逃げられたが、必死に追いかけたら何とかなったもんだ。それに・・・・・」

ほら、と言って海の男の視線が俺の左下の方へと向けられる。

「お前が哀しむと、残されたコイツも悲しむんだぜ?随分若くしてデキた様だが・・・・・この子の気持ちも考えてやんな」

じゃあな、と言って海の男とカイリキーは後ろ姿を残してフェリーの中へと戻っていく。どうやらその男はフェリーの船長だった様で、周りの屈強そうな男達がペコペコと頭を下げていた。

男の言ったセリフを思い返す。俺の左下を見て・・・・・


”この子の気持ちも考えてやんな”


左下に視線を写す。青年の左下には、確かに青年と同じ黒髪のショートヘアの少女が青年の袖を引っ張っていた。

「・・・・・うん、君、本当にどうしたのかな?」

少女がコクリ、と頷く。

「いや、コクリじゃなくてね、どこから来たのかな?家族は?」

少女がまたしてもコクリ、と頷く。

「あー、うん、オッケー・・・・・」

青年はこの少女に理由を聞くのはやめた。何回話を聞いても少女はコクリ、と頷くのみであって、このままではらちがあかないからである。



そして。

青年は先ほど海の男が入っていった扉を眺める。



青年は扉に向かって歩き出す。青年はこの船に乗るチケットは持ち合わせてはいなかったが、そんな事はどうでも良いという風であり、袖を引っ張っている少女もそれに付いていくようにして歩いた。

そして、遂に陸と船との境界の前に立つ。船はゆらりゆらりと揺れていてボーッ、と鳴った汽笛は今にも出航の合図を知らせているかのようだった。

そして、青年は船へと1歩を踏み出した。




踏み出した先は陸だった。




「・・・・・いやいやいやいやいやいやいや」

青年はもう一度船へと踏み出す。

やはり、踏み出した先は陸だった。

そしてふと、少女の方を見る。

「お前も・・・・・か・・・・・?」

少女も船には乗れておらず、相変わらず青年の袖を引っ張ったままだった。少女の顔はずっとこちらを見続けていて、翡翠色のその目は吸い込まれるようにまん丸だった。そのうちフェリーは二度目の汽笛を鳴らして、この陸から離れてしまった。

何故かフェリーに乗れない怪奇現象。

迷子になった謎の少女。

そして、青年は考えた末にある結論へとたどり着いた。

「あー、うん、アレね。そう、アレだよアレ。アレがアレでアレしてアレだ」

そうして五分間ほどアレアレ言ったところで、青年は現実逃避をやめた。

そして、深呼吸をした青年は覚悟を決めたように口を開いた。

「あー、ダメだ。これ帰れないパターンだ」

ボーッ、と言う汽笛がもう一度なった頃には、さっきの海の男が乗った船は地平線の向こうへと見えなくなっていた。







これは、花を見に来ただけの青年がサート地方から出られなくなってしまったお話。

植物学者と謎の少女のお話。
えー、TRICK STARの連載もあるというのについ書いてしまいました。思いついたら止まらない、三時間ぶっ通し(え、遅くね?)で書き続けた後にTRICK STARの更新に三ヶ月かけてるくせに何してんだよっ!って話ですね。はい、反省しております。

現在はまだ他の作品のキャラクターを入れておりませんが、今後は追加して行く予定です。その時はサート地方で旅をしていらっしゃる皆様、ご協力よろしくお願いします。また、使って欲しいという事があれば優先的に使わせていただく予定です。

先に言っておきましょう。更新は不定期です。もう一度言っておこうかな、不定期です。念のためにもう一度、不定期です。

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