第12話 大惨事

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「うっぷ…頭、いたい…世界が回る……?」
あまりの痛みに目を覚ますと昨夜の惨状がありありと眼前に広がっていた。
床には行き倒れのように折り重なって眠るチャムちゃんとコモさん。私の腕をしっかと掴んで凄まじいいびきを立てて眠るちびた。…そっと腕を抜く。そしてテーブルの下に隠れるように丸まって眠るシロンちゃん。
「あれ…レンは?」
「お、起きたか。ちょっと手伝ってくれ」
「あ、うん」
奥のキッチンからぬっと顔だけ覗かせて私の顔を確認するとひどい顔とレンは言った。
「その前にまず、顔洗ってきな」
「あ、うん」
風呂場につけられた蛇口をひねると冷たい水が出て、寝ぼけた私に凄まじい衝撃を与えた。
ジンジンと鈍く痛む頭に冷たい水が滲みたみたいでさらに痛みを増す。
「はい、タオル」
「あ、うん」
レンが狙いすましたかのようにポイッとタオルを投げてきた。
それにしても頭が痛い。顔を拭きながら二日酔いの時の対処法を考える。
スポーツ飲料を飲むのがいいんだっけ?
「頭が痛くてあ~う~…」
「何言ってんだお前?」
「二日酔いで世界があ~う~…」
「あ~、じゃあ…ほい」
冷蔵庫から数本の青い缶を取り出すとシロンちゃんが下で寝ているせいで床から若干浮いたテーブルに置いた。ちびちびとそれを飲んでいるとなんだか頭がスッキリして来た…気がする。
「う~……頭痛いぃぃぃぃ…」
「しっかりしろって。ほれ、これ持ってって」
「う~……」
お盆に人数分乗せられた味噌汁はとても美味しそうな湯気をたてて私に渡された。
「俺、魚焼くから先にそれ飲んでて」
「ん~……薄い」
「そうかぁ? 俺はこのくらいの方が……」
そう言って一口啜り顔をしかめた。そしてお椀を全部下げると味噌を一溶きしてまた私に味見させる。
今度は大丈夫。いつものレンの味。
レンに大丈夫と言うと満面の笑みを浮かべ、鼻唄を歌いながらキッチンに戻っていく。それにしてもこの惨状はどうしたものか…。
「いたたた…。あ~歳だなぁ…」
最近の日課の筋トレの筋肉痛がやたらと腰を責める。まぁ、もう二十台後半だしなぁ。今思えばポケモンの銀をやったのはかれこれ16年も前になるのか。う~ん、十六年も前だと私はゲームよりもまだ遊び人ゆみとして外で遊んでいることのほうが多かったなぁ。それが今はこんな体たらくもの。昔の私が見たら笑うだろうな。きっと。ぼやぁと天井を見ていると視界の端からいつぞやの天使と悪魔が出てきて私を笑う。
あ…いつかの悪魔。てめぇ、今度はどんな槍を投げる気だ? つか天使まで笑うな!
掴んでやろうと手を伸ばすがやっぱりというべきか決して手は届かない。
「…何してんだ、お前」
レンが茫然と魚の乗った皿をもって立ち尽くしていた。私の顔が真っ赤に爆発した。
「見てたの?」
「もうばっちりと」
「どこから?」
「最初から」
私は顔面を両手で抑えて天井を仰いだ。
もぅ、死にたくなるくらい恥ずかしい!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!
「ほら、ふざけてないで皆起こすの手伝えって」
「あ、うん」
所詮、朝のテンションである。切り替えは早い。
「シロンちゃん、起きて。朝ご飯置けないからさぁ」
「ひゃあ、目立ってごめんなさい、ごめんなさい……」
「大丈夫だから、目立ってないから、ほら起きてぇぇぇ」
尾びれを掴んでテーブルの下から引っ張りだそうとしてみても動かない。びくともしない。と、なればやることは一つ。
「これでよし」
テーブルそのものを退かすまでよ。どうよ、この私の考え。賢くない?
「なにも解決してないし、誰も起きてないから。ほら大家さん、起きてください、朝ですよ」
くそぅ、そんな的確に突っ込み入れなくてもいいじゃない。私はレンみたいに短足の癖に筋肉ムキムキとか……イデッ!
「俺は短足じゃない」
短い腕から強烈なチョップが飛んできた。うぅむ、短足は地雷だったか。これから注意せねば……。
「ねぇ短……痛い!」
「しつこい」
今度は早かった。 振り向き様にチョップとかもう回避不可だよ。ポケモンで言うところのスピードスターとかそういった類の技みたいな状態だよ………。
むぅ、それにしても起きないな皆…。
「ねぇレン、皆起きないし私たちだけでも先に食べちゃわない?」
「え~、そうすると各方面から恨まれそうな気が…」
「いいじゃん、どうせ皆起きないんだし」
「え~…」
レンの顔が嫌そうに歪む。むぅ、そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか。私そんな変なこと言ったか?
「……まぁ、後で何とかなるか。じゃあ…」
「「頂きます」」
うん、なんか久しぶりに焼き魚食べた気がする。レンはいつも朝早く部屋を出ちゃうし、パンしか出してくれないし、自分で作ろうとするとチョップが飛んでくるし、だから今日の焼き魚は新鮮だなぁっと。
「なんだその独り言は…俺への当て付けか?」
「うん、毎朝パンしか出してくれないどっかの誰かさんへの当て付け」
うっわ、レンの顔が苦虫を噛み潰したみたいなひどい顔してる。そしてその横で天使と悪魔が私をみて笑っ…「シャラップッ!…うしゃ、捕ったどォォォォ!」
ふふふ、見たかお前ら。これで私を笑うものは何もいなくなった。さてこの天使と悪魔をどう料理してくれようか…。
「お前、本当に大丈夫?」
「はぅッ!」
本当の本当に心配そうな顔で私の顔を見つめてくる。私は病人じゃないッ!
やめろ、やめてくれぇ、そんな憐れむような目で私を見るなぁぁぁぁぁああ!
あ、この悪魔と天使め。いつの間に手から抜け出しやがったッ?
貴様らのせいで私はこんな視線を向けられているんだぞ!つかお前らまで私にそんな視線を向けるな!
キィイィィィィィィィィィッ‼
「お前、一回脳外科行くか?」
「行ったほうがいいかもしんない…」
我に戻ったとき、シロンちゃんも心配そうに私を見ていました。それはもう何やってんのお前…みたいなさげすむ目を…あ、悪魔と天使め。また私を笑ってやがキィイィィィィィィィィィッ‼
「…………寝る」
「お、おぅ。ゆっくり寝とけ?」
うんと私は言って後ろから心配そうな視線を受けつつもレンのベットに潜り込み二度寝を決め込んだのであった。

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