第4話 目指すはアステル地方【後編】

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見切り発車故の更新不定期、やれやれだぜ
 ふむ、突然だがポケモンバトルをする流れになってしまった……。
個室の入り口でお互いあたふたしてるところにラルヴが乱入、なんとかラルヴが状況をまとめてくれた。
 まず、この女の子の名前はフリュイちゃん……最初の僕の恥ずかしいボケに対して真面目に自分の名前を教えてくれていたらしい。
次に、このフリュイちゃん、どうやら本校に行くまでに少しでもポケモンバトルの練習をしようと隣の個室の僕まで訪ねてきたが、男と話したことがなく実際男と話してみたら何故だか緊張したらしい。
ふむ、僕としてはバトルしても構わないのだが。
「この船、ポケモンを戦わせられるような場所あるのか?」
僕が素朴な疑問を伝えると、フリュイちゃんは制服のポケットから一枚の紙を取り出し僕に見せてくれた。
どうやら船の見取り図のようだが……。
フリュイちゃんが見取り図をある一点を指差す、そこはどうやら簡易的なスタジアムのようだ。
「この船は学校側が特注で作った校内でのイベント等のためのものらしくてですね、ここなら戦わせてもいいだそうです」
なるほど、海上のスタジアムってことか、なかなか凄いな。
「うん、じゃあそこまで行こうか」
ここ二週間、ラルヴかマスタータワーの皆さんとしかバトルしてなかったからな、フリュイちゃんがどんなポケモンを使うのか楽しみだ。







 スタジアムの使用許可はフリュイちゃんが既にとっていたらしく、誰もいなかった。
スタジアムの舞台上、床に描かれた長方形の戦闘用スペースを挟んで反対側にはフリュイちゃん。
審判はラルヴにお願いした、というか他にはラルヴしかいないし流れでラルヴに決まったまぁ審判といってもポケモンが戦闘不能になった際に宣言してもらうだけだが。

「使用ポケモンは1体、まぁお互い練習のつもりで張り切りすぎないようにね」
 ラルヴのルール説明を聞いたフリュイちゃんと僕の間の先ほどまでの困ったような空気が薄れていく。
お互いが精神を研ぎ澄まし、ピリピリとした空気が身体に刺さる、緊張感が心地いい……目の前の景色に集中できる。
 ショルダーバッグからモンスターボールを取り出し、僕は空高く放り投げた。
「僕からいくよ!いけっ、ニダンギル!!」
 投げたボールが空中で開いて中から影が飛び出す。
その影は二本の刃、空中で飛び出した刃が弧を描いて地面へと突き刺さった。
『ギギルギル!!』『ギルギール!』
 ニダンギル、鋼とゴーストの混合タイプ、そのポケモンは見かけは2振りの剣だがよく見ると鍔のあたりに目やら口やらがついていて、硬質的なボディではあるがちゃんと呼吸している立派な生き物である。
 フリュイちゃんはニダンギルの姿を確認し、少し迷ったようだが、すぐにモンスターボールを放り投げた。
「相性は悪いけど……頑張って!ドレディア!!」
フリュイちゃんの投げたボールから出てきた影はまるで緑色のドレスを着た可憐な少女のような姿をしている。
「ディア、ディィア」
鈴のように澄んだ鳴き声を出したのはドレディア、草タイプのポケモンである。
 フリュイちゃんの言ったとおり、鋼タイプのニダンギルと草タイプのドレディアでは相性は最悪だ。
 だが、フリュイちゃんはやけになったわけではないだろう、なにか理由があってドレディアを出したはずである……しかし、戦闘用スペースの向こう側、表情もなにもわかったものではなかった。
「ドレディア、蝶の舞!」
ドレディアがふわりふわりと、その名の通り蝶のように美しくしなやかに舞い踊る。
蝶の舞は蝶のように舞うことで自身のステータスを底上げする技だ……ならばこちらも……!!
「ニダンギル、剣の舞だ!!」
ニダンギルはドレディアとは対照的に自らの動きを研ぎ澄まし己を鼓舞する。
二匹のポケモンが舞い踊る、このまま音楽でも流れていればお祭りかなにかかと勘違いしてしまいそう……いや、ポケモンたちと僕たちが纏ってる空気がピリピリしているせいでそれは無さそうだ。
「ドレディア、目覚めるパワー!」
舞い踊るドレディア、その周りに赤い光の玉がいくつか浮かび上がり、一斉にニダンギルへと襲いかかった。
「くらうわけにはいかないな!ニダンギル、影打ち!!」
目覚めるパワーがぶつかる寸前、ニダンギルの身体が地面へと……いや、地面に見える自らの影へと沈んだ。
標的を失った目覚めるパワーは地面に当たると火花を伴ってはじけた。
その火花から逃れるように地面の影だけが蛇のように素早くドレディアの足元まで移動したかと思うと、地面から刃が生まれた。
 ニダンギルの刃は右肩のあたりをかすった。
ドレディアが苦しげな声を上げながら後退していたらしくクリーンヒットしなかった、どうやら一撃ではしとめられなかったようだ。
「もう一度、目覚めるパワー!」
 ドレディアの周りに再度赤い光が浮かび上がる。
「こっちももう一度影打ちだ!」
 ニダンギルがまた地面へ沈み、影がスルッとドレディアの足元へ移動した。影から刃が飛び出すと……飛び出した刃と何故かドレディアの周りを旋回し一向に発射されない赤い光が衝突し炸裂した。
パァンッ!と渇いた音が聞こえ。
『ギギィルッ?!』とニダンギルは訳が分からないといった声で鳴いた

 赤い光が炸裂し、ニダンギルはとっさに避けまいとしたが更に数発当たったしまったようだ。
ニダンギルは急いで後退し、ドレディアとの距離をとった。
「ニダンギル大丈夫か?!」

 『ギルっ!』大丈夫だよ、とそんな風にいっている気がした
まさか、ポケモンから発射される目覚めるパワーをポケモンの身体の周りに留めて盾にするとは……。
ニダンギルに影打ちを指示したが、先ほどの影打ちが当たらず焦っていたようだ。
ニダンギルの丈夫で力強い身体を持つ、あの至近距離での炸裂はたしかに鋼タイプなだけあって今のところ動きなどに支障はないようだが、これ以上くらうのはあまり得策ではない。
影打ちは動きを読まれている……なら。
「ニダンギル!!ジャイロボール!!!」
ジャイロボール、鋼タイプの技で、鋼の硬質な肉体を回転させることで破壊力を生む物理技だ。
2つの刃が円を描きながらドレディアへと進んでゆく、その回転速度は徐々にあがっていく。
ドレディアの周りの赤い光がジャイロボールにむかっていくが、光に刃がふれ切り込み、切り刻む、空気をも引き裂きながらドレディアへとまっすぐに進む。
しかし、目覚めるパワーで少しスピードが落ちたジャイロボールをドレディアは軽々と避けた、蝶の舞によってスピードも底上げされているためだろう。
「ドレディア、宿り木の種!!」
ジャイロボールのすれ違い様ドレディアの腕から数粒、植物の種のようなものが射出されニダンギルに当たった、突き刺さったわけではない、身体にめり込むほどの威力などでもない、ただ当たることに意味があった。
ニダンギルの身体に当たった種がビシッと音をたてて割れる、種の中身はニダンギルから栄養を吸い取ってみるみると成長し、ニダンギルの身体を拘束した。
ただ拘束するだけならニダンギルなら余裕でふりほどけたかもしれないが、その宿り木の種はニダンギルのエネルギーを吸収して成長する。
『ギギッ?!』
ニダンギルが急に訪れたり身体の不調に驚いたような声を上げる。
「ドレディア!目覚めるパワー!!!」
「ニダンギル、影打ちだ!!」
ドレディアの周りに再度赤い光が何個も浮かぶ、どうやらここで決めたいらしい、先ほどよりエネルギーが込められているのか大きさは変わらないが光が先ほどまでと比べて大きい。
それに対してニダンギルは身体が拘束されているせいで、影に身体が半分しか沈まず半分は無防備に地上に出ている。
ニダンギルは宿り木の種に動揺して影打ちが完全には発動していない、このままではニダンギルに目覚めるパワーが当たって……しかもあの光の大きさからみて、当たれば戦闘不能は避けられないかもしれない、フリュイちゃんの戦略に少し驚いた……。
が、甘かったな。
ドレディアが目覚めるパワーを発射する直前、地面から一振りの刃が飛び出した。
その刃は容赦なくドレディアの胴を捉え、軽そうな身体を吹き飛ばした。
「ドレディアっ?!」
ドレディアは地面にどさっと音をたてて倒れる、その目は焦点があっておらず立ち上がることは難しそうだ。
「ドレディア戦闘不能!よってニダンギル、アシエの勝利」
フリュイちゃんはなにかドレディアに声をかけてボールに戻した、そしてそこで初めて地面からドレディアを襲ったものに目が行ったらしい。
そこにうつっているのはニダンギルの身体である。
宿り木の種に拘束されているはずのニダンギルの影打ち……。
たしかに宿り木の種はニダンギルの動きを拘束していた。
だが地面から飛び出したのは確かにニダンギルである、そしてニダンギルの身体は半分まだフリュイちゃんから見て、ちゃんと地面の上に残っている。
どさっと半分、そう剣一振りと身体を支える鞘の部分はしっかりと残っている。
ニダンギルは二振りの刃が連結しているが、身体は分離可能でしかも、刃と刃はそれぞれがちゃんとした意識を持っているのだ。
さすがにずっと別行動はできないが、影打ちで一振りだけが相手を奇襲するくらいならできたのだ。  
「うー、完敗です……」














ニダンギルとドレディアを船内に備え付けられているポケモンセンターのジョーイさんに預けて僕たちはポケモンセンター内の休憩スペースの椅子に腰掛けた。
「ドレディアがほとんど一撃で倒されちゃいました……ニダンギル強かったです」
フリュイちゃんは少し悔しそうな表情で天井を見上げた、そこへラルヴがまぁまぁと、慰めるように声をかけた。
「剣の舞で攻撃力も上がってたし、しょうがないよ、ドレディアからしたら相性最悪だったみたいだしさ」
ドレディアは草タイプ、鋼タイプのニダンギルに対しての有効打は目覚めるパワーだけだったのだろう。
「たしかにね、こっちは影打ちもジャイロボールもどっちもドレディアに有効だったし、ドレディアは目覚めるパワーだけであそこまで善戦したんだ……フリュイちゃんもドレディアも凄い強かった」
フリュイちゃんが天井を見上げるのやめて、こちらへ目線を向けた、が悔しいという表情は少し収まり少し頬を膨らませて冗談のように語った。
「うー、まぁたしかに私のナエトルがドダイトスまで進化していれば勝負はわからなかったですからね」
たしかに、鋼タイプに対して地面タイプは有効だ、ニダンギルは鋼の身体故、攻撃に耐えるのは得意ではあるがさすがにドダイトスの大きい身体から繰り出される地震などの高い威力の技は耐えきれないだろう。
が、さすがにまだナエトルではそこまで怖くはない。
「じゃあ、フリュイちゃんのドダイトスと戦えるのを楽しみにしてるよ」
ポケモンセンターの窓から外を見ると、日が傾き夕焼けがきれいだった。
明日、明日にはきっと僕よりも強い人たちがぞろぞろいるであろう学校に着く、そう考えると少し震えてきた。
「ラルヴ、次やるか」
「ん、構わんよ」
身体を動かしたくてたまらない、ラルヴには練習相手にでもなってもらおう。

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