第3話 目指すはアステル地方【前編】

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今回から三人称ではなく主人公の一人称での進行になります、どうぞよろしくお願いします。
    コルニ、という女性から受けた入学案内からもう、二週間が過ぎようとしている。
入学までの準備として言い渡されたのは、自分の専門のタイプを決めておくことと、そのタイプのポケモンを最低4体手持ちに加えておくこと、ということだった。
僕はもうすでに最初からタイプは決めていた、というよりはそのタイプのポケモンしか使っていなかったため、この2つの条件はあまり気にならなかった。
 そして今日、ついに僕たち13人はヒヨクシティに移動することになった。
 13人、他にカロス地方からアステル本校にあるというポケモンハイスクール本校に移動するらしいが、あいにく友達をつくるのが苦手な僕は一緒に受験した友達一人をのぞいてろくに顔を合わせていない。
僕は既に自分の手持ちが条件を満たしていたため、シャラシティで与えられた個室とマスタータワーをひたすらその一人の友人と共に行き来していた。
マスタータワーにはコルニさんのおじいさんのお弟子さん(格闘タイプの使い手)の皆さんがおいでなさったので、修行に混ぜてもらったが相性が悪くなかなか大変だった。

 さて、どうも起きてからなかなか目が覚めなかったので今までのおさらいをしていたが、ようやく目がさえてきた。洗面所へ向かおう。
ポケモンハイスクール側が用意してくださった個室のなんとも微妙な柔らかさ具合のベッドから抜け出し、ゆっくりと洗面所へと歩を進めた。
冷たい水が完全に僕の頭を起こしてくれた、おめめぱっちり。
鏡を覗くと、もう見慣れた薄い紫色の瞳と目があった、なんてことない、自分の目だ。
特にファッションなど気にしない僕は瞳と同じ色の髪も伸びるままに放置しているせいで耳は髪で隠れ襟足は肩につきそうだ、触角のないラルトスのような髪型だ……そろそろ髪切ろうかな?床屋など行く時間もないしラルヴのストライクに切ってもらおうかな……。
個室のクローゼットに用意されていた浴衣を脱ぎ、今日からはこれを着るようにと言われたポケモンハイスクールの制服の袖を通す。
白いワイシャツなど父が仕事の時に着ていたのを見たことがあるくらいだったのだが、自分が着ることになるとは……黒いブレザータイプの制服には青いワンポイントがところどころに散りばめられている、たしか男子の制服が青、女子がピンクだったかな。
ネクタイ……は結び方がわからなかったが昨日コルニさんに相談したら結び方の手順を書いたメモを頂いたのでそれを確認しながら自分でも拙い(つたない)と思う手つきで結ぶ……あ、ちょっと短いかも……ま、いっか。

制服に手こずりはしたが、制服さえ着てしまえばこちらのものだ、バッグは指定されず自由とのことだったのでシャラシティまでくる際に使っていた小さめな黒のショルダーバッグにモンスターボールが入っていることを確認して個室を出た。

 今までお世話になった宿泊施設に別れを告げ、集合場所であるマスタータワー前を目指す……。
いい天気だ、まるで僕の未来を暗示しているかのよう……あ、あっちのほう雨雲みたいなの見える、これは俺の未来じゃないな、ラルヴあたりの未来だろう、多分。

マスタータワーへと続く水に囲まれた通路を進んでいると、目の前に人影が見えた。
僕と同じ制服に白の短髪僕と似たような中肉中背、うん
ラルヴだな。
ラルヴは僕の友人にして虫ポケモン大好きな顔はかっこいいのにおどおどとしていてなんだか加虐心をそそるやつである。
「ラルヴ、おはよう」
ラルヴの背中に向かって声をかけると短い白髪が振り向いて黄色い目がこちらを見返しその口からおどおどとした声で軽くおはようと返してくれた。
「アシエ、昨日の夜はなにしてた?」
アシエ、というのは僕の名前である、スリジエ アシエ……女のような名前だがいたって僕は男である。
ラルヴの質問には簡単に答えられる、昨日はずっと入試の合格祝いで父に買ってもらった最新式のポケギアで動画を見ていたのだから。
「ホウエンリーグのダイゴさんがバトルしてるとこだけを観てたわ」
ラルヴが顔で語る、またか……と。
「アシエは相変わらずダイゴさんのこと好きだね、またメタグロスのコメットパンチのシーンを何十回も繰り返し再生したりしてたの?飽きないねほんとに……」
あの芸術的な戦術理論やメタグロスとの息のあった連携、メタグロス自身のポテンシャルの素晴らしさをわからんとはこいつ……。
そう、メタグロスあの……

















「エ!……ァ……!ァシ……!……おいアシエ!!」
「ええい!今メタグロスの体の構造について盛り上がってるところだろ……うが……」
 ラルヴがさっきまでは相づちを打っていたのに急に大声を出してくれたおかげで、ようやく気づいた。
集合場所に着いたのに僕はコルニさんどころか僕とラルヴを除く他の10人全員を無視してメタグロスについて熱く語っていたらしい、ろくにかおも合わせなかった本校組の全員が呆れた目でこちらを見ている。
自分の顔が熱くなっているのを感じる。
「あー、すいませんお騒がせしました」
喉から絞り出した謝罪は、少し裏声だった。







相変わらずスーツをワイルドに着崩したコルニさんから、今後の予定をざっくりと……ほんとにざっくりと聞いたところによると。
ヒヨクシティまでは学校側が用意した飛ぶ力を失った代わりにかなりの脚力を秘めた鳥ポケモンのドードリオもしくは雷の力を操る素早いしまうまポケモンのゼブライカに乗って移動するらしい、僕はドードリオ、ラルヴはゼブライカに乗ることになった……本当はラルヴがドードリオに乗る予定だったがラルヴは極度の鳥ポケモン嫌いのためゼブライカと交換してやったのは内緒だ。
このドードリオたちとゼブライカたちは学校側が育てた長距離移動用に訓練されたらしく本来ならもっとお尻に衝撃やら体全体に揺れやらなんやらが襲うはずだが、思ったより楽に移動している。 
 ヒヨクシティに着いたらそのまま船に乗って本校のあるアステル地方まで移動するらしい。
昼頃に出航、到着は明日の朝……つまり船で一夜を過ごし、朝起きたら学校に着く……あれ?これ今日制服に着替えた意味あるのか?



 



 少ししょっぱいようなすっぱいような……潮風が鼻をくすぐる、ヒヨクシティは近い。
ポケモンたちと風になって高速で進んでいた僕たちは野生のポケモンにも遭遇せず……というか野生のポケモンたちの方がぶつからまいと避けていたがとにかくまっすぐヒヨクシティまで走ってこれた。
僕たちを運んでくれたドードリオとゼブライカたちが足を止める……うん、揺れだったり衝撃だったりは少なかったがやはりお尻がじんじんする……。
ドードリオとゼブライカたちをモンスターボールに戻したコルニさんもやっぱりお尻がじんじんするのか、お尻を抑えながら同じくお尻を抑える僕たちを船着き場まで案内してくれている……周りのセーラー服の皆さんの視線が痛いです。
「みんな、時間かかっちゃってごめんね……次は船だけど、各自個室にベッドとかあるから充分にお尻を休めてね……イタタ」
……おい、セーラー服たちよコルニさんの体を見てないで仕事しろ仕事。





 船の個室でお尻を休ませていると、ふとチャイムが響いた。
半分意識がなかったため体全体がビクッと軽く震えよだれが垂れた気がするが大丈夫だろう、きっと。
ベッドから離れようとのそりと立ち上がり、そのままふらふらとした足取りで扉へと向かう。
扉ののぞき穴をのぞくとそこには……!
なんと!
そこには!!
まさかの!!
……とまぁラルヴだろう……って違う人や誰だこいつ?
若草色の髪の毛、先が少しふわっとしている瞳は大きくきらきらとエメラルドのように輝いている。
……え?女の子だよね?あれ?誰?
扉を軽く開け、なるべく好印象をと冗談を交えてあいさつをしよう。
「何者じゃ…!」
これ違う奴だ、なんかめっちゃ警戒してる感じになってる!!
「ふぇっ?いや、そのぉ……フリュイです」
古い?なるほどネタが古いか……くっ、この子なかなかやるな、初めての相手との会話で慣れてないくせにボケようとするコミュ障な僕も僕だが、ボケを採点されるなんて思いもしなかった……。
「アシエさん……ですよね?」
「え、あ、うんそうだよ?」
馬鹿な……名前がバレている……だと?
「お願いがあってきたんですが……その……私と……」
え?ちょっと待って?なんでもじもじしてるの?なんで顔赤いの?あ、顔熱くなってきたやばいやばい。
「バトルしてください!」
「こちらこそよろしくお願いしまっ!!……す……へ?」

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