Epilogue -新たなはじまり-

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読了時間目安:22分
アルミア地方東部の無人島を舞台にした事件から半月が過ぎ、アカツキは晴れて退院することができた。
半月も動いていないと、身体が鈍る……と思いきや、看護師を説得して、可能な限りのリハビリ(多少激しい運動も含む)をしておいたおかげで、少し体力が落ちている程度で済んだ。
医務室を出たアカツキは、真っ先に自室へ向かい、二体のパートナーポケモン――ムックとブイと、久しぶりに顔を合わせた。

「ムクホーっ!!」
「ブイ、ブイブイっ♪」
「心配かけたね。でも、もう大丈夫だよ」

扉を開けて部屋に入るなり、ムックとブイは表情をパッと輝かせながらじゃれ付いてきた。
一つ屋根の下とはいえ、半月も会わずに過ごしていたのだから、パートナーとしても不安になる。
いきなりじゃれ付いてきたのも、不安に思っている気持ちがあったからだろう。
彼らの気持ちを慮り、アカツキは言葉と共に、彼らの身体を優しく撫でてやった。
一頻り好きにさせてやった後、ベッドに腰を下ろす。
そんな彼の顔を、ブイが不思議なものを見るような目でじっと眺めてきた。
……否。顔というより、左の側頭部にくっきり刻まれた傷跡と言った方がいいだろうか。
ボーマンダのドラゴンクローを食らった傷跡だが、かなりの深手であったため、傷口は塞げたが、傷跡は一生残ると言われたのだ。
髪を伸ばせばしっかり隠れるし、わざわざ包帯で隠すほどのものでもないと思って、そのままにしておいたのだが、やはりパートナーからすれば不思議に思うのだろう。

「この傷はね、僕が未熟だったから負ったものなんだよ。
だから、隠したり繕ったりはしないんだ。傷口は塞がってるし、大丈夫さ」

子供に言って聞かせるように、アカツキは言った。
もっとも、その言葉はムックやブイに対してというよりも、むしろ自分自身に対する戒めとしての意味合いの方が強かったのかもしれない。
ボーマンダから攻撃を食らったのも、相手の攻撃速度を読みきれなかった自分の未熟さからだと、素直に認めているからだ。

「ムック、ブイ。半月も待たせちゃったけど、これからはまたアルミア地方を飛び回ることになるよ。
身体、鈍っちゃってるかもしれないけど、頑張っていこう」
「ムクホークッ!!」
「ブイっ!!」

アカツキの言葉に、ムックとブイは一際大きな声で嘶いた。
実際のところ、二体ともレンジャーユニオンの周囲にある森に毎日赴いて、身体が鈍ってしまわないようにトレーニングをしていたのだ。
やむなくアカツキはゆっくり休んでいたのだが、彼のパートナーたちは日々の鍛錬を欠かしていない。
いざと言う時に力を発揮できずに悔やむような結果を生み出してしまうよりは、精一杯できることをすべきと自主的に判断していた。

「うん、ありがとう。
それじゃあ、ササコ議長の部屋に行こうか。
トップレンジャーの任命式をしたいんだって。形だけのものらしいんだけどね」

アカツキは頷き返すと、ムックとブイを引き連れて、ササコ議長の執務室へと向かった。
手術後に議長から、トップレンジャーの試験に合格したと話をもらっているのだが、正式に任命を受けるまでは、一介のエリアレンジャーに過ぎない。
そこで、トップレンジャーとして認めるための任命式を行いたいと、今朝方電話をもらったのだ。
すでに看護師からは『アカツキさん? ああ、もう存分に暴れてもらって構わないですよ』と許可を得ていると言っていたので、ちゃっかりしてるな……と苦笑したのを思い出す。
とはいえ、トップレンジャーの任命式などと堅苦しい表現を用いていたが、実際はトップレンジャーの証となるファイン・スタイラーの貸与が行われるだけだ。
ポケモンハンター・ジェイからメタモンを守るミッションを受けた時に貸し出されたファイン・スタイラーはすでに返却しており、現在はどのような扱いを受けているのかは分からない。
あの時のスタイラーにしろ、真新しいスタイラーにしろ、トップレンジャーの職責や重みが変わるわけではないのだが。

(今日からトップレンジャーか……って言っても、当分はレンジャーベース新設のプロジェクトの方で忙しくなるんだろうな)

廊下をゆっくりと歩きながら、アカツキはそんなことを思った。
アルミア地方の自然と平和をより強固に守るためには、より多くの拠点が必要となる。
そこで、レンジャーベースを三箇所、新設することになったのだ。そのプロジェクトの一員に抜擢され、トップレンジャーのミッションはそこそこに、そちらの方で頑張ってもらうと言われたのだ。
どちらにしても、自分のやることが平和を守ることに役立つなら、それ以上にうれしいことはない。
エレベーターに乗り込み、八階から十階へ。
動き出してから到着までのほんの十秒程度の間だったが、アカツキはスタイラーを手に取り、じっと眺めていた。

(このスタイラーとも今日でお別れか……今まで、いろんな苦労を潜り抜けてきたんだもんな)

細かな傷が無数につき、本体の背部に爪痕のような一筋の大きな傷が走っている。
ポケモンレンジャーになってから今までの三年間、様々なミッションを潜り抜けてきた中で刻まれた傷だ。
キャプチャ・スタイラーは、ポケモンレンジャーの証。
三年前、ビエンタウンのレンジャーベースに配属された日に、このスタイラーを貸与された時のことは、昨日のことのようにしっかりと覚えている。
ホンモノのポケモンレンジャーになったのだという喜びと、ポケモンレンジャーとしての責務の重さを同時に味わったのだ。
その時ほどの気持ちではないにしろ、今日から立場が大きく異なっていく。
エリアレンジャーと、トップレンジャー。
同じポケモンレンジャーでも、できることと責任の度合はかなり違ってくるのだ。

(それでも、僕自身が望んだことだ。逃げたりはしない)

立場が変わるから、それに見合った設備を使う。
ただそれだけのことだし、むしろその境遇は自分で望んだことだ。

(ありがとう、僕らの相棒……)

アカツキは三年間、自らと苦楽を共にしてきたスタイラーに心の中で礼を言うと、再び腰に差した。
エレベーターが十階に到着し、開いた扉から廊下へ。そのまままっすぐ進んでいくと、ササコ議長の執務室だ。
呼吸を整えながら歩き、執務室の扉の前で足を止める。
緊張しているわけではないが、知らず知らずに背筋がピンと伸びる。
軽く扉を叩き、口を開いた。

「ササコ議長。アカツキです」
「どうぞ。入ってください」
「失礼します」

了承を受けて執務室に入ると、層々たる面々が待ち受けていた。

(…………なにも、こんなにいなくても……)

さして広いとは言いがたい執務室には、四人がいた。
アカツキを呼び出した、最高責任者であるササコ議長。
採鉱技術顧問としてスタイラーを発明したシンバラ教授。
元トップレンジャーの経歴を持つキリヒト副議長。
そして、アカツキの同期にして親友、トップレンジャーのダズル。
議長、教授、ダズルの顔には揃って笑みが浮かんでいたが、ただ一人、キリヒト副議長は凛とした表情をしていた。
年の頃は二十代で、薄紫の髪を短く刈り揃えている。
体格は中肉中背だが、凛とした表情と鋭い眼差しから、幾多の修羅場を潜り抜けた歴戦の兵(ツワモノ)を思わせる。
……のだが、アカツキも彼とはほとんど話をしたことがなく、自他共に厳しい性格の持ち主ゆえ、上層部ではやや浮いた存在となっていることくらいしか知らなかったりする。
元トップレンジャーということで、現地に赴くポケモンレンジャーのことは誰よりも理解している上層部と言っても良く、新たなトップレンジャーが誕生する場面に居合わせたとしても、なんら不思議はない。

「…………」
「…………」

ムックとブイも、副議長が放つ凛とした雰囲気に気圧されてか、若干緊張した面持ちを見せていたのだが、アカツキは彼らの状況を理解しつつも、議長に頭を下げた。

「アカツキ君、あなたを新たなトップレンジャーとして認めます。
トップレンジャーの証たるファイン・スタイラーを受け取ってください」

堅苦しい話も、長い前置きも不要と、議長はすぐさま本題に入った。
副議長が教授から真新しいファイン・スタイラーを受け取ると、それをアカツキに手渡した。引き換えに、彼が今まで使ったスタイラーを回収する。

「アカツキ、きみの活躍は聞いている。
トップレンジャーとして世界の自然と平和のために尽力してもらいたい。
今後の活躍を期待している」
「はい」
「トップレンジャーと認めたとはいえ、きみは十六歳と、まだ若い。
時にはダズルや他の仲間たちに相談したり、また助力を請うことも必要となるだろう。
単独での任務が多くなるからこそ、仲間たちとの絆を大切にしていくことを忘れるな」
「分かりました。肝に銘じます。
……貴重なご助言、ありがとうございます」
「うむ……」

凛とした表情と、厳しさの入り混じる口調。
身の引き締まる想いで、アカツキは副議長の言葉を拝聴していた。
元トップレンジャーという経歴は伊達ではなく、本当にそれが必要だからこそ、当たり前で誰もが分かっていることをこの場で口にしたのだろう。
自他共に厳しくも、仲間想いで優しい性格の持ち主……今の言葉から、アカツキは副議長の人物像を多少なりとも理解したような気がした。

(新しいファイン・スタイラー……僕の新しい相棒だ。よろしく)

アカツキは受け取ったファイン・スタイラーを装着した。
半月前に、試験を兼ねたミッションでもファイン・スタイラーを扱ったのだが、心なしか、あの時とは感覚が若干異なっているように思える。
……やはり、トップレンジャーとして認められ、これからは行動により一層の責任を求められる立場になったのだという『重み』をひしひしと感じたからだろう。

(ポケモンレンジャーになって三年でトップレンジャーなんて、前はそんなこと、全然考えたこともなかったな)

トップレンジャーへの昇格の最短記録保持者はダズルだが、アカツキも三年弱での昇格と、二人して異例と言うほかない。
セブンやハーブでさえその倍近い期間を要したくらいなのだ。
もっとも、トップレンジャーと認められたのも、レンジャーとして活動してきた期間の短さとは反比例して、様々なミッションをこなして実力を磨き上げてきた結果である。

(だけど、これからが本番なんだ。気を引き締めていかなきゃな)

トップレンジャーになったからと言って、それで終わりではない。
むしろ、選択の幅が広がった分、これからが本番と言っていい。
自然と平和を守るために、最善を尽くしていかなければならないことに、変わりはないのだ。
スタイラーをじっと眺めているアカツキに、ササコ議長が言葉をかける。

「早速ですが、アカツキ君、ダズル君。
トップレンジャーのあなた方二人にミッションを与えます」
「……!!」

弾かれたように顔を上げるアカツキ。
いきなりミッションの話が来るとは予想もしていなかったのだが、今まで以上に忙しくなることを考えれば、突然ミッションを与えられても不思議はない。
しっかりと気持ちを引き締めていかなければならない。

「詳しい内容はわしの方から話をしよう」

議長から話を継いで、ミッションについて話したのはシンバラ教授だった。

「この国の最西端の地方であるイッシュ地方は知っているな?
イッシュ地方の北西部にネジ山と呼ばれる鉱山があるのだが、そこがとある一団によって乗っ取られたという報告が入った」
「イッシュ地方……」

アカツキもダズルも、イッシュという地方があることは知っていたが、行ったことがないだけに、詳しくは知らないというのが正直なところだった。

(確か、イッシュ地方って、レンジャーベースがなかったような気がするな)

いきなりトップレンジャーの二人に話が回ってきたのも、イッシュ地方にレンジャーベースが存在していないからである。
イッシュ地方は本土と同様にポケモントレーナーが多い地域で、ここ数十年は大きな事件が起こることもなく、レンジャーベースの必要性が薄いために、レンジャーベースが設けられていない。
言い換えれば、レンジャーユニオンに話が来たことからしても、現地の警察が対応に苦慮しているということだ。
どの地方でも、凄腕のポケモントレーナーであるジムリーダーを各地に配し、有事の際には治安維持のために出動させているそうだが、それでも手に余るということかもしれない。
シンバラ教授の言葉からそこまでの状況を読み取りつつも、次の言葉を待つ。

「規模の大きな一団らしく、彼らが従えているポケモンたちが屈強なため、警察が突入できずにいると、応援要請が入った。
ネジ山はスタイラーに用いる良質な鉱物の産地でもあるから、この状態が続くとユニオンにとって痛手となりかねない。
ゆえに、トップレンジャーに任せるに相当と判断した。
きみたちには現地に赴き、警察と協力して解決に当たってもらいたい。
平和的な解決ができればそれに越したことはないが、レンジャーとして、自然と平和を守ることを優先することを忘れないでもらいたい」
「了解しました」
「それじゃ、すぐ現地に飛びます」
「うむ。頼んだぞ」

そこまで聞けば十分だった。
アカツキとダズルは議長たちに頭を下げると、執務室を飛び出した。
扉が閉まり、足音が遠ざかっていくのを聞きながら、教授は小さくため息をついた。

「レンジャーベース新設のプロジェクトは若干遅れそうですな」
「今回ばかりはやむを得ないでしょう。
セブンもハーブも別のミッションに当たっていますし、カヅキ、ヒナタ両名もミッション中に負ったケガが完治していない状態です。
現在のところ、この国で出せるトップレンジャーは彼らだけ。
若い二人には良い経験になることでしょう」
「ふむ……まあ、それもそうですな」

キリヒト副議長の言葉は正しかった。
トップレンジャーに任せるべき案件ではあるが、今現在、この国で出せるトップレンジャーはアカツキとダズルだけだったのだ。
外国のトップレンジャー(二人よりも経験が豊富)を呼ぶにしても、一刻も早く解決が望まれる案件だけに、時間が惜しい。
だったら、今すぐここから飛んでもらった方が時間的にショートカットが望めるし、何より、若きトップレンジャー二人にとって経験を積むチャンスとなる。

「まあ、彼らなら普通に解決して戻ってきますよ。
それだけの素質も力も持ち合わせていますからね」
「ええ、そうですね。
その分、プロジェクトの方はわたしたちで進めておきましょう」

議長が扉に向けて、笑みを浮かべる。
扉の向こうへと走り去っていったアカツキとダズルの背中に向かって、微笑みかけていた。






一方、アカツキとダズルはそれぞれのパートナーを連れて、ユニオン本部を出発した。
アカツキはブイを、ダズルはピートを連れて行くことにしたのだが、イッシュ地方はこの国の最西端に位置しているだけあって、アルミア地方からかなり遠い。
ムックやピートの背中に乗って、空から現地に向かったとしても軽く二日近くかかってしまうため、今回は海路を選択した。
プエルタウンまではピートに乗せていってもらい、そこからはユニオン所有の高速船で現地へ向かうことにしたのだ。時間的にも大して変わらないという判断だった。
現地に到着するまでの間に、パートナーが疲れてしまっては話にならない。
アルミア地方の中での話なら、飛び回ったとしてもさほど疲れないのだろうが、行ったことのない地方ともなると、話は変わってくる。
とはいえ、イッシュ地方に入るまでは特にすることもなく、ミッションに備えて英気を養っておくのがベターだろう。

「アカツキ。今日からおまえもトップレンジャーだな。おめでとう」
「ありがとう、ダズル。でも、ここからが本番だよ。キミだってそうだろ?」
「まあな」

波を切って海を行く船の甲板で、アカツキとダズルは会話を交わしていた。
本当は議長の執務室で『おめでとう』と言いたかったのだろうが、居並ぶのが層々たる面々だったため、それもできなかったようだ。
……と、アカツキはダズルの気持ちを素直に受け取りつつ、彼がどうして執務室にいたのかという疑問をぶつけてみた。

「でもさ、ダズル。なんで議長の部屋にいたんだ?」
「あー……なんか、おまえと一緒に行かせたいミッションがあるとかで呼ばれたんだよ」
「なるほど」

どうやら、議長たちは最初からアカツキたちをイッシュ地方に派遣するつもりでいたらしい。
二人まとめて話をした方がいいと判断して、ダズルをあの場に呼んだのだろう。
ちゃっかりしていると言うか、抜け目がないと言うか……まだまだ、上層部には人生経験において勝ち目はないらしいと、アカツキは苦笑した。

「オレとしちゃ、おまえとこうやってタッグ組んでミッションに当たれるってのは願ったり叶ったりだな。
おまえに、トップレンジャーの先輩としていろいろアドバイスもしてやれるし」
「よろしくお願いしますよ、先輩」
「こいつ、言いやがったな」
「はははっ」

他愛ない話をしながら、互いに笑い合う。
ミッションに向かっているトップレンジャーとは思えなかったが、最初から緊張しっぱなしでは、気疲れを起こしてしまうと知っているのだ。

「ま、それはそれとして。
おまえがトップレンジャーになってくれてホントに良かったよ。
ここんトコ、セブンさんもハーブさんも忙しいみたいだし、カヅキさんとヒナタさんはケガでちょっと動けない状態だってんで、オレによく仕事が回ってくるんだ。
一人じゃ結構きついって思ってたトコなんだよ」
「そっか……だったら、出遅れた分はきっちり働かなきゃね」
「おう、期待してるぜ」

ダズルが差し出した手を、アカツキはぎゅっと握りしめた。
親友として、戦友として、これからも共に頑張っていこうという気持ちが互いにひしひしと伝わってきて、知らず知らずに笑みが深まった。






レンジャーユニオン本部を出発して二日後、アカツキとダズルはイッシュ地方の北西部に位置するネジ山にたどり着いた。
鉱山ではあるが、上空から見るとすり鉢状になっており、鉄骨の足場と共に坑道が設けられていた。

「うわー、こりゃ結構いるな」
「そうだね。どうしたものか……」

ある程度の地理は情報として把握していたため、上空から突入するのが手っ取り早いと考えていたのだが、二人の考えはあっさりと破壊された。
というのも、空からの侵入を警戒した連中が、無数の鳥ポケモンを上空に配置していたのだ。
問答無用で蹴散らして突入するわけにはいかないため、残っている道は南北に設けられた入口からの突入である。

「北側が結構大変そうだから、南側から入って、一気に蹴散らしちゃおう」
「そうだな」

南北の入口では激しい小競り合いが発生しているが、先ほど仕入れた情報によると、南側の方が突入しやすいようだ。

「入口のポケモン……オノノクスって言うらしいけど、あのポケモンさえどかせれば、一気に突入できそうだね。
キャプチャは僕がやるから、ダズルは周囲に影響が出ないようにサポートしてもらえるかな?」
「オッケー、おまえのキャプチャの腕前、見せてもらうぜ」

突入した後は、二手に分かれて連中の制圧に当たることを確認し、二人は南側の入口へ向かった。
警察が見慣れないポケモンたちを従えて突入を図っていたが、入口に立ちはだかる大型のポケモンに苦慮しているらしく、事態はあまり芳しくなさそうだった。

「ブイ、行くよ」
「ブイっ♪」

アカツキはブイと共に、入口に立ちはだかるポケモン――オノノクスの正面に立ち、腰を低く構えた。

「グォォォッ!!」

見慣れない服装の少年が乱入してきたのを見て、オノノクスは猛々しい咆哮を上げた。
立派な体躯を持ち、恐らくは最終進化形……見た目からして、ドラゴンタイプの持ち主かもしれない。
アルミア地方には棲息していないポケモンだけに、どのような攻撃手段を持っているのか分からないところではあるが、キャプチャで気持ちを通わせることに違いはない。
キャプチャ……それこそが、ポケモンレンジャーの最大の武器だ。

「ブイ、水鉄砲!! 攻撃した後は高速移動で撹乱するんだ!!」
「ブイっ!!」

アカツキの指示に、ブイが水鉄砲を放つ。
まずは相手の出方を伺い、それからキャプチャに入る。
オノノクスは真正面から突き進んでくる水鉄砲を尻尾の一薙ぎで軽く打ち払った。
自分の身体を使って打ち払うとなると、相応のダメージを受けることになるのだが、それすら気にしていない豪快さを持っているらしい。

(なるほど、手強い相手になりそうだ。
だけど、気持ちが伝わればどんなポケモンとだって仲良くなれるし、一緒に困難を乗り越えていけるんだ。
……僕はそれを知ってる)

相手が誰であれ、自分にできるやり方で自然と平和を守っていく。
気持ちを通わせたポケモンたちとなら、一緒に困難を乗り越えて行けることを、アカツキは知っているのだ。
だから……

「キャプチャ・オン!!」

声を張り上げ、アカツキはディスクを射出した。
オノノクス目がけてディスクが勢いよく宙を駆ける。

このミッションが――このキャプチャが、彼にとっての新たなはじまりだった。






夜明けの月 -ポケモンレンジャーバトナージ-
Fin

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