【第201話】怒れる神の気迫 / チハヤ、テイル(果たし合い、vsペチュニア)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

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・3on3のシングルバトル。両者交換不可。
・特殊介入(メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタル)は3回まで。
・境界解崩は2回まで。
・先に手持ちポケモンが3匹戦闘不能になった方の負け。

□対戦相手:ペチュニア
✕キラフロル(Used:Z«Rock»)
◎オオニューラ(Used:X)
・???

□学生:チハヤ
✕シキジカ(Used:X)
✕クエスパトラ
◎ラブトロス

天候:-
フィールド:サイコフィールド



※備考……現在ペチュニアによって、カテゴリーEの境界解崩『忘レシ者ノ茶話会』が展開されている。チハヤの記憶が時間経過で徐々に消失していき、その消失後の記憶は事実として現実世界に反映される。また、現在のチハヤは戦術の境界解崩によって記憶の殆どを消失。それに伴い戦意も削がれ、廃人状態と化している。


「ふふふ……そこに居たのね、テイルちゃん♪」
『ペチュニアッ…………私が貴方を倒すッ!!今、この手で………!!』
チハヤの最後のポケモンとして、ボールから姿を表したテイル。
わざわざラブトロスの姿となってまで……彼女は、自ら戦場へと赴いていたのである。
並々ならぬ、強烈な殺意を抱きながら……!!


 ―――――昨日。
チハヤの部屋。
打倒ペチュニアに向けて、策を練るテイルとチハヤ。
「……で、ここまでが技シャッフル作戦の詳細。これで《忘レシ者ノ茶話会オーバードーズ・ティーパーティー》の影響を遅らせる事ができる。」
「まぁ、それは分かったんだけどよ……それでホントに対策になんのかよ?」
「……正直厳しいと思う。もしチハヤがポケモンの技構成を忘れていたとしても、ペチュニア先生の口から暴露されればそれまでだし……それに、技の詳細を知らないと、作戦の立案にも影響が出る可能性が高い。」
「だよなぁ……付け焼き刃感パねぇもん……」
実際、この作戦が穴だらけなのは……ふたりとも理解していた。
もとよりこれは抜本的な解決策……というよりは、『やらないよりマシな苦肉の策』なのだ。

「……だから、そこでアレだよ。さっき喋ってた提案の2つめ。」
「あぁ、アレか。お前自身がポケモンになって戦うっていう……」
「……そう。私はポケモンじゃなくて忌刹シーズン。だから、チハヤの頭の中から情報が欠落したとしても……ちゃんと戦える。恐らく、《忘レシ者ノ茶話会オーバードーズ・ティーパーティー》の影響は受けないよ。」
テイルの言うように、《忘レシ者ノ茶話会オーバードーズ・ティーパーティー》による影響が出るのは……あくまでもポケモンに纏わる情報のみ。
故に、忌刹シーズンである彼女は……その影響を逃れられる、と仮説を立てたのだ。

 しかし……
「いや……まぁ、そうは言うけどさ……」
チハヤの頭の中には、様々な疑念が渦巻く。
ポケモンバトルに、ポケモン以外の生き物を参戦させるのは如何なものか……とか。
テイルがそこまで身体を張る必要があるのか……とか。

「……それに……これは作戦だから、って理由だけじゃない。この果たし合いプレイオフは、私が……私自身が戦わないと行けないの。そもそもの切っ掛けは、私のわがままにチハヤを付き合わせたからなんだし。」
「……。」
チハヤは最早、何も言い返さない。
テイルの怒りと闘志を宿したその静かな瞳は……誰の言葉も受け付けない、と言わんばかりにギラギラと輝いていたからだ。

 彼女はその手で取り戻したかった。
ポインの記憶を。
ポインがこれから前を向いて歩いていくため……そして、これまでの彼女自身を否定しないために、大事な記憶を。

「……一応ポケモンのフリをしなくちゃだから、身体を縮めてダミーのボールに入っておく。もし私の力が必要になったら……その時は、自分の意思でフィールドに降りる。」
「テイル…………本当に、良いんだな?」
「うん。お願い……私に戦わせて。ポイン先生の中のセチアさんを奪ったあの人を……私は許せない。」




 ―――――こうしてテイルは示し合わせの通り、バトルフィールドへと姿を表した。
チハヤが戦闘不能状態へと陥った今……戦えるのは、彼女しかいない。
幸い、彼女はひこうタイプ……故に、キラフロルがばら撒いた『どくびし』の影響を受けず、幾分先程よりは有利に戦える。

「………チハヤ、ごめんね。また私のせいで……つらい思いをさせて。」
テイルは小声で、棒立ちになっているチハヤの方を振り返る。
「……。」
チハヤは何も言わない。
何かを言う気力も残っていない。
そんな彼のここまでの戦いを労うように見つめた後……
そして再び、ペチュニアの方へと向き直った。
他人の心を踏み躙りながら、尚も笑い続ける魔女に……憤怒の感情を抱きながら。

『加減はしないッ……私がこの手で、貴方に勝つッ!!』
テイル……否、ラブトロス・・・・・は、光を伴う暖かな旋風を巻き起こす。
『はるのあらし』攻撃で……オオニューラへと攻撃を仕掛けたのだ。

「あらら、随分と優しい攻撃なのねぇ……オオニューラちゃん、『アクロバット』よ~♪」
「ふにゅーーーーーッ!!」
何発も放たれる、激しい嵐……
しかしその隙間を縫うようにして、オオニューラは攻撃を回避する。
身軽で俊敏な彼女へ向けて遠距離攻撃をヒットさせるのは……至難の業である。

 ……が、無論。
それを理解していないテイルではない。
『はるのあらし』の回避に夢中で、自分へ向けられたオオニューラの視線が外れた隙に……
彼女はオオニューラの眼前へと迫り、その両手で首を鷲掴みにする。
そのまま地面へと叩きつけるように腕を振り下ろし、頭に凄まじい衝撃を与える。
かくとうタイプの大技……『ばかぢから』攻撃を繰り出したのだ。

「ふ……にゅッ………!!」
どく・かくとうタイプのオオニューラに対して、かくとう技『ばかぢから』の効果は今一つ……
しかもラブトロスは《忘レシ者ノ茶話会オーバードーズ・ティーパーティー》の影響を受けていないので、通常通り相性計算は適用される。
だが、そんな障壁などものともしない勢いで……彼女の拳は、オオニューラへと大ダメージを与えたのである。
『ふんッ!!ふんッ!!ふーーーーッ!!』
当然、攻撃は1発だけでは終わらない。
「にゅ……ふにゅッ………!!」
掴んだオオニューラの首を絶対に離すまいと……何度も何度も、馬乗りになりながら地面へと後頭部を叩きつける。

「(……確か、ラブトロスの特性は『あまのじゃく』だったわね。そしてさっきの技は、『ばかぢから』……高い威力の代償に、自身のステータスが減少してしまう大技。本来であればデメリットになるこの効果は、特性『あまのじゃく』によって逆に作用し……自身の身体能力を向上させるバフ技へと変化する。)」
ペチュニアの言う通り……ラブトロスの攻撃は、闇雲に殴り続けているわけではない。
自身の特性と、技の組み合わせを考慮した……れっきとした作戦なのだ。
最も、その容赦の無さは……端から見る者全てを震え上がらせるのには、十分なものだったのだが。

「(テイルちゃん……よっぽどやる気みたいね。でも……)」
ペチュニアは劣勢のオオニューラを挽回させるべく、次の指示を送る。
「オオニューラちゃん、『ねこだまし』攻撃よッ!!」
「ふ……ふにゅっ!!」
オオニューラはペチュニアの言葉を聞くや否や……目にも止まらぬ速度で腕を振り回し、ラブトロスの眼前にて平手を合わせて破裂音を出す。
「っ……!!」
一瞬……ラブトロスは目を瞑り、怯んでしまった。
その瞬間……両腕の拘束は解ける。
オオニューラはその隙に、機敏に体勢を立て直した。

「っ……!!」
「続いて攻撃、『フェイタルクロー』よ!」
「ふにゅーーーーーーーーいッ!!」
姿勢の崩れた相手を目掛けて……主力攻撃を放つオオニューラ。
フェアリータイプのラブトロスが『フェイタルクロー』を受ければ効果は抜群……タダでは済まない。

「ッ…………!!」
危険を察知したラブトロスの復帰は早い。
すぐに背後へと飛び去って、『フェイタルクロー』の攻撃を回避する。
が、しかし……
「(ふふふ、その程度のことは想定済みよ……伝説のポケモンならこれくらいの対応はできて当然。)」
ペチュニアにとって、ラブトロスが攻撃を回避してくることは計算の内だったようだ。
彼女は笑う。
「(でも……そんなに動いて良いのかしら?今この空間には、キラフロルちゃんが撒いた『ステルスロック』が充満しているわ。ひこうタイプの貴方には、特に岩の破片が突き刺されば、大きなダメージが入るわよ?)」
そう……現在フィールドには『Zステルスロック』があちこちに点在している。
あまり激しく動いてしまえば、それに伴ってダメージが蓄積されてしまう。
加えてこの『ステルスロック』は……いわタイプを苦手とするポケモンにはより強力に作用するのである。
そしてラブトロスはフェアリー・ひこうタイプ……つまり、いわを弱点に持つタイプのポケモンだ。
当然、『ステルスロック』のダメージが強烈に作用する。
筈なのだが……

「ッ…………!!?」
瞬間、ペチュニアが目にしたもの。
それは……亀のような容貌へと化したラブトロスの姿であった。
「(あれは……霊獣フォルム!)」
そう……ラブトロスの姿は化身フォルムから、霊獣フォルムへと変化していたのである。
そして彼女の身体は無傷……一切のダメージを負っていなかった。

「(ッ……霊獣フォルムのラブトロスの特性は『ぼうじん』!外傷由来のスリップダメージを無効にする!あの子……移動時にだけ霊獣フォルムへと変わることで、『ステルスロック』のダメージを避けていたのね……!!)」
ペチュニアの言う通り。
ラブトロスは化身と霊獣……2つの姿を有するポケモン。
攻撃をする時は化身フォルムを用い、それ以外の時には守りに長けた霊獣フォルムを用いることで……自身の悪影響を最小限に抑えていたのである。

 更に回避の直後であろうと、ラブトロスの動きは止まらない。
遠ざかるや否や……『フェイタルクロー』を空振ったばかりのオオニューラの元へ、『はるのあらし』攻撃を放つ。
すると風は正面からオオニューラを吹き飛ばし、フィールド端の金網へと叩きつける。
「ふにゅらッ………!!」
「お、オオニューラちゃんッ!!」
復帰のための数瞬すら……ラブトロスは絶対に与えない。
客席の正面に貼られた金網に飛来すると、すぐさま化身フォルムへと戻り……

『ふんッ………ふんッ………!!!』
そして殴る。
殴り、殴り、また殴りつける。
オオニューラが確実に意識を失うレベルまで……彼女の頬を殴り続ける。

「ふ……にゃ…………」
そして間もなく……オオニューラは力尽きる。
四肢がだらんとだらしなく垂れたかと思いきや……そのままズルズルと、地面へ向かって力なくずり落ちていったのだった。
無論、戦闘不能……これでペチュニアのポケモンも、残すは1匹である。



 圧倒的……このラブトロスの強さは、理不尽なほどに圧倒的なものであった。
あまりにも一方的な展開に、客席の面々も言葉を失うばかりであった。
「これがラブトロスの力………チハヤ君、いつの間にかとんでもないポケモンを捕まえていたんだねぇ……」
「(いや、違う……コイツはテイルだ。って、そうか……ソテっさんは知らないのか……)」
唸るソテツと、現状を全て察しているシヅリ。
しかしそんなシヅリだからこそ……強く感じ取っていたのだろう。
テイルがペチュニアへ、どれほど強い憤怒の感情を向けているのか。
どれほど強く、この戦いへの勝利を熱望しているのか。

「(テイルの奴……マジで先輩パイセンに勝つつもりだ。神にも等しい存在がマジギレすると……こんなに怖ぇモノなのかよ……!!)」
柄にもなく、全身を身震いさせる彼。
しかしその一方で……恐怖心とはまた違う感情を抱く者も。

「あれ……は……」
ポインは激昂するラブトロスの姿に……瞬きすら忘れ、魅入っていた。
こんなポケモンは知らないはずなのに。
このポケモンがテイルであることだって、気づいてもいないのに。
それでも……彼女は、目を離せなかった。
それと同時……彼女の心の奥に潜む僅かな痛みが、更にその強さを増す。
「(何なの、この感覚……私は、一体……あのラブトロスに、何を見出そうとしているの………!?)」



 オオニューラをボールの中へと戻したことで、インターバルタイムに入るペチュニア。
最後のポケモンを選出するこの時間に、彼女は……
「ふ……ふふ………ふふふ……………テイルちゃん、今のは凄かったわよ。貴方が本気で私に勝ちたいんだって、伝わってくるわぁ………!!」
笑っている。
顔を下へ向けて、全身をわなわなと震わせて……それでも、声が今までに無いくらい笑っている。

 が、しかし……
「貴方の思いがそこまで強いだなんて……そこまでして……私の邪魔をしたいだなんてッ!!!!」
激昂しながら顔を上げるペチュニア。
そこに浮かんでいるのは確かに笑顔……ただし、両目を血走らせ、表情筋がひん曲がるほどの悍ましいものであったが。

「私はポイン先生も、シラヌイくんも、イロハちゃんも…………みんなみんな、助けてあげたいだけなのにッ!苦しい思いをさせたくないだけなのにッ!!それをここまでして、妨げにくるなんてェーーーーーーーーーーッ!!」
「ッ………!!?」
あまりの豹変ぶりに、観客たちは再び息を飲む。
いつものお淑やかな彼女はどこへやら……
しかしそんな体裁など……今のペチュニアにとってはお構いなし、といった様子だ。

「天才のシヅリ君も、頭の硬いヒウンの学会の連中も……そして、異世界の神様である貴方だって!!強い人には分からない……苦しみから逃れられない、私達弱者の気持ちはッ!!!否定しッ……踏み躙りッ………そしてねじ伏せるッ!!いつもいつも……いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもーーーーーーーーーーッ!!!!!」
完全にヒステリック状態……とても正気とは思えない。
他人の心を自在に操る、あの賢いカウンセラーの面影はそこにはなかった。

 しかしそんなペチュニアに対しても……テイルは眉一つ動かさない。
『………貴方がどんな言葉を並べ立てても、私がやることは変わらない。さぁ、早く次のポケモンを出して。』
「ふふふ、そうねェ……ちょーっと見てみたくなっちゃったわ…………神様に心があるのなら!!それが弱った時、どんな顔をするのかッ!!!!」
ペチュニアはそう叫びながら、インターバルタイムの終了間際……最後のボールを投げる。

「出ておいで……キチキギスちゃんッ!!!」
「きちゃーーーーーーーーーーッ!!」
ペチュニアの最後のポケモンはキチキギス。
大方の予想通り……彼女の手持ちの中でも最も強いポケモンが、満を持して登場したのである。

『現れたわね、キチキギス……!!』
テイルが彼と相まみえるのは、これが2度目……
相変わらず末恐ろしい瞳と禍々しい気迫を放つキチキギスに、流石の彼女も警戒心を高めざるを得ないようだ。


 更にそこでペチュニアは……解崩器ブレイカーへと手を伸ばす。
するとその直後……解崩器ブレイカーから、聞き慣れぬ機械音が流れ出した。


『 Type - Pois……P……REROADING

START UP PARANORMAL CODE……Type - Water / Category - Paranormal 』



「ッ……あ、あれは……!!?」
「カテゴリーPの境界解崩ボーダーブレイク……だとッ!?」
そう、この機械音声は、カテゴリーPの境界解崩ボーダーブレイク
普通であれば発動することはない、極めて特異的な境界解崩ボーダーブレイクである。

 これを発動させるためには、肉体か精神が極めて強く自身の過去を想起する……追憶領域ゾーンと呼ばれる状態に突入しないといけない。
つまりペチュニアは今、極限の精神状態に、自らの意思で到達していたのである。
人の心を掌握し尽くした彼女だからこそ為せるウルトラC……誰にも真似の出来ない離れ業なのである。

「これを使うのは私のポリシーには反するのだけど……でも、そのポリシーを否定するのであれば話は別ッ……!!」
『ッ……!?』
未知の境界解崩ボーダーブレイク……そして、ペチュニアから放たれるただならぬ気迫。
テイルは一瞬で、感じ取る。
自らの身に迫る……凄まじい恐怖の存在に。

「心の深淵に息巻く穢れた記憶が……こぼれて、あふれて、止め処なく………その傲慢なる矜持を塗り尽くすッ!!!波に飲まれてしまえッ……《虚鬱ナル記憶ノ呼ビ声トラウマティック・ディソーダー》ッ!!」

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