21話 イーブイの里

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年7月28日改稿
ハルキ達がイーブイの里に向けてレベルグを出発してから、結構な時間が経った。
道中、これといった危険な場面などは特になく、地図を頼りに順調に進んでいた。
強いて言うならば、レベルグから離れた途端、建物の数が激減し、目印となる物が少なくなったので、地図と照らし合わせながら迷わないように進むのは大変であった。
といっても、定期的にやりとりしているイーブイの里へは道がちゃんと整備されているので道なりに歩いていけば迷うことはないらしい。

「あと、どのくらいかかるんだ?」
「もうそろそろ着くはずだよ」
「あっ、なんか見えてきたよ! きっとあそこだよー!」

ヒカリの指さす先には、石をくりぬいて住居にした様な建物があり、その手前には、葉っぱでできたアーチ状の、門のようなものがあった。
門の脇には、お鍋のような鉄のヘルメットを被り、首から笛を下げた1匹のイーブイが暇そうに欠伸をしている。
ハルキはさっそく門番だと思われるイーブイに声をかけた。

「すみません。 僕達、救助隊の依頼で来たんですけど……」
「依頼? ……ああ! そういえば救助隊から新入りが進化の石を取りに来るってさっき連絡があったな。 ようこそイーブイの里へ! この里の長の家はここから真っ直ぐ進んだ突き当たりの大きなツリーハウスだ。 そこで進化の石を受け取ってくれ」
「わかりました」
「ありがとねー! さあ、2匹ふたりとも早く―!」
「ヒカリの奴、テンション高いな~」
「やっぱり、始めてくる場所って少しワクワクするからね。 気持ちはわかるよ」

丁寧に教えてくれた門番のイーブイにお礼を言い、ヒカリに続いてハルキとアイトも里の中に入った。
里の内部はイーブイの里というだけあって、道行くポケモンはイーブイやその進化形ばかりで、そよかぜ村とはまた違った活気にあふれていた。

「君たちがサラさんの言っていた新入りの救助隊の子達か。 まだ、子供なのに救助隊とは、感心だな!」

ハルキ達に感心しているのは、この里の長であるイーブイのリーブ。
門番から聞いた通り、ツリーハウスに向かったハルキ達は、ツリーハウスの前にいるイーブイに事情を話すとあっさりと長に合わせてくれた。
この里のトップとも言えるポケモンに会うのだからもっと手続きに時間がかかると思っていたが、どうやらそうでもないようだ。

「進化の石ならちょっと待ってくれ。 明日には鉱山から採掘された石がこちらに到着する予定になっている。 申し訳ないが、それまでこの里でも観光していてくれ」
「お気遣いありがとうございます。 そうさせていただきます」
「ハハハッ! そんなにかしこまらなくてもいい。 この里は取り立て、外部から来た者に対するおかしなルールなど存在しない。 肩の力を抜いてリラックスしていくといい」
「は、はぁ……」

こうして、リーブの部屋を後にしたハルキ達は言われた通り、里を見てまわることにした。

「ハルキは少し固すぎんだよ。 ま、それがお前のいいとこでもあるんだけどな。 だけど、あんまり気を張ってると疲れるだけだぞ」
「そうだよー。 もっと気楽にいこ? ね?」
「ありがとう2匹ふたりとも.
これから気をつけるよ」

目上のような相手だと、ついつい敬語になってしまう。
人間の世界では、周囲の目を気にするように日々を過ごしていたので、自然と丁寧な口調になるのが癖になっているのかもしれない。
そんな事をボンヤリ考えながらハルキはヒカリとアイトの後ろを歩いていた。

――――――――――――――――――――

「うーん。 ……さすがに里の端にくるとポケモンの気配も減ってくるね」

今、ハルキ達のいる場所は里の中心部とはうってかわって建物がほとんど無く、自然が多い事から、おそらく里の端の方にいると思われる。

「1度、里の中央まで戻ろうか」
「そうだね~。 そろそろ夕方だし、お腹もすいてきたよ~」

そう言った矢先、ヒカリのお腹が鳴り、ヒカリは恥ずかしそうに左手を頭の後ろに当てながら笑った。
特に何もなさそうなので、ハルキがこのまま引き返そうと思った時、アイトがハルキの肩を叩いた。

「ちょっと待ってくれ。 あそこにいるイーブイ達はこんなところでなにしてるんだ?」

アイトが指差す方を見ると、木々の隙間から茶色い毛並みのイーブイが何匹か見えた。
何やら言い争っているようだが、ここからでは遠すぎてよく聞き取れない。

「ほんとだ。 何か揉めてるみたい?」
「ちょっと様子を見に行こうぜ」

関係無いことに首を突っ込むのはあまり良い事とは言えないが、遠目から見て、数匹のイーブイに向かって、1匹のイーブイが何か抗議をしているように見えたので、放っておくわけにもいかないだろう。
ハルキ達は気づかれないよう、イーブイ達に近づき、近くの茂みから様子を見ることにした。

「だから言ってるだろー! お前みたいな落ちこぼれには無理だって!」
「そ、そんなことないです!」
「じゃあ、オレ達に勝ってみろよ!」
「そうだー! そうだー!」
「3対1では無理ですよ……」
「なんだよ! やっぱりできないんじゃないかー」

首からペンダントを下げている1匹のイーブイが3匹のイーブイを悔しげな表情で見つめた。
3匹側にいる真ん中のイーブイが他の2匹よりも1歩前に出ていることから、中央のイーブイはガキ大将といったところだろうか。

「どうする? ハルキ?」
「もうちょっと様子を見よう。 ただの喧嘩かもしれないし」

ハルキは、子供同士でよく見られるいじめではない事を祈りながら、様子を見ていると
真ん中のイーブイがペンダントを無理矢理イーブイから取り上げた。

「あっ! わたしのペンダント、返してください!!」
「うるさいな~、落ちこぼれのくせしてこんな高そうなペンダント着けているなんて、生意気なんだよ!」
「キャッ!」

ペンダントを強引に奪われたイーブイは、ペンダントを取り戻そうと抵抗するが残りの2匹に押さえつけられ、地面に組伏せられてしまった。

「ひ、卑怯です!」
「卑怯? 落ちこぼれのお前があの伝説のイーブイになりたいって言うから、特訓できるように、わざわざお前が俺達と戦う理由を作ってやったんだ。 さあ、悔しかったら俺達からペンダントを取り返して見ろよー。 アーハッハッハ!」
「うぅっ……」

ガキ大将イーブイに笑われて、なすすべもなく動けないイーブイは涙を流していた。
その光景を見た瞬間、ハルキよりも先にアイトが茂みから勢いよく飛び出していた。

「おい! お前ら! くだらねぇことしてんじゃねぇ!!」
「な、なんだお前は!?」
「俺の事なんざどうでもいい! さっさとその子にペンダントを返してやれって言ってるんだ!」
「うるさいなー。 お前、よそ者だろ! 部外者は引っ込んでろよ!」
「「そうだー! そうだー!」」
「……お前らなぁ!!」
「落ち着いて、アイト。 熱くなりすぎだ」
「ッ! ……ハルキ」

ヒートアップ寸前のアイトの静止しながら、ハルキも茂みから出てきた。

「なんだ? まだよそ者がいたのか?」
「ごめんね。 急に驚かせちゃって。 僕達はちょっとこの里に観光に来てたら、偶然君達を見かけてね。 何をしているのかなと思ってそこで様子を見ていたんだ」
「なんだそういうことか。 なら、わかってんだろ? 俺達はこいつが強くなりたいって言うから特訓に付き合ってるやっているのさ! なあ?」
「「そうだー! そうだー!」」
「てめぇら、どの口が……」

あくまでこの状況は特訓だと言い張るイーブイ達に再び、アイトの怒りが再熱した。
今にも飛びつきそうな勢いのアイトを右手で制すると、ハルキはニコニコしながら明るい口調でイーブイ達に言った。

「そっか。 じゃあ、僕の心配は余計なお世話だったかな?」
「なに?」
「いやー、てっきり1匹のイーブイをよってたかって『いじめ』てるのかと思ってね。 さっき、僕の友達に近くにいる大人を呼んでくるよう頼んだんだけど、特訓なら別に問題ないよね?」
「なっ!」

イーブイ達が明らかに動揺しているのを無視して、ハルキは続ける。

「あっ、そうだ! せっかくだし、呼んできてもらったイーブイ達も一緒に特訓するのはどうかな? みんなで特訓するときっと捗ると思うんだよねー」
「こっち、こっち! ハルキィー、つれてきたよ~」

姿は見えないが遠くからヒカリの声が聞こえてきた。

「あ、ちょうど僕の友達が連れてきてくれたみたいだね!」
「タ、タイショー」
「ヤバイですよ……」
「お、お前ら情けねぇ声出すな! おい、よそ者達! 俺達は大事な用事を思い出したからここらで帰らせてもらうぜ! じゃあな!」

ペンダントをその場に放り捨てて、すごい勢いでこの場から走り去った中央に立っていたイーブイ。

「「待ってください!タイショ~」」

それを追いかけるように残りの2匹も走り去って行った。

「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。 わたしは大丈夫です」

アイトが倒れているイーブイに駆け寄ると、手を取って起き上がるのを手伝ってあげた。

「もういいよ、ヒカリ。 名演技だったよ」
「でしょー? うまくいったみたいでよかった」

茂みから出てきたヒカリだが、その背後には誰も連れていなかった。

「え? 他のイーブイを呼びに行ってたんじゃないのか?」
「ううん。 そんなことしてないよ。 あれは僕が咄嗟に考えた出まかせ」
「そ。 それに私が乗っかって演技しただけだよ! そもそも、こんな里の端っこの場所に都合よくイーブイがいるわけないじゃーん」
「……確かに。 おっと……」

理由を聞いて納得したアイトは急に力が抜けたようにその場に尻餅をついた。

「アイト!?」
「あー、大丈夫。 安心したら足の力が抜けただけだから」
「アイトあんまり無茶するなよ。 ただでさえお前は……」
「分かってるよ。 ちょっとすれば治るから」
「……ならいいんだけど」
「大丈夫です? 震えていますけど……」

先程、助けたイーブイが心配した表情でアイトに声をかけた。

「平気、平気! ちょっと疲れが出ただけだからさ。 それより、お前の方こそ怪我は平気なのか?」
「……このぐらいはいつものことです。 だから、大丈夫です」
「いつものことって……。 くそっ、あいつら次また同じことしたら容赦しねぇからな」

イーブイが心配させまいとニッコリした顔で大丈夫と言っただけで、この子が毎日どんな扱いを受けているのかなんとなく察してしまい、心が痛くなった。

「そうだ、自己紹介がまだだったな。 俺はアイトっていうんだ」
「僕はハルキ」
「それで私はヒカリ! よろしくね~」
「わたしはヒビキです。 さっきは助けてくれてありがとうです」

こちらに向かってペコリと丁寧にお辞儀をするヒビキ。
アイトは立ち上がって、落ちているペンダントを拾ってくるとそれをヒビキに渡した。

「ほら、これ。 大事な物なんだろ?」
「はい! ありがとうです!」

ヒビキはペンダントを受けとると嬉しそうに首から下げた。

「ヒビキさんも大した怪我もしてないようだし、今度こそ戻ろうか。 今晩の泊まるとこもまだ決まってないし」
「そうだな」
「え? 今晩、泊まるとこ決まってないんです? なら、わたしの家に来るといいですよ! お礼もしたいですから!」
「え? いいのか?」
「もちろんです! 家は無駄に広いですからね!」
「じゃあ、お言葉にあまえて、今晩はヒビキさんの家に泊めてもらおうかな」
「やったー! ご飯と寝床の確保成功だね~!」
「ヒカリ、お前もう少しマシな言い方ないのか?」
「え? だって泊めてもらうんでしょ?」
「まあ、そうだけどさ……」
「アイト。 ヒカリはいつもこうだから」
「なんか照れるな~。 アハハー」

上機嫌に笑うヒカリを呆れた表情で見るアイト。

「皆さん、仲が良いのですね。 それでは、案内するのでついて来てほしいです。 あ、あとわたしの事は[さん]付けしないでほしいです。 その、距離が遠く感じてしまうので……」
「わかった。 よろしくねヒビキ」
「はい! よろしくです!」

こうして、イーブイの里初日は、ヒビキの家に泊めてもらう事になった。
そこまでイーブイの里!って描写少なくてすんませんm(_ _)m

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