18話 親友

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年7月26日改稿
「着いたぞ」

アリアドスの案内で森を歩くこと数分、目的地であるアリアドスの住み処に着いた。
木が生い茂り、少し薄暗いが隙間から僅かに入り込む木漏れ日のお陰で真っ暗というわけではない場所で、アリアドス以外にもイトマルも数匹いた。

「それで、バチュルはどこだ?」
「こっちだ。 奥で寝かせている」

アリアドスの後をついていくと、落ち葉をたくさん集めて作った簡易ベッドの上に
頬を赤らめて、荒い息をしている、小さな黄色い蜘蛛が眠っていた。

「うわぁ~、ちっちぇー」
アイトが率直な感想を言う。
確かにバチュルは小さなポケモンだったと記憶しているがこんなに小さかっただろうか。

「成長しているといっても、まだ生まれてからそんなに経過していない。 通常サイズになるまではもう少しかかるだろ」
「なるほど、そういうことか~。 それにしても小さいな」

ハルキとアイトはポケモンになった際、身長が大きく変わり、それに比例して手の大きさなどもだいぶ小さくなったのだが、バチュルはアイトの手のひらから少しはみ出るくらいの大きさだった。

「それじゃあ、ヒカリちゃん。 お願い」
「まかせてー」

ヒカリは寝ているバチュルの体に触れ、電気を少しずつ送っていく。

「とりあえずこのくらいかな?」

ヒカリがバチュルから手を離すと、先程とは違い、呼吸が安定したバチュルはゆっくりと目を開いた。

「バチュ~」
「うわっ! な、なんなの」

目を覚ましたバチュルがヒカリの顔面にとびついた。

「おそらく、電気を分けてくれたお礼だろう」
「そ、そうなの?」
「バチュ! バチュ~!」

なんとか顔面にへばりついたバチュルを頭の上に移動させたヒカリが問いかけると、元気のいい返事がかえってきた。

「そういえば、そのバチュルは話せないんだな」
「生まれてからそんなに経っていないなら、まだ言葉を覚えてないんじゃないか?」

アイトの疑問にザントが答えた。
人間でも言葉を発するのに早くて生後10ヶ月はかかると聞いたことがある。
ポケモンにも当てはまるかはわからないが、覚えていない可能性は十分にある。

「バチュルを助けてくれてありがとう。 本当に助かった。 だが、もうひとつ頼みたいことがある」
「頼み?」
「その子を連れていってくれないか? ここじゃ、いつまた具合が悪くなるかわからない」
「いいけどよぉ、お前らはそれでいいのか? だいぶ愛着もわいてるんだろ?」
「……皆で決めたことだ。 我々のわがままでこの子を危険にさらしたくない。 それに救助隊ほど預けるのにうってつけな組織は無いだろ? 頼む。 この子を連れていってくれ」

リーダーのアリアドスが頭を下げると周りにいた他のアリアドスやイトマルも揃って頭を下げた。

「わかったわ。 この子は私達が責任を持って、救助隊本部のあるレベルグまで連れていく。みんなもいいわよね?」
「当たり前だ」
「もちろんです」
「俺も賛成」
「私も~」
「バチュ~」

おそらく会話の意味はわかってないだろう、バチュルもそろって声を上げた。

―――――――――――――――――

アリアドス達に見送られながらハルキ達は住み処を後にした。
アリアドス達と別れる事に気づいたバチュルが泣いてしまう場面もあったが、また大きくなったら会いに戻るという約束を交わすことで納得し、なんとか別れる事を承諾してくれた。

「ハルキ。 俺、アリアドスって見た目の印象で悪いポケモンかと思ってたけど違うんだな」
「うん。 やっぱり見た目だけで判断するのは良くないって、わかったね」
「そうよ。 見た目がどんなに怖くても臆病者のポケモンだっているわ。 今回でその事に気づけただけで十分よ」
「まあ、俺はあいつらが悪い奴のわけがないって最初から思ってたけどなー」
「さっきからザントずっとニヤニヤしてるねー」
「バチュー」

ザントはアリアドスから助けてくれたお礼ということで『きんのリボン』を貰っていた。
この世界でもやはり金はお金になるようで貰ってからずっとザントはニヤニヤしている。

「ヘヘヘ、これで久しぶりに美味い酒が飲めそうだ! ……いや、待てよ。 新鮮なセカイイチをたくさん買うのもありか!」
「まったく。 ……現金なんだから」
「そういえば、あとどのくらいで、その救助隊の施設がある町につくんだ?」
「ちょっと寄り道して遅くなっちゃったけど、明日の昼過ぎにはたぶん着くわ」
「そんなに遠くないんですね」

そよかぜ村が田舎と言われていたので、てっきり栄えているイメージがある町からは結構離れている印象があったがそうでもないようだ。

「確か、レベ……なんとかって名前だったよねー。 私も行ったことはないから楽しみだな~」
「レベルグな。 これでもそこそこでかい町なんだぞ。 それに、救助隊の施設は他の町にもあるがレベルグのは名目上だが本部扱いだ」
「へぇ~。 本部って言うぐらいだからルールとか厳しそうだな……」
「僕らはたぶん大丈夫だと思うけど、ヒカリがすこし心配、かな」
「へ? なんで?」
「バチュチュ?」

心当たりがなさそうに呆けた顔で首をコテンと傾けるヒカリと、その頭上で同じ動きを真似るバチュル。

「目上の人に敬語を使うとかヒカリはできなさそうだから、そんなルールがあったら一番に破りそうな気がするんだよね……」
「もう! それぐらい私でもできるよ! ハルキったら、失礼しちゃうな!」
「バチュ! バチュ! バチュ~!!」

腰に手を当て、頬を膨らませながら抗議してくるヒカリ。
もちろんバチュルも頬を膨らませてヒカリの動きを真似している。

「そんな心配することねぇよ。 本部って言っても名目上って言ったろ。 そんな厳しいルールはないから安心しろ」
「そうよ。 大体、ハルキ君が言ったようなルールがあったらザントはここにいないわ」
「「たしかに」」
「バチュ、バチュ」

ハルキ達が一斉にザントを見て頷くと、バチュルもそれを真似て頷いた。

「おい、リル! それは余計な補足説明だぞ! お前らも納得してるんじゃねぇ!!」

ザントの怒号が静かな森に響き渡り、その反応にみんなして笑いが出た。

―――――――――――――――――

そろそろ暗くなってきたため野宿の準備を始めた。
枯れ枝や枯れ葉を集めて、焚き火にし、その炎を利用してヒカリが簡単な木の実スープを作り、みんなで食べた。
木の実スープという事でかなり甘い印象が強かったが、ちょうど良い甘さに調整されたスープであった。
やはり、変な冒険をせず、普通に料理すればヒカリの料理はおいしいのだとしみじみ感じた。そこからしばらく他愛のない会話をしたが、明日も結構歩くという事で少し早いが焚き火を消して、寝ることにした。

「とは言っても、さすがに地べたで寝るのにはまだ慣れないなー」

ハルキはみんなを起こさないよう、静かに寝床を抜け、少し離れた所にある木を背に座り込むとぼんやりと空を眺めた。
人間の世界とは違って星の光がよくみえる。
空も建ち並ぶビル群によって狭くもなく、とても広く感じられた。

「相変わらず空を見上げるのが好きなんだな」
「アイト。 ……寝てなかったのか?」
「さすがについ最近までベットで寝てた奴に固い地べたはちょっとな」

アイトも同じ理由で寝付けなかったようだ。
アイトはハルキの元にゆっくり近づくと、ハルキの隣に座った。

「しかし、驚いたよ。 まさかアイトまで呼ばれているなんて」
「お前こそ、俺になにも言わずに消えやがって。 必死に探したんだぞ」
「ごめん。 突然の事だったから」
「でも、またこうして会えたからよかったよ。 お互いに見た目は完全に変わっちまってるけどな」

アイトは自分の体を見つめながら話した。

「そういえば、この姿なのによく僕だってわかったね」
「ハルキは昔から青色好きだったし、ホウオウがこっちの世界に連れてくる際、魂を適応させるために若くするって言ってたからな。 とりあえず、青くて小さいポケモン探してたらビンゴだったわけだ」
「ホウオウさんに会ったんだ。 ……そういえばアイトはどういった経緯でこっちにきたの?」
「あー、実は俺がこっちに来たのは昨日なんだ」
「あっ、そうなの? もう少し前かと思っていたよ」

ハルキがこちらに来た次の日あたりには来ていたと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

「あっちの世界でお前がいなくなったあとは焦ったぜ。 周りがハルキの事を一切合切忘れてるうえに、ハルキがいた痕跡事態が残ってなかったんだからな」
「え? どういうこと?」
「ん? 聞いてないのか? ホウオウ曰く、こちらの世界に人間を呼ぶ際は、向こうの世界にある呼ぶ対象の人間に関することが全て消えるそうだ。 もちろん物理的に居たという痕跡も一緒にな」
「え? でも、アイトは僕を探してたって……」
「ああそれはな。 どうやら例外があるらしくて、対象の人間が大きく影響を与えた人の記憶には残るらしい。 なんでも自分を形成している大事な部分を消すと、記憶を書き換えても歪みができてしまい、やがてその人の心が壊れてしまうとか言ってたな」

確かに誰かの影響で大きく人生が変わった、なんて話もよく聞くし、そんな人物の存在が自分の中から消えたら、自分を見失ってもおかしくはないだろう。

「そっか。 ありがとう。 僕を覚えててくれて……照れ臭いけど、すっごく嬉しいよ」
「忘れるわけないだろ。 親友のことをさ! それに、お前があの時助けてくれなかったら俺はここにいないしな……」
「……水、まだ怖いのか?」
「……普通に生活するうえで扱う程度ならなんともないさ。 ただ温泉とかはちょっと無理だな。 もしかしたら、俺が炎タイプになったのはそれが関係していたりするのかもな。 ハハハ……」

力なく笑うアイトはまだ過去のトラウマを完全には克服できていないようだった。

「……アイト。 水が怖いのを無理に克服しなくてもいいんだよ?」
「大丈夫、心配すんな! あいつだって苦手なモンを乗り越えたんだ。 いつまでも俺ばっか立ち止まってられねぇよ!」
「まぁ、危なっかしい癖があるから僕は心配だけどね」
「よく無茶なことするからな。 まったく、困った後輩だよ、あいつは……」
「……僕らの事、ユウマは覚えていると思う?」
「さあな。 俺はどうか知らんが、少なくともお前の事は覚えていると思うぜ」
「そうかな? ホウオウさんはユウマについて何か言ってた?」
「いや、何も言ってなったよ。 俺がこっちに来たのだって、いきなり夢に出てきて、ハルキの事を手伝ってほしいと頼まれたからだしな。 それに、力をだいぶ使ったみたいで当分は人を呼ぶことは無理っぽさそうだったぞ」
「そっか。 ……でも、ユウマなら僕らがいなくてもなんだかんだ上手くやってけそうな気がするよね」
「そうだな。 あいつはあいつでどうにかしちまいそうだ」
「……さて、そろそろ僕らも寝ようか。 さすがに明日起きれなくなるし」
「まあ、寝付くのに時間がかかりそうだが、地べたでも住めば都か」

こうして2匹ふたりは適当に集めた落ち葉の簡易ベッドで横になり目を閉じた。

翌日、ハルキ達は道中、これと言って大きな出来事もなく、順調に森を抜け、リルが言った通りお昼を過ぎた辺りで目的地である町―――レベルグに到着したのであった。
やっと第1章終わりました!
想定していたよりも長くなってしまいましたがなんとかここまで書けて良かったです(^^)

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