17話 新しい仲間

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年7月25日改稿
「僕を探していたってどういうこと?」

ハルキは突然現れたヒコザルに問いかけた。

「細かい話は後だ。 今はこいつらをどうにかしないとな」

ハルキとヒカリを木に縛り付けている糸を解きながらヒコザルは言った。
糸から脱出できたとはいえ、目の前には、ハルキとヒカリを縛り付けたアリアドスの群れがいる状況が続いている。
ピンチな事に変わりはない。
ハルキもヒコザル同様、アリアドスに対して臨戦態勢に入ろうとした時、1匹のアリアドスが慌てた様子で言った。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 手荒な真似をしたのはすまなかった。 だが、こっちは戦うつもりはないんだ」
「何か事情があるのね」
「どういうことか詳しく聞かせてもらおうか」
「え? 2匹ふたりともいつの間にきたんですか? 他のアリアドスは?」

ハルキに変わって、アリアドスに質問したのはいつの間にか、ハルキの近くまで来ていたザントとリルであった。
見ればザントとリルを取り囲んでいたアリアドス達は1匹残らず気絶させられていた。
しかも、ご丁寧に1ヶ所に積み上げられた状態で。

「あんな奴らいくら出てこようが敵じゃねぇよ」
「一応、私達は救助隊だから不意打ちとか慣れてるのよ」
「それにしても、やけに倒すの早く無いですか?」
「そりゃあ、アリアドスの腹にパンチをぶつけて、一撃でのしたからな」
「えっ……!?」

まさかの技でもなく、どこぞの不良のように腹にパンチをして片っ端から倒したようだ。

「大丈夫よ。 ちゃんと加減はしたから」
「加減はしたって……リルさんもしたんですか!?」
「あら?言ってなかったかしら? 私の得意な戦闘は格闘戦よ」

得意気に右手をポンポンと叩いて見せるリルにハルキは苦笑いしかでなかった。

「あー……、こちらから手を出したんだ。 文句は言えない」
「で、なんでこんなことしたのか教えてもらおうか?」
「俺達が用があったのはそのピカチュウだけなんだ」
「ヒカリに?」
「いや~、照れるなー」

みんなの視線がヒカリに集まり、何故か照れるヒカリ。
そんなヒカリのリアクションを華麗にスルーし、アリアドスは話を続けた。

「ちょっと前に仲間がポケモンの卵を見つけて運んでくる最中に孵ってしまったと報告してきたんだ」
「それとヒカリとなんの関係が?」
「生まれたポケモンはバチュルというポケモンで、見た目が似ていた事から俺達は親変わりに育ててやろうと決めたんだが……」
「なるほど。 だから電気タイプのヒカリちゃんに用があったのね」
「どういうことですか?」
「バチュルは大きなポケモンから静電気を吸いとって自力で生成できない分の電気を補っているんだが、こんな森のなかじゃ限度があるからな」
「最初は少量で良かったんだが、成長するにつれて電気量が足りなくなってきてしまってな。 とうとう衰弱してしまって、途方にくれていた所にピカチュウを見つけたと報告があり、先走った結果、この有り様というわけだ。 すまなかった」

アリアドスは僕らに頭を下げて謝罪をした。

「何か事情があるのはわかってたし、気にしなくていいよ。 ね? ハルキ」
「うん。 縛られただけで怪我はしてないからね」
「し、しかし……」
「縛られた当の本人達がこう言ってんだからいいんだよ。 それより、そのバチュルのところまで案内してくれ」
「……力をかしてくれるのか?」
「私達は救助隊だからね。 困っているポケモンがいれば助けにいくわ」
「すまない。 助かる」
「なんか話もまとまったみたいだな」

アリアドスがお礼を言い終わると、ずっと黙ってたヒコザルが口を開いた。

「さっきは助けてくれてありがとう」
「ま、結果としてはいらない助太刀みたいだったけどな」

ハルキが助けてくれたお礼を伝えると、ヒコザルは少し照れ臭そうに笑った。

「ところで、僕を探してたって、どういうこと?」
「あー、やっぱりわからねぇかー」

ヒコザルは「あちゃー」と言った様子で顔に手を当てた。
ヒカリのように、過去に出会ったことがあるが忘れているパターンだろうか。
ハルキはそんな懸念を抱いたが、次のヒコザルの動作でそれは無くなった。

「じゃあ、これならどうだ?」

ヒコザルは右手を広げて顔の前に掲げた。
その構えは、ハルキにとって、見覚えのあるものであった。
向こうの世界で仲の良いある友達とやっていた動作。

「ああ!! まさか……!!」
「わかったみたいだな」

ヒコザルはニヤっとしながらそのままハルキのほうに手を振り、ハルキはヒコザルの手に自分の右手を合わせるようにぶつけた。

――パンッ!!

辺りに乾いた音が鳴り響き、2匹ふたりはハイタッチをした。

「アイト!!」
「久しぶりだな、ハルキ」

ハルキにアイトと呼ばれた少年は笑顔で答えた。

―――――――――――――――――

一同はアリアドスの案内を頼りに森を歩いていた。
前を歩くアリアドスとその後に続くザントとリル、そこから少し距離をおいてハルキ達は歩いていた。

「へぇ~、なるほどねー。 確かにバレると厄介だな」
「そういうことだから、悪しき者がわかるまでは僕達が元人間ってことはなるべく内緒の方向で」
「わかった。 あ、でもそのピカチュウ……ヒカリは知ってるんだろ?」
「まあね! なんたって私はハルキのベストパートナーだからね!!」
「へぇ~、そりゃあ、頼もしいかぎりだ」
「で? そいつは誰なんだ? さっきからお前達だけでコソコソ話しやがって」

前を歩くザントがしびれを切らして聞いてきた。

「あっ、すみません。 紹介が遅れました。 こいつは僕の友人のアイトです」
「アイトって言います。 ハルキが世話になりました。 これからは俺も世話になります」
「ってことはお前も救助隊になるのか?」
「ハルキがなるんなら、やろうと思いますねー」
「アイトは運動神経がかなり良いのでたぶん実力も大丈夫だと思いますよ」
「ふーん。 ……ハルキがそう言うなら大丈夫か。 さっきはハルキ達を助けてくれてありがとな。 こいつらに害が無くてもああして時間を稼いでくれたのは助かった」

ザントが前を歩くアリアドスの群れを一瞥いちべつしながら言った。

「よろしくねアイト君。 ……あら? ってことはもしかしてヒカリちゃんとも友達?」

リルは僕が最近、そよかぜ村に来たばかりということを知らないため、アイトもそよかぜ村出身かと誤解しているようだ。

「ええと、僕はそよかぜ村出身じゃないんですよ」
「ハルキは色んなものを見るために旅をしているんだ~。 ちょっと前に、そよかぜ村の近くの森で倒れて昼寝しているところを私が見つけて、そこから何日かそよかぜ村を案内してたら、あの事件があったの。 だから、アイトと会うのは始めてだよ」

ヒカリの説明は前よりマシにはなったが、相変わらず肝心の部分が変わってないため、森で唐突に寝るおかしなポケモンのまま伝わってしまいそうな説明であった。

「へぇ~、そうだったの。 だからザントがスカウトした時にヒカリちゃんの事で悩んでたのね」

どうやらリルは説明のおかしな部分はスルーしてまともに解釈してくれたみたいだ。

「っていうか、ハルキはなんで森の中で昼寝なんてしてたんだよ? 危ねぇだろ」

しかし、ザントはおかしな部分をそのまま解釈してしまったようだ。

「いや、それは、その、なんというか……」
「ハルキって昔からそういうところあるよなー」
「ないよ! っていうかアイトは悪ノリしてるだけだろ!」
「ハハハー」
「え? でもハルキが倒れてたのは本当だよ?」
「ごめん、ヒカリ。 これ以上は収拾つかなくなるから勘弁して……」

この世界に来た時に、おそらく同じような経験をしているアイトは理解したうえで悪ノリしているが、ヒカリは素で言ってるので余計にややこしくなる。
ハルキは頭痛がするような思いとはこの事だと痛感した。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想