第5話 余寒

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「探検隊???」

 なんだそれは、といった感じで俺はメアリーに聞いてみた。うん、ちょっとわざとらしかったな。しかし、メアリーはどうやらそんなことを気にかける余裕はないらしい。目が泳ぎ、焦点が定まっていない。体はこちらを向いているのに、目は全然向けてこない。所謂テンパってるというやつだろう。

 数秒経って、ようやく俺の言葉が耳に入ったのか、メアリーはビクッと体を震わして口を開いた。

「せ、世界の色んな所を探検しながら、皆の依頼を叶えたりするポケモン達のことだよ!まだ見ぬ秘境や、幻の大地、大海賊が残した秘宝だとか!ロマンを求めて世界中を旅するの!」

話しているうちに、楽しくなってきたのか、メアリーの目はさっきまであった迷いが消えてなくなり、明るく光輝いていた。彼女の夢の話は、何か自分にはないエネルギーに満ちているように思えた。


 「それとね…見て!これ!」

 そう言ってメアリーは砂の上に石板の欠片を置いた。ん…遺跡の欠片だっけか。…どっちでもいいや。メアリーが続ける。

「ただの石じゃないよ!表面に、ほら。何かの模様が描かれているでしょ?」

「あー、確かに。落書きか何かか?」

「落書きなわけないでしょ!まあ…確信はないけど。あたしね、これは何か重要な意味を持つ模様だと思うの。そしていつか、その意味を解明してみせるのがあたしの夢なんだ」

 メアリーはうっとりとした目つきで遺跡のかけらを眺めている。その瞳には、石の模様だけでなく、これから先経験するであろう大冒険が、映っているのだろう。メアリーは、本当に冒険が好きなのだ。だからこそ、自分の理想とかけ離れた臆病な性格に、過度なコンプレックスを抱いているのだろう。ゲームでも、十分にパートナーには感情移入していたつもりだったが、実際にメアリーを見て、より深く彼女の気持ちが伝わってきたような気がした。



 「あの…だからね…」

メアリーが欠片を懐に戻し、若干上目遣いでそう言った。可愛い。いや違う。そう意味ではなく、人間によるポケモンに対して、という意味で。そんな、わけのわからない俺の心の混乱をメアリーは察することもなく、こう続けた。

「あたしと一緒に…探検隊を組んでほしいなぁって…」

 二度も言わせてしまった。一度だけでも彼女にとってはすごく勇気のいる行動だったはずなのに、ちょっと酷なことをしてしまった。早くYESと答えてあげよう。ん?そういえば、ゲームでは確か断る選択肢もあったはず…。あっちじゃ無限ループに入るだけだったがこっちだとどうなるのだろうか…。うん。考えるだけ無駄だ。返事を渋りすぎてメアリーが涙目になっているじゃないか。最低か俺。



「その…なんだろう。俺で良かったら…ぜひお願いしたいな」

「…ほんと!?や、やったぁ!ありがとう!!シン君!」

 再度メアリーの顔がパッと輝いた。喜怒哀楽が豊かな子だな。メアリーは、嬉しそうに尻尾を振ってこう言った。

「じゃ、じゃあね!プクリンギルドに行って、チームを登録しよう!」

「プクリンギルドか」

「あ、プクリンギルドっていうのは親方プクリンが運営しているギルドでね、その、あ!ギルドっていうのは…」

「とりあえず、行ったら分かるんじゃないか」

「そ、それもそうだね!よし、プクリンギルドはこっち!ついてきて!」

 そうして俺達はようやく海岸を後にして、メアリーの言うプクリンギルドへと向かうのであった。













 









 …おかしい。メアリーが起きているのはまだ良しとして、あのポケモンは一体誰だ。
 …嫌な予感がする。
伏線らしき最後の文章

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