2-3 太陽を追う双月(悠久)

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読了時間目安:10分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ラテ、ソーフと別行動をしている私は、草の大陸で降りて探検隊連盟の本部に向かった。
 そこで捌白の丘陵であった事を報告すると、そこをプラチナランク以下のチームの立ち入りを制限する方向で検討される事になった。
 それから私はトレジャータウンへ向かうことにして、その途中で幼なじみのウォルタと再会する。
 お互いの近況と情報を交換しながら、私達は生まれ育った町へと足を向けた。
「Side Ratwel」



 「あぁ、もうこんな時間かぁ…」
 中にいると外の様子が全然わからないからなぁ、続きは寝る前かな? 昼前にハク達のギルドに着いた僕は、まずはハイドさんの腕と尻尾を診てもらうためにアクトアタウンの病院に向かった。紹介状を書いてもらっているから、案外早く診てもらえる事ができた。担当の先生が言うには、ハイドさんの右腕は処置が早かったから、残っている部分にウイルスは残留していなかったらしい。斬り落とされた左側の尻尾の傷口も、完全に塞がってるからひとまずは安心らしい。…けどそれでも、患部の様子を診るために週に一回は病院に通ってほしい、って言われていた。その代わりに、軽い運動程度のバトルならしてもいい、って言われているから、リハビリで通う必要はないんだとか…。
 それでちゃんとした診断結果も出たから、一先ず僕はハイドさんとは別れて街の図書館に向かった。多分ハイドさんはギルドの演舞場で体を動かしてると思うけど、僕はもちろん、調べものをするため…。多分ベリーもフラットさんに訊いてくれてると思うけど、僕はあの殺人生物についての調査。こういうことは慣れてないから時間がかかったけど、何とかその事について載っていそうは本を二冊、それと古い書簡を一束見つける事ができた。…けどその時には図書館の閉館時間になってたから、本二冊だけを借りて出てきている。書簡の方は借りれなかったけど、それは明日出直して見せてもらうつもり。
 そして今は、街の中心からハク達のギルドに向けて帰っている最中。閉館ギリギリまで図書館にいたから、もう日が沈んで暗くなり始めている。店の明かりがもれてるから真っ暗…、って言う前に僕はブラッキーだから暗くても目が利くけど、松明の暖かなひかりに照らされながら、タイル張りの街道を突き進んでいった。
 「流石にもう日が暮れてるから、ハク達も帰っ…ん? 」
 あれ、何だろう? ハク達のギルドが正面に見え始めた頃、僕はふと何かに気付く。目が利くとはいえまだ出たばかりだから、そのもののシルエットしか見えないけど…。僕が見た感じだと、誰かがこっちに走ってきてるような…、そんな感じ。何か水色の線のようなのが気がする。でもあれって…。
 「あれ? もしかしてシル…」
 「………」
 「シルク! 待っ…、行っちゃった…」
 あれは絶対にそうだよね? 三十メートルぐらいの近さになって、それが誰なのかようやくわかった。…というより、まさか来てるなんて思いもしなかったからビックリしたけど、白い服を羽織って水色のスカーフを首に巻いたエーフィ…。彼女は二千年代の出身で普段はいないけど、親友の僕が見間違えるはずがない。二十メートルになっ喉に力を入れたタイミングで見ても、本当に見間違いじゃなかった。
 だから僕は彼女に呼びかけてみたけど、聞こえてなかったのか気付かなかったのか…、シルクは僕の前をあっさりと通り過ぎてしまう。目元から水色の淡い光が出て少しだけ残ってるから、“チカラ”を発動させているんだと思う。気のせいかもしれないけど、何故か泣いてたような気もするけ…。
 「…はぁ…、はぁ…。…ラテ君…! 」
 「えっ、しっ、シリウス? どっ、どうしたの? 」
 びっ、びっくりした…。突然現れたシルクに唖然としていると、立て続けに誰かが走ってくる。背中を向けてたから事前には足音しか分からなかったけど、僕に気付いたその人が、息を切らせながら僕に呼びかけてくる。いきなりの事で飛び上がってしまったけど、僕はその声で誰なのか気付くことができた。慌てて振り返ると、全速力で駆けてきたらしいアブソルのシリウスが、珍しくゼェゼェ言いながら速度を落としているところだった。
 「さっき走っていった人、シル…」
 「そう…、です…」
 「だっ、だけどシリウス? シルクが来て…」
 「本当は…、自分が…、はぁ…、はぁ…、行きたいところですけど…、ラテ君…、今すぐ…、シルクを追いかけて…、ください…」
 「しっ、シルクを? 」
 あのエーフィ、やっぱりシルクだったんだ…。シルクだよね? シルクが来てた事、知ってたの? 僕は続けてこの二つを訊こうとしたけど、両方ともシリウスに遮られてしまう。シリウスを見た感じだと何かあったのかもしれないけど、彼はただ、シルクを追いかけて欲しい、結構焦った様子で、これだけを僕に伝えてきた。もちろん僕は状況も何も分からないから…。
 「だけど何で? 」
 それを知るために彼に訊き返す。でも…。
 「事情は後で…、話します。だから…、お願いします! 」
 「うっ、うん! 」
 やっぱり分からないけど、行くしか、ないよね? シリウスにとっては急を要する事らしく、頑なに僕に訴えかけてくる。それなら何でだろう、そう思いながら彼に問いかけようとしたら、その時に目に入ったある事で、僕は納得する事ができた。シリウスに何があったのかはさっぱり分からないけど、彼の右の前足には白い包帯が硬く巻かれている。応急的なものらしく、浮かせている右足の包帯の端からは木の枝の先端がはみ出していた。
 相変わらず何があったのかは分からないけど、シリウスさんが頼んできた理由は分かったから、僕はとりあえずこくりと頷く。それから僕は下ろしていた腰を上げ、四肢にありったけの力を込めて一気に駆け出す。…けど追うのはシルクだって分かったとはいえ、彼女がどこへ行くかは分から…。
 「…あっ、もしかして、トレジャータウン、かな…? 」
 それなら、全力で走れば追いつけるかもしれないね。暗くなった水の都を疾走する僕は、前を走っているはずのシルクの事を考えながら独り呟く。耳元でヒュゥヒュゥ言いながら突っ切ってくる風の音が煩わしいけど、気にせず僕は夜の街を駆け抜ける。とりあえず宛もなく右に左にとメインストリートを曲がっていたけど、その途中で僕は彼女が目指していそうな場所が思い浮かぶ。確かシルクは草の大陸でしか活動した事が無くて、前来た時の荷物もトレジャータウンに預けてあったような気がする。…そうなればシルクが向かっている場所は、ワイワイタウンの船着き場。今アクトアタウンを出たところだけど、そこならこの時間でもギリギリ高速船があったと思う。この時間には使った事無いからうろ覚えだけど、確か八時半過ぎぐらいに最終便がある。今の時間から走るとなると、間に合うか間に合わないか際どいところだけど…。
 「…はぁ…、シルク…、こんなに足、速かったっけ…? 」
 “絆の加護”を発動させてたような気がするけど、その影響なのかな? 走り始めてニ十分ぐらい経つと思うけど、シルクの後姿は全然見えてこない。だけど地面の土に新しい足跡が残っているから、この道をほんの少し前に誰かが通ったのは確か。足型が乱れてて分かりにくいけど、ギルドに所属してた時に鍛えられたから、自信はある。イーブイから進化する種族の足型を判別するのは難しいけど、かたちと状況から考えてもエーフィで間違いないと思う。…そうなるとシルクしか考えられないから、指のあたりで強く踏み込んだような形跡が残る足跡を…、じゃなくて、目的地目指して出来る限りの速さでスピードを維持した。
 「…何とか…、ワイワイタウンには…、はぁ…、はぁ…、着いた…、けど…」
 船の時間は、ギリギリ、かな…。足元の状態が土から石畳に変わったから、ここで僕はようやくワイワイタウンに着いた事に気付くことができた。もう何十分も走り続けてるから、前足と後ろ足、両方におもりが付いているかのように重くなっている。土の上をそこそこなスピードで走ってきてるから、足元が土で少しだけ汚れてしまっている。走る衝撃も加わり続けているから、肩とか脚の付け根の筋肉が悲鳴を上げ始めている。…だけどあと少しで船着き場に着くから、僕は足で無理やり蹴って速度を上げた。
 「はぁ…、はぁ…、ハァ…」
 「あっ、ラ…」
 街の広場で誰かに呼ばれた気がするけど、僕は構わず走り続ける。この広場さえ抜ければもうすぐだから、僕は痛む足に鞭を打ってラストスパート…。石畳で衝撃が直接響いてくるけど、あと少しだから気にしない。…そもそも一式の荷物、それと借りた本二冊を持った状態で走ってるから、今気づいたけどいつも以上に付加がかかってると思う。だけど気付いたら船着き場が見えてきたから、僕はついたスピードを緩めながら受付のカウンターに駆けこんだ。
 「はぁ…、ハァ…、すみません…、草の大陸…、行きの船…、って…」
 「もっ、もうしわけありません。つい一分前に出向した便が最終でして…」
 「そっ、そうですか…」
 いっ、一分…。僕が凄い勢いで迫ったから、受付のケララッパを驚かせてしまった。けど彼は何とか立ち直り、申し訳なさそうにこう返す。それも業務が終わって片付けを始めようとしていたみたいだから、多分船の半券とかが散らかってしまってると思う。そんな彼の嘴に示されて壁の時計に目を向けてみると、そこには船の時刻表と、定刻から一分ズレた時間を示した時計がそこにあった。
 「…そうなると…、…あっ、そういえば…」
 入れ違いになったかもしれないけど、ベリーとソーフ、もう水の大陸に着いてるはずだよね? って事は…。ランナーズハイ、そういう状態だからかもしれないけど、僕は乗り遅れても落ち込む事は無かった。それどころか、息は完全に切れてるけど頭の回転がもの凄く上がってるような気がする。だから僕は、すぐに別の案が頭の片隅を過ぎる。同じチームの二人が来ているはず、と言う事は…、こんな感じで、数珠つなぎの様にその人物の事を思い出すことができた。その人物とは…。




  つづく……

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