2-2 幼なじみ

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:10分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 一夜明け、ハイドさんの容態が安定したから、揃ってニアレビレッジを発つことにした。
 色々しないといけない事があるから、僕達悠久の風の三人は分かれて一気に済ませる事にした。
 その中で僕は、調査団への報告、情報収集、それとハイドさんのリハビリに一足先につき合うことにする。
 調査団への報告をしてからアクトアタウンのギルドに行ったけど、会いたかった明星の二人は調査に出てて不在だった。
 [Side Berry]



 「…ふぅ、次はトレジャータウン、かな? 」
 連盟への報告も済んだし、次はフラットさんかな? ラテとソーフと別れた私は、一度カピンタウンの探検隊連盟本部に寄っていた。目的はもちろん、ニアレビレッジでの活動報告。一つ目は村の被害状況とかで、活動を始めてからの事を細かく伝えた。その中にダンジョンの事も入れて、村の方針についてもこれから考える、って言ってた。応対してくれたのはウォルタのお母さんで、私から聴いた話だけでは、捌白の丘陵はプラチナランク以下のチームは立ち入り禁止にした方が良いかもしれないらしい。私はシルバーまでで良かったって思ってたけど、やっぱりあの生き物の存在が大きいらしい。知らない種族だったから、似顔絵を見せて調べてもらったんだけど、短時間では連盟の方でも分からなかったらしい。おまけに尻尾を斬…、人の命も殺めるような化け物がいるから…、なんだとか。
 それで連盟の方での用事が済んだから、私はそのままトレジャータウンに向かう事にした。このペースで歩いたら三十分ぐらいで着くと思うけど、この後の事を考えると昼までには着きたい。どのみちラックさん…、私達が卒業したギルドには連盟の方から通達は行くと思うけど、やっぱり私の口から直接言っておきたい。それにペラップのフラットさんにもあの生き物の事を訊けるからね、もしかするとウォルタも帰ってきてるかもしれないし…。
 「…だけどウォルタ、帰ってきてるかな…? もう三ヵ月ぐらい会えてな…」
 こういう時に頼りになるけど、ウォルタも最近忙しいみたいだからなぁ…。この何日かで何度も往復している道を歩きながら、私は多忙な幼馴染みの顔を思い浮かべる。ウォルタは昔からそうだけど、自分のペースで物事を進めていく事がある。それはそれでラテとは違った頼もしさがあるけど、本音を言うと一緒に進んでいきたい。ウォルタとは一緒に育ってきたけど、この一年ぐらいは置いて行かれてる、って結構感じてる。今の私達のランクはウルトラだけど、噂ではウォルタはハイパーランク相当のダンジョンを突破しているらしい。ウォルタはその事はあまり自分からは言わないけど、やっ…。
 「ベリー、久しぶり~! 」
 「うぉっ、ウォルタ? うん! 久しぶりだね! 」
 びっ、びっくりした…。中途半端な時間で道には誰もいなかったけど、空の方には誰かがいたらしい。だけどまさか話しかけられるなんて思ってもいなかったから、私は思わず頓狂な声をあげてしまう。しかもそれが、街を出てからずっと考えていた幼馴染みだったから、尚更…。何か月かぶりに会えて嬉しかったけど、ビックリし過ぎてすぐには答えられなかった。
 その彼、ウォーグルの姿のウォルタは、私を見つけるとすぐに降下してくる。螺旋っぽく旋回しながら降りてきて、一メートルぐらいの高さで力強く二、三回羽ばたく。そうする事で、急降下した勢いを逃がしていた。
 「ベリー達は最近どう~? 」
 「私達? うーん、忙しくて疲れが溜まってる、かな…? ウォルタはどうなの? 」
 「僕も似たような感じかな~。あれからずっと動きっ放しだしね~」
 やっぱりウォルタも、そうだったんだね? 地面に足をついたウォルタは、そのまま私にこんな感じで訊いてくる。何となく近況報告みたいになってるけど、こう訊かれるのは何となく予想できたような気がした。あははは…、って相変わらずの笑いを浮かべてるけど、どこか疲れ切ったような…、そんな感じがした。私自身も気づかれとか疲労で、ウォルタの事を言えないような気がするけど…。
 「私もだよ。…ウォルタ? こっちに飛んできてるって事は、これからトレジャータウンに行くつもりなの? 」
 「えっ、ベリーも? うん、そうだよ~。トレジャータウンに弟子を待たせて…」
 「でっ、弟子? ウォルタ、いつの間に…」
 「一か月ぐらい前かな~」
 ウォルタに弟子がいるの? 飛んでた方向からして何となく想像は出来たけど、調査の最中だったかもしれないから、一応訊ねてみる。本当にそうだったらしく、ウォルタも意外そうに声をあげていた。それでそのまま最近の事を教えてくれたけど、私はまた彼に驚かされてしまった。一か月前というと、私達が霧の大陸で連続で依頼をこなしていたぐらい…。
 「あっ、そうそう。ライトさん達が来てるんだけど、先にトレジャータウンに行ってもらってるんだよ~」
 「ライトさんが? って事は、シルクとフライも来てるの? 」
 「僕はまだ会えてないんだけど、シルクはこの諸島のどこかにいるみたいなんだよ~」
 えっ、本当に? だけど…。
 「そうなの? でもウォルタ? シルクが誰かと一緒じゃない時って、あったっけ? 」
 「その事なんだけど…」
 …ん? 何かあったのかな? もう驚きすぎて声も上がらなくなっちゃったけど、ウォルタは最近あったらしい事を続けて教えてくれる。いつもならシードさんが教えてくれるはずだけど、今回は何も聴いてない。何でだろう、そう率直に感じていると、ウォルタが一瞬難しい顔をしているのに気付くことが出来た。目元にクマが出来てるから、そう感じただけかもしれないけど、言葉を濁してたから何かあるのかもしれない。
 「ティルさんも入れて三人で“渡っ”てきてるみたいなんだけど、途中でトラブルがあって、四人ともバラバラになっちゃったみたいなんだよ…」
 「ばっ、バラバラに? そっ、それで、ライトさん達は大丈夫なの? 」
 トラブルって、まさか“時渡り”中に攻撃された、って事じゃないよね? “渡る”って事はシードさんも一緒にいると思うけど、私は彼の時にアクシデントがあったなんて事は聴いた事が無い。その代わりに、“時渡り”中のアクシデントがあるとタダじゃ済まない、ってことはよく知ってる。ラテにはその時の記憶が無いみたいだけど、その時に攻撃されると、記憶を失ったり…、取り返しがつかない事になる。だから私は、親友であり師匠である彼女達の事が凄く心配になってしまった。
 「ライトさんにしか聴けてないけど、降りたつ場所がズレただけで、“時渡り”の影響は何もなかったんだって~」
 「場所がズレた…? チェリーさんの時みたいに? 」
 「そうみたいなんだよ~」
 それだけなら、ライトさんは無事なんだね? だけど私の心配は杞憂だったみたいで、ライトさんに関しては何ともないらしい。だけどまだ、シルクとティルさん、それからシードさんの三人の事は何も分からない。…そもそも私は今知ったばかりだけど、どうか無事であってほしい、私は心からそう思う。あのシルクなら何とかできそうな気もするけど…。



――――



 [Side Riku]



 「…うん、これで揃いましたね」
 「そうみたいだね。…にしても、まさかリクさんのお姉さんが生きていて、それもギルドの親方になってるとは思わなかったよ」
 この中の誰にも言ってなかったからね、きっとこの街ではぼく以外誰も知らなかっただろうね。ここはエアリシア某所の、ある廃屋内…。ろうそくの灯りだけが照らすこの空間で、ぼくたちは点呼をとる。長年放置された街外れの廃屋だから、あまり深く息を吸うと埃でむせ返りそうになる。その中でぼく、ハクリューのリクは、集まっている全員に目を向け、声をかける。それに集まったうちのヨルノズクが、ぼくに対して意外そうに呟いていた。
 「俺も始めて聴いた時はびっくりしたっすよ! ハク師匠、自分の事を話したがらないっすからね」
 「姉上は昔から、そういうところがあったからね…」
 父上と母上の事が嫌いだったからかもしれないけど、姉上が話してるところは見た事無かったからなぁ。ヨルノズクの彼に続いて、姉上の弟子だというヒノヤコマのフレイ君がこう続ける。彼は三年ぐらい前に姉上に弟子入りしていたらしく、姉上のチームから色々な事を学んだらしい。今は姉上のギルドの手伝いをしていて、それ以来姉上とぼくとの内密の手紙のやりとりを受け持ってくれている。
 ちなみにこの場の事は、父上…、エアリシア市長は知らない。そもそもここには市長の家督制反対派しか集まってないので、伝える筈もないのだけど…。一応ぼくは継ぐ身分にあるけど、実の父親の横暴を見ているせいか、その制度には反対している。姉上が出ていってから密かに連絡を取り合ってるけど、姉上が親方になってからは特にそう思うようになった。この密会も姉上が人数分送ってくれたドロンの種のお蔭で、誰にもバレる事なく開くことが出来ている。
 「…やっぱそうだったんっすね? 」
 「うん」
 「…あっ、そうだ。ハク師匠から今日も預かってきてるっす! 」
 フレイ君、今日もありがとね。本当はぼく自身が赴くのが一番いいんだけど、ぼくが市会議員だからって事でそれは叶ってない。姉上の考えは一度も訊けてないけど、姉上の事だから、多分来ないで、って言うと思う。ぼくなりに考えてる理由としては、姉上がギルドの親方だって母上にバレた時、ギルド運営の資金、利益を根こそぎ持っていきそうだから。あの人はお金にしか目が無いから、多分そうなると思う。
 …兎に角、ぼくは姉上との伝令の彼から、その手紙が入った便せんを受け取る。まだ中は見てないけど、重さと形的に、反対派の人数分のドロンの種も入っていると思う。
 「それでリクさん? 手紙には何て書いてあるんですか? 」
 「ええっと…」
 ぼくはいわれるままに、手に取った便せんを開封していく。尻尾の先でズレない様に抑え、口で咥えて接着部分を剥がしていく…。その口で咥えて中の手紙を取り出し、ぼくは姉上の近況がかかれた書状を読み上げていった。



  
  つづく……

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想