Mission #154 カバルドン神殿へ

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「……………………」

アカツキはその場に居並ぶ面々を見やり、緊張に凝り固まった面持ちでごくりと唾を飲み下した。
というのも、十階にあるオペレーションルームには、ユニオンの最高責任者であるササコ議長と、最高顧問のシンバラ教授、そしてトップレンジャーのハーブとセブンと、層々たる面々が顔を揃えていたからだ。
若輩者の自分が逆立ちしても太刀打ちできないような顔ぶれの中で、アカツキはなんとも言えない居づらさを感じずにはいられなかった。

(えっと……なんでぼく、ここにいるんだろ?)

ササコ議長は口元に柔和な笑みなど浮かべてはいるが、目は笑っていない。
他の三人に至っては、どこか剣呑な雰囲気さえ漂わせている。
自分がここにいるなんて場違いもいいところではないか……?
そんなことを思ってみたものの、すぐにここに来たいきさつを思い返し、心の中で深々とため息をついた。

(ササコ議長に呼ばれたから……って言っても、それはぼくじゃなくてハーブさんなんだと思うんだけどな)

今朝、ハーブとユニオン本部の地下にあるトレーニングルームでキャプチャの練習(と言っても、実際はアカツキの特訓のようなものだったが)をしていたところ、突然議長からお呼びがかかったのだ。
急ぎではないと言われたが、急ぎでもない事情でトップレンジャーをいきなり呼びつけたりはしないだろう……ということで、練習を途中で切り上げてオペレーションルームに向かった。
オペレーションルームに入ると、セブンとシンバラ教授が何やら神妙な面持ちで話していた。
アカツキとハーブが顔を見せると、議長が『役者が揃いました』と笑みを浮かべながらそう言って、ユニオン本部が置かれている状況を滔々と話し始め――そして、今に至る。

(アンヘルとヤミヤミ団がつながってるんだったら、迂闊なことはできないって言ってたのは分かる。
分かるんだけど……)

現在までに判明した事実をつなぎ合わせると、アンヘル・コーポレーションとヤミヤミ団がなんらかの形でつながっているのはほぼ確実。
ただ、直接的な証拠がないため、手出しは厳禁。下手に手を出してこちら側の情報が漏れるようなことがあれば、目にも当てられない。
よって、当面はアンヘルに監視の目を向けつつも、そちらについては基本的に静観する――と、ユニオン上層部での会議で決まったそうだ。
その話を聞いた時、アカツキは妥当な判断だと思いながらも、どうにも歯がゆい気持ちになった。
『ヤミヤミ団に目立った動きがなければ何もしない』とも受け取れる方針だけに、未だにダズルの所在が分からない現状を踏まえると、もやもやした気持ちで胸がいっぱいになる。

(ダズル、どこにいるんだろう……?)

ダズル奪還のため、アンヘルの秘密の研究所(ヤミヤミ団がアジトとしていた場所)に突入して早五日。
ヤミヤミ団の幹部を取り逃がし、ダズルの奪還にも失敗してからというもの、彼らの行方はようとして知れない。
スタイラーを取り上げられ、パートナーポケモンもいない状態のポケモンレンジャーなど、『ドカリモ』や『モバリモ』を有するヤミヤミ団にとっては恐れるほどの存在でもないだろう。
それに、人質として使うつもりなら、そう易々と危害を加えられるようなことはないだろうが、心配なものは心配だった。

(セイルもピートも、すごく心配してるしなあ……早くなんとかしたいんだけど)

親友の行方がまったくつかめず、どんな状態なのかも分からないのだから心配なのは当然なのだが、アカツキよりもダズルを心配しているのが、彼のパートナーポケモンであるセイルとピートだ。
特に、セイルは目の前でダズルを連れ去られており、その精神的なショックたるや並大抵のものではない。
しばらく何を言っても聞き入れないほどに落ち込んでいたのだが、周囲のフォローもあって、今は『絶対にあたしが助け出すんだから!!』と息巻くほどに立ち直っている。
相当に気を揉んでいるのが雰囲気から分かるだけに、一刻も早くダズルを助け出したいと思うのだが、話の流れからすると、大々的な捜索は望めそうにない。
人質の救出は秘密裏に、それでいて迅速に行う必要があるだけに、規模は小さくせざるを得ないだろう。

(できれば……できれば、ぼくが直接捜しに行きたいけど、ハーブさんと一緒じゃそれも無理だろうな)

規模が小さくなるのなら、なんとかして捜索隊の一員としてダズル救出に向かいたい……
アカツキにはその想いが強いのだが、トレーナーであるハーブの指示がなければ、そのように動くことはできない。
だが、どうにかしてダズルを助け出したい。
無言ながらもそんな風に考えているのが筒抜けだったのか、話が一区切りついたところでササコ議長が話しかけてきた。

「……ダズル君の救出に向かいたいと考えているんですか? アカツキ君」
「え……」

考えていたことを言い当てられたことには大して驚きもしなかったのだが、完全にタイミングを外された。
アカツキは思わず顔を上げ、ポカンとした面持ちで議長を見やった。
口元に浮かぶ笑みとは裏腹に、彼女も上司として、あるいはレンジャーユニオンの最高責任者として、部下を助け出したいという強い意思を目に強く宿しているように見えた。
……が、アカツキの反応がイエスと見えたらしく、ハーブが険しい表情で目を細めた。

「話、聞いてた?
ダズルの捜索は特別に編成されたチームで行うわ。
そういう行動に長けた人たちに任せておくべきで、わたしたちは別の行動を取らなければならないの」
「…………」

当然の言葉が飛んできた。
ポケモンレンジャーと一口に言っても、得意分野は人それぞれ異なっている。
ハーブの言う『そういう行動に長けた人たち』というのは、パートナーポケモンやレンジャー自身の能力として、隠密行動に長けているチームのことを指す。
彼女の言うとおり、ダズルの救出は彼らに任せるべきだろう。
アンヘルとつながっているかもしれないというヤミヤミ団をあまり刺激しないように――レンジャーユニオンが表立って大っぴらに動いていることを悟られてはならないのだ。
もちろん、アカツキだってそれくらいは承知している。
今の情勢を考えれば、ユニオン本部がそうせざるを得ないということも。
ただ……それを割り切るには、天秤に乗っかっている錘は重すぎる。
煮え切らない考えを抱いていることを表情や目の動きから読み取ってか、ハーブは小さくため息などつきながらも、こんな言葉を投げかけてきた。

「少しはあなたの気持ちも理解できるけど、ここはダズルを救出できる可能性の高い方に賭けるべきなのよ。
……彼らを信じて、わたしたちはわたしたちにできる最善の行動を尽くさなければならないわ」
「はい……」

そんなこと、言われなくても分かっている。
とはいえ、正論であるがゆえに言葉を返すことはできなかった。
仮に返せたとしても、どうにもならないことはアカツキ自身、誰よりも理解しているつもりだったからだ。

(でも、最善の行動ってなんだろう?)

最善の行動を尽くすべき。
それも分かっている。
しかし、『最善の行動』という解釈はあまりに広義に過ぎて、具体的に何をすればいいのかよく分からない。
いくつかは考えられるが、そのどれもが正解とはかけ離れた選択肢かもしれない。
アカツキとハーブのやり取りを、議長と教授、セブンは何も言わずに見守っている。
内側に気持ちを抱えたままでは、迷いが生じる。
迷いが生じれば、肝心な時に身体が反応しなかったり、必要なことをできなかったりするかもしれない。
だから、こういう場所での適度なガス抜きが必要なのだ。

(分かんない。ぼくにできることって……?)

考えなければ答えは出ない。
だが、何をどのように考えればいいのかという手本がないだけに、この場の面々に比べて実戦経験の乏しいアカツキには明確な方針が定められずにいた。
それは別に恥ずかしいことではないし、責められるものでもないのだが、真面目なアカツキにとっては、恥ずべきことだと思っていた。
そんな考えが表情やうつむき加減の面持ちで伝わったのか、セブンがやれやれと言いたげな笑みを口元に浮かべ、議長と教授に向き直った。

「ササコ議長、シンバラ教授。
俺は当初の予定通り、残り一つの『王子の涙』の入手に向かいます」
「そうですね。お願いします」

セブンの言葉に、議長は深々と頷いた。
ヤミヤミ団が操る『モバリモ』や『ドカリモ』に動力源として、さらにはポケモンの中枢神経を麻痺させる力の源として組み込まれている『闇の石』。
その力を打ち消すことのできる『王子の涙』は当初、おとぎ話の産物という意味合いでしかなかったが、アルミアの城とボイル火山の内部に実在することが確認できたため、おとぎ話になぞらえるならばあと一つ存在しているはずだった。
すでにユニオンで保管している二つの『王子の涙』を入手する際、ヤミヤミ団の妨害があったことを考えれば、残り一つはユニオンの手に渡らないよう、ヤミヤミ団がすでに行動を起こしている可能性も考えられる。
そこで、トップレンジャーであるセブンに残り一つを手に入れてもらおうと、議長と教授は彼にミッションを与えていたのだった。
ダズルの救出云々とは別に、『闇の石』の力を打ち消すためには、どうしても残り一つの『王子の涙』が必要不可欠なのだ。
教授が主導で進めている実験によると、アルミアの城で手に入れた『青の石』と、ボイル火山で手に入れた『赤の石』の二つを『闇の石』に近づけたところ、出力が約三分の一に抑えられることが判明した。
それぞれ約三分の一ずつ、力を抑える役割を果たしていることが確認できたため、残り一つがあれば、『闇の石』の力を完全に打ち消すことができるという仮説が成り立つのだ。
そして、その仮説は実際に残り一つを手に入れて実験を行えば、実証できる。
ユニオンにとって、『ドカリモ』と『モバリモ』を用いてポケモンを無差別に操ることが一番の脅威であるため、その脅威を取り除くことができれば、ヤミヤミ団の摘発に大きな前進となる。
ある意味、そういった側面からもダズル救出に影響を与えるわけなのだが、アカツキにはそこまでの考えは回らなかった。
だが、彼がこの場の誰よりも『ダズルを助けたい』と強く想っていることは、誰もが理解していた。
ゆえに、セブンは敢えてアカツキに助け舟を出してやった。

「アカツキ、おまえさえ良ければ俺と一緒に来ないか?
ヤミヤミ団のことだ、残り一つの『王子の涙』と引き換えにダズルの引渡しを要求してくる可能性も考えられる。
……危険な賭けだが、これは好機とも言えるからな」
「はい、お願いしますっ!!」
「よし、決まりだな」

何をすればいいかよく分からなかったが、ダズル救出に少しでも携われるのなら、断る理由はなかった。
アカツキが二つ返事で頷いたのを見て、セブンは満足げに口の端を吊り上げた。
対照的に、ハーブは困ったような笑みを浮かべ、肩をすくめた。
セブンはどうにもアカツキやダズルに甘すぎる。
好印象を抱いているのは言葉や態度からも容易に理解できるのだが、彼らは将来のトップレンジャー候補として赴任してきた、いわば『期待の新星』である。
将来、立派なトップレンジャーとして活躍してもらうためにも、いろいろと今のうちから厳しさを教え込んでおく必要がある。
……そこのところは、ハーブとセブンの考え方に温度差があるようだが、アカツキの気持ちを無下にできないという意味では、表立って反対する理由もなかった。
そんな風に考えているハーブに、セブンが言葉をかけた。

「ハーブ、おまえの生徒を借りるけど構わないか?」
「何を今さら。最初からそうするつもりだったんでしょ、白々しい」
「はは、バレてたか」
「当たり前よ」

白々しくしたつもりはないが、ハーブにはそう見えてしまったらしい。
セブンがアカツキを連れて行こうと考えていたのは、ダズル救出の一環であると同時に、こういう時だからこそ現場経験をきっちり積ませてやりたいという想いがあったからだった。
ヤミヤミ団がアンヘルとつながっている可能性が濃厚になった以上、今後の戦いは厳しいものとなるだろう。
悠長に現場を経験させていられる余裕も少なくなってくるから、今のうちに一つでも二つでも学んでおいてもらいたい……それは、将来のトップレンジャー候補に対する期待の裏返しでもあった。

「えっと……」

にこやかなセブンと、つっけんどんなハーブ。
いかにもそれぞれの性格を表現したらしい様子に、アカツキは何と言えばいいのか分からず戸惑っていたが、セブンがわざわざ自分に声をかけてくれた理由に気づいた。

(でも、セブンさんがぼくを連れてってくれるんだから、役に立てるように頑張らなきゃ。
それがダズルを助け出すのにつながってくるかもしれないんだ)

強い想いと共に、ぐっと拳を握りしめる。
ダズルがヤミヤミ団に拉致されて五日……今頃、どこで何をしているのか。
無事でいるのかも分からないが、今は無事だと信じて、できることをしていくしかない。
何もしないままだと、不安でたまらないのだ。
……と、セブンはアカツキに向き直り、自分たちのミッションについて説明した。

「アカツキもすでに聞いてると思うが、残り一つの『王子の涙』はハルバ砂漠の奥にあるカバルドン神殿にあるらしい。
俺たちの任務は、『王子の涙』を手に入れることだ。
青、赤と、あと一つを手に入れれば、『ドカリモ』や『モバリモ』の影響を完全にシャットアウトすることができるらしい。
善は急げということですぐに現場に向かおうと思うんだが、準備は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。今すぐ行けます」

アカツキはすぐさま頷いた。
準備と言っても、砂漠に入る前にハルバ島にある村で水を補給しておけばいい。
ポケモンレンジャーの商売道具であるスタイラーさえあれば、そうそう必要なものなどないのだ。
間髪入れずに頷き返してきたアカツキに笑みを返し、セブンは議長と教授に顔を向けた。

「それでは、俺とアカツキでハルバ砂漠に行ってきます」
「分かりました。
『王子の涙』の入手も重要ですが、あなた方の身の安全が最も重要です。
決して無理はしないでください」
「とはいえ、多少の無理はしなければ厳しい場所だろう。
……そこのところは、セブンなら引き際は心得ているだろうから、それほど心配する必要もないかもしれんな」

二人とも、セブンなら大丈夫という強い信頼があるからだろう、穏やかな表情を浮かべていた。
その様子を見て、アカツキはこんな風に思った。

(セブンさん、すごく信頼されてるんだな。
ぼくって足手まといがいても、大丈夫だって思ってる……ぼくだって、頑張らなきゃ。せめて足を引っ張らないくらいは)

いくら将来のトップレンジャー候補と言っても――ポケモンレンジャー一年目とは思えない成果を挙げてきたと言っても――、ベテランでトップレンジャーでもあるセブンから比べれば、ありとあらゆる点で劣っている自分は、セブンにとって足手まといでしかないかもしれない。
その足手まといがついていても大丈夫と言わしめるのだから、長年にわたる経験に裏打ちされた信頼は相当に強いものだと、傍目からでも十分に理解できる。
だったら、自分がやるべきなのは、セブンの足を引っ張らないようにすることくらいだろう。

「それじゃあアカツキ、行くとしよう」
「はい。行ってきます」

アカツキは議長たちに小さく頭を下げると、セブンの後を追ってオペレーションルームを出た。
その背中を、ハーブが口元に笑みなど浮かべながら見送っていたことなど、当然知る由もない。
そんな彼女に相変わらずの穏やかな表情を向け、議長が口を開いた。

「本当に良かったんですか?」
「行くなと言っても、逆に何もしないままだと不安で仕方ないと思いますから。
セブンだって甘やかすつもりはないでしょうし……アカツキに、今のうちに少しでも経験を積ませた方がいいと思うのは、全員の共通認識でしょう。
それに、わたしはわたしにできることをしていきますよ」
「そうですか。なら、いいんですが」

よどみなく言い切ったハーブに好印象を抱いたようで、議長の口の端が笑みの形にゆがんだ。
アカツキがセブンと行動を共にすることで、ハーブはある意味、自由に動けるようになる。
この状況を見込んで、教授が神妙な面持ちでハーブにミッションを与えた。

「ならば、ハーブくん。
きみに頼んでおきたいことがあるんだが、いいだろうか」
「構いません」
「では、ヤミヤミ団の動向を探ってもらいたいのだが、具体的には……」

オペレーションルームと廊下を隔てる自動ドアが音もなく閉まり、教授の声は廊下からシャットアウトされた。






一方、アカツキとセブンはエレベーターで一階に下り、本部の建物を出たところで足を止めた。
セブンがくるりと向き直り、アカツキに向かって言った。

「さて、これからハルバ砂漠に向かうわけだが、いちいちプエルタウンに立ち寄って船をチャーターするんじゃ時間がかかる。
そこで、鳥ポケモンをキャプチャして、現地に到着するまでの時間を短縮しようと思う」
「はい」

名案だと、アカツキは素直に思った。
レンジャーユニオン本部はアルミア地方の北西部に位置しており、目的地のハルバ砂漠は同じ地方とはいえ南東部と、位置的にかなり遠い。
海を渡るにも、プエルタウンまで向かって、そこから船を乗り継がなければならない。
それなら、空を飛べるポケモンをキャプチャして、一足飛びに向かってしまえばいいのだが……
ムックに視線を向け、心の中でポツリつぶやく。

(空を飛べるポケモンって言っても、ムックじゃぼくを運ぶのは無理だし……他の、大型の鳥ポケモンをキャプチャするしかないか)

「…………?」

ムックが『なんでオレを見るんだ?』と言いたげな目で見つめ返してきたが、アカツキはまったく気にならなかった。
ムックなら空を飛べるのだが、身体の大きさからしてアカツキを乗せることは無理だし、脚でつかむにしても、途中で力尽きてしまう。
そうなると、ムクバードやピジョットといった大型の鳥ポケモンをキャプチャして、その背中に乗るしかない。

(ムック、嫌がるだろうなあ……でも、やらなきゃいけない)

自分と同じだが、自分より大きな鳥ポケモンに頼らざるを得ない状況は、ムックからすれば面白くないだろう。
今はまだ理解していないようだが、ここは納得いかなくても、状況的にやむを得ないことだけは分かってもらうしかない。
アカツキがあれこれ考えているのを理解しつつ、セブンは言葉を続けた。

「ムックじゃちょいと力不足だし、かといってフィートはハーブがいなきゃ力を貸してくれないだろうから除外。
幸い、近くの森にはムクホークが棲んでるから、キャプチャして力を借りれば問題ない。
……というわけで、俺とおまえでムクホークを一体ずつキャプチャする。キャプチャできたらここに集合、ハルバ砂漠へ向かおう」
「分かりました」

キャプチャされたポケモンは、基本的にキャプチャを行ったポケモンレンジャーにしか力を貸してくれない。
例外もあるが、それを期待していい状況でないことはアカツキも十分に理解していた。
理解していたが――次のセブンの言葉は予想外だった。

「ただし、今から十五分でキャプチャしてここに戻ってこれなければ、俺は先に現地に向かうからな。
遅れたら……現地まではおまえ一人で来てもらうから」
「えっ……」
「じゃ、早速行動開始だ。行くぞ、ガブラス」
「がうっ!!」

アカツキが驚くのを気にするでもなく、セブンはガブラスと共に、さっさと森に向かって走っていった。
いきなり時間制限を突きつけられるとは思わなかったので、驚くのも当然と言えば当然なのだが、すぐに気を取り直した。

(セブンさんはムクホークを簡単にキャプチャできるけど、ぼくはそうもいかないってこと、ちゃんと理解してるんだ……それで時間制限なんて言ってきたんだ。
十五分でムクバードを見つけて、キャプチャして、戻ってくる……)

つまり、セブンは『十五分でムクバードを見つけ、キャプチャして、ここに戻ってこられないような実力では、現地で足手まといになる』と暗にそう言ったのだ。
直球で口にすれば傷つけるか神経を逆撫でするようなセリフだけに、彼なりに表現には気を遣ったのだろうが、蓋を開けてみれば同じことだった。

(きついかもしれない。
でも、これくらいできなきゃ足手まといになっちゃうんだ。セブンさんなら、できないことは絶対に言わない。
ぼくにならできる……だったらやるっきゃない。できることをするって決めたんだから)

ダズルの救出につながることなら、どんなことだってやると決めたのだ。
始める前から投げ出すつもりなんてないし、これはセブンが自分に与えたステップアップのチャンス。
それをみすみすフイにするわけにはいかない。
きついのは火を見るより明らかだが、やると決めたからにはキャプチャすべき相手をしっかりと見据えなければならない。
ムクホークは特性『威嚇』を持つだけあって気性が荒く、非常に好戦的で、自分よりも身体の大きな相手にも果敢に挑む勇敢さを持つポケモンだ。
さらに、物理攻撃力が非常に高く、鳥ポケモンには珍しく、格闘タイプの超接近戦の技であるインファイトをも使いこなすため、ポケモンレンジャーになって一年と経っていないアカツキがまともに相手をするにはかなりハードルの高いポケモンと言える。
だが、それでもやるしかないのだ。
セブンも、アカツキにできないと思うようなことならハードルを設けたりはしないだろうし、もし無理と思うなら、そもそも連れて行くなどと自分から言い出すこともなかっただろう。
だったら、セブンの期待に応えるためにも、頑張ってムクホークをキャプチャするのだ。

「ムック、ポケモンのキャプチャに行くよ」
「ムクバーっ!!」






To Be Continued...

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