第113話 先輩!

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 コウがブラウンとバトルをしている最中、ゴールドの隣の席に赤い帽子を被り、これまた赤いジャケットを羽織って、青いジーンズを履いた少年が座って来た。座るなり帽子を取って膝元に置くと、真っ黒な髪がピョコンと跳ねてご登場。

「中々白熱した戦いだなぁ」
「ねえゴールド、隣のお兄ちゃんだぁれ? 知り合い?」
「マイは知らなかったか? レッド先輩だよ、前回のポケモンリーグ優勝者」

 感心したように呟く少年に聞こえないようにマイはゴールドの耳元に手を被せ当てて聞くと、ゴールドは眉を八の字にして言ってきた。そこでマイもハッとしてオーキド博士に写真を見せてもらった先輩だ、と気づく。

(この人が前回の優勝者かぁ。優しそうな人だなぁ。写真と全然違うから分からなかったや!)
「ん? 俺の顔になんか付いてるか? ああ、君がマイか! はじめまして俺はレッド、よろしくな! ゴールドから君のことは聞いてるよ」
「マイです、よろしくお願いします。えと、レッドせん、ぱい?」
「うん、好きに呼んでくれよ。ゴールドと同じ呼び方なんてやっぱり似てるなー」

 ゴールドの肩に隠れるようにしてレッドを見つめていると視線に気づいたのかバトルフィールドからマイに視点を変えた。
 よろしく、と言って差し出された手に応えるマイの手は少し震えていた。ゴールドが隣にいなかったらもっと震えていたに違いない。

「そんなに俺とマイ似てるっスか? たまに兄妹に見間違えられっけど、なーマイ?」
「ううん、似てない似てない! ゴールドはゴールドだもん」
「たはは、そう言う意味じゃなかったけど、って今対戦してるのマイの友達のコウだっけ? 試合頑張ってんなー」

 握られた手をわざと離すようにゴールドがマイの肩を抱くと別の意味で強張った顔になるマイ。レッドは気にもしないでバトルフィールドにまた目をやる。マイは知り合ったばかりのレッドに『友達のコウ』と言われた事が何よりも嬉しくて口元がニヤける。
 その、マイの『友達のコウ』は、ブラウン優勢のバトルになっているが目は負けを悟ってはいなくて、まだまだこれから、と言っているみたいだった。

(コウちゃんがんばってるなぁ、わたしもがんばらないと! 絶対優勝するんだ!)
「あっいたわよ、こっちよシルバー。マイちゃーん、ゴールドー!」
「お? クリスか、おーいこっちこっち!」

 バトルを見て興奮をするのか体温が上昇するのが分かるマイ。身震いをして大きなどんぐり眼の瞳を更に大きくする。
 クリスとシルバーが試合を見に来た事にも気づかずに手を膝につけて背筋を伸ばす。バトルが一番近くに見れて邪魔をされない特等席に来るまでに人混みを文字通り掻き分けて来た。

「ワカバタウンのドームだからって舐めてたわ……。はぁっ疲れた」
「かなり大きなドームだな、ワカバタウンのくせに……」
「オイオイオイおめーらワカバを舐めんじゃねーぞ!」

 ポケモンリーグには色々な形があって、ワカバタウンは無難な白を基調にしたドーム型。人もかなりの数が入れて噂では七万人は軽いらしい。

「一番前の列なんてよくチケット取れたわね! それにしても凄い……真夏みたいに暑いわね」

 熱狂するドームにクリスは汗をハンカチで拭い取ると、そう言えばと付けたした。

「アヤは? てっきりマイちゃんの所にいるかと思ったけど」
「アヤノは次が試合だから控え室にいるって言ってましたよ!」
「そうなの。マイちゃんは明日?」
「うん、あっ! はい、そうです。明日です、ちょっと緊張したけど……」

 アヤノがいない事に気づいた。ソラはと言うとアヤノの側にいるらしくいない。マイがついタメ口で言ってしまい慌てて修正する。クリスは気にしてないよ、と頭を撫でるが手に持っている物に目が行った。

「それ、ゴールドの?」
「えへへお守りです。ブレスレットは、ほら。こうなっちゃったから……」

 帽子とゴーグルを膝の上に置いてあったので、てっきりゴールドに荷物置き場にされたと勘違いしたのだ。お守りというブレスレットは銀色の塗装が剥げて金色になっていて、二つ共金色のブレスレットになっていた。残念そうにするマイにクリスは声を上手くかけることができなかった。

「あ、コウちゃんが勝った! シルバーさん見てました?」
「ああ、流石お前のライバルだな。第三次予選は一体だけで決まる試合だから本戦よりもキツいかもしれない。パートナー選びには気をつけるんだ」
「んなこと知ってるに決まってんだろ」

 どうやらコウが勝ったらしい。マイが声に出すとシルバーがボソボソと小さな声でマイに聞かせるとゴールドが野次馬に入って来た。

「マイはポケモン決めたのか?」
「はい! 決めてます、というかこの子がすごくアピールしてきて……ね、ピーくん」
「ピカチュウか! いい趣味してるな~」

 レッドが興味ありげに顔を乗り出して来たのでボールを渡してやる。ピカチュウがガッツポーズをしてレッドを見つめていると何だかレッドが嬉しそうになっていた。

「お、次はアヤだぞ」
「どーせフィアだよ、フィア……ほら」

 コウと交代のようにアヤノがスタジアムに登場。西からアヤノが来て、東からパープルという短い黒髪に紫色の変わった瞳を持つ少年が出て来た。
 マイの言葉の通りアヤノはロコンのフィアを繰り出し、相手のパープルは見たことのないポケモンを出して来た。

「あれはホウエン地方のポケモンじゃないかしら!? まだ捕獲した事のないポケモンだわ! 捕獲します!」
「落ち着けクリス、人のポケモンを取ったら泥棒だ」

 パープルは黒のジャージに身を包み人目を気にしない性格のようだ。対してアヤノは学生服のようなブレザーを着用して礼装みたいだ。正反対の人柄対決になる予感。
 しかも見たことのないポケモンにクリスは席を立ち上がる。シルバーに背中を叩かれなかったら色んな意味で危ない所だった。

「わー! かわいいポケモンだね、ゴールド」
「そうかぁ? 俺にはなんだかさっぱりだぜ。なんだあのポケモンは、ピカチュウみたいだけど耳の形が妙だしなァ」

 パープルはマイナンと言う、カントーやジョウトで言うとピカチュウの耳を丸めて、耳の先を黒ではなく青色に染めたような可愛らしい小さなポケモンを出してきた。尻尾はプラスマイナスで言うとマイナスの形をしている。

(アヤノ、勝てるよね?)

 なんだかんだ他人の心配が出来るマイであった。

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