ななのろく 白坎の戦い(黒礫の雨)

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 “壱白の裂洞”を突破した私達四人は、辺りを警戒しながらも一息つく。
 “白坎の祭壇”というらしいこの空間は殺風景で、唯一簡素な祭壇があるのみ。
 一応“空現の穴”は出現していたけれど、“ビースト”らしき生き物の姿はどこにもなかった。
 通信端末超しにフィリアさんに調べてもらうと、既にこの空間に擬態して存在しているらしかった。
 [Side Kyulia]




 「目覚めるパワー! 」
 「シャドーボールっ! 」
 「シャドーボール! 」
 あぁ…、三人とも…。私の制止も虚しく、アーシアちゃん、リアン君、コット君の三人は臨戦態勢をとる。守るを使えるアーシアちゃんが前に出、回避技と多彩な属性を持つコット君が中衛、一般人の中では大分戦える方のリアン君は後ろに下がる。私から見て一直線、斜めの陣形をとった三人は、地面に埋め込まれた黒いレンガに向けて一斉に技を解き放ってしまっ…。
 「っ○×△※ー! 」
 「当たっ…えっ? 」
 「なっ…」
 「ひゃっ…! 」
 「オーロラベール! 三人とも、すぐに下がっ…」
 えっ? 何が起きて…? 三人が射出した二つの黒、水色の計三発は、それぞれに別のレンガを捉える。フィリアさんが言うにはソレが“ビースト”らしいけれど、ヒットした瞬間私達の目の前で信じられない事が起きてしまう。ヒットした事を示すかのように衝撃音がし、白い岩盤が少しだけ弾ける。…けれどその破片に混ざって、埋まっていたはずの黒レンガがひとりでに飛び出す。三人が命中させた三つなら解らなくもないけれど、私が見ただけでも軽く四十は超えている。一拍の遅れがあったけれど、まるで連動するように全てが虚空に撃ち出されたように見えてしまった。
 この光景に私だけじゃなく、リアン君にコット君…、この場にいる全員が唖然としてしまう。おまけに技を発動させた直後で硬直してしまっているから、三人は咄嗟に動けそうもない…。私自身も同じだったけれど、何しろ相手は“ビースト”の大群。年長者、探検隊の私が全員を守らないといけないから、咄嗟にエネルギーレベルを高める。この姿…、いえ、私が使える七つで唯一の補助技を発動させ、急ごしらえだけれど三人の安全を確保する。同時に喉に力ませ、ありったけの声量で注意を促…。
 「◇★▽▽ーっ! 」
 「ま…守る! っくぅっ…! 」
 「秘密の力! 」
 「サイコキネシス! なっ…、何がどうなっとるん? 」
 「分からないです…! チャージビーム! 」
 聞いてはいたけれど、流石にこの数は…。冷たいベールは何とか間に合ったけれど、この感じだと私達に息つく暇は与えてくれなさそう。私達を取り囲むように浮遊する黒レンガ群…、もとい“ビースト”達は、雨のよう私達に降りかかってくる。咄嗟に反応したグレイシアがシールドを張って守ってくれたけれど、溜めが足りなかったのかそもそも威力が高すぎたのか…、どちらかは分からないけれど、四秒ぐらいで崩れ落ちてしまう。けれどそのお陰で技の準備が出来たから、三人はそれぞれの方法で対処し始める事が出来た。私は力を溜めた九本の尻尾を目一杯広げ、それぞれを振り上げて黒い雨を凌ぐ。リアン君は見えない力でレンガを弾き、私の尻尾が届かない中距離で撃ち落としてくれる。そこへコット君が電気のブレスを吹き出し、その更に高所の一軍を薙払ってくれた。
 「で…ですけどキュリアさん? あちらの連携がとれすぎていません? スピードスター! 」
 シールドが破られて大きな隙が出来ていたけれど、私が十七個目を弾き飛ばすまでの間に何とか立ち直ってくれた。横目で見た限りでは後ろ足だけで立ち上がって、空いた前足にエネルギーを蓄え始める。無色のエネルギー体が出来はじめているから、アーシアちゃんは追撃機能がある全体技を…。
 「え…うそ? っく…、消えた? 」
 「消えたって…、もしかしてエネルギー切れを起こしたって事は…」
 「そんな筈はないですっ! アシストパワー! 」
 「そっ、そのようね…」
 アーシアちゃんはエネルギー体を撃ち出そうとしたけれど、手から離れた瞬間、分裂する事なく消滅してしまう。そのせいでレンガ一個が突き上げた右前足に当たってしまっていけれど、私の雪の守りで多少は軽減出来たらしい。けれど衝撃だけはまともに受けてしまったらしく、痺れているらしく左の前足で右手首を押さえている…。コット君の言う通りエネルギー切れも考えられるけれど、この様子だとそうではなさそう。すぐに発動させた気柱はちゃんと出現して突き上げていたから…。
 「何でなんか話からへんけど…っエコーボイ…? 嘘、何でなん? 僕のも発動できへん! 」
 「お二人とも大丈夫ですか? もう一発チャージビーム! 」
 「マジカルシャイン! …私も出来ないわね…」
 「きゅ、キュリアさんもなのです? アイアンテール! 」
 「そっ、そんな事があるんですか? 」
 「分からないわ! 」
 確かに封印スイッチとかはあったけれど、ダンジョン地帯は抜けてるから関係ない筈よね? リアン君も続いて技を発動させ、エネルギーを混ぜて声に衝撃波を乗せる。…けれどそれも何故か失敗してしまい、ただ普通に声をあげただけになってしまう。コット君が心配して声をかてくれて、同時に痺れる光線を放ってくれたけれど、そっちの方は問題なく…、寧ろ追加効果で強化されて光線が太くなっている。試しに私も口元にエネルギーを集中させ、上を向きながら爆ぜさせる事で発光…。…させてみたけど、解放した瞬間にしょうめつしてしまった。けれど何故か後ろ足だけで跳び上がったアーシアちゃんは、尻尾を硬質化させる事に成功していた。
 「アシストパワー! …予想なんですけど、全体技だけが封じられてるのかもしれません! 」
 「全体技が、ですか? シャドーボール! …なのかもです」
 「吹ぶ…、秘密の力! 」
 「シャドーボール。…そうっぽいね」
 となると…、特殊な環境なのかしら、この空間って…。レンガ全て降り終わり、今度は壁際まで捌ける。そして平面的に私達を取り囲んだ黒が、円を狭めるようにして中心に向けて飛ぶ。早い段階でコット君が遠隔で五、六個を撃ち落としてくれたけれど、言われてみればそんなような気もする。まだ全部を発動させたわけじゃないけれど、失敗した技はスピードスターとエコーボイス、それからマジカルシャインと今しかけた吹雪…。どれも広範囲に攻撃できる技だから、コット君の考えは間違いじゃない気がする。…とそんな呑気に語ってる暇はないから、私は中心を向き、外周に振り向く体勢になる。力を蓄えた九本の尻尾で時間に差をつけて振り抜き、防衛体制に入る。
 「それなら…、申し訳ないけれど、炎タイプでいくしかないわね。…ソーラービーム! 」
 その状態で腰を上げるようにして伏せ、空いた前足でネックレスを外す。その足で鞄の中に仕舞い、ここで一度技を中断する。すると冷えていた気温が一気に上がり、同時にちらついていた雪も止む。氷の守りが無くなるけれど、このまま防戦一方では攻勢に移れなくなるかもしれない。だから体勢を起こしながら口元にエネルギーを溜め、振り向きざまに光線ほ放出し一掃した。
 「この状況ではやむを得ないですよ。アシストパワー! 」
 「剣の舞…からのアシストパワーっ! 」
 「神通力! 」
 「んならこの数の暴力にどう立ち向かゃぁええん? シャドーボール! 」
 「シャドーボール! 何体かは倒せているみたいですけ…」
 私が戦い方を変えた事に便乗してくれたらしく、真っ先にコット君が攻撃の手を強めてくれる。私達に弾かれて真上に退避したレンガ群に向けて、その中間ぐらいから薄紫色の球体を六発連続で発射してくれる。ここまでの間にかなり強化することが出来ているらしく、彼は二ヶ所から同時に敵を撃ち落としてくれる。負けじとグレイシアの彼女も同じ技を発動させ、形態は違うけれど五個同時に撥ねのけてくれる。私も彼らに続き、何個かに膨大な念波を送…。
 「フッ…倒サレテハ困ルナ」
 「――っぁ! 」
 「えっ…見切りぃっ…! 」
 「コット君! 秘密の力! リアン君を頼んだわ! 」
 「はいですっ! アイアンテール! 」
 「チッ…所詮下等愚民ハコノ程度カ…」
 えっ、今度は何? 黒レンガは三分の一ぐらいは倒せたけれど、そのことに集中しすぎて私達は反応が遅れてしまう。いつからいたのか分からないけれど、丁度この空間の入り口辺りから、何かが凄い勢いで飛んでくる。私もすぐには気づけなかったけれど、それは偶然、目覚めるパワーを発動させようとしているサンダースの元へ…。間一髪回避技は発動させれていたけれど、タイミング…、そもそも飛んできた何かが大きすぎて派手に弾き飛ばされてしまっていた。
 私は慌てて助けに向かおうとしたけれど、何しろこの“ビースト”の数…。三分の二にまで減ってきているとは言え、まだまだ六十個以上は残っている。かろうじて九本の尻尾で払いのけながら進めてはいるけれど、思うように進ませてくれなさそう…。おまけにこの数の相手を、別々で相手せざるを得なくなってしまう。
 「コット君! 」
 「直撃は避けれたので…、何とか…、大丈夫です…」
 「イトロシウス様、この数を捕らえようにも…」
 「構ワン、手駒ハイクラデモアル。…ヤレ」
 「…っ! 神通力! うっ、うそ…」
 それなら安心だけれど…、これって…。何とかレンガの雨を抜け、私はコット君の元にたどり着く事が出来た。ぱっと見目立った外傷はなさそうだけれど、左の脇腹を庇って良そうな雰囲気はある。でも何とか無事だったみたいだから、私はホッと一安心する。…けれど安心したのもつかの間、私の背を狙って飛んできた物…、いえ、モノに驚いてしまった。何故なら…。
 「なっ…、何で…! 」
 「外シタカ…」
 「嘘よね? 何でマルマインが…! 」
 飛んできたのは物ではなく、一人のマルマインだったから…。おまけに驚いたのはそれだけでなく、マルマインは赤い鎖みたいな何かで繋がれている…。その鎖を目で辿っていくと、機嫌悪そうに舌打ちをするドサイドン。話し方が変な気がするけれど、右手で赤い鎖を握り、力任せに引き戻す。それに引かれて、繋がれているマルマインが声的に彼の手元? へと戻っていった。
 「原住民ノ分際ニ語ル道理ナド無イ」
 「あっ、あれってまさか…、“陽月の穢…”」
 「――っ? 」
 「キュリアさん! 」
 「こっ、コットく…」
 「…見切り…っ! 」
 この感じだとコット君も気づいたと思うけれど、あのどサイドンにオレンジ色のオーラがまとわりついているのが見える。リアン君も“穢れ”の状態、って言ってたけれど、彼のよりもかなり色が濃い気がする。オレンジというよりも朱色といった方が正しいぐらいで、技を使って無くても消える様子がない。その彼の様子を伺っていたけれど、何の前触れもなく急に動き始める。一切の動きのムダが無かったから、一番近くにいるのに反応が遅れてしまう。ドサイドンが投げるマルマインに、私は当てられそうになってしまった。
 咄嗟にわたしもは跳び下がろうとしたけれど、六メートルのこの距離では間に合いそうにない。そう思ったときには既に、私は力を入れた前足を前の方に押し込んでしまっていた。これはやられた、私はこの瞬間感じてしまったけれど、真右から黄色い何かに突き飛ばされる。すぐにコット君だって分かったけれど、これだと守るべき彼に守られる事になる…。そう頭突きで飛ばされながら思ったのもつかの間、彼は咄嗟に体を反時計回りに捻り、丁度良いタイミングで飛んできたマルマインを足場にして回避していた。
 「ガキガ…避術ヲ使ウカ。…面白イ! ナラバ俺ガソノ狐諸共…」
 「…ケベッカ! 」
 「ええ! クアラそっちは任せたわ! 神速! 」




  つづく

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