ななのご 擬態

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 奥地の“壱白の裂洞”に立ち入った私達は、交戦しながらも何とか突き進む。
 けれど壁面の脆さに苦戦を強いられてしまい、私達は思うように進めていなかった。
 おまけに通路が崩落して塞がれてしまい、私達四人は一時停滞を余儀なくされてしまう。
 外部からフィリアさんに経路を導き出してもらったけれど、まだまだ突破には時間がかかりそうだった。
 [Side Chatler]




 「…そやから、技を発動する時は十分注意してな」
 「うん! 毒タイプの補正がかかるなんて初めてだけど…」
 野生にもう一つ属性が付いた、って思えば何とかなるかもしれないね。
 「はい」
 「んじゃあ、野生が少ない今のうちに潜ろっか」
 「そうだね! ええっと…、光の玉はどのぐらい潜ったら使ったらいい? 」
 「そうやな…、二十メートルぐらいでええんとちゃうかな? 」
 『…やけどそれにしては、何か野生の数が少なすぎるやんな…』
 「二十メートルですか。これだけ視界が紫になってるので…、納得ですね」
 『…だけど何だろう、何故か凄く嫌な予感がする…。…考えすぎか…』
 「そうやろ? 」
 『それに…、何でやろう? “非常事態宣言”が出とるで潜入する物好きなんてウチらぐらいしかおらへんのに、戦闘の痕跡が残っとる…。色々考えると“玖紫の海溝”なんてウチらぐらいしか条件満たさへんはずやのに…。…それにこの跡は電気タイプ…? ハイパーランク以上で、電気タイプの技使えてしょっちゅう水中に潜入するチームなんて、おったっけ…? 氷は分からなくもないけど…』




――――




 [Side Kyulia]




 「もしかすると…、ここが一番奥かもしれないですね」
 「そのようね」
 ダンジョンの空気も薄まってきてるから…、間違いないわね。あれからフィリアさんの案内で進んだ私達は、苦戦を強いられながらも何とか突破する。吹雪と熱風を使えたらもう少し早かったと思うけれど、アーシアちゃんとフィリアさんのお陰で前半よりはスムーズに進めていたと思う。…途中リアンさんが倒れそうになってひやりとした場面もあって、内心いつも以上に疲れたって言う事もあるけれど…。それでダンジョンを突破した今は、辺りを警戒しながらもホッと一息ついていた。
 「えと…、ここは“白坎はっかんの祭壇”の祭壇、と言うみたいです」
 「祭壇? …あぁ、向こうに見えるアレの事やね? 」
 「多分そうかと…」
 「祭壇って事は、何かを祀るっているのかもしれないですね」
 何であんなものがあるのか分からないけれど…、本当に何なのかしら? “参碧の氷原”にもあったような気がするけれど…。ここまでの道のりを案内してくれたアーシアちゃんは、右の前足に着けている通信機に視線を落としながらぽつりと呟く。フィリアさんとの通話は一度中断しているみたいだけれど、代わりに別の機能を立ち上げているんだと思う。何故か後ろ足だけで立ってるから視線が私よりも視線が上だから、横目で端末の画面を見る事が出来る。どういう機能なのかは私には分からないけれど、多分今いるエリアのマップが映し出されていそうな感じだった。
 それからリアン君がさっき言った通り、今私達がいるこのフロアには何かを祀った祠のようなものがある。真っ白な地面に黒や灰色のレンガが埋め込まれていて、いかにも祭壇っていう雰囲気を私達に与えてくれている。祠自体はここの石材で彫られているらしく、所々欠けているとはいえ一切濁りのない白で、凹みの部分の影が一層際立って見える。けれど趣向の凝らした装飾は一切無く、簡易的に建てられたもの…、地面とは違って簡素な印象がある。グレイシアの姿の彼女が言うには“白坎の祭壇”って言うみたいだけれど、祭壇というよりは石碑、私は率直にそう感じる。
 それからもう一つ、この場所には…。
 「どうなんやろう? もしかして神とか…、伝説の種族が祀られとるんとちゃうかな? 神の怒りに触れた、って言われとるぐらいやし」
 「流石にそこまでは分からな…、ん? あれはもしかして…」
 間違いないわね。流石に三回目だから、見間違えるはずはないわね。辺りを見渡していた私はふと、祭壇の真上に渦巻く何かを捉える。今回も同じような色で見にくいけれど、アレを私は今まで二回見た事がある。一回目は“参碧の氷原”で、二回目が“陸白の山麓”…。空中にぽっかりと穴が空いたように、白い渦がぼんやりと漂っている…。前二回はその名前は分からなかったけれど、色々と知った今ならハッキリと分かる。
 「“空現の穴”…? 」
 「くうげんの…、って、あれがそうなんですか? 」
 「私も初めて見るのですけど…、そうなのです? 」
 「ええ」
 今回目的になっている“ビースト”、それがいる場所に必ず出現するらしい、空間に空いた穴…。“ビースト”を倒せば消滅させられる、異世界に繋がっている、ぐらいしか聞いてないけれど、兎に角近づいてはいけないという雰囲気は他の二ヶ所と変わらない。私は現物を見た事があるから分かったけれど、この感じだとアーシアちゃんとリアン君、それからコット君も初めて見るんだと思う。コット君が知らないのは意外だったけれど、私は今まで他の二ヶ所で見てきた事を彼らに話し始めた。
 「その時は分からなかったけれど、あの渦があった二ヶ所ともに“ビースト”がいたわ。両方とも違う個体だったから今回も別の見た目をしていると思うけれど…」
 それにしては…。
 「…何もいないですね」
 二ヶ所にいたはずの“ビースト”が、何故かここにはいない。人影も私達四人しかなく、辺りはしーんと静まりかえっている…。確か“壱白の裂洞”は立ち入りが制限されているはずだから、私達より早く来た誰かが討伐したって言う事は無いと思う。…そもそも“ビースト”の事はアクトアのギルドにいる一部…、ハクさん達とか悠久の風の参人、過去の世界から来てる子達ぐらいしか知らないはずだけれど…。
 「ですね。バトルの痕跡がなかったので私達しか潜入していないはずなのですけど…。…えとフィリアさん、今大丈夫です? 」
 『ええ、繋ぎっぱなしだったからずっと聞いていたわ』
 痕跡が解る辺りは、流石と言ったところね。
 「でしたら…、今いるフロアのスキャンをしてもらえます? 」
 『いいけど…、アーシアちゃんでも出来るはずよね? 』
 「そうなのですけど、充電が残り少なくなっていまして…」
 『そういう事なら…、分かったわ。なら三分ぐらい待ってて頂戴』
 「はい。よろしくお願いしますですっ」
 アーシアちゃんも似たような事を考えていたらしく、起動しっぱなしの端末に話しかける。立ち姿が綺麗って思ったのはここだけの話だけれど、彼女は万が一の時のためにづっと通話の状態を続けていてくれたのかもしれない。だからすぐにフィリアさんの声が返ってきて、二つ返事でアーシアちゃんの頼みを聞いてくれている。画面の向こうで何をしているのかは解らないけれど、画面越しに何かの操作をするような音がかすかに聞こえてきたような気がした。
 「…アーシアさん、見る度に思うんですけど、その機械って凄く便利ですね」
 「そですよね。…ですけど“ラスか諸島”では全部の機能は使えないのです」
 「そうなんですか? 」
 「商会の方でチラッと聞いた事あるんやけど、ダンジョンだけやなくて暮らしに役立つ機能とかも沢山あるみたいやね」
 …よく分からないけれど、そういうものなのかしら?
 「そうなのね? 」
 「みたいやな。僕よりナぜ…」
 『うそ…、アーシアちゃん! 』
 「はっはい! 何です? 」
 『今すぐそこから離れて! 』
 「離れるって…、フィリアさん? 私達以外誰もいないけれど…」
 強いて言うなら“空現の穴”があるぐらいだから…、離れなくても良いような気がするけれど…。コット君の疑問にアーシアちゃんが答えてくれていたけれど、それは急に聞こえてきたフィリアさんの声に遮られてしまう。何か尋常じゃなく慌てたような感じだけれど、警戒しているとは言え急を要する危険は今のところは無いような気がする。…あるとすれば祠の上に浮いている“空現の穴”だけれど、私達四人は飛行タイプでもドラゴンタイプでもないから巻き込まれる事はまず無いと思う。だからモニターは見てないけれど、声は拾ってくれるはずだから画面越しのフィリアさんにこう問いか…。
 『いいえ、いるなんてレベルじゃないわ! アーシアちゃんを中心スキャンしたけれど、対象が多すぎてエラー出て…』
 「多すぎてって…、どういうことなん? ここには僕らしかおらへんのやけど? 」
 『そんなはずはないわ! 認識出来ただけでも五十は軽く超えて…』
 「そっ、そんなにですか? “空現の穴”はちゃんとあるんですけど、それ以外は何もないですよ! 」
 五十を超えてるって…、そんな事あり得ないわ! 問いかけている途中で返ってきた返事は、私…、私達の想像を遙かに超えるもの…。多分機械か機能が壊れているんだと思うけれど、そんな数のモノは見渡してもどこにもない。エーフィとサンダースの彼らも同じ事を問いただしているから、私の思い込みじゃない事は確かだと思う。だけど画面越しのグレイシアも負けておらず、確かな確信とともに反駁しているような感じがある。にわかには信じられないから、わた…。
 『だっだったら…、そこに白以外の物があるはずよね! 』
 「白以外のもの…て…」
 白以外…? 白以外といえば、地面の黒いレンガぐらいしか…っ?
 「まさか…」
 「これって…、もしかして…」
 「嘘…、よね…? 」
 五十以上の白以外の物って…、それしか考えられないわね? 叫び声にも似たフィリアさんの主張で、私…、多分他の三人も、その言葉の意味にようやく気づく。この空間には確かに、名前にもなっている白色以外の物が一色だけ、確かに存在する。私にはあまりにも違和感がなく普通すぎて気づけなかったけれど、言われてみれば黒いソレは五十を遙かに上回っている…。このことに気づいた私は、氷タイプだけれどそれ以上に背筋が冷えるのを感じてき…。
 「黒いレンガが…て事になりますよね ?」
 「えっ、ええ…」
 「って事は…、あんな数を相手せなあかんって…」
 「…ですけど、全部倒さないといけないですよね? …倒さないと…、いけないんです! 」
 「コット君? 」
 一体だけでもあんなに苦戦したのに…、こんなに沢山倒さないといけないってことになるわよね? 目の前に突きつけられた事実を知ってしまい、私は事の果てしなさに呆然としてしまう。ただでさえ異常な強さの“ビースト”なのに、それと大量に、それも同時に相手しなければならないと思うと気が滅入りそうになる。今まで数々の困難をくぐり抜けてきたつもりだけれど、流石に今回はムリ、私は率直にそう感じてしまう。
 「アーシアさん、キュリアさん、準備はできてますか? 」
 「はいですっ! 私はいつでも戦えます! 」
 「えっ、ええ…」
 けれどこの感じだと、知らないとはいえコット君とアーシアちゃんは戦う気満々で意気込んでいる。つい空返事で頷いてしまったけれど、戦うよりも逃げた方が良い、私はこういう考え…。
 「僕もいけるで! サポートにまわるつもりやけど、何かあったら言ってな! 」
 「うん! 」
 「はいっ! 」
 「あっ、待っ…」
 私の心配とは裏腹に、イーブイ系の三人は臨戦態勢をとる。エーフィの彼は五歩ぐらい後ろに下がり、逆にグレイシアは三歩前に出る…。
 「じゃあ僕に合わせてください! 」
 「特殊技使えばええんやな? わかったで! 」
 「そうです! …行きますよ! 三、二、一…」
 私の制止が聞こえてないらしく、三人はそれぞれ口元にエネルギーを集中させていく。そして…
 「目覚めるパワー! 」
 「シャドーボールっ! 」
 「シャドーボール! 」
 私の制止も虚しく、水色、黒、黒、三つの球体が、地面に埋まった黒いレンガに向けて放たれてしまった。




  つづく

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想