2-1 行き違い

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

[Side Ratwel]



 「…何かすまんね、俺の事まで」
 「ううん、気にしないでください。僕達も昨日の事を報告しないといけないし、こうして知り合ったのも何かの縁ですからね」
 それに、ハイドさんには今は休んでもらいたいですからね。昨日は夜遅くなってたから、僕達は診療所の片隅で休ませてもらう事になった。ベリーとソーフは十分に休めたみたいだけど、僕はいまいち…。大手術を受けたハイドさんも同じ様な感じだったらしく、気を紛らわしてもらうためにも、眠くなるまで語り通していた。そういう事もあって、年上のハイドさんとは少し距離が近くなったと思う。ハク、っていう共通の知り合いがいるから、話の内容の半分ぐらいは彼女の事だったけど…。
 それで夜が明けて、僕達は今日の活動を開始した。一回トレジャータウンに帰ったとはいえ結構な期間救助活動をしていたから、リオナさんの勧めで交代してもらう事になった。出る頃にはハイドさんの患部の状態も安定してきていたから、大きな病院に移る、っていう理由込みで一緒にニアレビレッジを後にした。種族上二本ある尻尾が一本になって、右腕も肘から先を切断したからまだ慣れないみたいだけど、痛みは引いているみたいだから見た感じは大丈夫そう。…それで、港があるパラムタウンで、僕達のチームは一度別行動をとることにした。
 まず初めに、ソーフには風の大陸に残ってもらう。救助隊連盟の本部がパラムタウンにあるから、ハイドさんのチームの事を代わりにしてもらうつもり。本当ならリーダーのハイドさん自身がする事だけど、今は大怪我をした直後だから体に負担がかかる。必要な事は全部メモして持っているから、今頃ソーフは本部の方で書類を書いていると思う。
 次にベリーは、一度草の大陸に戻ってもらう。ベリーには今回の災害と、丘の頂上で対峙したあの殺人生物についての報告。前者の方は、ニアレビレッジの被害状況と、捌白の丘陵の状態について。封鎖まではしなくてもいいと思うけど、あの感じなら一般人とシルバーランク以下のチームは立ち入らない方が良いかもしれない。報告の仕方はベリーに任せてあるけど、多分似たような感じで伝えてくれると思う。それと後者に関しては、僕もそのつもりだけど情報収集も兼ねている。今もポケモンになる前の記憶は無いけど、それでも殆どの種族は知っているつもりだった。記憶が無い僕、それから村を開いて数年しか経ってないフロールビレッジ出身のソーフならまだしも、ベリーまで分からない、って言ってた。だからダメ元で、ウォルタ君かフラットさんにその事を訊いてもらうつもり。…ああ見えてベリー、結構絵が上手だからね。
 最後に僕は、ハイドさんと一緒に水の大陸に向かう。インフラも整っていて大きな病院もあるから、そこで詳しい検査をしてもらうために…。リリーさんに紹介状を書いてもらっているから、その事に関しては多分大丈夫だと思う。メインの施術はリリーさんにしてもらっているから、入院する事はないと思う。それと合わせて、同じ街にギルドを建てたハク達への報告。その道中で調査団の方にも寄るつもりでいるから、そこへの報告も兼ねて…。そして一番のメインが、ハイドさんのリハビリにつき合うため。アクトアタウンならいつでも泳げるし、ハクとは古い知り合いみたいだから、尚更。それにハク達のところには水中演武場があるから、そこを借りるつもり。ハイドさんの種族は二本の尻尾を使って泳ぐから、リハビリには結構な時間がかかるかもしれない。…けどそこなら万が一の事があっても対応できるから、そこを選んだって感じだね。
 「それにハクとシリウスなら、何とかしてくれるはずだからね」
 「俺もハク様には昔お世話になりましたからね、ハク様の良さは分かってるつもりだよ」
 参碧の氷原を調査するつもり、って一昨日言ってたけど、流石にそんなに早く行ってるなんて考えられないからね。話を元に戻すと、行きも頼んだライルさんに乗せてもらっているから、草の大陸と水の大陸の中間ぐらいの位置でこう話始める。ついハイドさんの右腕に目がいってしまうけど、ひとまず僕は和気藹々と話して暇をつぶす。ハイドさんは何年も会ってないみたいだけど、それでもハイドさんの方が時期は長い。だから懐かしそうに、彼女の事を語っていた。
 「ハクさん達は面倒見がいいですからね。僕も何回かお会いしたことがありますけど、“星の停止事件”の時、わざわざ風の大陸から駆けつけてくださるぐらいですからね」
 「ですよね。その時は協力者、っていうぐらいしか思ってなかったけど、ハクってそういうところがありますからね」
 「うんうん。んだけど、まさかラツェルさん達が解決したっていう“星の停止事件”にも関わってたとはね」
 あの時はシルク達とずっといる、っていう印象の方が強かったし、雲の上の存在だって思ってたからなぁー。ここで乗せてくれているラプラスの彼も会話に参加し、親友の事で話が盛り上がり始める。あの事件は僕達だけじゃなくてみんなのお蔭で解決できたから、悠久の風だけが独り歩きしてるのは気が引けるけど…。だから当然別の大陸、それも救助隊員だったハイドさんが知っているはずが無いから、ビックリしたような…、けど納得したように、ハイドさんは大きく頷いていた。
 「同じ名前だけど別人だ、って思ってたから…」
 そういえば訊いた事無いけど、ハクって結構謎な事、多いからなぁ…。僕もハクの事で驚いたばかりだから、当然ハイドさんも同じ様な感じらしい。あははは…、って意味ありげな笑いを、うっすらとあげていた。


――――


 [Side Ratwel]



 「ここがハク様のギルド? 」
 「うん」
 ここに来たのは三週間ぐらい前だからなぁー。アクトアタウンにも港はあるけど、僕はあえてライルさんにはワイワイタウンに寄ってもらった。ハイドさんには少し待ってもらう事になったけど、僕は調査団の拠点がある天文台に寄っていた。ニアレビレッジの災害の事を伝えに行ったんだけど、そこで思いがけないことを知る事が出来た。ここの天文台に、ウォルタ君が一昨日来ていたらしい。そこの隊員のクチートさんが言うには、その日に砂の大陸に向かったらしい。その後の事はクチートさんも聴いてないみたいだけど、弟子と二人で漆赤の砂丘の調査をしに行ったんだとか。もう何か月も会えてないから弟子がいる事にはビックリしたけど、砂の大陸なら、ベリーはウォルタ君とは会えない事になる。となるとベリーは、今頃情報屋で副親方のフラットさんと会ってると思う。
 それで最優先の用事が終わったから、僕達はそのままの足でアクトアタウンに向かった。何故かいつも以上に賑やかな気がしたけど、とりあえず僕はハク達のギルドへ…。救助隊連盟の方のランク制度はどうなのか分からないけど、ハイドさんのチームはプラチナランクだったみたいだから、もし探検隊なら、他の諸島だから落とし物とか探し物の依頼ぐらいしか認められていない。だから当然、このギルドに来るのは初めてらしい。水車が特徴的な建屋で、この一年ぐらいは割と、風情があるって水の大陸中では知られるようになったらしい。だから僕はその建物の入り口前で立ち止まり、見上げているハイドさんに対してこくりと頷いた。
 「僕達もたまに手伝ったり留守番を頼まれるんだけど、多分ハイドさんなら気に入ると思いますよ」
 「俺が、ですか? 」
 「うん。水中に住むような種族も所属してるから、水タイプの種族は特に過ごしやすい造りになってるんですよ。…フロリアさん、ラツェルです! 」
 住みたい街ランキングの上位常連、ってだけはあるね。僕はチラッと最近の事を交えながら、このギルドの特徴を教えてあげる。街中の水路がここにも通っているから、特に水回りの設備が充実している。水車で二階にも水をくみ上げているから、居室にも水路が通っている。
 そんな感じで話しながら、僕達はギルドのロビーへと入る。僕達が所属していたギルドとは違って一階は一般開放しているから、ハク達のギルドには足型検査は無い。その代わりに二階は鍵が必要だから、プライベート空間とかセキュリティーはしっかりしている方だと思う。だから僕はギルドのロビーに入ってから、すぐに大声でその人の名前を呼ぶ。この時間帯ならハクとシリウス、それと直属の弟子のリル君とフレイ君もいないはずだから、読んだのは会計士の彼女…。
 「あら、ラテ君一人かぃ? 」
 「はい。ハクとシリウスは依頼か何か? 」
 「いいえ、調査、ていう感じね」
 するとこのフロアにいたらしく、奥の小部屋からアマージョの彼女、ギルド会計士のフロリアさんが出てきてくれる。いつもは三人揃ってきているから、フロリアさんはちょっとだけ意外そうな顔をしていた。けどすぐにいつもの表情に戻して、僕の質問に答えてくれた。
 「調査? 」
 「ええ。シリウスから聴いていると思うけど、チーム明星と五人で三碧の氷原に行ってるわ」
 「えっ、もう行ってるんですか? 」
 「参碧の氷原…、確か立ち入り禁止の場所がある、て聴いた事があるような気がしますけど…」
 「ラテ君? この人は? 右腕、凄い事になってるけど…」
 まさかとは思ったけど、今日調査しにいってるって、早すぎない? 調査っていうとウォルタ君の事が浮かぶけど、一昨日会った時にシリウスはその事は言って無かった。一応別件は聴いていたけど、その日にハクが依頼したばかりだ、って僕達は聴いていた。だから僕は思わず頓狂な声をあげてしまい、隣でロビーの様子を見渡しているを驚きで跳びあがらせてしまった。
 だけど逆にそれがハイドさんの耳に入るきっかけになったらしく、彼はそのダンジョンについて知っている事を呟き始める。それでフロリアさんはハイドさんに気付いたらしく、不思議そうに僕に訊ねてきた。
 「あぁはい。最近尻尾と一緒に失いまいて…」
 「フロリアさんもシリウスから聴いてるかもしれないけど、ニアレビレッジでの活動中に知り合ってね、救助隊員のハイドさん」
 「“元”、ですけどね。救助活動中に尻尾は斬り落とされましてね…、右腕は傷口から細菌に感染して…。…それよりも、ここはハクリューのハク、という方が親方のギルドなんですよね? 」
 「えっ、ええ…」
 フロリアさんは切断したハイドさんの右腕に視線を落としていたから、それに気づいた彼は、少し躊躇いながらも語り始める。ハイドさんにここまでの大怪我を負わせた…、彼のパートナーの命をも奪ったあの生き物の事は全然分からないけど、ハイドさんの中では何となくだけど心の整理は出来ているのかもしれない。絞り出すように話していたから、フロリアさんはその事にことばを失ってしまっていた。ハイドさんの一本しかない尻尾にも気づいたみたいだから、尚更だと思う。
 …だけどハイドさん本人にとっては、失った右腕と左側の尻尾は大して重要な事じゃないらしい。適当に自分の話を切り上げて、古い知り合いらしいハクの事を問いただし始める。僕達は昨日聴いたから知ってるけど、彼とは初対面のフロリアさんにとってはそうじゃない。急に話題が変わった、っていうのもあるかもしれないけど、この後彼から話される事に、フロリアさんは唖然としてしまっていた。



  つづく……

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