79話 指針

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 俺のサイドは残り四枚。バトル場には水エネルギーが二枚ついたボーマンダ40/140。ベンチにはギャラドス130/130、炎エネルギーが二枚ついたバトル場にいるのとは違うボーマンダ140/140、ヤジロン50/50。
 向かいにいる長岡恭介のサイドは五枚。バトル場にエレキブルFB LV.X120/120、ベンチにヤジロン50/50、雷エネルギーが二つついたピカチュウ60/60、雷エネルギーが三つついているピカチュウ60/60。スタジアムは長岡が発動させたナギサシティジム。
「俺のターン!」
 引いたカードはネンドール。そして他の手札はコイキングとボーマンダLV.X。どのカードも俺の目指す構想に必要なカード。コスモパワーで戻しにくい。
 いくら相手の場にエネルギーが溜まっているといえいるポケモンは皆小物。ここは多少リスキーな立ち回りでも問題ないだろう。
「ベンチにコイキング(30/30)を出し、手札からヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる」
 ネンドールのポケパワー、コスモパワーは手札を一枚か二枚デッキの底に戻して手札が六枚になるまでドローするもの。今左手で持っている唯一の手札、ボーマンダLV.Xは俺にとっての文字通り「キー」となるカード。俺は長岡のように運が良くないし、それに長岡と戦うといつも(高校でたまに戦っている)運気が下がる。これをデッキに戻して自力で引くのは分の悪い賭け。
 カードゲームにおいて「確実」なことなどほとんどない。俺は常に「不安」と戦い続けなければならない。せめてボーマンダLV.Xが手札にあるという僅かな「確実」だけでも手にキープしておかねば。
「ベンチのボーマンダのポケパワーを発動。マウントアクセル!」
 ボーマンダ140/140が右足を持ち上げると、それを振り下ろして地ならしし、ズシンと辺りに響かせる。
「このポケパワーはデッキの一番上をめくり、それが基本エネルギーならボーマンダにつけ、それ以外の場合はトラッシュするポケパワーだ」
 ボーマンダの頭上に降ってきたカードはギャラドスのカード。これはポケモンのカードだからトラッシュしなければならない。
「む……。だったら攻撃だ。ボーマンダで直撃攻撃!」
 勢いをつけたボーマンダの突進がエレキブルFB LV.X120を襲う。直撃は相手の弱点、抵抗力、すべての効果を無視してダメージを与えるワザ。その威力は50。正面から直撃を受けたエレキブルFB LV.X70/120。大きい体が真上に飛ばされ、そのまま地に落ちる。
「よっしゃー! 俺のターンだ。ドロー! まずはベンチのヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる。そしてポケパワー、コスモパワーを使わせてもらうぜ! 手札を二枚戻し、五枚ドローだ」
 俺とは違って手札が潤う長岡。手札の枚数の差が歴然となった。手札の数だけ可能性、翔が良く言う言葉だがまったくもってそう思う。
 いきなり笑みが浮かぶ長岡。
「ふっ、まずはグッズカードのワープポイントを使う! 互いのバトル場のポケモンをベンチのポケモンと入れ替える!」
 ワープポイントだと? 長岡のベンチにはピカチュウ60/60二匹にネンドール80/80一匹。エネルギーがついていなくてワザでダメージを与えれないエレキブルFB LV.X70/120を入れ替えてピカチュウを出すつもりか?
 俺のベンチにはコイキング30/30、ネンドール80/80、ギャラドス130/130、ボーマンダ140/140。コイキングを出すのは愚の骨頂。ネンドールを出してもバトルは出来ない。ボーマンダは俺の切り札、ボーマンダLV.Xを最大限に活かすためには少しでもダメージを受けさせたくない。となるとギャラドスか……。たしかに雷タイプが弱点だがピカチュウ程度の攻撃。そしてギャラドスはエネルギーがなくても攻撃出来るワザ、リベンジテールがある。
「俺はギャラドスをバトル場に」
 バトル場のボーマンダ40/140とギャラドスが渦に呑まれると、互いに場所を入れ替えるように渦から出てくる。
「なら俺は雷エネルギーが二つついたピカチュウをバトル場に出すぜ」
 長岡の方も同様にポケモンの位置が入れ替わる。
「さらに雷エネルギーをピカチュウにつけ、ライチュウ(90/90)に進化させる!」
「進化か……」
 考えない訳ではなかったが、実際に進化されると幾分つらい。いや、そういえば前のターンにミズキの検索でライチュウを手に入れていたな……。ここまでの展開はあいつの予想通りということになるのか?
「そしてグッズカード、プレミアボール。デッキかトラッシュのLV.Xポケモンを一枚手札に加える。俺はトラッシュからライチュウLV.Xを手札に!」
「だが進化させたターンはレベルアップは出来ない」
「もちろん分かってるさ。だからこのグッズを使うんだ。レベルMAX!」
「レベルMAXだと……!」
 あのカードの効果は、コイントスをしてオモテの場合、自分のポケモン一匹をレベルアップさせるカード。進化させたターンはレベルアップ出来ないという制約を破ることが出来るカードだ。
「……オモテ! よし、レベルアップさせるぜ!」
 再びライチュウLV.X110/110が現れる。だがあの厄介なポケボディー、連鎖雷を行うには手札の雷エネルギー二枚をトラッシュさせるワザ、ボルテージシュートを使う必要がある。それに対して長岡の手札はたった一枚。なのでボルテージシュートは使う事が出来ない。ネンドールのポケパワーを使ったあいつに手札補給の機会はない。
「じゃあ手札を増やすぜ。サポーター発動。バクのトレーニングだ!」
「それで勝負に出る気か!」
「デッキの一番上からカードを二枚ドロー。そしてこのターン与えるワザのダメージが10プラスされる!」
 たった二枚しか引かないのにそれで雷エネルギーを二枚引くのは至難の業だ。流石にそこまで運よく行くはずがない。……と信じたいが。
「手札の雷エネルギーを二枚トラッシュし、ライチュウLV.Xで攻撃。ボルテージシュート!」
「っ!」
 宣言と同時に紫電が俺の場を襲う。ベンチにいるネンドールに向けて発射された紫電はネンドールに触れると爆風と砂煙のエフェクトを巻き起こす。
「うぐあっ!」
「ベンチのポケモンに攻撃するときは抵抗力や弱点を計算しないぜ。ボルテージシュートの威力は80。ただ、バクのトレーニングで与えるダメージがプラス10される場合は相手のバトルポケモンに攻撃した場合のみ! だからネンドールには80ダメージだ」
 最大HPが80のネンドールには一撃だ……。
「ネンドールが倒れたことによってサイドを一枚引く。そしてライチュウLV.Xのポケボディー、連鎖雷はこのポケモンがレベルアップした番にボルテージシュートを使ったなら、もう一度攻撃のチャンスを得るもの。よって追撃だ! 炸裂玉を喰らえッ!」
 巨大な電気の集まりの球体がバトル場にいるギャラドスに襲いかかる。早いボルテージシュートに対し緩やかな炸裂玉だが、ギャラドスに触れた途端爆弾でも落ちたかのような轟音が鳴り響く。
 ギャラドスのHPは130あった。そして炸裂玉の威力は100。しかしギャラドスの弱点は雷+30の上、バクのトレーニングの+10効果もあるので受けるダメージは100+30+10=140ダメージ。ギャラドスのHPを上回ってしまった。
「くっ、ここまで想定内かっ」
「いいや、多少の偶然もあるぜ。ボルテージシュートを使えたこととかな。さてと。炸裂玉は自分の場のエネルギーを三個トラッシュしなければならない。俺はピカチュウについている雷エネルギーを三個トラッシュ」
 このターンだけで長岡がトラッシュしたエネルギーは五枚。そして倒したポケモンは二体。痛手にも程がある。
「俺はボーマンダ(40/140)をバトル場に出す」
「サイドを一枚引くぜ。これで逆転だ」
 そう、俺のサイドは四枚だが長岡のサイドは三枚。あっという間に逆転されてしまったのだ。
 やはり格段と強くなっている。元々の運に加え、立ち回りなどといったプレイングもいい。自分の運を過信しすぎる点もあるが、ある程度のリカバリは想定しているようだ。
 とはいえ簡単に引き下がるわけにはいかない!
「俺はまだまだ上を目指す! 行くぞっ! ドロー!」
 引いたカードは水エネルギー。一番欲しいカードではない……。しかも先ほどドローエンジンのネンドールを気絶させられたために俺はデッキからカードを新たに供給することが一切できない。
「くっ、水エネルギーをベンチのボーマンダにつけて、こいつのポケパワーを使う。マウントアクセル!」
 マウントアクセルの効果でデッキの一番上を確認する。しかし一番上はエネルギーではなくポケモンのエムリット。効果によってトラッシュしなくてはならない。
「ついてないなー」
「俺はお前と違って運は最悪だからな。しかたあるまい。ボーマンダで直撃攻撃」
 ボーマンダの突進する一撃でライチュウLV.Xにダメージを与えていく。HPは60/110まで削ったがまだまだ残っている。
「今度は俺のターン。まずはベンチのピカチュウのポケパワー、エレリサイクル。その効果でトラッシュにある雷エネルギーを手札に加えるぜ。そしてこの雷エネルギーをベンチのエレキブルFB LV.Xにつける」
 エネルギーをつけるということはワザを使わせるという事。エレキブルFB LV.Xはベンチにいてポケパワーを使う置物というわけではないのか。
「手札からサポーターのミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキから好きなポケモンを一枚加える。俺はライチュウを加える。そしてネンドールのポケパワーのコスモパワーを発動。手札を一枚戻し、デッキから五枚ドローだ」
 俺のデッキは残り二十六枚だが長岡のデッキは僅か十四枚。ドローが自由に出来ない俺との差がここにも顕れる。
「手札を二枚トラッシュし、ベンチのコイキングにボルテージシュートだ!」
 再び鋭い紫電が俺のベンチを抉る。80ダメージを与えるワザに対しコイキングのHPはたったの30。
 二つ前の俺のターンでコイキングをベンチに出したのは失敗だったか。思惑ではこいつをギャラドスにし、リベンジテールでエネルギーなしの90ダメージを与え続けるはずだったが……! しかしギャラドスを引けなければなんの意味もなかった。
 そもそもコイキングを出した番、まだライチュウLV.Xはピカチュウだった。進化してもライチュウはベンチのポケモンを攻撃出来ないと油断していた。まさかベンチにも攻撃出来るライチュウLV.Xがあっさりサルベージされるとはな。
「サイドを引いてターンエンド」
 連鎖雷はレベルアップしたターンにしか発揮されない。二撃目はないものの、それでも俺と長岡のサイドの差は二枚になった。
「……。俺のターン」
 くっ。今引いたカードがギャラドス。しかしコイキングがいなくなってはもうどうしようもない。俺のトラッシュには四枚のコイキング。つまりデッキにもサイドにももうコイキングはいない。ギャラドスが手札で腐ってしまった。
「ベンチのボーマンダでポケパワーだ。マウントアクセル!」
 ここでもデッキの一番上のカードはクロバットG。このカードのポケパワー、フラッシュバイツはこのポケモンを手札からベンチに出した時、相手のポケモンに10ダメージ与えるポケパワー。
 もしもギャラドスでなくこのカードを引いていた場合、ベンチにクロバットGを出してライチュウLV.Xに10ダメージ与え、ボーマンダの直撃で50ダメージ与えれば気絶させることが出来たものを。とことんついていない。
「仕方ない。ボーマンダで直撃攻撃!」
 この一撃でまた50ダメージを与え、ライチュウLV.XのHPは10/110。そう、クロバットGさえ引けていれば!
「一気に畳み掛けるぜ。俺のターン! ベンチのピカチュウのエレリサイクルを発動し、トラッシュの雷エネルギーを一枚手札に戻す。そしてベンチのエレキブルFB LV.Xに雷エネルギーをつける」
 長岡のトラッシュにある雷エネルギーはあと五枚。
「コスモパワーを使うぜ。手札を二枚デッキの底に戻して三枚ドロー! 続いてベンチのネンドールにポケモンの道具、ベンチシールドを使う。ベンチシールドがついたポケモンはベンチにいてもダメージを受けない! さあライチュウLV.Xで攻撃だ。分裂玉!」
 ライチュウLV.Xから炸裂玉と同じように大きな球体が発せられる。しかし、それが半分に分割されてそのうち一つは俺のボーマンダに。もう一方は長岡のベンチのエレキブルFB LV.Xに向かって飛んでいく。
「ぐうっ!」
 再び光と風の激しいエフェクトが。
「分裂玉の威力は50! それに対してボーマンダの残りHPは40だ。当然気絶になる!」
 ボーマンダのその大きな体が力を失くして倒れていく。
「そして分裂玉のもう一つの効果。このライチュウLV.Xについているエネルギーを一個、ベンチポケモンにつけかえる。俺はライチュウLV.Xの雷エネルギー一枚をベンチのエレキブルFB LV.Xにつけかえる!」
 これでエレキブルFB LV.Xについている雷エネルギーは三つ。エレキブルFB LV.Xはテキストに書かれている全てのワザを使えることになる。
「俺はベンチのボーマンダをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ!」
 長岡の残りのサイドはたった一枚。そして俺にはベンチポケモンがいない。あとはこいつを信じるだけだ。このボーマンダ一匹で、サイドを四枚取らなければ。
「たとえどんな状況に追い込まれたとしても、俺は勝負を諦めるわけにはいかない! 行くぞっ!」
 このターンのドローで引いたカードはクロツグの貢献。これも違う。欲しいカードではない。しかし俺にはボーマンダLV.Xがある。
「ポケパワー、マウントアクセルを発動する。デッキの一番上を確認し、それがエネルギーならボーマンダにつけ、そうでないならトラッシュする。……炎エネルギーだ!」
 ようやっと成功した。これでボーマンダについているエネルギーは四枚。
「サイドの差は三枚。そして俺は背水の陣。しかしそんなことを全てひっくりかえすことのできる、圧倒的力を見せてやる! 来いっ、ボーマンダLV.X!」
 バトル場のボーマンダがレベルアップし、ボーマンダLV.X160/160となる。レベルアップしたときに大きく雄たけびをあげるボーマンダLV.X。威圧感は十分。
「ボーマンダLV.Xがレベルアップしたとき、ポケパワーのダブルフォールを使用する。さあ攻撃だ、一撃決めてやる。ボーマンダLV.X、突き抜けろっ!」
 直撃攻撃と似たようにボーマンダLV.Xは相手のライチュウLV.X10/110に向けて突進していく。ライチュウLV.Xの体を軽々と跳ね飛ばすと、さらにベンチにいるエレキブルFB LV.X70/120の巨体も弾き飛ばした。
「二体攻撃かっ!」
「突き抜けるの通常の威力は50。そしてこの効果で相手のベンチポケモン一匹にも20ダメージを与える!」
 当然ライチュウLV.Xは気絶。エレキブルFB LV.X50/120も残りHPが半分を切った。
「俺はベンチのピカチュウをバトル場に出す。だがサイド一枚引いただけでもサイドの差は二枚に……」
「これこそが頂点を目指す者の力だ。ボーマンダLV.Xのポケパワーの効果が発動する。ダブルフォール!」
「このタイミングで!?」
「このポケモンがレベルアップしたターンにのみダブルフォールは使え、このターンにこのポケモンが使うワザのダメージで相手を気絶させたとき、気絶させたポケモン一匹につき一枚サイドをさらに引くことが出来る! 俺が倒したのはライチュウLV.X一匹。俺は通常引けるサイド一枚に加え、さらに一枚サイドを引く!」
「なんだとっ!?」
「サイドの差はあと一枚だ」
 そしてサイドを二枚引けたことで俺の手札も四枚、ようやく潤い始めた。ネンドールというドローエンジンがいなくなってからカードを大量に引けなかった俺にとっては貴重な手札だ。
「くそっ、俺だってまだまだ! ドロー! ピカチュウのポケパワー、エレリサイクルを発動。トラッシュの雷エネルギーを一枚手札に加える。バトル場のピカチュウをライチュウ(90/90)に進化させる。そして手札の雷エネルギーをベンチのエレキブルFB LV.Xにつけ、ネンドールのコスモパワーだ。手札を二枚戻し二枚ドロー。そしてエレキブルFB LV.Xのポケパワーを使うぜ。エネリサイクル!」
 エレキブルFB LV.Xはその電気コードのような尻尾を地面に突き刺す。
「トラッシュのエネルギーを三枚まで選び、自分のポケモンに好きなようにつける!」
 これでライチュウにエネルギーをつけて炸裂玉でもする気だろうか……?
「俺はトラッシュの雷エネルギー三枚を、全てエレキブルFB LV.Xにつける!」
「エレキブルFB LV.Xに!? そいつは既に雷エネルギーを四枚もつけているぞ! 七枚もつけて何になるんだ」
「慌てんなよ、お楽しみはこの後だ。エネリサイクルを使うと自分のターンは強制的に終了となる。ターンエンド!」
「どんな手を打たれようと、俺はするべきことをするのみ! 俺のターン。ボーマンダLV.Xでマウントアクセル!」
 デッキの上を確認するが、時空の歪み。はずれなのでトラッシュ。
「ならば手札からサポーターカードを発動。クロツグの貢献。トラッシュにある基本エネルギー、ポケモンを五枚まで戻す。俺は炎エネルギー二枚、水エネルギー二枚の四枚をデッキに戻しシャッフル!」
 エネルギーだけ戻したのはマウントアクセルの成功率上昇のためだ。
「この攻撃を受けろ! ボーマンダLV.Xでスチームブラスト!」
 ボーマンダが口を開くと、口のすぐ前に白い蒸気が集いだす。そしてそれが限界まで凝縮されると、ボーマンダLV.Xはそれを放つ!
 白い強力な一撃は熱気と湿気を保ちながら長岡のライチュウ90/90にヒット、そしてライチュウの姿が隠れてしまうほどの蒸気が発散する。
「うおっ!」
 エフェクトの激しさに長岡の素っ頓狂な声が聞こえる。
 蒸気が晴れると、そこには力なく伸びているライチュウ0/90の姿のみ。スチームブラストの威力は100。ライチュウ程度は一撃だ。
「スチームブラストの効果で、俺はボーマンダLV.Xについている炎エネルギーをトラッシュ」
「俺はエレキブルFB LV.Xをバトル場に出す!」
「サイドを一枚引く。これで残りサイドはどちらも一枚! しかもお前のエレキブルFB LV.Xの残りHPは半分なのに対し、俺のボーマンダLV.XのHPはマンタンだ。俺の方が優勢だな」
「まだ分からないぜ! 俺のターン。俺は手札のポケモンの道具、達人の帯をエレキブルFB LV.Xにつける!」
 エレキブルFB LV.X50/120の腰の部分に青い帯が巻かれる。この帯をつけたポケモンは、最大HPが20上がり、相手のバトルポケモンに与えるワザの威力も+20されるが、このカードをつけたポケモンが気絶したとき、相手はサイドをより一枚ドローすることができるデメリットを持つ。とはいえこのデメリット、残りサイド一枚の俺にとっては無意味。
 HPが上昇する効果でエレキブルFB LV.Xの残りHPは70/140。
「エレキブルFB LV.Xで攻撃。電気飛ばし!」
 体毛から弾ける電気をボーマンダLV.X160/160に向けて飛ばす。電撃がボーマンダLV.Xを襲い、そのHPを100/160まで削る。達人の帯をつけてこれなのだから元の威力は40か。
「電気飛ばしの効果で、このカードについている雷エネルギー一つを自分のベンチポケモンにつける。俺はエレキブルFB LV.Xの雷エネルギーをネンドールに一枚つけかえる」
「言っておきながら半分も削れていないな。俺が次のターンにエネルギーを引き当て、スチームブラストで100ダメージを与えれば俺の勝ちだ」
「へへ、悪いが俺はお前がエネルギーを引き当てないことを祈るだけだぜ」
 緊張。このドロー次第で俺は準決勝に進めるか否かが決まる。
「ドロー!」
 ドローしたカードを確認するのが怖い。たった一枚で運命が決まってしまうのだ。だが逃げるだけでは何もならない。引いたカードを確認すれば……。
「顔色が良くねーな」
 引いたカードはスタジアムカード、破れた時空。今は不必要なカード。
「だがもうワンチャンスある。ボーマンダLV.Xのポケパワーを発動! マウントアクセルだ!」
 ボーマンダLV.Xが右前足で地面を叩きつけ咆哮する。
「デッキの一番上のカードは……」
 このターンの最後の運否天賦。恐る恐る確認すると、……ボーマンダのカードがそこにあった。
「くそっ! だが攻撃は通す! 突き抜ける攻撃!」
 さっきのターンエレキブルFB LV.Xは60しかダメージを与えれなかった。次のターン、もう60ダメージを受けて俺のターンが回ってこればいずれにしろ倒すことが出来る!
 エレキブルFB LV.Xを弾き飛ばすボーマンダLV.Xだが、長岡の他のベンチポケモンはネンドールのみ。ネンドールのポケモンの道具、ベンチシールドの効果でベンチにいるネンドールにダメージを与えることが出来ない。
 ひとまずエレキブルFB LV.Xの残りHPは20/140。あとどんな一撃でも倒せる。
 そう半ば勝利を確信した時だった。長岡がニヤリと笑みを浮かべる。
「この勝負っ、もらったぁ! 俺のターン! エレキブルFB LV.Xで攻撃。パワフルスパークだ!」
 エレキブルFB LV.Xは右の拳と左の拳をガチンとぶつけると、体中から溢れんばかりの電気を生み出し、それを全て右腕に集中的に溜める。
「パワフルスパークは元の威力の30に加え、自分の場にあるエネルギーの数かける10ダメージ威力が上がるワザだ!」
 長岡の場には雷エネルギーが七つ。そして達人の帯の効果も加わり、パワフルスパークのダメージは30+10×7+20=120になる。ボーマンダLV.X100/160の残りHPを上回る……!
「いっけー!」
 駆けだしたエレキブルFB LV.Xは、電気を大量に溜めた右腕でボーマンダLV.Xの腹部を力いっぱい殴りつける。
 弾ける電気の中、ボーマンダLV.Xの苦しそうな悲鳴、そして減っていくHPバーは目に焼きついた。
「これでゲームセットだな」
 長岡が最後のサイドを引くと同時にゲームが終わる。全ての3Dが消えた。
 今年の俺の大会はこれで終わってしまった。ここから先への戦いに進むことはない。全国大会での市村アキラとの再会、そしてリベンジは叶わぬ夢となった……。
「……」
 首を上に向ける。もちろん天井しか映らなかった。目をつぶり、右拳に力を入れることでなんとか悔しさをやり過ごす。
 ああ、単純に悔しい。ここまで純粋に悔しい気持ちでいっぱいになったのは初めてだ。不運の連続もあるし、俺のプレイングミスもあった。そしてなにより単純に、長岡恭介は強かった。
「風見」
 長岡の声が聞こえる。首を再び正面に向け目を開くと、すぐそこにいつもの笑っているあいつの姿が見える。
「お前、やっぱ強いな!」
「ああ。でも───」
「でも、俺の方がもっと強かった、ってことだ」
 差し出される右手。俺も右手を出し強く握手をする。
 いつの間にか悔しさがなくなり、心が温かくなって何とも言えない充足感を感じた。負けても、楽しい。これが本当の戦いか。
 また来年。次こそは全国の舞台へ進んでやる。そう、俺のリベンジは最下層からまた始まるのだ。新たなる決意を胸にしまった。
 そんなときだった。藤原の悲鳴が聞こえたのは。



風見「今回のキーカードはボーマンダLV.X!
   ボーマンダには豊富なレベルアップ前がある。
   どのカードからレベルアップするかによってこのカードの活かし方が変わるぞ」

ボーマンダLV.X HP160 無 (DPt4)
ポケパワー ダブルフォール
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。この番、このポケモンが使うワザのダメージで、相手のポケモンをきぜつさせたなら、自分がサイドをとるとき、きぜつさせたポケモン1匹につき1枚、さらにサイドをとる。
炎水無無 スチームブラスト  100
 自分のエネルギーを1個トラッシュ。
─このカードは、バトル場のボーマンダに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 闘-20 にげる 2

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