78話 アイツ

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『雄大。これで最後だ! マッスグマの攻撃、駆け抜ける! ガブリアスに攻撃だ! ガブリアスは無色タイプが弱点。僕の勝ちだ!』
 何年前かは忘れた。まだ俺が小さい頃の話だ。小学生だった。
 ジュニアリーグで出場し、あれよあれよと全国大会まで駒を進めた俺。
 その当時、俺はうぬぼれていた。何一つ自分で掴み取ってはいないのに、すべて自分の思い通りにいくとでも思っていたのだ。
 自分の圧倒的な力、絶対的な戦術、幼いながらに全て自信を持っていた。
 そしてそれがアイツとの戦いで崩れ去った。しかし、それを認めたくなかった俺は幻にすがりついた。俺は強い、という悲しい幻に。
 母親には怒られた。大企業会社の社長の息子は何においてでも負けることは許さない、だと。
 粉々に砕かれたプライド。あの負け以来今日まで公式大会には出ていなかった。だがそれでもポケモンカードを続けていたのは何故だろう。惰性か、それとも別の何かか。
 アイツとは小さい頃からなんとかパーティーでしょっちゅう会っていて、それなりに仲が良かった。たぶん初めての友達だったかもしれない。
 しかしあの全国大会以来アイツとは会えていない。アイツには恥ずかしい姿しか見せれていないのだ。成長し、変わった俺を。母親の束縛から逃れようと、運命に抗い始めたその俺を。そして何より俺にもたくさん仲間と呼べる人が出来たというのを見せてやりたい。
 母から逃れるために北海道を出、悲しい幻を引きずったまま東京にやって来た。そこで出会った奥村翔、翔は俺をその幻から引きずり出してくれた。口には恥ずかしくて言えないがとても感謝している。
 奥村翔、長岡恭介、松野藍、他にもいろんな人と俺は出会えた。そしてその出会いが今の俺の強さだ。もう一度アイツにあって、それを見せてやりたい。……待っていろ、市村アキラ。
「風見杯以来だな」
「ああ。あんときは準決勝だったけど今回は準々決勝だな」
「今度は負けないぜ!」
「いや、俺は今回も負けない。負ける気はない」
「そうこなくっちゃ! じゃあ始めるぜ」
「来い、長岡!」
 バトルベルトはもうテーブルにトランスフォームした。デッキもシャッフルし終わり、両者の場には既に最初のポケモンが出そろった。
 俺のバトル場にはタツベイ50/50。長岡のバトル場はエレキブルFB90/90。互いにベンチにポケモンはいない。
「先攻はいただくぜ。俺のターン! 俺はまず手札の雷エネルギーをエレキブルFBにつける! うん、エレキブルFBのワザを使う。トラッシュドローだ。自分の手札のエネルギーを二枚までトラッシュし、その枚数かける二枚ぶんデッキからカードをドローする。俺は雷エネルギーを一枚トラッシュして二枚ドロー!」
 長岡はあれからかなりのキャリアを積んだ。もう初心者ではない。一瞬の油断も与えられなくなった程だ。
「全力で戦う。俺のターンだ。炎エネルギーをタツベイにつける。よし、サポーターだ。ハマナのリサーチ! デッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで手札に加える。俺はコイキングを二枚手札に加え、そのうち一枚をベンチに出す」
 ベンチにコイキング30/30が現れ、ピチピチと跳ねる。
「へぇ、コイキングも入ってんのか」
「ふ、タツベイでエレキブルFBに噛みつく攻撃だ」
 タツベイがエレキブルFBの腕に噛みついた。HPバーがごくわずかに減ってエレキブルFBのHPは80/90に。噛みつくの威力はわずか10ダメージ。たねポケモンでエネルギー一個なのだから、多少はやむなしといったところか。
「よし、俺のターンだぜ! ベンチにピチュー(50/50)を出す! ピチューに雷エネルギーをつけ、俺もサポーターのハマナのリサーチを使うぜ。デッキからピカチュウとヤジロンを手札に加える。そして、ヤジロン(50/50)をベンチに出し、ピチューのポケパワーを発動だ!」
 ピチューのようなベイビィポケモンは全員がベイビィ進化というポケパワーを持っている。自分の番に一度使え、自分の手札のそのポケモンから進化するたねポケモンを一枚、このポケモンの上にのせ、進化させる。そのときそのポケモンのダメカンを全て取るというやつだ。この場合はピチューからピカチュウ60/60へ進化する。
「ベイビィ進化でピカチュウへ進化させ、このピカチュウのポケパワーを発動。エレリサイクル! このピカチュウの進化前にピチューがいるとき自分の番に一回使える。トラッシュの雷エネルギーを一枚手札に加えることが出来る!」
 長岡のトラッシュにはさっきのターンにエレキブルFBのワザでトラッシュした雷エネルギーが一枚ある。ここまで考えていたのか?
「もう一度トラッシュドロー。今度は手札の雷エネルギーを二枚捨てる。よって四枚ドロー!」
 ひたすら長岡の手札が増えていく。まだ三ターン目なのにデッキの枚数は着実に減っていく。
「引くだけでは勝てないぞ。俺のターンだ。タツベイに水エネルギーをつける。ここでサポーターだ。スージーの抽選。自分の手札を二枚までトラッシュし、トラッシュしたカードの数によってドローするカードの枚数が決まる。俺は手札を二枚トラッシュして四枚ドロー」
 手札のコイキングを二枚トラッシュしておく。俺のデッキはトラッシュにコイキングがあればあるほど強くなる。
「まずはタツベイをコモルー(80/80)に進化させよう。そして俺も手札からヤジロン(50/50)をベンチに出し、コモルーのワザだ。気合い溜め!」
 コモルーはぐぐぐ、っと力を入れる。だがエレキブルFBへのダメージを与えるワザではない。
「へへっ、そういうお前もダメージ与えれてないじゃないか。俺のターン。ピカチュウのエレリサイクル! トラッシュの雷エネルギーを手札に加える。そしてこのターンもハマナのリサーチを発動だ。ピチューとピカチュウを手札に加える。ベンチのピカチュウをライチュウ(90/90)に進化させ、新たにベンチにピチュー(50/50)を出してピチューのポケパワー、ベイビィ進化! このピチューをピカチュウ(60/60)に進化させる!」
 これでヤツのベンチはライチュウ90/90、ピカチュウ60/60、ヤジロン50/50の三匹か。ポケモンを立てるのが早くなったな。
「そしてだ。新しくベイビィ進化したばかりのピカチュウのエレリサイクルを使ってもう一枚トラッシュの雷エネルギーを手札に加える」
 長岡のトラッシュに雷エネルギーがなくなった。ここまで考慮してのトラッシュだったのだろうか。
「雷エネルギーをライチュウにつけよう。そしてもう一度トラッシュドロー。手札の雷エネルギーを二枚トラッシュして四枚ドローだ。ターンエンド」
 なるほど。エレキブルFBを盾としてドローしている間、ベンチにポケモンを揃える作戦か。
「俺のターンだ。そうだな、炎エネルギーをコモルーにつけ、ミズキの検索を発動。手札を一枚戻しデッキから好きなポケモンを加える。俺はネンドールを選択。そしてヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる。そしてコスモパワーだ。手札を一枚か二枚デッキの底に戻して手札が六枚になるまでドロー。俺は二枚戻して五枚ドローだ」
 引くだけのことはある。長岡相手だが好カードを引き当てれた。
「ベンチのコイキングをギャラドスに進化させる!」
 小型ポケモンが多かったフィールドに急に大きなギャラドス130/130が現れる。威圧感バッチリだ。
「さあ、行け、コモルー。プロテクトチャージ!」
 コモルーがエレキブルFB80/90目指してチャージをかます。そのチャージを鳩尾に受けたエレキブルFBは辛そうだ。
「プロテクトチャージの本来の威力は僅か30だが、気合い溜めを前のターンに使用していた場合このワザの威力は80となる」
「なんだって!?」
 HPバーを減らしたエレキブルFBは、ふらふらとおぼつかない足取りを見せてそのまま前向きに倒れる。
「思ったより一ターン早いじゃんか。俺はライチュウをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 先にサイドを引かれたが、それでも満面笑みの長岡。何か来るか……?
「よっしゃ、俺のターン!」
 勢いよくカードをドローする長岡。ドローしたカードを確認すると、更にテンションが上がっていくようだ。
「オッケー。ナイスドロー! 俺が引いたカードはこいつだ。頼んだぜ、ライチュウLV.X!」
 ライチュウLV.X110/110が長岡の場に現れる。……先にLV.Xを引いてきたのは長岡の方か。このターンからヤツの激しい攻撃が来るな。
「忘れんなよ、ベンチのピカチュウのポケパワー、エレリサイクルだ。トラッシュの雷エネルギーを手札に加えてライチュウLV.Xにつける。さらにミズキの検索だ。手札を一枚戻してデッキからエレキブルFBを手札に。そしてこのエレキブルFB(90/90)をベンチに出すぜ」
 倒されたエレキブルFBをすぐにリカバリさせるのか? どう来る。
「バトルだ! 手札の雷エネルギーを二枚トラッシュ。こいつが、ビリビリ痺れる強烈な一撃だ! ライチュウLV.X、ボルテージシュートをぶちかませぇ!」
 ライチュウLV.Xの体に大量の電気が集まると刹那、槍のような鋭い紫電が俺の場を襲う。
「ぐぅっ!?」
 紫電はネンドール80/80を襲うと爆風と砂煙のエフェクトを起こす。ネンドールのHPバーはあっという間に0/80となり気絶。予感はこれか!
「ボルテージシュートは手札の雷エネルギーを二枚トラッシュして相手のポケモン一匹に80ダメージを与えるワザ! ベンチだろうとどこだろうと問題ないぜ? サイドを一枚引く」
「ふん。今度は俺のターン」
「まだまだ! 俺はターンエンドしてないぜ」
「何っ?」
「俺の攻撃はまだまだ終わらない! ライチュウLV.Xのポケボディーだ。連鎖雷! このポケモンがレベルアップしたターンにボルテージシュートを使ったターン、追加でもう一度ワザを使う事が出来る!」
「二回連続攻撃だと!?」
「もう一枚サイドをいただくぜ。こいつを喰らえ、炸裂玉!」
 ライチュウLV.Xの体の半分ほどある白と黄の入り混じった球体が、目で追えないボルテージシュートとは違ってゆっくりコモルーの傍へ近づき、コモルーに触れると一気に膨張し爆発した。これも強風のエフェクトが強い。
「炸裂玉の効果でライチュウLV.Xについている雷エネルギーを三つトラッシュする。炸裂玉の威力は100! それに対してコモルーのHPは80だ。サイドはいただき!」
「悪いが、そう簡単にサイドはやらん」
「うっ! 何だこれ!?」
 コモルー10/80の目の前に緑色の六角形のバリアが張られていた。これのおかげで炸裂玉のダメージを削りなんとか耐えきった。
「先ほどのターンに放ったプロテクトチャージの効果だ。次の相手の番に自分が受けるワザのダメージを30減らす。コモルーが受けるダメージは100から30引かれて70! ギリギリだ」
「流石だぜ。ターンエンド」
 しかしネンドールが気絶させられたのは痛い。俺の数少ないドローエンジンだったのだが……。
「よし。俺のターン。まずはベンチにタツベイ(50/50)を出し、バトル場のコモルーに水エネルギーをつける。そして、バトル場のコモルーをボーマンダに進化させる!」
 コモルーの体が光に包まれ、形が変わっていく。見慣れた屈強の体と大きな赤い翼が出来あがれば、いつもの相棒、ボーマンダ70/140の登場だ。
「サポーターカードを使う。ハマナのリサーチ。俺はヤジロン(50/50)とコイキングを手札に加え、ヤジロンをベンチに出す。……俺の熱い情熱を見せてやる。ボーマンダについている炎エネルギーを二枚トラッシュし、ドラゴンフィニッシュ!」
 ボーマンダの口から真っ赤な炎が放たれ、ライチュウLV.X110/110を焼き尽くす。
「このドラゴンフィニッシュは炎または水エネルギーをそれぞれ二枚ずつトラッシュして発動されるワザ。炎エネルギー二枚をトラッシュした場合、相手のポケモンに100ダメージ!」
 なんとか踏ん張ったライチュウLV.X10/110だが、そのHPはたったの10。さらにエネルギーは一つもない。
「ターンエンド」
「くそっ、まだまだ! 俺のターン。俺はピカチュウのポケパワー、エネリサイクルでトラッシュの雷エネルギーを一枚回収し、そのエネルギーをピカチュウにつける。……どっちにするか迷うなぁ。とりあえずこっちだ。俺もハマナのリサーチを使う。ピチューとピカチュウを手札に加え、ピチュー(50/50)をベンチに出す。そしてまたピチューのベイビィ進化! ピカチュウ(60/60)に進化させるぜ」
 これでベンチにピカチュウが二匹いることに。エネリサイクルも二回使える。
「新たに進化させたピカチュウでエネリサイクルを発動。トラッシュの雷エネルギーを手札に加え、攻撃する。ライチュウLV.Xでスラッシュ!」
「エネルギーなしのワザか」
 ライチュウLV.Xの尻尾が鋭利な武器となってボーマンダを切りつける。ダメージを受けたボーマンダ40/140は、二歩程後ずさるもまだ大丈夫。
「スラッシュを使った次のターン、俺はこのワザを使えない。ターンエンドだ」
 玉砕覚悟というわけか。その気持ち、買ってやろう。俺もただただ前進するのみ。
「俺のターン。スタジアムカード、破れた時空!」
 バトルテーブルにこのカードをセットするや否や、俺達の周りの風景が変わっていき槍の柱へ変わっていく。
「このスタジアムがある限り、互いのプレイヤーは自分の番に場に出したばかりのポケモンを進化させることが出来る。俺はタツベイをコモルーに進化させ、更にボーマンダまで進化させる」
 一見同じボーマンダ140/140の用に見えるがワザやポケパワーなどが微妙に違う。
「ベンチのボーマンダに炎エネルギーをつけ、このボーマンダのポケパワーを発動。マウントアクセル。自分の番に一度使え、自分のデッキの上のカードを表にする。そのカードが基本エネルギーならそれをボーマンダにつけ、そうでないならそれをトラッシュさせる」
 ボーマンダが前足で思いっきり地面を叩きつけて雄叫びを上げる。するとボーマンダの頭上から炎エネルギーのシンボルマークが落ちてきた。
「デッキの一番上は炎エネルギー。よってボーマンダにつける」
 ここまではいいが、今の手札はコイキング一枚だけ。さすがにこれはなんとかしないと。
「バトル場のボーマンダでライチュウLV.Xに直撃攻撃」
 真っ向から突進するボーマンダ。ライチュウLV.X10/110の体を簡単に跳ね飛ばす。直撃の威力は50なので、もちろんライチュウLV.Xは気絶だ。
「やってくれるな! 俺はエレキブルFBをバトル場にだす」
「サイドを一枚引かせてもらおう」
 む、このカードは……。ただ、問題は使い時か。
「どんどん行くぜ。俺のターンだ! まずはこんな殺風景を変えてやるぜ。スタジアムカード、ナギサシティジム!」
 破れた時空の景色は消え、ひとまず元の会場に戻ると休む間もなくゲームよろしくのナギサシティジム内部に変わる。あの動く歯車は厄介だったな。
「お互いの雷ポケモン全員のワザは抵抗力を無視でき、雷ポケモンの弱点もなくなる」
 この効果は俺のデッキに対しては意味はない。ただ、俺の破れた時空を維持させないためのカードだ。長岡のデッキでは破れた時空の恩恵は受けれない。
「そしてグッズカード、ポケドロアー+を二枚同時に発動。このカードは同名カードと二枚同時に使え、二枚使ったなら自分のデッキから好きなカードを二枚手札に加えれる。もちろん、こうの効果は二枚で一回しか働かない」
 選べるカードは好きなカードなので、ポケモンだけだとかエネルギーだけとかいった制限がないのがおいしいところだ。
「へへーん。盛り上がるのはこれからだ! バトル場のエレキブルFBをレベルアップ。行けぇ、エレキブルFB LV.X!」
「またLV.Xか」
 バトル場のエレキブルFB LV.X120/120が雄叫びをあげる。だがこのエレキブルFB LV.Xにはエネルギーが一枚もついていない。その状況で何をする気だ?
「サポーター、ミズキの検索! 手札を一枚戻し、俺はライチュウを手札に加える。そしてあらかじめ雷エネルギーが一枚ついているピカチュウに雷エネルギーをつけ、エレキブルFB LV.Xのポケパワーを使うぜ。エネリサイクル!」
 ピカチュウのエレリサイクルとは一文字違いだが……。
「こいつは自分の番に一度使え、自分のトラッシュのエネルギーを三枚、好きなように自分のポケモンにつけれる。俺はトラッシュの雷エネルギーを三枚ともエネルギーがついていないピカチュウにつける。このポケパワーを使った時点で俺のターンは終了となる」
 だがエネルギーがあっという間に長岡の場に広がった。トラッシュが激しいデッキなだけにこんなにエネルギーを抱えられると後の爆発力が怖い。
「まだまだ始まったばかりだぜ?」
「ああ……」
 俺は強くなった友、いや、強敵に押されているという事を自覚せざるを得なかった。



恭介「今回のキーカードはライチュウ!
   ワザが三種類! しかもスラッシュはエネルギーなしだ。
   とっておきは炸裂玉! トラッシュするエネルギーは自分の場のポケモンであればなんでもいいんだ」

ライチュウLv.45 HP90 雷 (破空)
─  スラッシュ 30
 次の自分の番、自分は「スラッシュ」を使えない。
無無無  ぶんれつだま 50
 自分のエネルギーを1個、自分のベンチポケモンにつけ替える。(自分のベンチポケモンがいないなら、この効果は無くなる。)
雷雷無  さくれつだま 100
 自分の場のエネルギーを3個トラッシュ。
弱点 闘+20 抵抗力 鋼-20 にげる 0

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