3話-2 『見えないナイフ』と『見えるナイフ』

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読了時間目安:15分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

今回は特にエグイです。
ご注意願います。
7月1日。修行45日目(水曜日)

今日は模擬試験の日だった。


教官(フライゴン)「おーいお前達、直前だけ勉強しても意味ないんだからな~。さっさとあきらめてテストの準備しろよ~。」
そう言ってテスト用紙をトントンと音を鳴らし、整理している。だが教官(フライゴン)の言葉は優しすぎてあまり聞こえていない。しゃべり声が多く聞こえ、クラスがざわざわしている。
だが、試験開始3分前になるとしゃべり声は一切なくなる。
テスト開始。テスト中はペンと紙の摩擦音とページをめくる音しか聞こえない。

「♪~♪~~~」あ、それ以外も誰かの鼻歌が聞こえる。
音源は俺(ピカチュウ)の後ろの席、 カイトだ。注意しようとしたが、後ろは振り向けない。カンニングと勘違いされるからだ。
すると、後ろの方で教科書のようなもので何かを殴った音がした。おそらく教官がカイトを叩いたのだろう。
それ以来、後ろで鼻歌が聞こえることはなかった。

文字はある程度読めるようになってきたし、書けるようにもなった。45日という短い期間だったとはいえあれだけ必死にやってきたんだ。頑張ったかいがあった。短期間でこんなにもできるようになるんだ…。自分自身にびっくりしている。

模擬試験はマークシート方式。探検隊知識、数学、科学、歴史、物理、考古学の6科目で各100点満点。総計の最高得点は600点である。本当の国家試験はマークシートではなく筆記なのだが、マークシート方式は模擬試験の結果がすぐにわかり、自分の力がどれくらいなのかが知ることができる。
そして試験終了。テストの結果は意外にもすぐに返ってきた。


「うわ‥‥‥」

電気野郎の点数は196点。満点は600点。合格までは遠すぎる。よくない点数だ。まだ試験の日からが離れているとはいえこのままでは落ちる。絶対落ちる。

俺の実力はこの程度なのか。恥ずかしい。恥ずかしくてしょうがない。
くそっ、クソッ、クソクソクソクソ‥‥‥
「おいー電気!テストはどうだった?みーせーて!」

「あっ‥‥ちょ‥‥」
カイトにテスト結果の紙をぱっと奪われてしまった。

「お~やったぜ(ドヤァ)!ギリギリ勝ってる!!うぃ~~!ざまぁみろー!」

ハっ?負けた?俺がこんなバカに‥‥!!!!!
電気野郎はカイトのテスト結果の紙を奪った。

点数は262点。ギリギリどころじゃない。普通に負けてる。完敗だ。授業の9割寝てるしメモもほとんど書いていない馬鹿カイトのくせに…。俺はカイトを侮っていた。情けない。でも、俺だって…頑張ってやってるのに…。って頑張ってますよアピールをする自分が情けない。悔しい。素直に悔しい。

「あなた達バカなの?!よりによってあんた(電気野郎)が‥‥カイトよりバカだったとは‥‥。」

「じゃぁお前は何点だったんだよ」

「586点よ。こんなのちょろいわよ。このレディをなめんじゃないわよ。」

こいつ‥‥45日の勉強でよくこんな点数が取れるものだ。バケモノだ‥‥。

まじか‥‥一番できていないのは俺なのか‥‥悔しい。

「あなた達、授業中ほぼ寝てたでしょ。電気はたまにしかないけど…。そりゃそうでしょ。そんなんでいい点が取れると思ってんの?」

「はい、全くその通りでございます」
全くの正論である。ミルに文句1つ言うことができない。というかミルはバケモノだ。半端ねぇ。働きながらそんないい点数とれる?!そんなんできひんやん普通。

…くそっ。


そういえば………なんで俺はこんなことをしているんだ?起きたら人間だったはずなのにポケモンになってる‥‥過去のことも覚えていない。探検隊にならない?って言われて、探検隊になったらもしかしたら過去の記憶とかが分かるかもしれない。一人で謎を解こうとしたって基本的にそれは不可能。仲間が欲しかった。だから俺はなんとなくで探検隊に入った。そもそもこれから生活していく手段がないからカイトとミルについていかざるを得なかった。

?????そういえば過去の記憶を思い出す方法が『探検隊になって記憶を取り戻す冒険をする』という方法なんだ?よりもっと手っ取り早く、いい方法があったかもしれない‥‥。もっと手っ取り早い方法が‥‥。

しかも探検家になりたいって言っているのになぜギルドは俺たちにアルバイトをさせるんだ?学校へ行かせるのはわかる。でもなんでバイト???俺はいったい何をしているんだろう‥‥。
意味が分からない。どうして?わからない。

もやもやする。モヤモヤモヤモヤする。クソッ。






17:09

バイトをしている最中もそう思ってしまった。


???「オイ店員!!!」

ガルーラのカフェの中で大きく聞こえた声。その声の主はガントルであった。

「はい。ご用件は何でしょうか。」

「どうもこうもねーよ!この『ナナの実のシチュー』にナナの実は入れるなって言っただろうが!!!」
しまった。やらかした。考え事をしていたせいで細かい注文を忘れていた。クソッ。
だがひとつ言いたい。『ナナの実のシチュー』はナナの実をメインとして使われている。そのメインを抜いてしまったら、ただのシチューではないか。しかも7月の暑い日にシチューと注文するとか‥‥
それならほかの料理を注文すればよかったのに。
‥‥まぁ、お客にも理由があるのだろう。それはさておき、謝ることにした。

「このたびは大変失礼いたしました‥‥すぐに新しいものと交換させていた‥‥」

「交換しても意味ねぇんだよ!!食欲なくしちまったじゃぁねぇか!!!」

そう言ってテーブルの上にあったシチューを皿ごとクァァッと投げつけてきた。

‥‥‥‥。

皿は受け止めて割れなかったものの料理が体について地面に垂れる。メチャクチャになってしまった。そしてガントルは怒って帰ってしまった。
現在、俺には『情けない』と『憎い』の二つの形容詞しか思い浮かばない。
料理番のアイツ(ミル)がせっかく作ったものを一口も食わず、無駄にして捨てられた。怒りがこみ上げないわけがない。
そして責任はすべて俺にある。注文のミスをしてしまったのはこの俺だ。本当に情けない気持ちでいっぱいである。
電気野郎は大きく3回深呼吸をして
地面に落ちたシチューを必死に拭いた。



チラーミィ「ピカチュウ君!出来上がった料理がたまってるよ!急いで!」
従業員のチラーミィが電気野郎を呼んでいる。急いでキッチンへ向かった。

チラーミィ「この料理はあそこのサワムラー。この料理はさっきと同じ席のエビワラーに。この料理はあそこのキリキザンに。これはあそこのピジョンに。よろしく!!」

「はい!」
チラーミィは早口でしゃべる。ついていくのがやっとである。
そして“でんこうせっか”を使って商品を運ぶ。でんこうせっかはバイトをしている最中で使えるようになった。料理を“でんこうせっか”で運ぶと、料理をこぼしてしまうことがある。だが、もう慣れた。こぼすようなことはない。あり得ない。

サワムラーとエビワラーに料理を運んで次の料理を運ぶためにキッチンに戻る!その時、


「っ!!」

電気野郎の足が客の机の脚に引っかかってしまった!
その机は派手に倒れ、電気野郎も派手に転んでしまった。


「や‥‥やりやがったなぁぁぁぁぁ!!!!!!」
テーブルを倒され料理を台無しにされたキリキザンは完全にキレてしまった。

「客に何してんだ!!!クソは死ね!!!!」
そう言って電気野郎に繰り出したのは シャドークロー。キリキザンの手が2つの鋭利な爪に変化し電気野郎の左頬を切り裂き、電気野郎は吹っ飛んだ。ナイフがずっと突き刺さっているような感覚。ズキズキするその痛みは止まらない。二つの傷からすっと赤く、そして黒い血が流れる。



この世界で暴力は『当たり前』のようにある。人間がケンカした時、『言葉の暴力』すなわち、『見えないナイフ』で言い合い。『見えないナイフ』で相手の心を傷つけ、最終的には恨み、憎しみ合い、『見えるナイフ』で相手の肉体を傷つけ、殺しあう。当たり前のことなのである。
これはポケモンも同じことなのである。ただ、ポケモンには『技』がある。ポケモンはあまり『言葉の暴力』は使わない。使われるのは『ワザの暴力』。言葉で表現せず、『技』を使って感情を表現する。ケンカするときもバトルをして勝ち負けを決める。これはポケモン達にとって当たり前のことなのである。


「うぁぁァぁッ!!!!」
切り裂かれた左頬からは血。血がただれてくる。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。死ぬほど痛い。

「痛いって言うより先に何かやることはあるんじゃねぇのか?あ?」
キリキザンが言う。悶えることよりやらねばならないことがある。それは 謝罪。誠心誠意を込めて。電気野郎はキリキザンに近づき…。

「このたびは‥‥大変‥‥申し訳ございませんでした‥‥‥‥」


誠心誠意の土下座をする。その電気野郎の頬には血が垂れる。

情けない。失敗が情けない。暴力を振るわれたのが悔しい。やり返したい気持ちだ。だが、
たとえ顔から血が出ていたとしても、たとえ悔しくて涙が出ていたとしても謝らなければいけない。これが現実。避けられない現実。逃げることができない現実。

電気野郎が顔を上げた時には もうキリキザンの姿は

もういなかった‥‥。

電気野郎は一つの言葉しか頭になかった。

なんで?なんで?なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?????

なぜ俺はこんな暴力を受けているんだ?

なんで生きているんだ?

辛い辛い辛い。苦しい苦しい苦しい。もう生きたくない。消えたい。死にたい。

頭がおかしくなってきた。おかしくなったのは自分でもわかる。

電気野郎は起き上がって立ち止まった。

何なんだこの人生。クソだ。クソ人生だ。クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ‥‥
「ピカチュウ!ちょっとこっちに来な!!!止血するよ!!!!」

「!!!!!!!!」

電気野郎はハッとした。ガルーラの声だ。目が覚めた。電気野郎は声がする更衣室の方へ向かった。

そこにはガルーラとミルがいた。

「ほらっ。早く座って!」
ミルは消毒液とガーゼを持って‥‥

「ほんっとあんたってやつは。無茶するんだから‥。」
そう言って電気野郎の顔に近づき消毒液をしみこませたガーゼを左頬にあてた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!痛い痛い痛い!!死ぬ死ぬ死ぬ!もっと優しくしろよ!!」

「うるさいわね!黙っておとなしくしなさい!‥‥それよりあんた大丈夫なの?」

「別に。かすり傷程度だから大丈夫だし。」

「嘘はつかないで。」

「は?」

「だって」


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(なにがかすり傷よ……バカ。)
ミルは持っていたハンカチで電気野郎の目を拭いた。
チッ。泣いてたのかよクソッ...と言わんばかりに電気野郎は舌打ちをして目を何度もこする。


「まぁそうね‥‥それにしてもあんたこのままじゃ命がいくつあっても足りないわよ。今日は少し休んだら?」

「別に要らない。お前らに負担はかけたくないし。これくらいで休むかよばーか」

「そう‥‥せっかく心配してあげてるんだから言葉に甘えて休むかと思ったわ!ふん!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!痛い痛い痛い痛い!!!消毒液多すぎだろ!!!」

電気野郎の叫び声が店中に響き渡った。痛すぎて涙目になった。





3分後。処置をして血は完全に治まった。頬は痛いがもう不自由はない。動ける。
さっきのことはなかったことに、気持ちを切り替えて仕事に励む。

前回に運んでいなかったピジョンに料理を持っていく。(キリキザンの料理はキリキザンはもう帰ってしまったため
後にスタッフ一同でおいしくいただきました。)

「お待たせ致しました。白ぼんぐりのシェイクでござ‥‥」

「おい」

「はい?なんでしょうか?」

「このシェイク、できてから時間がたってるよな?あ?俺はずっと見てたんだぞ。お前がしょうもないことして時間食ったのを。」

(シェイクとはあの有名ハンバーガーチェーン、マク〇ナルドのアレである。小さな氷のつぶつぶが非常に滑らかな舌触りをさせる。小さな氷のつぶつぶは時間経過で溶けてしまう。たかが30秒、されど30秒。だから早めに飲まないとおいしくないのだ)

「アレが溶けたら意味ないんだよ。俺に溶けたシェイクを飲ませるな!!」

「!!」

何かが顔の横を通過した。スゥッとなにかウェーブ状のものが。
顔からぷしっと、何かが切れる音が聞こえた。噴き出したものは血。また、血。




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ピジョンのエアカッターだ。それは電気野郎の右頬を通過し、店の壁に突き刺さった。

「粋がるな『雑魚』。お前店員に向いてないから今すぐ辞めろ。」

「……。」
電気野郎の何かがピンとちぎれた。手榴弾の安全ピンを引くかのように。
そしてボソッと呟いた。

「あ?お前は神か。ちがうだろふざけるな‥‥何が『雑魚だ』‥‥殺す‥‥殺す‥‥殺す殺す殺す殺殺す殺殺す殺殺す殺殺す殺殺す殺す殺殺す殺殺‥‥」
「落ち着け!!!!!!!!!」


ガンッ!!!!

突然、誰かの激しい声が。聞き覚えのある声。その瞬間、渾身のアッパーで電気野郎の顎に衝撃が走る。足の感覚がふっとなくなる。気が付いたら膝をついていた。そして視界がスッと暗くなる。
それと同時になにか柔らかいものに包まれたかのような感覚を味わった。

電気野郎は意識を失った。

電気野郎の顎にぶち込んだ技は“はっけい”。

カイト。
客を殺そうとする電気野郎の殺気がカイトに伝わりこのままではヤバいと判断し、気絶させたのだった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥。」
カイトは無言で………た。








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おまけ
ガルーラ店スタッフのルール5か条


・金をもらうために働くな。お客様の笑顔をもらうために働け。

・料理は5分で届けろ。お客様の大切な時間を無駄にするな。

・いくら辛かろうが逃げるな。他のスタッフに迷惑をかけるな。何事にも頑張ることに意味がある。

・暴力は受け止めろ。誰にも失敗はある。仕方がない。だが自分の身は自分で守れ。

・笑顔を怠るな。笑顔でより良い店にしよう。
考察タイム
電気野郎を気絶させたカイトが言った言葉を考察しよう
(答えは存在しません。カイトの感情をよく読み取ってみましょう)

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