第24話 シオンタウン・中編

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「……カスム?」
 
 正体を探ろうとする言葉を最後に、カスムは倒れ込んできた。もたれかかるかのように倒れ込んだカスムを抱きとめると、ずっしりと重い。同年代ではあるが、背丈も性別も違うユズルがその身体を支えるには無理がある。すぐにガクンと膝を折らざるを得なくなり、カスムと一緒にずるずると床に座り込む。何とかカスムを抱き直して、あたしはその額に触れた。呼吸は浅く、顔色が悪い。額は明らかに熱を持っており、玉のような汗が浮かんでいた。次いであたしはその頬を軽く叩いてみる。

「…………う……」

 カスムは少し眉を寄せて呻いただけで、それ以上動く様子はない。反応は鈍く、ぐったりとした様子から、回復まではしばらく時間がかかりそうだと判断する。あたしはほっと息をついた。

「鋭い男ね……。不安定な今、心を揺さぶって貰っちゃあたしが困るのよ」

 あたしは既にユズルと交代している。ユズルはあたしの存在をまだ感覚的にしか理解していないため、カスムに指摘されて大きく動揺したのだ。それで不味いと思ったあたしが、ユズルと強制的に交代したという訳だ。
 鋭い目でカスムを見ると、ゆっくりと床に下ろす。何が原因かは分からないが体調が悪いようで、カタカタと小刻みに震えている身体は、顔の熱に対比して、汗でじっとりと濡れて冷やりとしていた。見た限り体調は最悪だ。動けたのは奇跡に等しいのではないだろうか。
 しかし、奇跡も此処までだろう。もう起き上がる体力はなく、気絶しているようだし。あたしは当然放置の一択。悪化でもして息絶えてくれようものなら、ニ度と追いかけてくることも無く万々歳だ。あたしはその場を去ろうと立ちあがった。

「……ハァ」

 立とうとして、服の裾を何かに引っ張られる。めんどくさそうに視線を向けると、案の定。カスムが服の裾をしっかりと握りしめていた。気絶しているくせに、此処だけはしっかりしているとは。あたしはその手を振りほどこうと、手首を掴んだ。

「――――あ……ティ………ガが……」

 カスムが何事かを呟いて、あたしはぴたりと動きを止める。こいつ、なんて言った? 今の言語は明らかに、あたしの知る限り人間には不可能な発音だった。

「これは……」

 あたしは思わず、カスムを凝視した。人間には不可能だが、可能になる可能性も存在する。それに心当たりがあったあたしは、予想の検証を行った。床に寝たカスムの服の前ボタンを少し外し、抱え直して耳を当てる。
 心音を慎重に、無言で一分程聞き続ける。その結果に、あたしはニヤリと笑った。

「やっぱりね……貴方……いえ、止めておくわ」

 結果は、あたしの予想通り。そっと服の前を直し、もう一度床に横たえる。この事実をあたしが言ってしまう事は簡単だが、彼女にあまり刺激を与えたくはない。あたしがここで口に出してしまえば、身体を共有しているユズルに聞こえてしまうかもしれない。油断は禁物だ。

「さて」

あたしは掴まれた状態で器用に上着を脱ぎ、その場に置いて今度こそ立ちあがる。幾つか持っていた疑問の一つが解消されてスッキリ。といったところか。
 カスムという少年がユズルに好意を抱いていると言う事は、あたしにも何となく分かっていた。でもある程度距離を置いている理由は、どうしてもわからなかった。けれどカスムがそうなのだとしたら……。距離をとるのも、頷ける話だ。
あたしは床に寝ている少年に呟く。

「恋しい恋しい……けれど真実を知られる事は恐ろしい。だったら今のままでいい」

 この少年が生きている時代が、もう少し昔だったならば、もっと人間とポケモンが近かった時代ならば。こんなにも悩む事はなかったでしょうに。
 キリ、カスム、ユズル。あたしはこの三人の中で一番強いのはこの少年だと思っていた。この少年は賢く、強い。でもこんな秘密を抱えて、ユズルに距離を取ったままでは、ユズルの心を取り戻すどころか、近づくことすら叶わないだろう。

「まだ来てもいない未来に怯えて停滞する貴方に、大切なものなんて掴めそうもない」

 新しい未来に一歩を踏み出す勇気を、彼は持っていない。そんな事では、どんどん取り残されていく。自分が変わるまいと思ったところで、周囲は容赦なく変化していくのだ。
 あたしは部屋を出ていこうと扉を開ける。少しだけカスムが気になって、最後に一度だけ振りかえった。無意識のうちに言葉がほろりと零れ落ちる。

「さよなら」

 部屋の扉を閉めたとたん、空白がまた少し増えた気がした。










「はい、手続きは既に済んでおりますので、遺体をお渡し頂けるだけで結構です」
 
 目の前の女性は優しく笑う。ポケモンタワーの管理人は、丁寧に遺体を受け取ると「わざわざありがとう」とお礼を言った。あたしがこの依頼を受けた訳ではないのだが、それを言うと話がややこしくなるので言わない。無言でお辞儀をして返すだけだ。用は済んだので、さっさとこの町を去るために出口へと向かう。万が一、カスムに捕まったらめんどくさい。

 ぐらりと、世界が揺れた。

 その瞬間、喉元に熱い物が込み上げてきて、両手で口を覆う。

「ふ……っく……」

 ――――頭が、痛い。気持ちが悪い。

「は……っ」

 ふらつきながら、近くの壁にもたれるとずるずると座り込んだ。
 きっと、“彼女”がまだ情緒不安定なせいで、その影響が表に出ている“あたし”にも及んでいるのだろう。いくら彼女が強さを望んだからといって、もっとも彼女と繋がりの深かったポケモンと、友人の一人を同時に失うのは、精神的にダメージが大きかったらしい。

「大丈夫ですか!? 向こうに休憩室があります。横になってきては如何です」

 さっき遺体を受け取った受付が、心配げに声を掛けてきた。あたしは口元を押さえながら無言で頷くと、誘導に沿って移動する。休憩室には長ソファが二つに一人用ソファが四つ。長ソファに横たわって、あたしは深呼吸をした。


―――――これはだいぶキツイ。“本人”に会ってくるしかなさそうだ。


 すっと目を閉じて、心の中に沈んでいく。暗い暗い闇の中に沈んでいく。やがて、闇だと言うのにくっきりとした姿となって、彼女が見えてきた。
いや、“彼女”ではなく、“彼女達”と言うべきか。


 一人は、澱んだ瞳でもう一人の彼女の首を絞め、何がしかをぶつぶつ呟いている。
 片方は、もう一人の彼女よりも幼く、目を真っ赤にして泣きながら苦しんでいる。


 どちらもユズルであってユズルではない。人の精神に干渉する事はとても難しく、また人の心は複雑怪奇だ。そこにあたしという存在が無理やり割り込んだために、精神が分裂してしまったのだろう。
 首を絞めている方の彼女に歩み寄ると、その手にそっとあたしの手を重ねた。彼女は思いっきり絞めている訳ではなく、躊躇いながら絞めている。そうでなければ絞められている方はとっくに昇天している。彼女の手を掴んで外してあげると、彼女はあたしを見てぼそりと呟いた。

「弱くなっちゃうの……この子を消さないと……消さ、ない、と。早く、消さ……」

 うつろに繰り返す彼女は、縋りつくようにあたしにしがみついてきた。顔に出ている感情はハッキリとせず、どんな顔を取って良いか分からない、という表現が一番しっくりくる感じがする。私は彼女と目線を合わせると、優しく微笑んで頬を撫でた。

「焦る事はないわ。得るものが大きいほど、失うものは大きい。けれど、失うものが大きいほど、捨てる事に躊躇いを覚えるものよ。少しずつ、少しずつでいいの。ゆっくりと、強くなっていきましょう?」
「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ」
「大丈夫よ、落ち着いて。今はもう少し眠っていると良いわ」
「あ……」

 彼女の目に手を当てると、彼女はすぐに意識を失い倒れた。後ろに倒れ込んだ身体は、ずぶずぶと、更に深い闇の中へと落ちていく。これで彼女の方はしばらく表に出てくる事はないだろうし、しばらく沈んでいれば時期に悲しみも忘れ、落ち着いて来るはずだ。

「さて……」

 彼女を眠らせたあたしは、幼い方の彼女に目を向ける。解放された幼い彼女は乱れた髪にずるずるの大きい服を引きずって、必死にあたしから逃げようとしていた。すたすたと大股に近づいて、その服の裾を掴む。幼い彼女はべたんと倒れ、あたしを睨みつけて叫んだ。

「放して!」
「嫌よ。貴女、まだ生きてたのね」

 あたしは感嘆気味に彼女に話しかける。この幼い彼女は、ユズルに残された最後の砦。あたしに抗おうとする、意思そのものだ。メロンパンが去った今、この意思も消えたものだと思っていたのだが……なかなかにしぶとい。

「……ッ! 私は、貴女に負けたりなんてしない!!」
「痛ッ!」

 鋭い平手打ちが、あたしの右頬を打った。幼い彼女はあたしの手が緩んだ隙に、沈んでいった彼女を追いかけて深い闇の中へと姿を消していく。叩かれた頬を撫でてあたしは彼女の消えていった闇を見詰めた。
もっともっと抗って、その果てにあたしと同じ場所に立てばいい。どんなに抗おうとも、彼女はあたしと同じ道を辿ることだろう。メロンパンがいないのだ。彼女はこの道を進まざるを得ない。あたしは一見単純に見えて、複雑に歪んでいるユズルの心を考える。

 彼女がメロンパンと呼んでいた存在――――あの存在は、ユズルの精神を奪おうとしているあたしにとって、唯一にして最大の邪魔者だった。
 勿論、ユズルの心を揺さぶる存在は他にもいる。二人の幼馴染の少年達。ポケモン図鑑を持った少年少女。目標の人物であるレッド。そして、あの男。しかし、しかしだ。もっともユズルの心に近い場所にいるのは、メロンパンをおいて他にはいないだろう。

 一見すると、メロンパンがユズルに依存しているように見える。全くバトルの役に立つ事も無く、ひきこもりで滅多に出てこないメロンパン。そんな存在に、初めてのポケモンだと言うだけで此処までの執着を見せる人間が本当にいるのだろうか? 不利を承知で危険な旅に一緒に出て、戦えないというのにわざわざバトルに引っ張り出し、自ら去ろうとした時はこれまでにないほどに焦り、嘆き、必死で探し求めた。


 その様子は正に、親を探し求める迷い子のようではないか。


 絶望していたのは、メロンパンじゃない。どんなことがあっても傍にいてくれる誰かを探していたのは、彼女の方だ。表の感情はどうであれ、ユズルにとって真に友人と言えた相手は、幼馴染の少年達ではない。メロンパンだ。
少年達は、心の距離が遠すぎる。


 一人は、感情の裏返しから好意を素直に伝える事など決してなく。
 一人は、秘密を知られることへの恐怖から、心に踏みこむことなど決してなく。

 
 対等と言える関係を築けたかも知れない二人は、無意識のうちにその可能性を捨て去った。友情が愛情に変化したその瞬間から。そのことがユズルは寂しかったのだ。悲しかったのだ。昨日まで傍にいた友人たちが、少しだけ距離を取るようになる。その結果、ユズルは父の手伝いという名目で研究所へ逃げ、そして――――


 メロンパンと出会った。


 メロンパンはひきこもりだ。ユズルが害さえ加えなければ、ずっと傍にいてくれる。最初に感情のままぶつかった時も、ゆっくりとだが歩み寄ってきてくれた。幼馴染達は、愛情は寄せたが友情は寄せなかった。友情と愛情は同居できない。それでは駄目だった。彼女が欲しかったものは、なによりも友情だったのだから。
 何でも話せて、共に笑い、共に泣き、垣根など何もない、何が起こっても関係の変わることの無い友人関係。安定した、真っ直ぐに伝わってくる、好意。

 メロンパンは、ひきこもり。トレーナーであるユズル以外に愛情を注いでくれる相手などいるはずもない。いてはいけない。ユズルが愛情を注げば注ぐほど、メロンパンはユズルを信頼し、ユズルの前にだけ姿を現し、好意を返してくれる。自分の事をどう思っているのかはっきりしない幼馴染達などよりも、よっぽど分かりやすく好意を示してくれた。
 非常に分かりにくいが、本当はユズルの愛情は歪んでいたのだ。
 その事に薄々気がついていたのは、固執されていたメロンパンただ一匹。だからこそ、その不安定な心を何とか出来たのも、彼一匹だった。だってメロンパンは、ユズルの寂しさに気がついていたのだから。
 必死に強くなろうともがく彼女を追いかけて、深みに沈んでいった幼い彼女。強そうに見えて、酷く脆く、小さく抗う最後の愛情。メロンパンが離れて言ったのにまだ生きてると言う事は、それだけメロンパンを強く想っていたという事なのだろう。
 その想いが友情よりなのか愛情よりなのかは知らないが、今の時点では少年達には勝ち目がなさそうな程に深い思いだ。彼等も哀れなことだ。

 まぁ、あたしにはどうだっていい話である。

「待ってるわ。あたしの生まれ変わりさん?」

 あたしはすっと目を閉じると、表へと再び舞い戻る。気分の悪さはもうない。目を開ければ、さっきまでいたポケモンタワーの休憩室の天井が見えた。立ちあがって身体を少し動かす。立ちあがって伸びをしたあたしの目の前を、何かが横切っていった。

「火の玉……」

 小さな火球が、ふよふよとあたしを周囲を回り、そして目の前で止まる。その懐かしさに少し笑い、あたしは火球に指を寄せた。火球はみるみる間に燃え広がり、狐の形を取った後にかき消えてしまった。

「あの子らしい招待状だわ」

 あたしはポケモンタワーの中に入っていく。ユズルは自分で名前をつけていたようだが、スピアー、サイドン、カイリューは元々あたしのポケモン達だ。そしてこの先で待っているであろう、彼女もあたしのポケモン。
 ポケモンタワーの奥から、主の帰還に対する歓喜の鳴き声が聞こえる気がした。 









「……ッ……ぅ……」

 とある宿の一室で、少年が呻き声を上げた。ゆるゆると瞼を上げると、虚ろな瞳で天井を見る。ぐっと力を入れて目を閉じ、もう一度瞼を上げた。

「あれは……ユズルやない」

 少年――――カスムは、ぼそりと呟いた。その声は泣きそうで、同時に怒りに満ち溢れている。
 ユズルの身体を乗っ取っているらしい彼女は、カスムが意識を失っていると思っていた。しかし、カスムはぼんやりとだが、あの時まだ意識を保っていた。保っていたが、動けなかっただけの話である。
 身体が、重い。カスムは自分の体調の悪さに反省した。此処最近、各地で起きているポケモンの事件を追っていたのだが、連日碌に睡眠も食事もとっていなかった。そのせいで、大切な今この時動けなくなっているのだから、なんと情けない話か。

「ユズルはあんな言葉が言えるほど、頭は良くない」

 本人が元気だったら、むくれつつ文句を言いそうなセリフである。カスムはユズルの姿をした“何か”の言葉を反芻する。

『恋しい恋しい……けれど真実を知られる事は恐ろしい。だったら今のままでいい』

 カスムは右腕を顔の上に乗せ、唇を噛み締める。絞り出すような小さな声で、もう此処にはいない相手に反論する。

「なんやねん……なんやねんあの女……。あんさんに何が分かるって言うんや……」

 変化を恐れて何が悪い、とカスムは思った。その先の関係を望むよりも、大切な人間の気持ちが離れていってしまうことの方がよっぽど恐ろしい。
 

 悪く思われたくない。

 
 良いところだけを見せたい。


 相手が自分をどう思っているのか、不安で不安で仕方がない。


 そう思う事は、普通の事じゃないか。本当は、自分の良い所も、悪い所も受け入れて欲しい。けれど受け入れられないのなら、せめて知らないままでいて。そうしたら傷つかずに済む。そのままで変わらず傍にいられる。

『まだ来てもいない未来に怯えて停滞する貴方に、大切なものなんて掴めそうもないわね』

「……停滞、か」

 カスムの目に、光が宿る。
 ごろりと仰向けからうつぶせの状態になると、がくがくする腕に力を込めて身体を起こそうとする。ゆらゆらして見える地上。まだ体調は最悪そのものだった。それでも、ゆっくり、ゆっくりと身体を起こしていき、壁に縋りながら立ちあがる。よろよろと歩きだしたカスムは、緩慢な動作で宿の出入口まで向かった。
 一歩一歩、出入り口に近づく。辿りついたその時、カスムは腰のモンスターボールを取りだし、放った。

「グォォッ!」

 中から飛び出したのは、ウインディ。ウインディはふらつく主を心配そうに見るが、カスムは無理やりに微笑んで言った。

「ウインディ、ちょっと付きおうてくれるか?」
「……オォッ!」

 多少の躊躇いは見せたものの、ウインディは了承した。カスムが背中に乗りやすいようにしゃがむ。その背中によじ登って、ウインディの耳元に囁いた。

「ユズルの匂いを追ってや。前に会ったことあるやろ?」

 ウインディは無言で頷くと、道の匂いを嗅ぎ始める。時間が多少かかりそうだと考えたカスムは、着くまでに僅かでも体調を回復させようと、そっとその背中に身体を預ける。

「悪いんやけど……見つかったら、起こしてな」

 ウインディは分かってるとばかりに一吼えすると、また嗅ぎまわる。やがて匂いを見付けたらしく、じりじりと後を追い始めた。カスムはその背中でそっと瞼を閉じる。目を閉じた闇の中で、ユズルの後ろ姿が浮かんだ。
 自分は、ずっと逃げていた。ユズルはいつでも真正面からぶつかってきていて、それはキリも同じだった。キリは知っている。カスムが何かを隠していて、そのせいでキリからもユズルからも何処か距離を取っている事、ユズルに好意を抱いているくせに、それに気がつかない振りをしている事。
 キリは自分の事を「大嫌い」だと叫ぶ。でもあのツンデレの言葉は、額面通りに受け取ってはいけない。カスムは分かっている。キリは本当はユズルも自分の事も大好きだ。大好きだから、友人だと言うのに勝手に悩んで、勝手に壁を作っているカスムが気に食わない。キリは自分は素直じゃない癖に、他人がまだるっこしい事のは嫌いなのだ。
 真実を告げる事は、酷く恐ろしい。でもあの女の言った事は最もだ。本当は、今のままで良いと思いながら、心の何処かで焼けつくような感情を覚えていた。ユズルの感情がどう変化するのか怖くて、その感情を無視して、自分に嘘をついて。



『さよなら』



 最後の言葉が脳裏に響く。あの女か、それともユズルか。あの時はあの女が主導権を握っていたけれど、あの時のあの言葉は間違いなくユズルからの言葉だと、別れの言葉だとカスムは確信する。「さよなら」なんて言わせない。必ず取り戻す。


 “愛してる”なんて求めないから、せめて“大好き”のままでいて下さい。
 (愛されない事実は胸を締めつけるけれど、貴女の心が離れてしまえばきっと絶望してしまう)


 ――――でも、この思いを伝えないままで貴女自身を失うなんて、もっと嫌なんだ。





 To be continued…….?




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