episode5━7 死闘の後

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「…よし、と」

ルカリオ達はエルオルの遺体を土に埋め、一息ついた。…重苦しい空気だ。

「…私、最後までエルオルの事を理解出来ませんでした。こんな事、初めてです」
「…そんなもん俺だって分からんさ、ミリアン。ただ、アイツは満足してくたばった。救えない野郎だが…アイツは己の信念を全うして死んだ。それだけは、理解できた」
「…自分勝手です。本当に、救えないですね」

違いない、とルカリオは苦笑する。

「はぁ…はぁ…終わったの?人形が突然一気に消えたけど…」

そこに、クチートとニンフィアが戻ってきた。ルカリオからの言葉を待つまでもなく、辺りの戦闘の痕を見てクチートは笑顔を浮かべた。

「…あぁ、終わったぜ。二人とも助かった。人形の数を減らしてくれなかったら、俺達は蜂の巣にされてただろうよ」
「…そっか。良かったの…かな?」
「きっと、ね」

ルカリオの足元にあったエルオルが埋まっている墓を見て、クチートとニンフィアは複雑な表情を浮かべていた。

………

「お疲れ様だったな、皆。…支部に戻った兵士も無事だそうだ」
「そうですか。それは良かったです」

全員は森を抜けた先の【リーン】という街の宿へ入り、疲れを癒していた。
…だが、ルト隊は心に靄を抱えたままだ。エルオルという異質な存在。それと、本気の戦い。命を取り合う、殺し合い。改めてルカリオ達が今までどんな戦いをしてきたのかを思い知った。

「…暗いぜ、ルト隊。俺達は正しいことを成したんだ。エルオルが自殺したことは、いくら敵とは言えあまり嬉しいことじゃない。だが、間違いなく…俺達の戦いは無駄じゃない。この戦いが、きっと平和への道へ続く一歩なんだ」
「そうですね。…そうだと、嬉しいです」

ルトは微笑を浮かべ、少しだけ立ち直った。

「それにしても。エルオル…か。本当に厄介なポケモンだったね。他のディザスタもあれ程の強さだと思うと、気が滅入るね」
「…いえ、それどころか」

ニンフィアの言葉に、サーナイトが反応した。

「エルオルは、強化マテリアを使っていませんでした。遺体からマテリアを調べたんですが…ミラウェルで使われている物と殆ど同じものです。それで、あの強さ。ボスゴドラが使っていたという強化マテリアの強さによっては…今日以上の苦戦を強いられるかも知れません」
「…強化…マテリア」

ルトは、過去のボスゴドラとの戦いを思い出していた。
━━ナイト姉の通信音声に残されていたボスゴドラの言葉から、ボスゴドラが使っていたという強化マテリアの存在が明らかになった。そして。実際に俺達ルト隊とヤイバ隊はボスゴドラと戦った。…ヤイバの攻撃すら容易に弾き、俺の刀もへし折った強固なマテリアの鎧。そんな代物を、ディザスタのメンバーは持っているかも知れないんだ。

「…そう悲観する事もねぇぜ。兄さん達やミロカロスも動き始めている。俺なんかよりずっと頼もしいポケモンが味方なんだ。勝つさ、必ずな」
「…はい!」

ルカリオは笑顔でそう言い、全員の不安が少しだけ軽くなった。

………

「…近付いてるんだよな、ナイト姉に…」

ルト隊は部屋に入り、ルトが呟いた。
今日の戦いでディザスタの一人を倒した。達成感と共に、複雑な感情が渦巻いた。

「だろうヨ。…なんつーか…エルオルみたいな奴を相手したのは初めてで、なんとも言えないけどな」

シャルも同じようで、複雑な表情で机に頬杖を付く。

「ええ。これから先、あれほど強く…あれほど狂っているポケモンを相手していくのだと思うと…少し、不安です。ルカリオさん達は馴れているのかも知れませんが…私達は、ただの兵士でしたからね」
「…ああ。そうだな」

━━戦闘に問題は無かった。大きなミスもしていないし、コンディションが悪かった訳でもない。それでも、俺達ルト隊だけでは絶対に勝てなかった。…当然、今のままではナイト姉にも敵わないだろう。
それでも。

ルトは立ち、シャルとミリアンはルトを見た。

「…強くなろう。身体だけじゃなく、心も。俺達は自らこの戦いに臨んだ。ナイト姉に再び会うためにも、ミリアンの兄を探すためにも。立ち止まる時間なんて…無い」

その言葉に、シャルとミリアンは笑った。

「その意気だぜ、ルト。俺も手伝う。最後まで、な」
「はい。私も同意です。不安は無くなりはしませんが…止まる理由にしたくはありませんから」

ルト達の心が、真の意味で一つとなった。
巨悪に立ち向かうには小さすぎる団結。それでも、ルト達は止まらない。
止まっては、いけない。

………

「…ぅ……」

━━ここは、何処だ。体は…動かない。机…か何かの上で縛られている。エネルギー…ダメだ、魔術を打てるほどの量はない。

…眼前には、薄暗い大きな部屋。その中に、淡く光る機器やガラス張りの装置。まるで、ミラウェル内でマテリアを作成しているラボのように見える。…というより、殆ど同じだ。

━━俺は何故ここに?似てはいるがミラウェルではない…俺は確か…ラギの屋敷でナイトと戦って…そうだ。

「…負け、たんだ」

━━思い出した。ナイトに負け、意識を失ったんだ。

縛られている青年は、ラギの屋敷でナイトと戦ったブラストだ。一言だけ呟いて、自分の足と手に目を向ける。

「…フン、夢なら良かったんだがな」

…失った右足と、右手が見えていた。ナイトにやられた時のままだ。ブラストは思わず言葉を吐き捨てた。負けた自分に嫌気が指したからだ。

「━━やァ、お目覚めかい?ブラスト君」

そこに、ナイトともう一人。ゴチルゼル族の女がいた。

「ナイト…!貴様…」
「あはは、怒ってるねぇ。そりゃそうか。…そうそう!一つ聞いてみたかったんだけど」

と、ナイトは無邪気に笑った後、ブラストを見て質問をした。

「君、もしかして噂の【対ポケモン部隊】なのかい?ガイラルさんが秘密裏に育ててたって話は聞いたことあるんだよね」
「…フン。話すと思うのか?」
「うん、話すよ?」

ブラストは答える気が無いというのに、ナイトはそう思っていなかった。すると。

「…俺はガイラルさん直々に指名された特殊部隊の兵士だ。神殺し同様、対アンノウンよりもポケモンとの戦闘に特化している」
「ふむ、なるほど。だから特性がアンノウン向けじゃないのね」

ブラストは何故か話をし始めてしまう。
━━何故だ!?答える気は無いというのに、口が止まらない…!何か薬でも射たれたか?それとも魔術で…?

そのまま、ブラストは喋り続けた。

「そ…うだ。元々はただのミラウェル兵士だったが、特性がアンノウンよりもポケモンに対してのが有効だった為、誘われた…くっ…!」
「…もう薬が切れかけてるね。流石。体内にある残り少ないエネルギーで薬を中和したのか。うん、もういいよ。…後は、君の体を弄るだけ。【クンツォ】!ブラストの体にアレを埋めてみようよ」
「了解。ヒヒ、楽しみだね」

クンツォと呼ばれたゴチルゼルの女が、手にアンノウンコアを持ってブラストに近付いてきた。

「な…やめろ…!何を…!?」
「今から君の体に直接、アンノウンコアを埋め込む。知ってる?マテリアはコアをほんの少量しか使ってないんだ。鉄と混ぜることでかなりの強度になるからね。それと…コアはポケモンの体には非常に毒だからね。コジョンドやレェリはそれを分かっているから、必要最低限しか使わないんだ」

更にナイトは続けた。

「なら、コアだけをそのままポケモンに埋め込んだらどうなると思う?」
「そ…れは…」
「……君の体がそのままマテリアと化す、だよ。でも武器になる訳じゃない。君から自我を奪い、私達の命令だけを聞く生物兵器となるんだ。…ま、殆どアンノウンだね。実際アンノウンは…っと、別に言わなくても良いか。…じゃ、オヤスミ。クンツォ、やっちゃって」
「ほーい」

クンツォはコアを、ブラストの腹に当てた。徐々にコアが溶け、ブラストの体に馴染んでいく。

「や…めろ…!やめてくれ…!…ガァァァァァ!!!」
「…実験、開始ってね。精々暴れてくれ」

狂っていくブラストを見ながら、ナイトはニヤリと嗤った。


読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想